10/30/2017

[biz] Nikonが中国のカメラ工場を閉鎖

ニコンが中国のカメラ工場を閉鎖するんだそうです。

具体的には、中国の子会社であるNikon Imaging Chinaを解散、清算し、それに伴って同社の所管工場を閉鎖する、という事です。

理由は言うまでもありませんが、コンデジの販売不振というか需要の消滅によるものです。市場規模自体がピーク時比で約10分の1、というのではどれだけブランド等で強みがあろうと話になりません。特に中国工場は主にローエンド機種の生産を担っていた筈で、そこらは数が出ないと採算が取れない、にも関わらず稼働率の低下は致命的な程で、またその回復見込みも無い、どころかさらに市場全体が縮小するものと見込まれる、とあっては、ニコン自身の努力ではどうする事も出来ないでしょう。売却ではなく廃止、というのは多少なりともったいない気はしますが、売却先があるわけもない以上はそれも致し方ないところでしょうか。

一方で、一眼はじめハイエンドの生産拠点であるタイの工場は今回閉鎖する工場からの一部移管も受けつつ存続しますし、そもそもニコンにおけるコンデジカテゴリの製品は元々OEM中心であったのに加え、ここのところは新製品の発表も途絶え、開発自体が実質的に止まっているも同然の状態でしたから、今回の閉鎖が市場やユーザに与える影響はさほど大きなものではないのかもしれません。ただ、単3電池で動くA10等の系列が消えたりするとちょっと困るユーザは出るのではないでしょうか。乾電池駆動機種は今となっては貴重な、それなりに売れている筈のラインなのだし、安易に切ったりはしないとは思われますけど、低価格カテゴリに留まらざるを得ない以上、コスト面からやむなくまとめて廃止になる可能性もありそうです。さて、ニコンはどういう判断を下したのでしょうか。


何にせよ、本件はまあ時代の流れだし仕方ない、で終りの話ではあります。ただ、ニコンはこれからどうするんでしょう。存続するハイエンドカテゴリも不振には違いないわけですし、注力するとは言っても既に性能・機能的に概ね枯れてしまっている感もあります。レンズ等を大幅に値上げした影響で、単価は上がりつつもユーザ数自体が減少してもいます。半導体製造装置関連も芳しくない話が聞こえてきます。落ちるとなればあっという間なこのご時世、気がついたら丸ごと何処かに身売りしてました、となっても不思議ではありませんが、さて。

スマホの台頭でニコンの中国コンデジ製造工場が操業停止

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10/29/2017

[note] ubuntu17.10は不具合多数、回避or様子見推奨

秋です。半期に一度の恒例行事、ubuntuアップグレードの季節です。

今回のバージョンは17.10、コードネームはArtful Aardvark。巧みなツチブタさんです。南アフリカ在住のアリクイ的な生き物なんだそうです。何が巧みなんでしょうか。蟻の巣を掘るのが上手いんでしょうか。そうだとして、それがOSの何をどう象徴しているというのでしょうか。相変わらず意味がわかりません。

それはさておき。まずは警告をしておかなくてはなりません。ここ数年、Ubuntuのデスクトップ版におけるアップグレードは殆ど形骸化していました。機能面・表示面共に大きな変更は殆ど無く、これに伴ってアップグレード時に不具合が生じる事も殆どありませんでした。が、今回はUnityの終息(予定)に伴う標準環境のGnome3への移行を中心に、主にUI面で大幅な変更が行われました。これに伴い、残念ながら不具合も多数発生しています。

実際、私も複数のトラブルに見舞われました。念の為リリースから10日程時間を明けて適用したのにも関わらず、です。コミュニティの掲示板等へも多数の質問が寄せられ、しばらく見なかった活況を呈している事は喜ぶべきか悲しむべきか。それらの報告される不具合の多さ、深刻さからして、安定するまではまだ相応の時間がかかるだろう事を考えると、可能ならば数ヶ月程度待つ、あるいは見送ってしまったほうがいいのかもしれません。

今回私の下で適用対象としたのは、合計5台。内一台はサーバですが、デスクトップ兼用です。アップグレード自体はupdate-managerからいつもの通り適用するだけで特に問題なく完了しました。ですが、問題はそこからです。これまでに発生した不具合は下記の通り。一部はまだ解決していません。

[既発生の不具合一覧]

1.キーボード入力の不具合
 入力時に遅延が発生。また、リピート入力が数文字程度で勝手に止まったり、fcitx-mozcの変換候補のウィンドウが直ぐに消えたりする。極めて不便、というより入力作業がまともに出来ない。

2.LXDEの不具合
 背景がデフォルトの明るい灰色に戻り、かつ変更不能(設定ツール起動不能)になる

3.複数ライブラリの消滅
 幾つかのライブラリが削除され、それに依存したアプリが起動しない

4.sambaの不具合
 従来のコマンドではネットワークマウントが出来なくなる
 ※これはバグではなく仕様変更ですが、影響や対処等は不具合と同様につき含めました

5.タッチスクリーンの位置ズレ
 キャリブレーションの設定が無効になり、位置ズレが生じる

大体そんな感じです。対処出来たのは5以外です。その方法は下記。

[対処方法一覧]

1.キーボード入力

 これの原因は、特定のモジュール(peaq_wmi)が何故か余計なキー入力を多数発生させている事によります。従って、当該モジュールを削除すればそれで解決します。下記コマンド。

 $ sudo rmmod peaq_wmi

 また、本モジュールが自動で再インストールされないよう、ブラックリストに登録します。

 <ブラックリストファイル> /etc/modprobe.d/blacklist.conf
 <登録方法> ファイルの何処か(末尾でよい)に、 下記行を追加。

  blacklist peaq_wmi 

2.LXDE背景変更不可

 前述の通り、背景がデフォルトの白い背景になり、変更用ツールの[設定]-[デスクトップの設定]も起動しなくなります。これは、おそらくLXDEのアップデート漏れによるもので、LXDE周りの入れ直し等でも対処は可能だろうけれども、面倒なのでテーマをLXDEからLubuntuに切り替えて済ませる事にしました。Lubuntuテーマの場合、何故か[デスクトップの設定]ツールも使用可能になります。この辺りは釈然としませんが、動くならそれでよしとしましょう。

3.ライブラリの廃止
 
 これはアプリ毎に対応するしかありません。私の場合、libgtop2に依存していたプログラムが動かなくなったので、当該依存部分を置き換えてリビルドする事で対処しました。

4.sambaのネットワークマウント不能

 mountコマンドで、cifs形式のマウントを行おうとすると、対応していない旨表示されて失敗します。これは、17.10で採用されたsambaのバージョン(2: 4.6.7)では暗号化通信対応のSMB3.0がデフォルトとなり、SMB1.0,SMB2.0等の暗号化非対応の以前のバージョンは明示的に指定しない限り許可されない仕様になったため。なので、従来通りの非暗号化での接続をする場合、mountコマンドでもバージョン指定が必要となります。指定の方法は、下記の通り。versオプションで指定します。

 $ sudo mount -t cifs -o vers=2.0 ...

 なお、vers=1.0でも接続出来る事を確認。一方、vers=3.0,3.1等は失敗。smb3.0がデフォルトになっている筈なのに失敗するというのはどういう事なのかまだ良くわかりません。ただ、言うまでもない事かもしれませんが、1.0も2.0も非暗号化通信なので、クローズドな環境以外での使用は避けるべきでしょう。

以上です。

あと、5.のタッチスクリーンの問題についても簡単に説明しておきます。具体的な症状としては、xinput_calibratorで取得出来る設定情報をXorgの設定ファイルに入れても補正がされず、おそらくはデフォルトのままとなってタッチ位置がズレる、というものです。これはLooxU(C40)で生じているものですが、他の複数の機種でも生じているとの報告があるため、機種依存ではなくXorgとそのモジュール周りの問題と思われます。実際のところあまり使わない部分なので、急いで対応する必要はないものとして放置していますが、やはりこういう部分が残っているのは気持ちが悪いので、そのうち折を見て対処したいと思います。設定ファイル等の対処で何とかなるのかはわかりませんけれども。

※タッチスクリーンの問題はsynapticsドライバを入れている場合に発生する旨、公式でもknown issueに掲載されていました。ドライバの修正を待つしかないようです。

不具合ではないものの不満点は他にもあります。例えば、一応試すかと、今回のアップグレードの目玉であるところのGnome3も使ってみましたが、私には合いませんでした。画面上部を占拠するバーが邪魔だとか、動作が軽くない点とか、色々目につく欠点があって、正直Unityよりはマシ、という程度です。というわけで直ぐにLXDE(Lubuntu)に戻してしまいました。Canonicalが迷走した末に渋々置き換えた、というだけの、後始末というか消極的な妥協の産物なので、やる気もリソースも殆どなかったでしょうし完成度が低いのも仕方ないと言えば仕方ないのでしょうけど、もう少し何とかならなかったものでしょうか。

今回は総じて悲惨なアップグレードだったと言う他ないでしょう。特にキーボードの不具合は酷すぎると思います。当該不具合はリリース前に報告されており、修正は容易だった筈です。なのにそのままということは、リリースにあたってCanonicalでは動作確認すらしてないとしか思えません。その辺りは元々デベロッパーの領分で、ディストリビュータの責任では必ずしもない、とは言っても、確認もせずに放置して、そのままリリースするというのは無責任過ぎます。

この分だと、また少なからずユーザが離れるんでしょうね。残念ですが仕方ないでしょう。

(追記)

他にも、webサーバのnginxについて、デフォルトのhtmlフォルダ内(/usr/share/nginx/html)内のindex.htmlがデフォルトの"Welcome to nginx!"を表示するものに無断で上書きされてしまう不具合も確認されました。この不具合は、以前(数年前)にも発生し、その後修正されていた筈のものですが、いつの間にか復活してしまったようです。serverでデフォルトフォルダを公開し、かつindex.htmlを変更している場合、アップグレードによって当該ファイルが失われ、サイトが機能しなくなってしまいますので、注意が必要でしょう。

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10/27/2017

[biz law] SUBARUも無資格検査30年超

スバルも同じ穴の狢だったとのことです。旧富士重時代から30年以上に渡って日産同様に無資格の社員に最終検査を任せており、その隠蔽のため資格者の印章を複数用意して管理する組織性、悪質性も同様とのこと。

本件、スバルは悪質である上に姑息ですね。組織的な犯行であった事は明白である以上、無資格者の検査が自社で行われていた事は、日産の件の発覚直後に把握していた筈です。その公表がこれだけ遅れたという事は、ほとぼりが冷めるというか、日産へのバッシングが落ち着くのを待っていたという事でしょうか。であれば、数週間とはいえ、その間公表しない、すなわち隠蔽を図った事は強く非難されて然るべきところです。

もとより本制度については特に当局の監査等はなく、メーカーの側で好き勝手出来るようになっていた以上、日産以外の全社が自制が効いているものと信じていた人も殆どいなかっただろうけれども、それでも実際にその事実を目の当たりにすると、多少なりと落胆を感じずにはいられませんね。残念です。

動機等はもはやいちいち推測するまでもありません。効率化やコスト削減を追及し、それだけのために、監視の目がないのをいいことに違法行為をも平然と行う、その利益至上主義に伴う倫理の欠缺にある事は明白です。

これでスバル車も日産車と同じく、新車を中心に公道を走ることの出来ない違法車両だらけ、という事になりました。本来なら検査をするにもレッカー移動が必要になるわけですが、元々顧客サービスが劣悪とされるスバルの事ですから、まともに対応が進むかどうかも怪しいだろうところ、ユーザの方々におかれましては誠にご愁傷さまです。あと、本件で生産停止等の煽りを受けるだろう下請けの各社についても同様ですね。

当然、その他のメーカーへの疑念も強まるわけなのですが。。。2度ある事は3度あるというか、外資系の体質だから、とかいう日産の特異性を理由に線引きしようとする類の言い訳は通用しなくなり、むしろ自動車業界全体に蔓延しているものとの疑いがかかる事は必至です。元々その辺の人員の質とか事業の体質や体制はどこのメーカーも似たようなものだし、疑う根拠はあっても信用する理由はなく、それも当然の結果という他ないでしょう。とりわけ、原因であろう効率化重視の本家本元と言うべきトヨタあたりは真っ先に疑われてしかるべきところですが、さてどうなんでしょうね?

どこぞのメーカーは今頃隠蔽に必死だったりするんでしょうか。といって、元々資格者以外も動員していたような工程で担当者をクビにしたりすると、逆に検査工程が滞ったり、クビにされた社員が告発に走ったりして墓穴を掘る事になりそうですし、それもあまり現実的ではなさそうに思えます。せいぜいスバル同様、ほとぼりが冷める事を期待して時間稼ぎをしているだけとかそういう事なのかもしれません。

そうであれば、手間をかけさせるなよと。任せても不正はするし、不正が疑われる段になっても隠蔽に走ったり時間稼ぎをしたりして、速やかに自分たちで是正する事も出来ない、というのであれば是非もありません。もう面倒だしすっぱり検査権限を剥奪して、完成検査も全部陸運局でやるようにしてしまえばいいのです。そうすれば、自分たちの権限と予算が飛躍的に増える役人連中は大歓迎してくれるだろうし、ユーザも安心、メーカーも今後いちいち疑われなくて済む、とWin-win-winです。

ただ、その場合、検査料を陸運局に税金的に支払う事になるわけで、その分車両価格を下げないとユーザは納得しないでしょうけどね。まさか値段据え置きとか言わないでしょうね?それは厚顔にも程があるというものです。

ともあれ。メーカーはかけらも信用出来ないし、これから出来るようになるとは思えないし、といっていちいち疑うのも面倒でもあるので、さっさと引導を渡してすっきりさせて欲しいですね。

検査員の印章流用し書類偽装 スバル、無資格の数人関与

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[biz] iPhoneXの顔認証の精度を巡ってAppleと下請けが混乱中?

お披露目デモで盛大に失敗したり、ローンチに台数を用意できないだとか、流石に高すぎるだとか、発売前から色々とケチがついてる感じのiPhoneXですけれども、また妙な話が流れているようです。

何かというと、iPhoneXの生産が大幅に遅れており、出荷台数が当初予定の半分以下と非常に少なくなるだろう事は周知の通りですが、この遅れの主たる原因とされるFaceIDのセンサについて、十分な個数を確保するため、認証精度の低下を容認した、というのです。Appleは即座に否定していますが、部品メーカーからのリークのようですし、部品の品質に関する何らかの妥協がなされた可能性は高いでしょう。

Appleが否定している事もあって、当然公式の説明はなく、具体的なところは不明です。FaceID用センサのうちどの部分、部品が問題なのか、その詳細もまた不明ですが、初投入となる3D形状センサ周りである事は殆ど確実でしょう。

ですが、これは奇妙な話です。

というのも、生産の歩留まりを上げるために品質の閾値を下げる、というのは確かに一見ありそうな話に聞こえますが、こと生体認証に関する限り、どうにも不自然なのですね。そう簡単に調整出来るものではないのです。

まず前提として、データを取得するためのセンサには、その形状や感度等の特性に個体差が生じます。で、それによって計測値にも個体毎に異なる歪みや位置ズレ、値の大きさ等様々なばらつきが生じます。対して、照合を行うソフトウェア部分は同一です。このため、認証のような、データの一致性を検証する処理においては、照合の前処理としてそれらの計測データのばらつきを除去する必要があります。でないと、照合処理が想定する入力データではない以上、正常に認証出来なくなってしまうからです。生体認証のような、データの精度にシビアな処理、しかも素子数が多くばらつきもそれだけ大きく生じ得るこの種のデバイスを用いるのであれば、その必要性はなおさらでしょう。

このばらつき除去には、一般にキャリブレーション、すなわち製造時に個体毎の特性をあらかじめ計測してパラメータとして各個体に記録しておき、照合時の前にそれを用いて計測データを補正する処理を入れる方法が用いられます。

補正の方法は、データの計測方法やデバイスの構成毎に異なり、当然その難易度や補正の効果の程度も異なるわけですが、本件の場合はその辺りは問題にならないでしょう。FaceIDの3Dセンサが採用している計測方式の詳細は不明ですが、ToFにしろ、パターン照射にしろ、その際の補正の方法はカメラで一般に行われるレンズ歪の補正等と大差はなく、さほど計算コストや製造時の手間も要せず、概ね容易に十分な補正が可能な筈です。

しかし、通常当然になされるだろうそれらの補正を行なってなお、認証精度が有意に低下する、すなわち十分に補正出来ない、という事なら、それはもはや致命的な欠陥品という事ではないのかと疑問を抱かずにはいられません。例えばドット抜けのような素子の欠損があるとか、投射するパターンが対象まで届かないとか、ゴーストが映り込むだとか。一般にはそういうレベルが想像されるのですね。

で、計測データに欠損があるとか、そういうレベルの欠陥だと、認証精度の低下、では済まない筈なのです。部分的にせよ、認証の大前提たるデータが得られないのだから、まともに認証出来るのかも怪しくなってくるのです。

そもそも、3Dセンサの計測データはあくまで顔認証処理における多数の入力データの一部に過ぎず、認証精度との間に、計測データの精度をこれだけ低下させたらこれだけ認証精度が落ちる、というような、緩やかで連続的な相関がある、というような事はまずありません。入力データにはその前処理、特徴量の抽出、及び特徴データの照合まで、何段もの非線形な処理がかけられ、各段階でそれぞれにシビアな閾値のテストを受ける事になるのが通常です。そこに入力されるデータが設計の範囲から外れると、途中の結果が大きく変わり、結果急激に精度が落ちたり、あるいは全く認証出来なくなったりするものです。認証方式というのは、その程度にはシビアで複雑なものです。ディープラーニングを用いると言っても、それで自動的に出来るのはせいぜいパラメータの調整程度です。方式自体も自動で構成されれるのが理想ではありますが、それはまだまだ難しいでしょう。少なくとも、学習データのセットを作り直す必要はあるわけですし。

しかるに、その基礎たる入力データの範囲をいじる仕様変更をする場合には、従来の仕様との齟齬を避けるため、原則として認証方式全体を調整し直す必要があるでしょう。場合によっては方式自体の大幅な変更が必要になってもおかしくありません。で、それには当然ながらそれなりの時間と労力が必要になります。少なくとも、発売1か月前から対応を迫られて、ちょいちょいと小手先で修正して済むようなものではありません。

しかし、それが出来る、という。そんな都合のいい話が有り得るのか、大いに疑問に思われるところです。といっても、公表されている情報からその真偽を判断する事は不可能だし、疑問に思ったからといってどうなるわけでもないのですけれども。

これは明確な根拠のない単なる想像ですが、認証方式とセンサの開発担当部門が、歩留まりの悪さを口実にして、元から公称には遥かに満たない低い認証精度を誤魔化すべく、発売前にAppleに設計精度の引き下げを容認させようと画策している、とか、そんな風に考えたほうが余程しっくりきます。流石に陰謀論染みているとは思いますが、3Dセンサの製造精度を幾らか緩めても認証精度の低下は若干で済む、という話よりは余程現実性があるように思われるのも事実です。

そもそも、これまでのAppleの公式発表では、FaceIDの認証精度については、FAR(他人を誤って本人と判定する率)が100万分の1以下という事しか明かされていません。本来認証方式の精度は、FARだけでは無意味です。極端な話、本人すら少し表情を変えただけで弾かれるような厳しい設定にすれば、幾らでも他人を受け入れる確率は下げる事が出来るからです。絶対に他人は受け入れません、ただし本人も受け入れませんけど。では意味がありません。本人は弾かないようにしつつ、その上で他人を誤って受け入れる率がとても低い、というのでなければ認証精度が高いとは言えないのです。

この、FARとトレードオフの関係にある本人を誤って他人と判定する率をFRRと言いますが、FARとFRRはセットで見る必要があり、FRRは十分低く、かつFARは殆ど有り得ない位低い、というのが認証精度が高い、という事になります。なのですが、AppleはFARしか公表しておらず、FARが100万分の1の場合のFRRを明かしていません。おそらくは意図的なんでしょうけれども、そのことを理解している専門家らからすれば、Appleのやり方は卑怯なものか、もしくは滑稽なものに見えている事でしょう。

さておき。それでも、典型的なFRR、その常識的な上限と下限を想定することで、Appleの主張する精度を大まかに評価する事は可能です。仮にFRRも100万分の1以下だとすれば、顔認証以外の方式を含めてすら聞いた事もない高精度です。それは流石に有り得ません。一方、FRRを最低限、すなわち生体認証として実用になる常識的な下限である数%程度と仮定しても、指紋や虹彩等、生体認証方式の中でも最高レベルの精度を持つ方式と同等以上の精度があるという事になります。Appleは指紋のTouchIDより精度が上だと公言しているので、それとは合致するのですけれども、問題は従来の各社や研究機関が実現して来たところの同様の条件での顔認証方式との比較では、低く見積もった方の精度ですら、例が無い、どころか桁が幾つも違う程に異次元の高精度だ、という事です。

認証の際に3Dの深度センサによる形状データを併用している以上、通常の、2Dの画像による顔認証よりは精度が高いだろう事は理解出来ます。しかし、いくら3Dの顔の形状を使っているからと言って、顔認証の精度を低下させる主要因であるところの、表情や顔向きの変化、また周囲の環境変動の激しさ、また元々顔の特徴は指紋や虹彩等に比較して他人間で類似性が高い場合が多い点等、元のデータ自体に内在する負の要素については変わりないわけです。

それを、携帯デバイスに入れられる程度の、簡易的で構造に余裕もなく、コストもさほどかけられない、言ってしまえばちゃちなセンサを使い、不安定な手持ちで、しかも屋外含めあらゆる状況で認証する、という悪条件でなお、コストを十分にかけ、治具等で姿勢の制御等も行なった場合の指紋等と同等以上の認証精度がある、と言われても、実際にデータを使った検証でそれが実証されでもしない事には信じようもない話なのであって。それがない現時点では、詭弁というか嘘なんだろうな、と思うしかないわけです。

で、本件のようなよくわからないトラブルの噂も、いざ発売が迫って、当然ながら担当部門や下請けが追い詰められ、その辺をどうにか誤魔化そうとして、あるいは責任の押し付け合いだとかで揉めてるとかいう流れの一端なのかな、と。

そうだとしたら、それはおそらく陳腐化して先行きが怪しいiPhone事業を維持するために新機能を無理にでも入れなければならないApple、またそのネタを売り込む下請けは大変だね、という話なんでしょうか。だとしても同情はしませんが、理解は出来なくもありません。そんなものをそんな状態で売り出して、後始末とかも含めて色々と大丈夫なんだろうか、とか色々と不可解には思いますが。

ともあれ、真実がどうあれ、もうしばらくすれば発売です。ユーザの容赦ない実地試験を経れば、その辺りの話は直ぐに明らかになる話です。それまでは話半分、眉唾で捉えておけばいいでしょう。もし真実その公称する精度が実現出来ている、というのならそれは間違いなくブレイクスルーであって、テクノロジーの画期的な進歩として歓迎すべき凄い話ではあるし、そうでないとしたら、それはそれでAppleがどう始末を付けるのか、とても興味深い事例になるでしょうし。色んな意味で注目に値するものである事は間違いないでしょう。どうなる事やら。

Apple defends Face ID accuracy as iPhone X launch looms

[関連記事 [PC] iPhoneX、お披露目デモで顔認証に失敗]

10/24/2017

[pol] 無為と無意味の果てに希望は霧散し、絶望の意味を知らしめる

衆議院選挙が終りました。竜頭蛇尾というか、酷い茶番でしたね。。。

閣僚や自身の醜聞と失策、失言にまみれて支持を落とし、錯乱して浅慮の下に解散に及んだ首相の一人相撲になるかと思いきや、自爆したのは小池都知事と前原誠司でした、という話で。

結果として、小池&前原の両者は結束していた筈の野党を分断し、共倒れする形でそのまま行けばそこそこ得られただろう議席を失い、与党に漁夫の利を得させただけに終わったものと評価せざるを得ません。かろうじて、旧民主党を解体させ、政党として一貫性を有する立憲民主を誕生させた、という点でのみ評価し得るところでしょうか。それにしても野党を再編したに過ぎず、国政自体はただ混乱させただけとも言えるのですけれども。

各所で出されている論説を見る限り、主要な分岐点は、第一に小池都知事が立候補を見送り、指導者すなわち首相の候補を欠いた事にあったものと見られているようです。次いで、民進党のリベラル派の合流を踏み絵的な手法を用いて拒絶し、その際に排除という表現を用いて、それによってイメージの低下を招き、また改憲等の右翼的で首相寄りの政策を掲げる事で首相に批判的な向きの離反を招いた事等が挙げられています。

第一の点は、実際の所結果論に過ぎません。というのも、殆どの人が認識していた通り、もし小池都知事が立候補していた場合、知事職を放り出したとの批判は避けられず、それによる評価の著しい低下を招いていただろう事は確実だからです。要するにいずれにしても相応の問題があったわけで、その選択のいずれが正しかったのかは一概には判じ難いものと言うべきでしょう。むしろこの点からすると、今回の選挙での新党立ち上げ自体が時期尚早であったものと考えた方が良さそうです。首相候補が最後まで定まらなかった点についても、小池都知事以外に指導者の候補すら皆無というのでは、政党としてそもそも国政を担う能力に欠けていると評価されて然るべきものですし、やはり国政進出するには無理があった証左と言わざるを得ません。

対して第二の点は、まさしく指摘される通り、失策であったと言う他ありません。先日の都議会選で、首相のした同種の、有権者を敵味方に線引きする類の失言がどういう結果を招いたか、それは都知事が一番良く知っていた筈です。その都知事自身が、それ以上に極右的な姿勢をあのタイミングで表明した、という事実には、未だに理解し難く思われてなりません。その程度の想像力というか記憶力もなかったのでしょうか。それとも、それでもなお広く改憲等を訴えたかったのでしょうか。

確かに、小池都知事は元より改憲論者であり、政界の中でも右寄りの代表格である事はよく知られていたところであって、自然とリベラル派とは相容れない部分があった事も周知の通りです。しかし、当初標榜していた通りに、広く国民の代表として政権を担おうというのなら、極論に立って敵味方に線引きをするような真似は殆ど自己矛盾でもあるわけで。実際の所、野党並びにその支持者には改憲に否定的な意見が多数を占める現状にあってのそれは、その支持を拒絶するものに他なりませんでした。かといって与党支持者から支持を奪えるような理由もありませんでしたし、小池都知事はじめ希望の党関係者は一体誰の支持を得ようと思っていたのでしょうか。わけがわかりません。

改憲に反対でもその他の政策面を重要視して投票する有権者なんて山程います。おそらく思想的には小池都知事と大差ないだろう首相やその周辺ですら、それらの有権者を敢えて拒絶するような、そんな馬鹿な真似は少なくとも表立ってする事は殆どありません。どこからどう見ても失策と言わざるを得ないのです。

考えられる理由としては、民進党を丸ごと受け入れて、単なる看板の付け替えと批判される事を嫌った、とか、そういう事なのかもしれませんが、結果としては仮にそうした場合にされただろう以上に批判を受け、その上で離反も招いてしまったわけで、無意味な上に本末転倒でもあった、と言うべきところでしょう。大体、多少選別をしたところで主体が民進党出身者である点は変わりなく、実際その点は与党から繰り返し批判されていたわけですし、排除の件は何ら得るところもない、本当に意味不明な話でした。

その排除の結果、排除された側が設立した立憲民主党が、その代表者たる枝野氏の実績に裏打ちされた能力等への評価と、政策面等の具体的な主義主張における与党への対立軸としての立ち位置の明確性という、いずれも希望の党には決定的に欠けていた要素によって支持を集め、野党第一党にまでなった事は皮肉な話です。排除したつもりが、排除されたのは自分たちだったというわけです。

希望の党、ないしは希望推薦で当選した面々はこれからどうするのでしょうか。事実上の代表として党を立ち上げ、指導的な役割を担ってきた若狭氏はその資格を失い、代わりうるポジションにいた筈の前原氏はじめ元民進で無所属当選した議員連はこの期に及んで立ち位置が不明なままだし、それ以前に強引な合流決定の責任を民進と希望の双方から追及されている状態です。消去法的に、一応は立ち上げメンバーの一員であるところの細野氏あたりが代表を担わざるを得ないんじゃないかとは推測されますけれど、とても纏められるとは思えません。そんなのでやっていけるのでしょうか。国民の代表なのだから、ちゃんとやってもらわないと困るのですけれども。

急造の組織で合流も唐突だっただけに見切りも早いということなのか、民進党への出戻りを主張する向きは当然のように出ているらしいし、希望の党を解党すべきとの意見すら公然と主張されてもいるようです。流石に立憲民主への合流論を表立って公言してはいないものの、それを意識しての話な事は見え見えなわけで。仮にも選挙を通じてそれなりの信任を得た政党として、それは幾ら何でも無責任が過ぎるんじゃないかと思うのです。国民の付託を受けた以上は、その責任を果たすべきところな筈、それを思ったほど支持が得られなかったからと言って、何もしようとすらしない内から放り出し、あまつさえ主張が合わないからと切り捨てた相手に擦り寄る話が先に出るというのはどういう了見だと。

そういう、あり得ない程の無責任さが見透かされていたからこそ支持が得られなかったのだろう事は考えなくても分かる話なのに、何故まずそれを反省し、それでも支持を寄せた人の期待に応えようともしないのか。私個人としてはさほど期待していたわけでもないし、まして希望を抱いていたわけもないのですけれども、その軽々しいにも程がある醜態と惨状は、出来れば目にしたくなかったと、ため息を吐かざるを得ないのです。

ほんと最低な選挙でした。何がって、そもそも安倍政権ってもう末期的なんですよね。経済政策は行き詰まり、閣僚や与党議員が失態を演じてはその批判と強弁が応酬されるばかりで、具体的に進んだ案件は殆ど皆無です。集団自衛権等の明らかに違憲な措置を行政が独裁的に施行している事も、議論すらされることなく放置されています。財政面も悪化の一途を辿るばかりです。消費税の増税は、過去の例に倣えば財政の健全化には焼け石に水、どころかそれ以上の出費増を招き、その上で経済を縮小に追い込むでしょう。少子化はさらに進行しています。希望は何処にも見出だし得ません。にも関わらず、今回の選挙で、国民はそれを信任してしまいました。もはや、立ち止まって修正を施す事すら出来ない、という事なのでしょう。

首相は、選挙を受けて、北朝鮮への対応を進める、と言いました。しかし、対応する、と言っても、実際のところ何もする事もないし、新たに出来ることもありません。これまで通り、北朝鮮が何か示威行動をした時に、何もせずにそれを見送り、事後的に適当に口で非難してそれで終りです。まして選挙をしたところで、政府や与党の権限に何か変化があるわけでなし、出来る事も出来ない事も何も変りません。何の意味もありませんでした。正しく無為で無意味な選挙だったのです。

小さくない選挙費用を投じてまでした選挙が、そのような無意味なものであったという事実は、絶望の2文字の意味を見せつけるかのようで、そうと理解していても気分は沈みますね。やれやれです。

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10/22/2017

[note] 小指が使えない時のキーボード操作

私事かつ些事で恐縮なのですが、ちょっと最近難儀した事があるのです。

何かと言うと、料理をしている時、野菜を包丁で切る際に、誤って左手の小指の先を切ってしまったんですね。スパーンと。と言っても、ヤクザの指詰めのようなものではなく、指先の膨らんでいる所を、下図のような感じで厚さ1〜2mm位で。


すぐに血がドクドクと流れ出し、同時に相応の痛みと、軽い貧血症状のようなものが襲ってきました。流石に焦りました。傷自体についてではありません。傷そのものは所詮皮膚の部分ですから何とでもなる事は直ぐにわかりましたし、実際に切り落とした皮膚を拾って被せ、ラップとワセリンを使った保存・湿潤療法を施す事で治療も出来たのです。この時脳裏によぎったのはその事ではなく、完治までの間、キーボードの操作に支障が出るだろう事でした。

通常、職業的にキーボード入力を大量に行う人は、まず誰しもがブラインドかつ全指を使ってキーボードを操作している筈です。私もその例に漏れず、長年の作業により完全に指にキー入力の動作が染み付いている状態なわけですが、中でも小指は操作範囲が広く、かつ押下の頻度も他の指に比べて高くなっています。これが片方、それも左側が使えないというのはそれだけ大幅な制約を受け、操作方法の変更を強いられる事になるのであって、私にとっては指先に感じる痛み以上に頭が痛い話だったわけです。

しかし、だからといってキーボードの操作を控えるわけにも行きません。タッチ入力等の他の入力方法は効率面で論外、代替手段にはなりません。自然、左手の小指を使わないキータッチを覚える必要が生じ、その試行錯誤を初めたわけです。

試行錯誤と言っても、完治後に戻せるよう、最低限の変更に留めようとした結果、自然と"小指の入力範囲を薬指で入力する"というシンプルな方法に落ち着きました。当然、範囲が広すぎて薬指を伸ばすだけでは押せないキーが出ますから、左手自体も動かす必要があって、その分入力の労力とかかる時間が増えてしまいます。そのロスをどれだけ減らせるか懸念しつつ、しかしこれ以上に良い方法も特にないだろう事からやってみたのですが・・・結論から言えば、殆ど問題にはなりませんでした。また、思ったよりも早く、すんなりと慣れもしました。案ずるより生むが易し、というやつでしょうか。

具体的には、左手自体を動かす部分は、手首を支点にして手を回転・伸長させる動作と、指の曲げ伸ばしとを同時に行えば殆どロスにはならなかったのです。もちろん、その分手首付近が疲れるというデメリットはあるにはあったのですけれども、元々動かしていなかった部分を一部動作の際のみ動かす、というだけなので、その点でも思ったより疲労を感じませんでした。

後、キー位置を覚え直す点についても、最初は流石に少しぎこちなく、タイプミスも散見されたのですが、構わず操作を続けている内に、数日と経たずに慣れ、ミスも無くなりました。レイアウト自体を覚えこんでいれば、それに合わせる分にはさほど支障はなかった、という事なのでしょう。

というわけで、一件落着、だったのですが・・・。ただ一点、解消出来ない問題もありました。何かと言うと、HHKBです。使用された経験のある方はご存知でしょう。HHKBはCtrlキーが左側にしかありません。なので、Ctrl+Fや、Shift+6等の、人差し指+小指の組み合わせキーの入力を人差し指+薬指で代替しようとすると、手全体をキーボードに被せるように持ち上げて不自然に伸ばす必要があり、そのイレギュラーな動きがある分、どう頑張っても効率がガタ落ちになるのです。左手を挙げ続けるのは疲れすぎて続けられませんし、どうにもなりません。

HHKBのように特定の環境向けに入力デバイスを最適化する事は、基本的に経済的なのですが、一方で最適化しすぎると、問題が生じた時にそれに対応出来なくなる、とそれだけの事なのでしょう。ただ、今回の怪我は比較的軽いものであるにも関わらず、その克服にはそれなりの手間もかかり、克服し難い場合すら生じました。これより重い場合にはなおさらであろう事は疑いようもありません。図らずも障害を負っている人達の厳しさを実感する事となったわけです。

だからといって、特にその問題を深く考えたこともない私程度に、それを改善する妙案が思いつくわけもありません。真にユニバーサルなデザインなど存在しない、それも事実ですし、障害のある人それぞれに合わせたデザインをあらかじめ用意する事は、主にコスト面で困難でしょう。ただ、軽度の問題の時に、ユーザ側の対処を可能とする程度の、多少の遊び位は残されていて然るべきだろう、と思いもした次第なのです。

ちなみに、指の傷は大体3週間でほぼ完治しましたが、まだキー押下に使うと鈍い痛みも感じます。焦る必要も無くなったので徐々に戻している所ですが、もし小指を使わない方法を上手く確立出来なかったら、と思うとぞっとします。もっとも、そもそも怪我をしなければこんな心配もする必要はなかったわけで、刃物を使う際に注意を怠らない、という心がけの方が大事だと思うべきなのでしょうけれども。皆さんも気をつけましょう。

10/20/2017

[biz law] 不正体質という不治の病

組織、会社自体がその末端まで腐ってしまうと、もうどうにもならないんだ、という事でしょうか。先頃長期に渡る検査結果の改竄・偽装等の不正が発覚し、その対処に追われている日産自動車と神戸製鋼の2社ですが、周知の通りそれぞれ余罪等が山程出てきてしまいました。

神戸製鋼は、その強度等が不足している製品の検査結果を改竄して出荷していた期間が当初発表の10年程度では収まらず、実に20年超の長期に渡り組織的かつ常態的に行われ、かつその対象は主力の鉄鋼製品にも及んでいた事が明らかとなりました。

日産は、当初は過失であるかのように表現していたその無資格検査、その実態は偽装用の資格者の印章を複数準備した上で帳簿を付けて管理していた、すなわち組織的かつ意図的に行っていた事に加え、発覚した後もなお無資格者の検査が続けられていた事が明らかになりました。

両者は業種が異なり、その不正の意味合い等も異なるわけですが、その影響が及ぶ範囲が広く、被害の程度も深刻である点と、露見した後での対処というか、それ以前に犯行を止め、被害の拡大を止める事すらままならない点が共通しています。

それはある意味当然の話でもあるのでしょう。その不正がなされる事を前提として工程並びに組織が構築され、最適化されてしまっている以上、それ無しでは生産活動が継続出来ない、とまでは行かずとも、効率が落ちる事は必然の結果と言うべきものです。TPSの普及に代表されるように、只でさえ部材や製品の品質や納期には無駄が省かれ、余裕がなくなっている昨今、不正だから禁止、とされてしまったところはそのまま穴になります。予定の生産計画は達成出来ず、納期未達となるか、量を確保出来ないかの二択になるでしょう。いずれにしろ、顧客に対する不履行です。

只でさえ信用を落としているところにそれらの不履行が重なれば、当然に顧客からその責任の追求を受け、あるいはあっさり見放されてしまう事も普通にあるでしょう。それは自業自得のもたらした必然の結果であり、本来的に甘受すべきものである事は明らかですが、当該工程の担当者や責任者、あるいは顧客との窓口部門等のそれらの損失の責任を負うべき当人達にしてみれば、保身のためであれ、義務感によるものであれ、何としてもそれを回避したいと考え、その手段としてさらなる不正や隠蔽に手を染める他ない、と考えるというのも、あり得なくもなく思われるところです。

無論、この期に及んでの不正や余罪の隠蔽は、一時しのぎにすらならず、むしろ状況を致命的に悪化させるだけの、自殺行為とも言うべき最悪の手段なわけです。大体からして、顧客を含めた周囲の懐疑的な監視の目が強まっているところにそんな事をして、隠しおおせるわけもなし、すぐに露見するだろう事も考えるまでもない話な筈なのですけれども。。。組織の奴隷と化した彼らには、そんな事も判断出来なくなっているのか、あるいはそうとわかっていても目先のルーチンワークは行わなければならない、という強迫観念があるのか、それとも何も考えていないだけなのか。

一般に、企業等の組織の不祥事の際のダメージコントロールの常套手段として、責任を一部の者に被せる一方で、その他の大多数の誠実に仕事をしている社員を被害者として扱う事で、組織全体の責任を軽減させる類の擁護がなされる事が多いわけですが、今回の2社は逆というか、組織とその構成員自体が末端まで腐りきっている事が明らかな事例につき、その手は使えないでしょう。また、反省して更正した事をアピールする方法も、余罪の隠蔽や再犯が明らかになった事で不可能になりました。組織としての信用を回復させる以前に、更正の可能性すら大多数が懐疑的になっているだろう現状は、まさしく惨状という他ありません。

もっとも、日産の方は違法性は明らかなものの、事業の実体への影響としては今のところ信用面での毀損が主で、損害賠償等でどの程度の負担を強いられるかはまだわからないし、事業自体の存続云々はまだそれほど問題ではないのでしょうけれども。

神戸製鋼の方は逆です。違法性の面ではそれほどでもない一方、個々の取引について明らかな不履行がある以上、損害賠償や顧客の離反等、実体面で金銭的に甚大な責任を負うことが確実ですから、既に事業継続に疑義が付いている状態と言って差し支えないでしょう。少なくともアルミ・銅製品事業がリストラに追い込まれるだろう事は確実ですが、それで済むのかどうか。神戸製鋼には同情する気持ちは欠片もないのですが、腐っても大手だけに、巻き込まれた向きは大勢いるわけで、そちらにはご愁傷さまという他ないのです。

第三者としては、もう更正出来ないならそれでいいから、さっさと責任取って潰れるなり他社に吸収されるなりしてしまえよ、と思うわけですが、なかなか収まりそうにありませんね。困ったことです。大体、東芝もまだ片付いてないんですよね。この辺の癌的な企業を速やかに処理するいい方法は何かないものでしょうか。

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10/11/2017

[biz] Google、AIスピーカーでユーザを盗聴

Googleがまたやらかしたそうです。

先日米国等で発売されたスマートスピーカーの廉価版Google Home Miniについて、ユーザが何の操作も事前の許可もしていないにも関わらず、勝手に起動して周囲の音声等のデータを収集し、Googleのサーバにアップロードしていたんだとか。普通に盗聴ですね。

本件に気づいたユーザによれば、その頻度は日に数千回にも及んでいたとのこと。プライバシーも機密も何もあったものではありませんね。恐ろしい事です。元々、この種のデバイスはユーザ公認の盗聴機になりうる、といった指摘は至るところでされていたわけですが、まさか初っ端からこんな全開で仕込んで来るとまでは思いませんでした。さすがGoogleと言うべきでしょうか。

Googleの公式発表によれば、本件は起動コマンドの"Ok,Google"と同じ役割を持つ、本体の動作(タッチ)スイッチ部分のバグで、タッチしていないにも関わらずタッチがあったものとして動作してしまう個体が少数存在した、との事ですが・・・。そんなバグがあり得るの?と。その手のアクティブ系の処理は、一般に意図的に作り込まない限りは生じ得ないだろうし、少なくともミスで入り込むようなものではない筈なんですが。また、単なるタッチ入力のスイッチに、そんな決定的な個体差が、しかも少数のみ生じた、というのも信じ難い話です。

率直に言えば、Googleの故意である可能性はとても高いものと疑わざるを得ないわけです。何せあのGoogleですから。もっとも、本当の所はGoogleにしかわからないし、とぼけられればそれ以上追求するのは困難なのですけれども。一応、廉価版という事で、単に品質管理がなされておらず不良品が紛れ込んでいただけ、という可能性も無いではないのですし。それはそれでどうかとも思いますけど。

というか、現地で主に問題とされているのは、Home Miniが勝手に起動した、という点なのですが、個人的にはこれにも違和感を禁じ得ません。起動後、起動中に周囲の音声等を収集してGoogleのサーバに送信するのはいいんでしょうか。私は音声自体が送信されるのに忌避感を覚えるし、Googleがその気になれば同意もなしに自由に盗聴出来てしまう、という事実自体にも恐怖を感じるのですが。。。

何と言うか、米国人は一般にプライバシー云々をよく主張する割に、この種の機能や処理への無頓着な態度は何なんでしょう。解せません。しかし、米国でこの種のAIスピーカーがよく売れているのは事実なのだし、その辺の、利便性やら先進性やらを優先して前言をあっさり覆す類の一貫性のない態度も、お国柄とでも捉えて理解を諦めるしかないような話なのかもしれませんね。

無論、米国人とその社会がその辺に寛容な態度を示し、結果としてプライバシーを失うのは勝手ですし、とやかく言う筋合いもありません。が、それはあくまで勝手にする限りの話、万が一にも私の周りには入って来ないで欲しいと強く願う次第なのです。もっとも、今の所は国内で普及する見込みは無いように見えますし、実際のところそれほど心配する必要はないのかもしれませんけれども。気がついたら盗聴社会になっていた、というのだけは勘弁願いたいところです。

Google had to disable a feature on its new $50 smart speaker after the gadget listened in on some users

本件を受けて、流石のGoogleもヤバいと思ったのでしょうか、即座に対応したそうです。ただ、その方法が、問題(と主張するところの)本体スイッチの機能を殺す、という、何と言うか、酷く乱暴なやり方なのにはちょっと困惑というか引きますけど。修正しようと思えば簡単に修正出来そうなものだし、ハードのエラッタなら選別すればいい話です。なのにこういう選択をしたという事は、単に修正するコストを嫌ったのか、意図的との指摘が図星で焦ったのか、修正したとしても残るだろうプライバシー侵害のイメージを嫌ったのか。いずれにしろ、そんな製品の機能デザインのキモになる部分の仕様変更、それもカットする方向の変更をもあっさり決断してしまうあたり、Googleはやはりハードウェアの事業はやる気ないのかな、と思わされてしまうのです。これまでのGoogleが取り扱ったハードの辿った末路とかから察するに、また1年とかで放り出したりしちゃいそうで、こういう雑な対処をする事でそういう認識が広まると尚更売れなくなってしまうだろうと思うんですが、まあGoogleにしてみれば大した問題でもないんでしょうねきっと。少なくとも金額的にはゴミみたいなものでしょうし。

Google disables Home Mini's top button so it won't record everything

10/08/2017

[biz] 神戸製鋼がアルミ・銅製品の強度・寸法偽装10年超

神戸製鋼がやってくれました。偽装です。それも昨年に引き続いての再犯というか、その際に既に犯行に及んでいたにも関わらず、隠蔽していたというのです。日産といい、どいつもこいつも・・・。もう潰れてしまえばいいのです。

具体的には、栃木・三重・山口・神奈川の4箇所のアルミ・銅製品を製造する工場で、強度や寸法の偽装、また検査の手抜き等が少なくとも10年以上に渡って組織的に行われていたんだそうで。問題の製品は判明している分だけでもアルミは数万トン、銅は数千トン。納入先は200社を超え、自動車や航空機等、シビアな品質管理が求められる製品にも少なからず採用されてしまっているとのこと。規模も態様も、昨年のばね用ステンレス線の件とは全く異なる甚大なものです。

大変な事になりました。銅の方は強度が問題になるような部分にはそれほど使用されないでしょうし、上記の規模が事実であれば量がさほど多くない事からまだしも、アルミはフレーム周り等、強度が求められる部分にも利用されるし、しかしその種の部材としては柔らかく、特に強度面では安全マージンが小さくなりがちな部材です。元々余裕のない部分で、さらに強度が設計値を下回り、あるいは寸法が合わない、というのであれば、致命的な結果を招いても不思議ではありません。

しかも、この手の部材の不具合は、その対処は取り替える他ないわけですが、本件偽装が行われていた期間は非常に長いことから、既に交換用の部品の生産が終了しているものも多いだろうし、現行品以外は相当な困難を伴い、あるいは交換が不可能なケースもあるでしょう。それでも対処しないわけにもいかないでしょうし、そうするともう丸ごと同等品に交換するか、金銭等の代替的な賠償で対応するか、という話になります。

一応、本件部材を使用していても、最終の製品全体としては問題ない、で押し通す方法も無くはありませんが、大多数のユーザがそれを受け入れるとは到底考えられませんし、まずもって無理でしょう。そもそも最終製品のメーカーには何の責任も無いのだから、それで被る信用の毀損だとかユーザの反発だとかをあえて招く理由もないのですし。

さて、犯人であり、その責任を100%負うべきところの神戸製鋼はどうするのでしょうか。仕様を満たさないものを故意に偽装して出荷した事は事実で、その時点で債務不履行、あるいは詐欺でもある事は確定しており、また最終製品での問題の有無は神戸製鋼には判断する事すら出来ないのだから、神戸製鋼の側から、実際上は問題ない、等と言い張って責任を逃れる事は不可能です。

過去の例を見れば、その行く先は自ずと明らかです。東洋ゴムは全交換に追い込まれました。旭化成は複数物件の建て直しと、そうでないケースも多額の賠償を余儀なくされています。神戸製鋼だけが逃れられる、と考える理由はなく、 全交換ないしそれと同等の賠償を求められる事になるでしょう。本部材が使用された最終製品の中には航空機にしろ自動車にしろ、その部材の単価に比して価額が大きいものが多数あるでしょうし、まともに賠償を求められたら普通に神戸製鋼自体が吹っ飛んでしまいます。そこら辺に配慮してくれるような優しい、あるいは甘い取引先はどれ位あるか。完全に故意で取引先を騙し、裏切り、損失を与えたものに他ならないのだから、むしろ激怒して容赦も何もなくなりそうなものですし、昨年に同様の偽装が発覚し、再発防止等を誓っていたにも関わらず隠蔽していた点も考慮すれば尚更だろうと思われるところ、さてどうなることやら。

神戸製鋼 アルミ製品などの一部でデータ改ざん

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10/07/2017

[biz note] 繰り返す詭弁、致命的欠陥を抱える新技術とそのビジネスの限界

別に何かあったというわけではないんですが、なんとなく思う所をつらつらと書いていたら長くなりました。

最近技術関連のニュースなんかで、新技術に関連してどこそこの企業が実験とか、〜の問題を解決する目処、とかいう表現の記事がよく目に付く気がするんです。で、一応目を通して、その度に思うんです。ああまたか、って。

この種の記事というか発表は、別に目新しいものではありません。むしろ昔からよくありました。大抵は何年までに実用化を目指す、とか、数年後の普及を目指す、とかそういう但し書きが付いているものですが、ここで"目指す"、すなわち努力目標的な表現になっている場合、殆どは実現しない、というかそのまま消えます。場合によっては部門ごとリストラされたりしますよね。

もうそれが当たり前というか、そういうものだと認識してしまっているので、そういう表現の記事の見出しを見ても、一々関心を抱いたりはせず、基本眉唾で接する事になります。ある程度でもその見込み通りにブレイクスルーが生じると、逆に驚いてしまう位ですね。

で、それらの怪しい技術やら製品やらの中に、しぶといというかしつこいのが居たりするわけです。しれっと期間を延長したり、前の目標は無かった事にしたりして、殆ど同じネタを焼き直して出してくる類だったり、延々と実験を繰り返したりするのが。

その種のしつこいのには、大体共通項があります。1つは、その技術面の基礎部分に構造的かつ致命的な問題を抱えていて、その解決は目処すら立っていない事。もう1つは、一般人向けにその先進性や実現時のメリットをアピールしやすい割に、その具体的な内容、技術面等は難解で、高度な専門知識が無ければ理解出来ないブラックボックスである事。最後に、全く実現出来ないわけではなく、前記の致命的な問題が露出しない、限定的な条件下であれば実用出来なくはない事。その3点です。付け加えれば、それらの点について触れられる事は無い、というのも共通します。

昨今の代表的な例を挙げると、EV関連技術、ブロックチェーン、顔認証とかその辺が当てはまるでしょうか。遺伝子関連の再生医療関連もその大半は該当します。IPS関連が例外になるのかはまだ分かりませんが、これまでの状況と現状とを見る限り、可能性は小さくはないでしょう。また過去の例で言えば、メモリ関連の諸技術あたりが典型的です。

具体的には一々挙げるとそれこそキリがありませんが、例えばEV関連で言えばバッテリー周りです。コストもそうですが、特に充電時間が現状より短縮出来ないだろう点が致命的、なんですが、にも関わらずキャパシタとか固体電池とか、数分で充電出来るからEVの待ち時間が解決、とする発表が時々出ます。そりゃバッテリーの能力的にはそうなんでしょうけど、そもそも数十kwhを数分で供給するとなると一台あたりメガワット級の大電力が必要になるわけで、そんなの何処からどうやって持ってくるの?って突っ込まざるを得ない話なんですが、その種の発表・記事でそこに触れられる事はありません。

ブロックチェーンの場合は、その計算コストが問題になります。ブロックチェーンは、この種の証明技術の例に漏れず、その基礎を改竄等のクラックに必要となるリソース量、特に計算量の多さに依存しています。取引等の被認証データに対する、あらかじめ定められた条件を満たすハッシュ値を逆計算するのですが、この逆計算は、処理の内容上は暗号の解読と同じものであり、当然ながら非常に大きな計算コストがかかります。この計算量の多さをもって、容易に改竄出来ない事を担保しているわけです。言い換えれば、改竄等をされないためには、認証する側が攻撃者より暗号解読が速い、すなわち計算リソースが多くなければならず、攻撃者のリソースが正規の認証側を上回る場合には改竄を許してしまう事になります。

従って、よく提唱されるような、金融機関が共同発行する、というような場合に認証側が準備し得るリソースでは、オープンな環境での運用は話になりません。大量のbot等を用いた攻撃者の圧倒的な計算力の前に、あっという間に打ち負かされてしまうでしょう。自然、内部的にのみ利用する、といったクローズドな環境で運用せざるを得ないわけですが、その場合にも、求めるセキュリティのレベルに応じた計算リソースが必要な点に変りはありません。ハッシュ値を計算しやすいレベルに設定すれば利用は可能ではありますが、それは改竄もまた容易になるという事であり、そもそもブロックチェーンを使用する意味がなくなってしまいます。無いよりはマシ、というレベルですね。従って、各種の記事・発表等で謳われるような、堅牢なセキュリティを実現するには、認証側は取引等の度に大量かつ難度の高い暗号解読をこなし続ける必要があるため、相当の計算コストの負担は避けられません。大量のGPGPUノードを有するクラスタ群が必要になり、初期・ランニング共に膨大な費用が必要になります。それは誰が負担するのでしょうか?顧客に転嫁するのでしょうか?当然のように、各種の記事や発表の際、この点に触れられる事はありません。

その他、顔認証は認証精度の低さ、遺伝子治療は癌化等の副作用、自動運転は各種センサや電波への悪意の攻撃と環境変動への耐性の低さ等が同様の問題と言えるでしょう。メモリは新方式が出る度に、製造コストか集積度の行き詰まりが毎度障害となって行き詰まります。Bitcoinはそもそも通貨・決済の媒体として用いられるために必須であるところの安定性が全くありません。

これらの問題点は、本来の意味での、根本的な解決の目処は立たない一方で、相対的で全く不十分な程度の改善は可能である、という点も共通しています。 致命的である以上、相対的に改善してもあまり意味はないのですが、改善を続ければいつかは、という期待を抱かせる事は可能であり、それを以って空手形を切るなり、詭弁を弄するなりの延命策を取り得る余地が生じているのでしょう。

そして、その無残な実態がブラックボックスであり、一般人には確認も検証も出来ないのをいいことに、努力目標的な表現を用いてコミットメントはせず、期日が訪れれば、また同じような詭弁を繰り返し、それで引き出した資金や人員、設備投資等のリソースを延々と無為に消費し続けるのです。言うなれば、それがその種の技術に群がる人達のビジネスモデルである、という事なのでしょう。彼らにとって、実際のところその技術の実現・完成自体は目標ではなく、むしろ完成させない、実現しない事でそのビジネスが成り立っているとも言えるでしょう。有り体に言えば詐欺です。

嘘も繰り返せば真実になる、的な部分も全く無いではありません。ウェアラブルの実現として世に出たApple Watchは、バッテリーの容量不足という致命的な欠陥を即座に露呈して期待外れに終わったものの、極めて限定的な範囲でながらユーザもついたし、顔認証についても、iPhoneXに採用され、不穏な話は絶えないものの、Watchと同様に一定の需要が付く可能性はそれなりにあるでしょう。ただ、それは当初の謳い文句や集めた期待からすれば比較にならない程度のものであり、その意味での失敗を埋め得るものでは全くありません。そもそも、WatchやiPhoneX等は、技術自体が成功したというよりも、Appleがその販売力、ブランド力をもって強引に成功を収めたに過ぎない、例外と言うべきものです。その他の数少ない成功の例についても、技術自体は殆ど寄与しておらず、製品・サービス等の先進性を主張するための、広告・宣伝の一要素程度に過ぎないものが大半に見えます。それらの限定的な成功例をもって、言い訳の材料としうるものではないと言うべきでしょう。

無論、そのようなビジネスがいつまでも続けられるものではありません。そこに投じられる資金やリソースを回収する事は出来ないのですから、余力が無くなった時点で行き詰まります。そうでなくとも、期待が薄れ、あるいは消滅すれば、やはり資金が得られなくなって頓挫します。しかし、大抵は懲りずに似たような概念を持ち出し、同じようなプロセスを繰り返すのです。その現時点での代表的なネタが上記であり、より汎用的な概念でありバズワードとして流布されているところのAIという事なのでしょう。

これらの、技術の皮を被った、期待を集めるために生み出され、流布され、利用され、そしてその多くがいつかは捨てられるのだろう概念の数々が、それぞれに将来どのような道筋を辿り、あるいは帰結に至るのか、それはどうなるとも判じる事は出来ません。ただ、やはり本質的な部分で同じ事を繰り返すものに過ぎない以上、その不毛で不誠実で無為な裏切りの繰り返しは、寄せられる期待を確実に摩耗させて行きます。テレビはじめAV周りのように、既に擦り切れてしまったように見える分野も少なくありません。おそらくは、運良く?延命を続けたとしても、同様の末路を辿るのではないでしょうか。もっとも、それ以前に消えるものもまた多いのでしょうけれども。

それらの、いわば新技術期待ビジネスとでも言うべきものに、必要悪の側面がある事も否定は出来ません。専門技術を担う事業体とその構成員や設備については、継続的に維持しなければ途絶えてしまい、将来生じ得る可能性を失ってしまうところ、その維持のためには、詭弁を弄してでも資金等を繋がなければならないと判断する場合もあるだろう事も、容易に想像出来ます。

ただ、ここ数年の状況は、本来の新技術は生まれず、むしろその種の詐欺的な、詭弁に満ちた偽の"新技術"が大半を占めているように見えるし、それは流石に本末転倒というか、先が無いのではないかとも思わされるわけで、それが続く現状には、うんざりしつつ絶望を抱かざるを得ないのです。そりゃ国内のメーカーが総崩れにもなるよね、と。といって、今人員を集中させつつあるAI関連の事業も、遠からずフェードアウトに転じるのかも知れず、さりとて何か建設的・生産的な選択肢があるわけでなし、どうすればいい、という話でもないんでしょうけれども。エンジニアや研究職、という職業自体がその存在意義を失いつつあるのかどうか。いくら考えても答えは出ませんが、漠然とした不安、明確な諦め、諸々のあまり良くない思いを抱きつつ、時も世界も、無常のままに流れて行くのです。

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10/02/2017

[pol law] Cataloniaの独立投票の阻止に暴力を用いた愚かなSpain政府

ちょっと目を疑うというか、覆いたくなるというか。この程Spain、Cataloniaで実施された、その是非を問う住民投票の様子が至る所にUPされていますが、どれもこれも酷い光景です。

本件の経緯等については既に多数報道もなされていますから、ここではその詳細は省きますが、その結果をまとめれば、Spain政府の暴力的な、弾圧とも言うべき妨害活動により投票率は40%強に留まったものの、独立への賛成は9割を超え、圧倒的な賛成多数となりました。

元々、地域住民の独立への意思は悲願と呼んでもいいだろう程に明らかでしたから、実施さえされれば賛成が多数を占めるだろう事は確実でした。それ故に、Spain政府は投票自体を違法とし、文字通りになりふり構わぬ妨害をするに及んだわけです。

しかしその阻止は敵わず、完全ではなくとも、有意とは言えるだろう程度の投票率に達しました。独立の意思は示されたものと解する他ありません。むしろ、あれだけの妨害にも関わらずそれだけの投票率に達したという事から、その意思は相当に強いものと言えるでしょう。これにより、Spain政府の妨害は、徒労に終わったと言うに留まらず、自国民の民主主義的な意思表示に対し、暴力を以って危害を加えた、という最悪の結果を残すものになってしまいました。

ガラスを叩き割って建物に侵入し、武装は一切しておらず無力な事は一目瞭然かつほとんど無抵抗の一般市民に対し、警棒で、あるいは素手で殴りつけ、引きずり回し、階段から蹴り落とし、投票箱や投票用紙を強奪していく様は、愕然として戦慄を覚えざるを得ない、あまりにも醜悪な光景でした。

映像だけ見れば、テロ対策を行うかの如く、覆面を付け、黒尽くめの重装備に身を包み、一方的に、嬉々として暴力を振るうようにすら見える警察の人員は、都市を侵略し、制圧しようとする軍隊のようにしか見えませんでした。軍隊と異なるのは、殺害まではしようとしていない点位でしょうか。それ以外は、見た目と振る舞いだけならウクライナ東部のロシア系組織とも大差ないでしょう。

何のために、そのような異常な、民主主義国家にあるまじき市民に対する暴力が公然と振るわれたのか。無論、Mariano Rajoy首相がその事を謝罪するどころか正当化あるいは無視しながら言ったように、Cataloniaの独立を阻止するため、ではあるのでしょう。しかし、それが目的ならば、今回の暴力は、その手段としては論外であったものと言わざるを得ません。

今回の投票を含め、一連の独立運動をするに際し、Catalonia政府はじめその住民は、あくまで民主主義的な方法のみを用いて来ました。今回のように理不尽な暴力を振るわれてすら、一般に暴動の際に見られるような投石等、暴力的な反撃の類はありませんでした。そうである以上、Spain政府がそれを認めない、というのなら、それに反対する手段もまた民主主義的なものでなければならなかったのです。融和を目指して現実的な交渉を続け、Spainという国家がCataloniaの人々に受け入れられるよう、障害を取り除き、利を提示して説得する他に方法など無かった筈なのです。

それを選択せず、あるいは怠り、安易かつ愚かにも、投票自体を阻止しさえすればいい、と考えたその判断自体が住民達の意思と相容れないものであり、むしろその反発を強め、独立への意思を強固にするものである事は自明であったと言えるでしょう。まして、その手段に暴力を選び、Spain政府が主張するように独立を認めないのならば自国民であり、守るべき対象である筈の人々に対し、意図的かつ組織的に、多大な危害を加えるなど論外です。にも関わらずやってしまった、その報いは小さいものではあり得ず、さりとて今更後悔しても取り消す事も出来ません。もはや憎悪と呼んで差し支えないだろう程に悪化した心象を抱く相手と、誰が今更融和したい等と考えるでしょうか。住民の独立への意思、またSpain政府はじめその他の地域への悪化した感情は、修正不能な域に達しているものと考えられます。Spain政府はCataloniaの人々にとっては完全に敵と言って良いのでしょう。

事ここに及んでは、どうにもなりません。 この上にさらに弾圧を加えても意味はなく、さりとて独立の是非については、両者の間には今更交渉する余地も無いでしょう。Cataloniaの人々が翻意しない限り、独立へと進む事はもはや避けようがないだろうところ、独立の形や時期、それに際しての条件等について交渉出来るよう、速やかに諦め、まずは謝罪するべきではないかと思われるわけです。なにせ、現時点ではその交渉すら出来ないだろう状況なのですから。

Catalan referendum: Catalonia has 'won right to statehood'