10/07/2017

[biz note] 繰り返す詭弁、致命的欠陥を抱える新技術とそのビジネスの限界

別に何かあったというわけではないんですが、なんとなく思う所をつらつらと書いていたら長くなりました。

最近技術関連のニュースなんかで、新技術に関連してどこそこの企業が実験とか、〜の問題を解決する目処、とかいう表現の記事がよく目に付く気がするんです。で、一応目を通して、その度に思うんです。ああまたか、って。

この種の記事というか発表は、別に目新しいものではありません。むしろ昔からよくありました。大抵は何年までに実用化を目指す、とか、数年後の普及を目指す、とかそういう但し書きが付いているものですが、ここで"目指す"、すなわち努力目標的な表現になっている場合、殆どは実現しない、というかそのまま消えます。場合によっては部門ごとリストラされたりしますよね。

もうそれが当たり前というか、そういうものだと認識してしまっているので、そういう表現の記事の見出しを見ても、一々関心を抱いたりはせず、基本眉唾で接する事になります。ある程度でもその見込み通りにブレイクスルーが生じると、逆に驚いてしまう位ですね。

で、それらの怪しい技術やら製品やらの中に、しぶといというかしつこいのが居たりするわけです。しれっと期間を延長したり、前の目標は無かった事にしたりして、殆ど同じネタを焼き直して出してくる類だったり、延々と実験を繰り返したりするのが。

その種のしつこいのには、大体共通項があります。1つは、その技術面の基礎部分に構造的かつ致命的な問題を抱えていて、その解決は目処すら立っていない事。もう1つは、一般人向けにその先進性や実現時のメリットをアピールしやすい割に、その具体的な内容、技術面等は難解で、高度な専門知識が無ければ理解出来ないブラックボックスである事。最後に、全く実現出来ないわけではなく、前記の致命的な問題が露出しない、限定的な条件下であれば実用出来なくはない事。その3点です。付け加えれば、それらの点について触れられる事は無い、というのも共通します。

昨今の代表的な例を挙げると、EV関連技術、ブロックチェーン、顔認証とかその辺が当てはまるでしょうか。遺伝子関連の再生医療関連もその大半は該当します。IPS関連が例外になるのかはまだ分かりませんが、これまでの状況と現状とを見る限り、可能性は小さくはないでしょう。また過去の例で言えば、メモリ関連の諸技術あたりが典型的です。

具体的には一々挙げるとそれこそキリがありませんが、例えばEV関連で言えばバッテリー周りです。コストもそうですが、特に充電時間が現状より短縮出来ないだろう点が致命的、なんですが、にも関わらずキャパシタとか固体電池とか、数分で充電出来るからEVの待ち時間が解決、とする発表が時々出ます。そりゃバッテリーの能力的にはそうなんでしょうけど、そもそも数十kwhを数分で供給するとなると一台あたりメガワット級の大電力が必要になるわけで、そんなの何処からどうやって持ってくるの?って突っ込まざるを得ない話なんですが、その種の発表・記事でそこに触れられる事はありません。

ブロックチェーンの場合は、その計算コストが問題になります。ブロックチェーンは、この種の証明技術の例に漏れず、その基礎を改竄等のクラックに必要となるリソース量、特に計算量の多さに依存しています。取引等の被認証データに対する、あらかじめ定められた条件を満たすハッシュ値を逆計算するのですが、この逆計算は、処理の内容上は暗号の解読と同じものであり、当然ながら非常に大きな計算コストがかかります。この計算量の多さをもって、容易に改竄出来ない事を担保しているわけです。言い換えれば、改竄等をされないためには、認証する側が攻撃者より暗号解読が速い、すなわち計算リソースが多くなければならず、攻撃者のリソースが正規の認証側を上回る場合には改竄を許してしまう事になります。

従って、よく提唱されるような、金融機関が共同発行する、というような場合に認証側が準備し得るリソースでは、オープンな環境での運用は話になりません。大量のbot等を用いた攻撃者の圧倒的な計算力の前に、あっという間に打ち負かされてしまうでしょう。自然、内部的にのみ利用する、といったクローズドな環境で運用せざるを得ないわけですが、その場合にも、求めるセキュリティのレベルに応じた計算リソースが必要な点に変りはありません。ハッシュ値を計算しやすいレベルに設定すれば利用は可能ではありますが、それは改竄もまた容易になるという事であり、そもそもブロックチェーンを使用する意味がなくなってしまいます。無いよりはマシ、というレベルですね。従って、各種の記事・発表等で謳われるような、堅牢なセキュリティを実現するには、認証側は取引等の度に大量かつ難度の高い暗号解読をこなし続ける必要があるため、相当の計算コストの負担は避けられません。大量のGPGPUノードを有するクラスタ群が必要になり、初期・ランニング共に膨大な費用が必要になります。それは誰が負担するのでしょうか?顧客に転嫁するのでしょうか?当然のように、各種の記事や発表の際、この点に触れられる事はありません。

その他、顔認証は認証精度の低さ、遺伝子治療は癌化等の副作用、自動運転は各種センサや電波への悪意の攻撃と環境変動への耐性の低さ等が同様の問題と言えるでしょう。メモリは新方式が出る度に、製造コストか集積度の行き詰まりが毎度障害となって行き詰まります。Bitcoinはそもそも通貨・決済の媒体として用いられるために必須であるところの安定性が全くありません。

これらの問題点は、本来の意味での、根本的な解決の目処は立たない一方で、相対的で全く不十分な程度の改善は可能である、という点も共通しています。 致命的である以上、相対的に改善してもあまり意味はないのですが、改善を続ければいつかは、という期待を抱かせる事は可能であり、それを以って空手形を切るなり、詭弁を弄するなりの延命策を取り得る余地が生じているのでしょう。

そして、その無残な実態がブラックボックスであり、一般人には確認も検証も出来ないのをいいことに、努力目標的な表現を用いてコミットメントはせず、期日が訪れれば、また同じような詭弁を繰り返し、それで引き出した資金や人員、設備投資等のリソースを延々と無為に消費し続けるのです。言うなれば、それがその種の技術に群がる人達のビジネスモデルである、という事なのでしょう。彼らにとって、実際のところその技術の実現・完成自体は目標ではなく、むしろ完成させない、実現しない事でそのビジネスが成り立っているとも言えるでしょう。有り体に言えば詐欺です。

嘘も繰り返せば真実になる、的な部分も全く無いではありません。ウェアラブルの実現として世に出たApple Watchは、バッテリーの容量不足という致命的な欠陥を即座に露呈して期待外れに終わったものの、極めて限定的な範囲でながらユーザもついたし、顔認証についても、iPhoneXに採用され、不穏な話は絶えないものの、Watchと同様に一定の需要が付く可能性はそれなりにあるでしょう。ただ、それは当初の謳い文句や集めた期待からすれば比較にならない程度のものであり、その意味での失敗を埋め得るものでは全くありません。そもそも、WatchやiPhoneX等は、技術自体が成功したというよりも、Appleがその販売力、ブランド力をもって強引に成功を収めたに過ぎない、例外と言うべきものです。その他の数少ない成功の例についても、技術自体は殆ど寄与しておらず、製品・サービス等の先進性を主張するための、広告・宣伝の一要素程度に過ぎないものが大半に見えます。それらの限定的な成功例をもって、言い訳の材料としうるものではないと言うべきでしょう。

無論、そのようなビジネスがいつまでも続けられるものではありません。そこに投じられる資金やリソースを回収する事は出来ないのですから、余力が無くなった時点で行き詰まります。そうでなくとも、期待が薄れ、あるいは消滅すれば、やはり資金が得られなくなって頓挫します。しかし、大抵は懲りずに似たような概念を持ち出し、同じようなプロセスを繰り返すのです。その現時点での代表的なネタが上記であり、より汎用的な概念でありバズワードとして流布されているところのAIという事なのでしょう。

これらの、技術の皮を被った、期待を集めるために生み出され、流布され、利用され、そしてその多くがいつかは捨てられるのだろう概念の数々が、それぞれに将来どのような道筋を辿り、あるいは帰結に至るのか、それはどうなるとも判じる事は出来ません。ただ、やはり本質的な部分で同じ事を繰り返すものに過ぎない以上、その不毛で不誠実で無為な裏切りの繰り返しは、寄せられる期待を確実に摩耗させて行きます。テレビはじめAV周りのように、既に擦り切れてしまったように見える分野も少なくありません。おそらくは、運良く?延命を続けたとしても、同様の末路を辿るのではないでしょうか。もっとも、それ以前に消えるものもまた多いのでしょうけれども。

それらの、いわば新技術期待ビジネスとでも言うべきものに、必要悪の側面がある事も否定は出来ません。専門技術を担う事業体とその構成員や設備については、継続的に維持しなければ途絶えてしまい、将来生じ得る可能性を失ってしまうところ、その維持のためには、詭弁を弄してでも資金等を繋がなければならないと判断する場合もあるだろう事も、容易に想像出来ます。

ただ、ここ数年の状況は、本来の新技術は生まれず、むしろその種の詐欺的な、詭弁に満ちた偽の"新技術"が大半を占めているように見えるし、それは流石に本末転倒というか、先が無いのではないかとも思わされるわけで、それが続く現状には、うんざりしつつ絶望を抱かざるを得ないのです。そりゃ国内のメーカーが総崩れにもなるよね、と。といって、今人員を集中させつつあるAI関連の事業も、遠からずフェードアウトに転じるのかも知れず、さりとて何か建設的・生産的な選択肢があるわけでなし、どうすればいい、という話でもないんでしょうけれども。エンジニアや研究職、という職業自体がその存在意義を失いつつあるのかどうか。いくら考えても答えは出ませんが、漠然とした不安、明確な諦め、諸々のあまり良くない思いを抱きつつ、時も世界も、無常のままに流れて行くのです。

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