8/31/2016

[biz law] EUの権力濫用に晒されるApple

EUがApple及び同社がEU圏内のHQを置くIrelandに対し、同国で同社に対し適用されている法人税等の優遇措置が不当であるとして、遡って巨額の支払命令を出した件ですけれども。ざっと見た感じ、いささか無理筋っぽいように見えます。

本件の概要は以下の通り。まず前提としてのApple社とIrelandの関係については、1980年に同国内Cokeに工場を開業した事に始まり、当時から同国で失業対策の一環として実施されていた外国企業への優遇税制の適用を受け、以来拠点を維持・拡張し続け、EU成立後はEU圏内事業の統括拠点とされて今日に至る、との事です。なお設置当時の社員数は60名程度で、現在の社員数は6000人規模との事。

そして、問題の優遇の内容は、通常12.5%の同国内法人税率が最大1%とされる、というもので、実際2014年に同社が支払った法人税は税率にして0.0005%だそうです。相当に破格の内容である事は明らかですね。

これに対し、EU側が、同社の同国内拠点は実体がない租税回避目的のものにつき、EUの枠組みを濫用した不当なものであり、本件Ireland政府の優遇措置は違法な利益供与である、と当事者の異議申述の機会なしに断定する判断を下し、併せて同社に対し130億ユーロの支払を命じました。

こうして書き出してみると、無理がある、なんてものじゃないですね。まず実体がないという主張は、上記の事実から見て、通常の租税回避地のように常駐役員もいない、という文字通りの意味では全く該当しません。一応、EU各国にも実際には複数ある拠点の一つに過ぎず、実際の事業活動の大部分が実行されているわけではない、という意味では該当し得る余地が無いではないだろうけれども、それはグローバル企業であればむしろ当然の話であるわけで。そんな事を言い出したら、各国が我が国には工場や事務所があるから、外国会社の法人税も徴収すべきだ、とか言い出して、企業毎に法人税の賦課地を巡って国家間で紛争になってしまいます。

本件は、租税回避地の問題とは何もかもが違うのです。その実体も経緯も当事者の立ち位置も。共通するのはただ一点、Irelandを除くEU側に法人税収入がない、という点のみでしょう。

また、設置と優遇措置の開始がEU設立前である以上、EUの枠組みを濫用したものではない事も明らかです。Irelandによる特定企業への不当な利益供与という指摘についても、同措置が国内の雇用対策としての国外企業の国内誘致を目的としたものである事、当該措置が同社に適用する以前から制度として長年存在し、それ以前から以後を通じて複数企業に同様の措置を適用しており、同社に特別に適用されたものではない、といった事情を鑑みれば、とても違法とはいえないように思われるわけです。

むしろ、後から出来たEU、そのIrelandを除いた他国が、法的根拠もなく、EUとしての権力を濫用して多数決の暴力により同社・同国の協力関係を不当に潰そうとしているようにしか見えないのですね。これまで何らの支援もして来なかったにも関わらず、本件によりIrelandの税制的優位を剥奪する事でAppleはじめ有力企業を同国から追い出し、Ireland以外のEU各国が取り込んで雇用と税徴収の利益を奪いとろうとする意図も透けて見えます。理不尽と言う他ありません。

そもそもEU側の各国とて、優遇税制は普通に行われているわけで、EU圏内に本社のある企業が活動する諸外国から同様のロジックでやり返される可能性もあるし、加盟国の間にも経済的な内紛を招きかねない話の筈なのですが、その辺はどう考えて今回の命令に至ったのか、全く以って理解に苦しみます。

一応、本件同様の命令自体は前例があります。 2015年に、StarbucksとFiatがNetherland(オランダ)から受けていた優遇措置を不当な利益供与と断じ、それぞれ2000万ユーロ、3000万ユーロの支払を明じたのがそれです。しかしこれは開始時期が2008年であり、EUの規律が適用されるべきものである事は間違いありませんから、EU成立前からの措置である本件とは事情が異なるものと言うべきです。支払額も桁違いであり、従って影響の範囲・規模も全く異なるものと言え、同列に論ずる事は出来ないものでしょう。

当然ながら、本件がこのまますんなり通る筈もありません。当事者たるAppleとIreland政府に加え、Apple社やその他本件の影響を受けるべき有力企業の本社のある米国政府までもが揃って反発しています。Ireland政府単独ならばその政治力の貧弱さ故にEU内で抗う術は殆どなかったのでしょうけれども、米国が明確に反対している以上、本件命令が通る可能性は極めて低いものと言えるでしょう。

誰もが知る通り、EU各国の予算をも超える売上・利益を誇るAppleの政治的影響力は通常の私企業のそれとは比べ物にならない程大きいのであって、少なくとも法的根拠が不明なまま、安易に強権を濫用していい相手ではなく、下手を打てばこういう事態になる事も分かり切っていた話の筈なのですが。。。失業やら各種経済面の危機の最中にあって、パナマの件等から租税回避の解消により得られるだろう外国企業の利益に目が眩み、その辺のペーパーカンパニー等と混同して、ゴリ押しでいけると思ってしまったのでしょうか。だとしたら愚かの極みとしか言いようがないわけですけれども。

EU側はやばい、と思っているかもしれませんが、完全に自爆であるわけで、せいぜいその安易な行いの報いに苦しめばいいんじゃないでしょうか。迷惑、では済まないApple社やIreland政府にしてみればたまったものではないでしょうけれどもね。
 
Apple’s Tim Cook reacts: ‘We are committed to Ireland’
Apple ordered to pay €13bn after EU rules Ireland broke state aid laws 
Starbucks and Fiat sweetheart tax deals with EU nations ruled unlawful

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8/29/2016

[biz] 懲りない富士通、ついに国から損害賠償を請求される

またお前か。というわけで、マイナンバーシステム障害の件、結局プログラムのミスが原因という事で、担当の富士通に国から損害賠償請求がなされる運びになったとか。最低ですね。

これだけの規模の、しかも国の基盤システム案件で、損害賠償を請求されるというのは相当に異例の話です。しかし、これはもうしょうがないんじゃないでしょうか。あれだけの重要なシステムであるにも関わらず、碌に検証もせずに納入し、致命的な障害を生じさせ、発生後には問題の分析も満足に出来ず、無駄にサーバーを増設したりして、むしろ被害を拡大させたわけですから。注意義務をも全く果たさなかったその有責性は極めて高く、かつ明白であり、結果の重大性と併せれば、企業として責任回避を図る余地はもはや無いものと言わざるを得ないでしょう。

国としては幸いというかなんと言うか、元々本件契約には、本旨に従う履行がなされなかった場合に契約金額(約69億)を上限として損害賠償を請求し得る条項が入っていたとの事ですから、その分については争っても富士通に勝ち目はなく、すんなり払う他ないでしょう。というより、本件によって事実上マイナンバーシステムの立ち上げに失敗してしまった事による拡大分の損害について追加の賠償を求められない(だろう)だけ甘い、というべきかもしれません。

しかし発生から賠償請求決定まで七ヶ月ですか。時間かかりすぎだと思うのです。まず間違いなく、富士通はじめ、NTTデータ等のベンダー各社、またマイナンバーシステムの責任部門たる地方公共団体情報システム機構や総務省も含め、ほぼ全ての関係企業・組織とその担当者連がそれぞれに保身を図るべく、入り乱れて責任の押し付け合いやら言い逃れやらを試み、後始末の算段に汲々としていたからだろう事は容易に想像出来る所ではあるのですけれども。

さてどれだけの人が首を切られる(た)のでしょうか。現時点の結果だけを見ても、これだけの大プロジェクトを失敗させてしまったとの評価は動かしがたく、その責任が関係者間の慣れ合い、庇い合いで済まされるものでない事も疑いようのないところなのであって。システムが順調に立ち上がった場合に得られた筈の逸失利益の分も考慮すれば、今後10年程度には渡り安定的に得られただろう関係業界の業務の分だけでも数千億規模は間違いなかったわけですし、それを主として富士通が負うというのなら、管理職数人とか、担当グループのリーダーとか、直接の担当者の首だけで釣り合うとはとても考えられないわけですが。

他人事だから勝手に、とは考えられません。本件は公金を使った国家プロジェクトであり、それを失敗させたという事はすなわち国家及び国民全体、社会そのものに損害を与えたものに他ならないからです。その経緯、事情を見ても完全に富士通はじめベンダの自業自得ですし、同情の余地は全く見いだせません。彼らを採用した総務省らも同罪という他ないものです。ただ、この種の大規模な組織ぐるみの責任問題にあっては、本来責任を負うべき立場の者がその優位な立場を濫用することで責任を免れ、弱い立場の担当者らに不当に転嫁される理不尽が往々に起こりうるところ、それは流石に不憫に思うし、見苦しいので、そういった関係者間の立場的な要因に基づく不当な処分がなされる事はあまりない方が望ましい、と思う位でしょうか。

それもこれも、最低限なされるべき検証だけでもしていれば防げた筈なんですけれども、その最低限すらも出来ず、何度やらかしても繰り返す、というところが信用の置けない国内SIer、その象徴とされるところの富士通たる所以なのでしょう。つくづく救えませんね。元々期待なんてしていませんでしたし、むしろ高確率でやらかすだろうと予想していたので特に驚きも失望もありませんし、もう毎度の事ではありますが、最低限の責任も果たせず、再発防止すら出来ない企業である事は既に十分過ぎる程に明らかなのだから、いい加減退場し、今後一切公の事業には関わらないで頂きたい、と改めて思わずにはいられないのです。と言っても、経産省はじめ官と癒着し切った富士通の事ですから、また懲りずに何度でも繰り返すんでしょうけどね。

富士通などに損賠請求へ マイナンバーカード巡り機構

8/19/2016

[biz law] PCデポの高齢者を狙った高額契約の件が理解しづらくて困る

PC販売チェーンのPCデポが老人相手に不当な契約を結び、その解約に際して異常に高額な解約金を請求したとして炎上している件ですけれども。何がどうなっているのか、と理解できないでいるうちに大騒ぎになった、と思ったらあっという間に既に沈静化しつつあるようで。

いやもう何がどうなっているのやら、と。本件は個人の告発、それもTwitterによる五月雨的で一方向的な発信という事もあって、第三者の立場からはどうにも事情が掴みにくく、理解に難儀していたのです。しかし事態は瞬く間に進展し、収益の柱を直撃した不祥事として、事業面の影響を重く見たPCデポ側の自白的な公式対応が発表されるに至り、ようやく問題の概要位は見えるようになって来たようにも思われるところ、遅ればせながら、少し整理をしてみようかと思った次第なのです。

バラバラで断片的な情報、すなわち公開されているレシートや契約書(請求書?)の写真等から読み取り得た事実等をまとめたものが以下となります。

<本件契約内容等>

本件の当事者は、下記2者。

・契約者 投稿者(ケンヂ@kenzysince1972)の父(80歳超)
・PCデポ幕張インター店

問題の契約は、PCデポが"プレミアムサービス"と称して提供する、保証を含む総合的サポートサービスです。契約の経緯は、

"普段使用していたノートPCの修理のためPCデポへ出向きました。するとなぜかこのような高額の契約を結ばされました。"

との事で、これ以外の具体的な状況等は公開されていないようですが、当該来店時に上記契約者が店頭で店側の誘引を受けて申込み、即日締結されたものと推測されます。契約日は2015年12月14日ですね。

契約されたサービスは、サポート対象となるPC等の台数及びサービスの内容の範囲に応じて数種類設定されているプランの内、10台分を対象とし、全てのサービスを提供するものとして最も高額となるファミリーワイドプランとの事。いわゆる全部入りプランです。詳細は公式に掲載されているので省略しますが、プラン間の相違点は下記。

・各種対応台数
・無線接続サービスの有無・種類
・トラブル復旧サービスの一回当たりの利用料金の額
・年10回に限り無料の電話サポートの有無
・ビデオ関連サービスの有無
・スマホ関連サービスの有無

本件のファミリーワイドプランの月額料金は5,500円、これらオプションが適用されない基本のシングルプランは2,500円とされています。

ただし、ファミリーワイドプランには、加入者限定でiPad優待と称し、iPad Air 16GBが月額料金無料でレンタル(リース)されます。シングルプラン含めその他プランには適用されません。現行のiPad Air2ではなく型落ちモデルの処分(しかも解約料の基準値は小売価格より高い)という事で、非常にセコい感じと共に胡散臭さも漂いますが、それはさておき。

本プランを基本として、下記オプションが追加されています。

・VoDサービス 月額1,990円
・コンテンツ 東洋経済・日経ビジネス 計2,200円
・プロバイダ・回線契約 月額3,500円(最大12ヶ月間 以降は4,500円)

上記計で、(契約開始から1年間は)月額13190円(税抜)、税込で14,245円の契約となります。投稿者のTweetでは、月額14000円位の請求が来ている、とされており、この金額に合致しますから、おそらくはこの契約内容で正しいものと考えられます。言われるがままに全部契約してしまった格好でしょうか。

<解約時・解約後の事情>

で、まず投稿者からのTwitter上での証言によれば、正確な時期は不明ですが、その後、おそらくは今年になってから解約を申し込んだところ、

・20万円の解約料を請求された
・ゴネたら10万円になりました

とのこと。10万円は実際に支払われているようで、レシートの記載も10万円きっかりとなっています。
また、投稿者によれば、優待によるレンタルのiPadが見当たらない、とも。しかしこの点はそれ以上の情報は何もありませんから、現時点では考慮に値せず、無視すべきものでしょう。

そして、PCデポ側からは以下の説明等があったとされています。

・不愉快な思いをさせたことは謝罪する
・契約には正当性がある
・契約者がiPadを欲しがった
・解約料も適正
・iPADは渡してある
・父が使用したログも残っている

これ以外、PCデポ側から説明に関する情報は殆どありません。個人情報も絡む話ですから当然ではあるのですが、本件を受けて発表された対策の内容を見るに、上記事情を事実上認めたものとみなして良いのでしょう。ただ、当初20万、減額後10万の解約料についてだけは、その根拠を裏付ける情報は見当たりません。20万の方はおよその値のようですし、チラホラと公開されている各項目について設定された3万〜6万程度の解約料の積み重ねという事なんでしょうけれども、減額後の方は10万円きっかりである事はレシートから読み取り得る一方、その内訳等が完全に不明です。

<検討>

さて。ざっと見ただけでも、本件の問題点は大小取り混ぜて多々あるように見えますが、ここでは法的な部分に絞りたいと思います。法的な妥当性を評価するには、当事者間で争いがあるだろう概ね下記の3点で足りるでしょうか。

1.契約に至る経緯の正当性
 特に説明義務の履行有無
2.契約内容の妥当性
3.解約料とその請求・支払の正当性

それぞれにつき仮に無効事由等がある場合にも、その後の契約者による追認の有無等が問題になるでしょうけれども、それはひとまずおくとして、上記の事情の内、具体的な事実に関する証言等の内、争いの無い部分を概ね事実と仮定して見てみることにします。

まず1.について。言うまでもなく、全ての契約においてここが一番肝心なところです。・・・がしかし、この部分の情報は殆どなく、肝心の経緯が殆ど不明なんですよね。"ノートPCの修理のため"に店舗に向かった契約者が、店舗で本件契約を結んだ事自体は、何らの問題もありません。

無論、その正常とは言い難い契約内容を見れば、おそらくは多少なりと強引な誘引や、ミスリードの類もあった可能性も相当に強く示唆されるだろうところではあります。同社の商品等にはミスリードを狙った表示が多々あるようですから、本件でも連想的に疑いの目がかかるのも致し方ないところでしょう。しかし、評価・判断を下すための具体的な証拠が何もないのであれば、それは憶測に留まるのであって、正当とも不当とも判断は成し得ないものと言わざるを得ません。とはいえ、もし推測される通りの行為があったのであれば、民事に留まらず詐欺罪等の刑事罰にも該当し得るわけで、わからないなら仕方ない、と見過ごすにはあまりにも重要な部分なのです。

結局のところ、本件の理解が困難になっている原因はここに集約されているように思われます。しかし第三者からはどうする事も出来ません。PCデポ側からは個別の顧客情報につき経緯の詳細が説明される事はないでしょうから、投稿者側の説明を待つ他ないわけですが、可能な限り早急な説明が期待されます。でも一般人ですから、社会的に求められる程度の説明を期待するのは酷なのかもしれませんが。困ったものです。いっそ訴えが提起されれば、司法の判断も仰げるし有り難いのですけれども、それには額が微妙ですかね。

さておき、次に2.については、上記記載の個々の項目を見ても、違法と断ずべきものは存在しないように思われます。まあ流石にそれは当然でしょう。でなければこの程度の騒ぎで済む筈はなく、公権力による摘発もとっくにされていたでしょう。ただ、契約者との関係においては、契約者が投稿者の言う通りの独居老人であり、特に多数のデバイスを扱うわけでもない事は間違いないのだから、名称にもある通りファミリー向けと自ら謳い、多数のPCの利用を前提とするプランの契約を希望していたものとは到底考えられません。従って、この点については店側の悪意の程度によらず、明らかに不適切と評価する他ないでしょう。

一応、いかに客観的に不適切に見えようとも、特に契約者が希望する等の特段の事情があれば別です。しかるにこの点については、契約者が"iPadを欲しがった"ことから、iPadの無料リースが附帯する唯一のプランとして本件ファミリープランが選択されたものとの説明があります。これは特段の事情と言えるか否か。おそらく否でしょう。iPadは当然に本件サービスとは別に売買が可能だし、むしろiPadの入手を希望する場合、通常想定されるところはそれ単体の売買契約の意思のみです。少なくとも、本契約の主たる要素である台数はじめサービスの内容について、その契約の意思があったものとは到底言えないでしょう。

従って2.については、結局のところ、違法な契約ではないものの、妥当とは言えない、と評価すべきものと考えられます。契約者に錯誤があった可能性も高いでしょうから、それが立証されれば、無効の主張も可能でしょう。PCデポ側に悪意があれば、詐欺罪も成立する可能性もあるように思われます。やはり経緯が不明につき断定は不可能ですけれども。

3.についてはどうか。解約料は本契約の有効無効及びその内容の評価と直結するものにつき、前提たる具体的な事情の詳細が不明な現状ではその評価は困難なわけですが、大雑把な処理としては、不当な部分と正当な部分に分けて、

・不当・無効な部分については、解約料は発生しない
 ただし、不当利得の返還等は必要

・正当・有効な部分については、当事者が予め合意した解約料が発生する
 ただし、解約料の合意に瑕疵がある場合等には減額等もあり得る

という事になろうかと思われます。これを本件について見ると、下記の3ケースに分かれるでしょう。

A.元々本件サービス自体の契約の意思がなかった

 -> 契約無効、解約料は原則無料 現存利益は原則要返還

B.本件サービス契約の意思があった

 B-1.かつ、解約料については十分な説明を受け、理解の上契約した
  ->契約は有効、解約料も原則有効で額によらず支払い義務あり

 B-2.しかし、解約料については説明を受けず、又は理解せず契約した
  ->契約は有効、しかし解約料の合意は無効につき減額等あり

本件は、1.及び2.の内容如何によって、上記A.もしくはB-2.に該当する可能性が高いものと考えられます。B-1.はこの種の契約について常識的な限度で、部分的に認められるに過ぎないでしょう。また、仮にA.だったとして、"父が使用したログも残っている"点から、その利用の程度によっては追認した場合と同様となり、結果としてB-2.の状況と同等と見るべき状況にあたる可能性もあるでしょう。そう考えると、経緯がどうあれ、本件で問題とされている、異常に高額である疑いのかかっている部分については、B-2.に準じて処理されるべき可能性が一番高いように思われるわけです。

A.と仮定した場合は無効につき解約料も原則発生しません。B-2.と仮定した場合は、ほぼ解約料の額の妥当性のみが問題となるわけですが、ここで特に問題になるのは、下記2点です。

・当初20万、減額後10万の合意の有効性、妥当性
・減額後の10万支払いの意味・効果
 
当初の20万は、予め予定されていた解約金の総額という事で、上記合意の無効等の事情が無い限り、一応有効と言えるでしょう。しかし、後の減額はその額の根拠が示されておらず、その正当性は判断出来ません。これが、不適切とされる項目を除外した額が結果として10万きっかりになった、というのであれば別ですが、各要素毎の解約金が1円単位であるところからしても、そのような事はほぼありえないでしょう。ゴネたら10万になった、という情報から考えれば、10万以上の分は放棄したか、でなければ新たに弁済契約を結んだ、等と色々と解釈出来るようにも思われるところですが、いずれにしろ、解約料を10万円と定めた当事者間の合意が必要となります。この点、証明すべき書面等の情報は見当たりません。すなわち、正当とも不当とも判断出来ないのです。

従って、10万円の支払の有効性、及びその効果の有無についても原則として判断し得ない結論になります。ただ、これによって解約及び清算が成立したとすれば、契約期間は2015年12月から高々8ヶ月に過ぎない事、解約料とは別に月額14,245円の利用料が請求されていた事、また最終的に契約者の手元にはiPadも含め何等の財産も残らなかった事、といった事情を考慮すれば、光回線の解約料を控除したとしても6万を超えるその解約料は、社会一般の通念を逸脱し、特別の事情がないのであれば不当に高額であるとの評価は免れないところでしょう。 ただ、一応契約者は解約料と理解して支払っているようですから、詐欺とまでは言えないでしょう。

まとめれば、現時点で公表されている情報からすれば、

1.契約に至る事情は不明につき評価不能 
 不法行為を示す具体的な証拠の類はない
 ただ、その他商品の表示方法等から連想的に疑いがかけられている

2.契約内容に明らかに違法な点はない
 ただ、契約者の合意が疑われる明らかに不要・不適切な内容が
 多々含まれ、詐欺等の疑いも否定出来ない

3.解約料も違法とは言えない
 しかし金額の根拠はないに等しく、特段の事情の無い限り、 不当な高額
 である可能性がある

といったところでしょうか。要するに、色々と詐欺っぽいし、解約料は異常に高いけれど、明らかに違法と断じるだけの証拠はない、という、何ともすっきりしない状態にあるという事です。何はともあれ、経緯が定かでない現時点では、如何に怪しかろうとも評価は出来ないし、従って是非の判断もなし得ないのですから、出来る限り早急に経緯かが公表されるよう願いたいところですね。

ただ、本件で疑われているような、高齢者らの無知に付け込んだ詐欺まがいの悪質なサービス契約は決して特異なものではなく、残念ながら程度の差こそあれ、ありふれたものである事は周知の事実です。無論、それを妥当と評価し、利用している消費者も多くいるのでしょうけれども、だからといって明らかに正当な範囲を逸脱し、消費者を害する悪質な業者を放置して良いわけはありません。にも関わらず何らの規制もなく、これまで殆ど放置され続けて来たPC関連業界を是正する契機ともなり得るだろう本件、詳細かつ正確な情報が早急に公表され、それに基づき消費者の保護が図られる事を望みます。

なんと言うか。一応、これも時代の変遷、帰結の一つとも言えるのかもしれません。PC業界は進歩・変遷が早かった以前ならば、それだけ情報にもサポート類にも価値があり、費用がそこそこ高くても許容され得たんでしょうけれど、もう行き着くところまで行ってしまいましたから。どんな技術も商品も、進歩を止め、枯れて陳腐化してしまえば、それだけ価値は際限なく下がるものです。もし疑われている通りの、顧客を騙して搾取を図るような勧誘が事実であれば、知識やサービスの価値が下がったのに、そこから無理に収益を上げようとして、顧客を騙すやり方を選択した結果がこれ、という事で、当然の報いと言えるでしょう。この際PCデポは存分に報いを受けて、業界全体の教訓になってくれればいい、と思う次第です。どうせここまで悪評が広まったらもう駄目でしょうし。

弊社プレミアムサービスご契約のお客様対応に関するお知らせ

8/18/2016

[note] MUFGオンラインのワンタイムパスワード強制切替の催促が極めて不快かつ迷惑

以前から三菱東京UFJ銀行のオンラインバンキングを契約してるんですが。ユーザなら既に嫌という程既知の話でしょうけれども、元々本サービスのシステムは、カード型の暗号表をアカウント毎に発行しておいて、振込等の実行の都度、その中から4桁の数字を入力させる方法を採っていたのですが、セキュリティ面の強化のためと称してこれを全面廃止し、ワンタイムパスワードを用いる方式に切り替えを図っている(いた)ところなのです。具体的には、スマホアプリか、カード型のトークンのいずれかを発行し、そこに配信もしくは表示される数字列を暗号表の代わりに入力させる形ですね。

これに対し、私はスマホアプリなんて危険なものを銀行取引に介在させる気は全くなく、またカード型トークンにしても電池切れに伴う交換とか管理の手間が増えるのが嫌だったので、切替はしない事にして、切替後はサービスの利用をやめる事を選択したのです。ていうかだね、セキュリティレベルの向上が目的の筈なのに、それ自体がセキュリティホールになる可能性の極めて高いスマホアプリを使うとか矛盾そのものだし意味不明と言わざるを得ないのですよ。トークンにしても手間の割には逆にリスクが増えるケースもあり得るし、実際にSecureIDがクラックされて多数の銀行のトークンが全交換する事態になった事もあるわけで、信用出来るとは言い難いところです。

で、放置していたのですが、それはそれで、切替を催促するメールやDMが頻繁に届いて非常にウザかったのです。それは手元のメールを遡る限り2015年の6月頃から始まり、具体的な切替期日が告知されたのは2015年の10月頃で、平成28年、すなわち2016年の6月12日とされていました。これから半年以上催促が続くのかと、うんざりした事をよく覚えています。

その後は果たして予想の通り、それから期日の2016年6月12日まで、古い方から順に、下記のような、心底うんざりする他ない題名の催促メールが届いたわけです。

・【重要】平成28年6月12日より確認番号表での振込は利用できなくなります
・【ワンタイムパスワード】すでに70万人のお客さまがご利用中です
・【重要】今年の6月から乱数表で振込できなくなります
・【重要】乱数表をワンタイムパスワードに切り替えるとより安全です!
・【重要】お急ぎください!あと2ヵ月で乱数表で振込できなくなります
・【重要】お急ぎください!乱数表での振込ができなくなるまで1ヵ月をきりました!

どこのフィッシングメール業者ですかと。私はもう最初から絶対に切り替えない、と決めていましたから、苛立たしく思いつつも我慢して無視し続けて6月12日を待ち、それが過ぎた時点で、ようやく終わると安堵したわけです。これですっきり、もう思い出すこともないだろう、と。

がしかし、その後、2016年の6月17日になって、下記のような題名のメールが届いたのです。

・【重要】7月10日(日)より振込時にワンタイムパスワードのお申し込みが必須となります!

待てコラ。あれだけ迷惑な催促を繰り返し、その度に6月12日以降は振込出来なくなる、と半ば脅迫するかの如く催促し続けておきながら、"一定の猶予期間を設けさせていただくことになりました"とか言って、しれっと迷惑メールの送付を再開しやがったのです。半年以上も猶予期間を設け、散々催促を繰り返しておいて、まるで猶予期間を初めて設けたかのように、それも顧客のためと称して催促を再開するなど、顧客を馬鹿にするのも大概にしろ、というのです。半年以上もの猶予と再三の催促にも応じなかった顧客に今更移行の意思などありえません。むしろ明確に拒否していると解すべきところでしょう。それがわからない筈もない、にも関わらずのその言い様には、こんなに苛つかせられた事は殆ど記憶にない位のいらつきと共に怒りも感じずにはいられませんでした。しかしそれでも、高々一ヶ月程度の話なのだから、と苛つきつつも再び放置する事にしたのです。

で、延期された期限直前の2016年7月4日には、下記の題名の催促メールが届けられました。さらに苛つきが増します。

 ・【重要】振込時にワンタイムパスワードのお申し込みが必須となります!

そして、延期された期限の7月10日を過ぎた後、7月28日には、下記題名のメールが届きました。

・【重要】振込時にワンタイムパスワードのお申し込みが必須となりました

本文には"7月10日(日)より、インターネットバンキングで振込の際、ワンタイムパスワードの『お申し込み』が必須となりました。"と記載され、再延期はなく、切替が行われた旨告知するものでした。これをを受けて、今度こそはようやく終わったか、と未だ消えない不快感を抱きつつも、終わった事なのだから速やかに忘れるべきだ、とそれを飲み込んだのです。

実際、その後は本件自体、思い出す事もありませんでした。・・・2016年8月16日になって届いた、下記題名のメールを見るまでは。

・【重要】9月11日より乱数表で振込できなくなります!

は ?

思わず真顔になりましたね。というか、本件切替を悪用した詐欺・フィッシングの類かと思いました。中々手の込んだ事をするものだ、と。でもまあ一応、とオンラインバンキングのサイトを確認してみると、驚くべき事に、確かに期日は9月11日と記載されているのです。というか、お知らせ一覧を見ても、過去の切替期限関連の項目は軒並み削除され(その他の事項はそのままなのに)、あたかも最初から9月11日が切替期日であったかのように装っているのです。

もう死ねと思います。MUFGは、ユーザを何だと思っているんでしょうか。メールも読めない、理解も出来ない池沼だとでも言うのでしょうか。そんな人はそもそもオンラインバンキングなんか使えないし使うべきでもないと思うのですけれども。

まあおよその事情は容易に推測出来ます。おそらくはベンダの富士通かIBMあたりがシステム更新の際にでも発注額を釣り上げようとして、ユーザの都合を考えず、セキュリティ強化が必要で、ユーザにも十分メリットはあるし喜んで移行するでしょう、とプレゼンを繰り返してMUFG側を言いくるめ、それが通って実行に移したはいいけれど、予定より移行率が低く、サービスの利用率が許容出来ない程に低下する本末転倒な結果に終わった、とか。かと言って、ここまで大々的に進めてしまった以上、もはや後戻りも出来ず、延々と移行期間を伸ばす他どうしようもない状態に陥ったのだろうと。

しかし、未だに移行していないユーザは、移行の拒絶を決定したか、でなければそもそもオンラインバンキング自体殆どあるいは全く使っていない、いわゆる幽霊アカウントであるか、そのいずれかが大半でしょうから、今更いくら移行期間を伸ばして催促を続けようとも、殆ど無意味に終わるだろう事は明らかで、もうどうにもならない状態にある可能性は十分高いものと推測されます。そうであれば、目先の売上増に目が眩んでの自殺という事になるわけで、ベンダもそれに乗せられたMUFGも、本当に馬鹿だなあ、としか言いようがありませんね。

困ったのは私を含めたユーザ側です。本件絡みのメールの配信を拒否出来れば良かったんでしょうけれども、しかし一連のメールは、全て"重要なご連絡のため「Eメールでの各種情報のご案内」を希望されないお客さまにも配信しております」"となっていて、配信を停止させる事も出来ないのです。ホント死ねばいいのに。

もうネットバンキング自体を解約するしかないんでしょうか。残高確認等のためだけに使いたいのですけれども、あまりに苛つかせられるのに加え、いつ終わるのかも定かでないのだし、本件でMUFGのオンラインサービス自体に対する不信感も極めて強くなりましたから、もう仕方ないのかも、と傾きつつ、どうしようか思案中なのです。うーん。

三菱東京UFJダイレクト : お知らせ一覧

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8/14/2016

[law] 警察自身の全活動監視・記録を義務化すべき

大分県警による別府地区労働福祉会館の監視カメラ設置事件について、県警の幹部を含め多数の関係者が書類送検される運びになったそうで。

これはなかなかに前代未聞の事態です。容疑は建造物侵入罪で、当該容疑者らは発覚当初から当該侵入箇所たるカメラ設置場所は雑草が生えていて公有地だと思った旨供述していますが、当該箇所が会館敷地の奥側であり、かつ隣接する他の私有地との境界の一部であり、しかも当該境界を構成する相当の高さのある石垣の内側でもある、という状況からすれば、当該箇所は敷地と一体を成しているものと見る他なく、少なくとも公有地と誤解し得る可能性は皆無と考えざるを得ません。従って公有地と思った旨の供述は悪意を隠蔽するための虚偽である可能性が極めて高いと言えるわけで、本容疑についての悪質性は相当に高そうです。

しかし無論の事ながら、本件で問題となっているのは建造物侵入の有無などではなく、政治団体への公権力による監視の是非にあります。政治活動の自由とプライバシーのそれぞれ憲法で明確に保障されている人権が侵害されており、重度の違法性を帯びている事もまた明らかです。一方、本件監視行為に及んだ経緯や目的等の事情は何ら公表されておらず、従ってその違法性を阻却する事由は一切認められない状況にある以上、現時点では正当化のしようもない、公権力の濫用たる犯罪と評価する他ないでしょう。

さらに、本件の措置に対する政府の関与の有無も問題になります。主たる監視対象が特定地域に限定されない全国規模の政治団体であり、また県警の捜査部隊の個別事件の捜査に伴う監視と考えるには上層部の関与が大規模に過ぎるように思われる点からしても、より広範かつ大規模な監視活動の一環と考える方が自然と言えるでしょう。そして、そもそも警察自体が行政の一部であり、政府の管轄下にあるのに、これほど違法性が高く、また政治的意味合いも極めて濃いだろう監視行為の計画及び実行に及ぶにあたり、そこに政府が全く関与していない、等という事があり得るでしょうか?とそう考えれば、嫌疑がかかる事はむしろ当然と言えるだろうわけです。

本件の面倒なところは、容疑者が警察組織、それも上層部ということで、只でさえ組織とその身内を擁護して隠蔽も平然と行うところの話ですから、今後の捜査を待つ、というわけにもいかない点にもあります。むしろ時間が経てば経つほど、口封じ等も含め証拠隠滅が進められてしまうだろう事は想像に難くありません。かと言って捜査権等を持つ第三者機関があるわけでもなし、現状の制度では、政党を含めた民間側の団体等による個別の活動に頼らざるを得ないのでしょう。

しかし再発防止以前に、個別事件の捜査からしてままならない、というのは流石に看過し得ない問題だと思うのです。警察内の幹部も含めた各人員の行動、発言等は全て自動的に映像・音声で記録して保存しておく機器の設置・着用等を義務付ける位しないとどうしようもないのかもしれません。まず監視すべきは警察自身である、というべきでしょうか。特に具体的な容疑もなく、捜査令状もなしに監視する事も必要として実際に実行してもいるのだから、犯罪者予備軍たる自分たちが常に監視されても異論はない筈なのですし、本当に行動の全記録を義務付けても良いように思われるところなのです。

無論、その種の再発防止等の対策の実現には困難を伴うだろう事も明らかですけれども、捜査・摘発が難しいからといってこの種の犯罪を見過ごして良いとするわけにもいかないし、何とも困ったものです。あるいは警察専門の捜査機関を設置しても良いのかもしれませんね。会社における社外監査役みたいな感じで。何にせよ、現状の制度の欠缺を漫然と放置する事だけは許されないと思うし、政党各位には是非とも早期の法改正による是正がなされるよう願いたいところですね。

8/13/2016

[biz] わずか1年で終了したインバウンド消費、その甘過ぎた見込みと減損の責任の所在

ラオックスの2016Q2決算が発表されました。大方の予想通りボロボロです。売上は2割超の大幅減で、営業利益はかろうじてプラスではあるものの、純益は赤字に転落しました。直近の国内売上は前年比でほぼ半減というのですから、まさに壊滅的というべき惨状です。

2015年初頭、前々回の春節の時期に俄に発生し、小売業界にバブルを生み出した中国人によるインバウンド需要、通称爆買いは、その原因となっていた中国における個人旅行者の越境に伴う輸入品にかかる優遇税制の変更(通常の輸入と同等の課税賦課開始)を受けて恒久的な意味で終了したものと認識されていたところでした。その消費目的地の代表格であり、象徴的な位置にあった同社の今期の業績、決算は、まさにその状況を直接に証明するものに他ならないわけで、これをもって爆買いと呼ばれた現象、需要の終了が完全に確定したものと言えるでしょう。

結局、本需要は実質的に約1年で終了してしまった事になります。インバウンド需要自体は2015年以前より徐々に増加していたものですが、同社をはじめ、百貨店等の小売各社が本格的に中国人向け需要に適応すべく積極的な投資及び売り場の構成や人員の採用・配置等の施策を採ったのは直近の話です。たった1年でその莫大な投資を回収し得た筈はなく、当然ながらそれらの未回収分は損失に転じるでしょうし、また中国人向けに特化すべく置き換えた物的・人的リソースは国内向け需要に対してはミスマッチを起こして、多分にその需要回復の障害ともなる可能性すらあります。

それらの投資等が中国人以外、すなわちグローバル向けとして一般化を図ったものであったならば、五輪による広範な外国人需要への転用も可能だったのでしょうけれども、今回のそれは、中国人向け、それも電化製品や化粧品等の購買に特化したものであるのだから、そのような流用はおそらく困難であって、大部分の清算が避けられないものと予想されます。つまり、しばらくは各社とも減損を余儀なくされるものと考えざるを得ないわけです。

その兆候は今回のラオックスの決算に既に表れています。営業利益は黒なのに、純益が赤なのがそれですね。為替差損や株式評価損等もありますが、特別損失として固定資産の除却損と店舗整理損が計上されているのはまさにそのもの。既に損切りに動いているその処理の迅速さは評価すべきかもしれませんが、元々ラオックスは国内向けで見れば競争力皆無で、インバウンド消費の恩恵がなければ既に消えていた可能性が高いものと思われるところですから、その損切りをしたところで元の弱小家電チェーンに戻るだけであり、そこに積極的な意味は見出し難いところです。今更エディオン等の家電大手グループへの合流も難しいというか相手方にメリットが無いでしょうし、このまま退場コースとなる可能性も高そうですが、さて。

一方百貨店は今の所そこそこ堅調です。松屋あたりは立地条件的に爆買いの影響が強く、その分損失の幅も大きいようですが、その他はそれ程でもない様子ですね。もっとも、ラオックスより対応が遅くまだ減損処理等に手を付けていないから、というだけの事かもしれませんし、円高がコスト減に寄与してある程度相殺した面もあるでしょうから、影響の有無や程度を判断するには証拠が不十分であり、時期尚早というべきなのかもしれませんけれども。

何にせよ、中国の個人旅行客の購入品に対する優遇税制が終了した以上、それによるインバウンド消費はもはや完全に消滅した事は間違いなく、従ってそれを収益の柱に掲げた向きは揃ってアテが外れた格好になりました。日本政府からして1年前には成長戦略の柱としていた位なのだから、それが瞬時かつ完全に失われた影響が小さいものに留まる筈もありません。中長期向けにした投資はほぼ全てが減損を迫られるし、その結果として当然に政府も含めその甘すぎた見通しの報いも避けられない筈なのですが、誰がどう責任を取るのでしょうか。

これに代わる需要のアテがない現状では単にクビが飛ぶだけに終わるのだから、責任者の悉くがひたすら保身に走りたくなる気持ちも理解できないではありませんが、やはり誰も責任を取らない、では済まない規模の損害を伴う失敗だと思うのです。でなければ立て直し以前に、その前提たる損切り乃至清算もままならないのですから。

しかし、元より爆買い自体がおよそグレーとも言うべき法の抜け道に基づいた経済である以上、中国政府が看過し得ない規模になれば規制が入る事も当然に予想されたところであって、具体的な終了時期の予測は困難であったとしても、少なくともこのような大規模な需要が長続きするはずもないし、成長の余地も見出し難く、長期の投資案件とするにはリスクが大きい、と少し考えれば分かりそうなものだったのですけれども、まさにバブルの様相を呈し、殆ど誰もが止まりませんでした。政府も民間企業も、何度失敗を繰り返そうとも、つくづく目先の事しか考えられないものなのだな、とこの惨状を前にしてため息をつきたくなる次第なのです。

とりわけその音頭を取り、本件が発生した頃には諸手を上げて歓迎し、盛んに投資等の奨励を図った政府は、責任を取って後始末をするどころか何もなかったかのように黙殺し、企業に全ての責任を押し付けてやり過ごそうとしているようで、全く以って話になりません。もっとも、政府自体が本件を含めあらゆる市場で目先の株価上昇等のために手当たり次第にバブルを起こしては崩壊させ、経済を混乱させ続けている張本人なのであって、今更その責を認めるはずもなく、従って反省も修正もありえないだろう事もまた明白であり、分かり切った話なのですけれどもね。

8/10/2016

[biz] 詰んでしまったJDI、清算か延命の2択

2016Q2の決算が大体出揃いました。前年から続く国内外での各種バブル崩壊の影響に加え国内での災害等もあり、大方の予想通りにほぼ減益・赤転の不振一色で、一言で言えば壊滅的という感じなわけです。国内についてはマイナス金利により債権へ逃避しても損失が積み上がるばかりとあって、証券会社は無論、生保や年金、信託等も含め金融業界各社はまさに地獄の真っ只中、といったところでしょうか。例外は低金利の恩恵を受けた不動産業界位のもの、といってそちらもそろそろバブルも限界のようなのですが。

業績が悪化した業界・企業があまりに多すぎて、個々の企業を一々取り上げてもキリがない位の総崩れなわけですが、その中でも、とりわけ中小型液晶大手ジャパンディスプレイの決算における先行きの救いの無さ加減は群を抜いている感じで、象徴的なものを感じさせます。

JDIの状況、また不振の原因は、先日あえなく逝った同業のシャープとほぼ同じと言えるでしょう。iPhoneはじめスマホ等の需要が頭打ちした、と思ったら数割もの急激な減産に走り、それに伴って部品類はどれも同程度の数量的売上の減少に加え、供給過剰による急激な単価の値下がりに見舞われた結果、大幅な赤字に陥ったわけです。JDIの場合は、前年同期比で約30%も売上が減少し、当然に巨額の赤字を計上してしまいました。直前に大きめの設備投資をしていたのもあって、BSは極めて悲惨な感じ。数百億の短期借り入れを追加し、かろうじてショートは免れているという状況です。

当然ながら借り入れで手当した分は、これからその分利益を余分に稼いで返済しなければなりません。しかし、そのアテにJDIが挙げたのはほぼ有機ELのみ、というのがまた。Appleが次期iPhone等に有機ELを採用するという予想は随分前から囁かれ続けている話ですし、液晶からそちらへ需要の移転する可能性は高いのでしょう。が、周知の通り、JDIの事業はほぼ液晶に特化していて、有機ELについては殆ど実績がなく、一方で有機EL自体は別段新規の技術というわけでもなく、海外大手を含め他社が多数既に競合している市場なわけです。かといって発展途上というわけでもなく、SamsungとLGという独占的なシェアを占めるプレイヤーも既にいます。実績もなく、特に優位な技術もノウハウもないJDIが、これからそこに新規参入して、すぐに競争力ある製品を投入し、直ちに利益が得られる程度のシェアを獲得出来る、等とは到底考えられないのですけれども、一体どういうつもりなのか、と首を捻らざるを得ません。

一応、有機EL自体が液晶に比べれば未成熟な製品分野ですから、技術面で飛躍的な新技術を得るか、もしくは生産効率を大幅に高めてコストを削減する事が出来れば、一気に飛躍する可能性も無いではないのでしょうけれども、しかしもしそんな技術があるのなら、既に大々的に発表し、資金を集めて大規模な設備投資も進めていた筈です。それがなく、赤字に転落した今になって有機ELへの転換を打ち出したという事は、そういう具体的な勝算等があった(得られた)のではなく、悲惨な現状を取り繕うためにでっち上げるネタが必要だったけれど、具体的なものはなく、代替分野への進出を漠然と打ち出すしかなかった、というだけの事なのだろう、とそう解釈する他ないように思われるわけです。

だとしたら、今回の投資は無意味、というか単なる無謀であって、資金の無駄遣いに終わってしまう可能性が極めて高い愚策、と言わざるを得ないわけで、しかもそれ以外に回復の可能性すらない状況から予想すれば、JDIの将来は正しくお先真っ暗、という事になるのですね。

シャープの惨状を見れば、事業分野自体に根本的・構造的な衰退の要因がある場合は、いくら企業があがいたところで無為に終わる可能性が高い事は明らかです。一方、JDIは設立の経緯等から官営的な性質のある企業ですから、かつての国鉄等よろしく無理やり借金を重ねて延命させる事も不可能ではないのでしょう。通常の企業なら当然選択肢になる筈の海外企業への売却も困難ですから、清算か存続かのほぼ2択になるわけですが、さりとてそこで清算の選択を取ることは相当に困難でしょうし、しばらくはこのまま赤字を積み重ねつつ存続する可能性が高いようにも思われるところです。しかし、そうなればJDI周りの損失の拡大・累積を招く可能性も高くなるわけで、当事者以外の納税者にとってはかえってタチが悪い案件である、と言えてしまうんでしょうけれども。

どう頑張ってもこの先回復する見込みが無い事に違いはなく、さりとて潰すも売るも困難。厄介な異になってしまったものです。いつまで引っ張る事になるんでしょうか。

8/08/2016

[pol] 怒涛の勢いで政治的自殺行為を重ねるTrumpがそれでも大統領候補という恐怖

米共和党の次期大統領選候補者Donald Trumpに対する米国民の支持低下が決定的になってきたようで。予備選段階では最有力と言われた勢いは既に無く、Hillary Clintonに余程の失策でもない限りは敗北で決まりな空気が漂うようにも感じられるところです。勿論、本選はまだ3ヶ月程も先の話だし、まだどんな可能性も残っている、筈なのですけれども、逆転を予想するに足る根拠は今の所見当たりません。

その原因は周知の通り、ここ10日程度の間に立て続けに犯した下記3点の失敗にあります。

1.退役軍人・戦死者等への侮辱行為等
 イラクで戦死したイスラム教徒の米国人兵士遺族への中傷
 退役軍人や戦死者等に与えられる勲章の安易な受贈
2.会場内で泣き出した赤子を嫌悪し、排除を求めた
3.共和党議員等(Paul RyanとJohn McCain,Kelly Ayotte)の再選不支持

1は米国民一般が非常な敬意を抱き、尊重している筈の、国防における殉死者等の名誉を軽んじる行為であり、とりわけTrumpの主たる支持基盤たるナショナリズムに共感的な国民のうち少なくない割合にとって、その象徴とも言うべき国防の担い手たる兵士に対する侮辱行為として決定的に受け入れ難く忌避されるものであっただろう事は想像に難くないところです。本来なら一番大事にしなければならない層の筈だったのですけれども。

2はこれまた国民の多くが絶対的に守るべきものとしている子供、それも赤子に対して嫌悪と共に攻撃的とも言うべき態度を露わにしたものであって、その後の批判・非難の激しさからしても、人格的に相容れないものを感じた国民が多かっただろう事は間違いないところです。

3は、これから困難を乗り越えて対Hillaryでまとめなければならなかった筈の共和党内の分裂を逆に深めるだけの行為でした。特に共和党内で決定権限を持っているわけでもない、むしろ余所者とも言うべきTrumpがそんな事をしても誰かの支持が得られるわけでなし、何の意味も利益もなく、何やってんの、と唖然とした向きも多かったでしょう。その後撤回し支持を表明しましたが、当然ながら関係修復の気配すらありません。

元々Trumpの現状は、熱狂的な支持者はいるものの、白人の特定層以外の支持が壊滅的である事などから、本選で過半数を得るための幅広い国民の支持は得ておらず、また予備選を通じ、民主党候補と伍するために必要な共和党内の支持体制も著しく毀損していました。それを本選までに修復し、かつHillaryに流れた無党派層や穏健派共和党支持者の取戻し等、支持層の拡大も図らなければ、敗北必至の情勢にあったわけです。

ですから、必然的にこれから本選に向けてポリシーを修正し、何らかの融和策を進めるだろうものと予想され、その方法及び成否に注目が集まっていたところだったのですけれども、それ以前に本件によって逆に安泰だった筈の支持を減じ、かつ党内の分裂はより深刻になりました。率直に言ってわけがわかりませんし、大統領に選出される意思の有無からして疑わざるを得ない位です。この期に及んでなんという事態でしょうか。

いやまあ、上記のどれにしても多分にTrumpは後先を考えず反射的に喋った結果そうなった、というだけの事なんでしょうけれども、だとしたらそれはそれで、そんな自らの発言を制御する事も出来ない愚者だ、という事に他ならなくなるわけで。仮にも大統領候補の片割れなのに、どうしてこんな事に。。。合成の誤謬どころの話じゃないと思うし、当然洒落にもならないしで、いやもうどうしてくれるんでしょうこれ。

もっとも当のTrump自身、既に敗北を見越して"本選では不正が起こるだろう"等とわけのわからない陰謀論的な予防線を張ったりしているらしいし、仮にこのまますんなり敗北するならそれはそれで問題ないんでしょうけれど、当然ながらHillaryが倒れたりする可能性もあるわけです。そうすれば、如何に批判が多かろうと、事実上候補がTrumpしかいない以上、彼が大統領にならざるを得ません。そんなはた迷惑で済まないような博打はそもそも打たないで頂きたい、と心から思う次第なのですが、大丈夫なんでしょうか。と言って、大丈夫なわけがない事は明らかなのですけれども。

Donald Trump claims the election will be 'rigged' — and many are saying that's preposterous and dangerous

それから数日で、さらに
・Hillaryの暗殺示唆
・Obama大統領をISの創設者呼ばわり
と、態度を反省し改めるどころか、悪化の一途を辿る始末。Trump本人もそれをここまで持ち上げた米国も、ともに救いようがないものと言わざるを得ません。

[前記事 [pol] 傲慢で愚かなTrumpが大統領候補筆頭という現実]

8/01/2016

[pol] プロパガンダの場と化した都知事選にげんなり

お騒がせにも程があった今回の都知事選は、有力候補が知名度の無さや醜聞で自滅する中、内紛で押された"無所属"の烙印を逆手に取って無党派層の支持を得た小池氏の圧勝による当選、という事前予想通りの結果に終わりました。

もっとも、実際のところ、圧勝という結果に見合うほど、小池氏に政策面で積極的な支持があったわけではなく、概ね他候補との比較において相対的に失点が少なく、消極的な選択が集中した結果と言えそうです。実際、どの候補からも従来から指摘されていた批判以外の具体的かつ建設的な政策の主張はほとんどなされませんでしたし。しかしそれは、前知事の唐突な責任問題浮上からこれまた突然の辞職という選挙に至る経緯、また間に参院選を挟んで候補者の選定及び立候補手続が公示直前まで手付かずとなり、その結果、全体的に準備期間が殆ど無かった今回の選挙の制約上、仕方のなかったところと言うべきなのでしょう。

小池氏は何を血迷ったか、都議会の解散を公約に掲げ、協調する姿勢が最初から皆無、どころか対立必至な状況ですから、議会の運営には不安しかないわけですけれども。議会と敵対すれば、条例等の審議もままらなくなり、その首長の自治体運営が困難を極める事は従前の例を挙げるまでもなく明らかなところです。議案が尽く通らず立ち往生、という状況も普通に起こりうるでしょう。しかし、あらかじめその旨公約する人物を選出した以上、予想される通りの状況に至り、その結果としての著しい混乱が生じたとしても、それも有権者の選択の結果ですから都民の自業自得と評価する他はないのでしょう。融和路線に転向してもそれはそれでむしろ公約違反になってしまうのですしね。

ところで、今回の知事選においては、国政に属する筈の政策の主張や、自治体の首長としての資質等とは直接関係ない、特定の政治的主張が独立して個別に飛び交う様子が色々と目につきました。自治体の首長選挙で何故それを?と思わず考えこんでしまう事もしばしば。

最も目立ったのは無論鳥越氏による憲法改正反対はじめ、軽減税率導入等の立法に関する主張でしたが、当然ながら実現云々以前に、そもそも地方自治体及びその首長に、これらの実現に関与する法的権限は何もありません。にも関わらず臆面もなく曝け出されたその齟齬は、最後まで主張がバラバラなまま、およそ対立軸の定まらなかった今回の選挙を象徴するものだったようにも思われるところです。

的外れにも思われた謎の個別主張も様々でした。例えば山口氏による五輪関係者の責任追及等の主張は、立法関連と比べれば当事者の一員としてまだ自治体の関与はあり得るだろうとはいえ、その人事等はこれも基本的に国の行政の管轄ですし、責任追及よりも重要な筈の、如何にして開催を成功に導くか、その手段等については全く何も触れないという有様でした。外国人排斥の主張、アンチNHK運動等、特定の主張のみを繰り返す候補に至っては、それらの主張が少なくとも従来及び通常の都政とは関係ない上に、実質的に立法権・司法権の管轄でもあるところ、仮に当選しても実現する術がない以上は自治体の選挙でその是非を問う事自体が本来的に無意味と評価する他ないものでした。選択肢が増えるのは望ましい事だと言っても、そもそもそれは選択肢とは言えない以上、その観点からであっても正当化は困難でしょう。

無論、当人たちには最初から当選する意図もなかっただろう事は明らかであり、要するに従来からよくあるところの、世間の注目が集中する都知事選を単なる個人の主張の場、すなわちプロパガンダの手段として利用したに過ぎないものなのでしょう。けれども、今回はちょっと露骨に過ぎたというか、それ以外の本来当然にあるべき首長としての一般的な資質の有無、運営全般の方針に関する主張がそれらのプロパガンダに埋もれてしまった感がある程だった点は、やはり行き過ぎと言わざるを得ないし、それなり以上の違和感も禁じ得なかったところなのです。本末転倒な感じがひしひしとしました。

有権者にアピールするにあたって何を主張しようとも、明らかに違法行為に当たるわけでもない限り自由ではあるんですけれども、当選する気がない候補者の繰り返すプロパガンダ的な主張も建前上は候補者の発言の形を取る以上は社会的に完全に無視する事は出来ないわけで。そうである以上、明らかに無視すべきものであったとしてもそれなりの頻度でそこかしこに広報される結果、選挙において少なからずノイズとして働きます。その影響が無害なものである筈はなく、法の知識に乏しい有権者、特に国政と自治体の運営とを区別し得ない向きをミスリードする事も多々あり得るでしょう。プロパガンダをする側はそれこそが目的な場合もあるのでしょうけれども、それは公正な選挙を妨げる行為であり、到底許容され得ないところです。

やはり、供託金を宣伝費と割り切ってしまう候補者が多すぎると思うのです。それらの候補の中からは供託金が高すぎるという不満の声も上がっていたそうですが、今回の有様を見るにつけ、逆に安すぎるんじゃないかと思った位です。勿論、このような事が起き得るのは突出した有権者数を背景に国政選挙に準じる重要性を持つとされる都知事選ならではと言えるでしょうから、都知事選に限っては安易な立候補を防止するために供託金を10倍にした上で没収基準を10%超に設定するとか、要件を加重する例外規程を設ければそれでいいのではないでしょうか。といって、特定自治体のみに適用する特別法を設ける際には憲法95条により住民投票が必要になるのでそう簡単な話ではないのでしょうけれども。

ともあれ、如何に微妙な選挙を通じて選出されたものと言っても、有権者の付託を受けた正当な首長が選任された事には違いありません。選出の時点で既に都政の対立・混乱は不可避とは言え、前任者の不始末とそれに伴う都政の混乱・停滞の解消を目的として選出されたものである経緯を踏まえ、今回の退任・選任が本末転倒であった、などという事にならぬよう、適切な都政運営がなされるよう願いたいところです。率直に言えば難しいだろうとは思いますけれどもね。

[前記事 [pol] 鳥越俊太郎の都知事選出馬に漂う不安]
[関連記事 [pol] 舛添知事の汚職追求を不毛にする法と社会の齟齬について]