12/27/2016

[biz] 東芝の原発事業減損再び

東芝が原発事業に関連してまたしても数千億円規模の減損の見込みだそうです。それ自体はある程度予想する向きもあって驚きはそれほどないものの、2期連続というのは流石に問題なしとは到底言えないでしょう。大体、今期は回復するって散々言ってたところにこの有様ですから、正しく嘘つきと言う他ないところです。この種の業績についての虚言は、常習犯として富士通が広く認知されているところですが、そこに東芝も並ぶ事になりそうです。直近で見ればむしろ東芝の方が酷いと言えるでしょうか。

ともあれ。その対象は、昨年末(2015年12月)に同社の原発子会社であるところの米ウェスチングハウス(WEC,WH)が買収した、原発の建設や運用等を総合的に請け負うサービス会社CB&I Stone & Webster。具体的な条件等は非公表につき不明ですが、元々債務超過にあった同社の買収に際し、その価格やのれん代等は何故か買収成立後に協議により定める事とされていたところ、今年一杯CB&I側とその価格決定の方法を巡って紛争(売主のCB&I側から提訴)に陥り、先日ようやく第三者たる会計士の決定に委ねる旨の司法判断が下されたところだそうです。なお、暫定的に東芝が計上していたのれん代は100億円規模(8700万$)とのこと。

なんとなくそれっぽい雰囲気は漂うものの、これだけでは数千億の減損が何処から出てきたのか、第三者からは判然としません。従って推測するしかないわけですが、現在知りうる情報から解釈すれば、要するに、買収に伴うのれん代について、本来は買収額+債務超過額であるのに東芝の計上したのれん代が著しく低かったところ、今回の決定に伴ってその数千億円規模の差額が表面化する見込みとなり、同事業は業績不振にある事から、表面化すれば即減損が必要になる、という事かと思われるわけです。

そうだとしても、わけがわかりませんね。というのも、同事業が債務超過にある事、それに伴って減損の可能性がある事は、買収当時の公式文書にも記載されており、従ってその超過額分の損失リスクがある事を東芝が知らなかったという事はあり得ないわけです。その額についても、計上されていたような100億程度ののれん代で済むような規模・性質の事業ではない事も明らかだった筈です。また周知の通り、東芝は当時既に大規模な不正会計が発覚して巨額の赤字計上が避けられない状況にあり、原発事業の巨額の減損はその焦点の一つでした。事業継続の資金調達にも苦慮するそのような状況で、なにゆえにその減損リスクを加重し、その額も倍加させるような本件買収を強行したのか、合理的な解釈は困難のように思われるところです。

同社の原発事業が窮地に陥っていたが故に、同事業を維持継続するためには無理にでも拡大を図る姿勢を見せる必要があったという事なのか、それとも、危機とは関係なく、単にWH買収時と同様、リスクを承知で強行したというだけの事なのか。何にせよ無謀という他ないのでしょうけれども、それをやってしまうというのが、前代未聞の会社ぐるみの不正を起こし、またもんじゅ等による国家への損害も含めて原発事業を通じ損失を積み上げ続けてなお反省するところの皆無な東芝たる所以なんでしょうか。

リスクを負うのもそれで損失を被るのも、自分たちで責任を負える範囲内でというならそれぞれの自由であろうけれども、原発のような、それでは済まない公共的な事業でのこの無謀ぶりには、その担い手としての資格に欠けるものと断ぜざるを得ないのです。

Chicago Bridge & Iron 社の WEC に対する 差止請求 の棄却について
米国 CB&I ストーン・アンド・ウェブスター社の買収完了について

東芝、米原発サービス会社買収で数千億円減損の可能性

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12/26/2016

[biz] 恒例行事化したMRJ納入再延期、漂う諦観

三菱重工が開発中の短距離向け旅客機MRJの納入予定、さらに延期の運びになったんだそうです。同機の予定延期は1年ぶり、通算で実に5回目。もはや殆ど毎年の恒例行事と言っていいだろう現状、驚いている人は殆どいないのでしょうけれども。

度重なる延期のもたらす帰結、その詳細については既に各所で散々言い尽くされて来たところですし、ここで繰り返す意味もないでしょうから省略しますが、これでembraelとbombardierはじめ競合他社への顧客流出はさらに進み、既に回収不能と評価する他ない巨額に達した開発費等初期投資の額もさらに積み上がる事となりました。その意味するところは明らかです。

今回の延期の理由はいつもの通り、要するに品質管理の不手際による開発の遅延。直接的な事象としては、型式取得に必須の評価試験の開始が予定から大幅に遅れている事と、主に米国での規制当局の動向を読み間違え、重量超過に対する仕様変更が必要な見込みとなった事、と言われます。

前者は兎も角、後者は擁護のしようもありません。当然ながら、重量は航空機における最も基本的な仕様であり、基本設計に影響を与えずにそれだけを削減することなど出来ません。座席数や航続距離を減らすなら用途自体が変わって顧客の計画も練り直しになり、当然受注も(ANAのような特殊な顧客を除き)やり直しになるし、そこは変えずに機体の軽量化で乗り切るというのなら、それこそ基本構造や材質の設計から修正する事になり、もはや延期では済まなくなってしまうわけですから、いずれにせよ致命的と言うべきところです。もっとも、その理由がなんであれ、どうせリリースされないのなら結果としては同じだし、一々云々する意味もさほどない、とも言えるわけですが。ただ、どうもその辺が定まらないからか、今回は延期先の見積もり自体が困難になっているっぽいのが不穏ではありますけれども。

結局のところ、再延期がなされても驚きも感じられないという、ある種の諦観が広まっている事実それ自体が、同事業の先行きがもはや絶望的と言っていい状況にある事を証明しているのではないかと思うのです。少なくとも世間の大半がそう認識している、とは言えるでしょう。

この種の、当初の見込みの甘さ、準備段階の不備、実行における能力不足、それらがもたらす費用超過による不採算化、といった事業の立ち上げ全般に渡る失敗により泥沼に陥った状況、そしてそこに至ってなお有効な修正も撤退も出来ず、ただ損害を積み上げながら死の行軍を続ける以外に何も出来ない、という有様は、正しく惨状という他ないものです。東京五輪も似たような状況ですが、あちらは単発につき上限や終りが見えるだけまだマシと言えるでしょうか。

航空機事業を甘く見て、無謀にも突っ込んだ報いを受けているだけ、とも言えそうですが、何にせよ、さてこれからどう始末を付けるのか。事業規模の大きさとそのスパンの長さから、自ずと損害の桁も洒落にならないものになる事は避けられないだろうところ、他の事業も火の車な事もあるし、場合によっては自動車よろしく、とまではいかずとも、近い所まで行ってしまう可能性も否定できないところですが、さて。

MRJ開発で追加負担=納期時期「読めず」-三菱重工社長

12/12/2016

[IT biz] NETGEAR製Wifiルータに即時乗っ取り可能な脆弱性発覚

NetGear製のWifiルータ製品群に、httpリクエスト経由で任意のコマンドを実行出来る酷い脆弱性が発覚したそうです。

具体的には、下記のように後部にコマンドを記載したhttpリクエストをルータのIPアドレス宛に送信するだけで、root権限で任意のコマンドを実行出来てしまうんだとか。

http://ルータIPアドレス/cgi-bin/;COMMAND

マジですか。。。何がどうすればこんな事態が起こりうるのか、あまりの意味不明っぷりにもはや呆然とする他ありませんね。一応これもinjection攻撃に分類される脆弱性という事になるんでしょうけれども、しかしこれ、通常injection攻撃の文脈で言う脆弱性はオーバーラン等を利用する隠れたものを指すものであるところ、これは隠れたものではない、どころか普通にコマンド入力のインタフェースが設けられているようにしか見えないわけで、要するに設計ミスによる欠陥というべきものではないのかと。確かに脆弱性には違いないんでしょうが、通常の脆弱性とは異なり、メーカーの重過失によるものにつき、これによる被害は一義的にメーカーに帰責されるべきものと言わざるを得ないでしょう。悪意があったものとまでは思いたくないところですが、公式の説明は未だ無い以上、その点については現時点ではいずれとも判じる事は出来ません。

なお、対象については、CERTの報告によれば、同社製のR7000とR6400が確定しているのに加え、同様のファームを使用している筈の同系統製品群はおそらく該当するだろうとの事で、このシリーズはそのカタログスペックの高さから世界的に良く売れているものでもありますから、その膨大な数のルータが即座に乗っ取られ放題という、それはそれは大変な事態になってしまったわけです。

本件への対策としては、既にリリースされている対策済のファームウェアを適用するまで使わない、というものしかない事は明らかで、各所で即時の使用停止が呼びかけられています。しかし、ルーターを使うな、と言いわれても、それはネットを使うなと言われているに等しい場合も多いでしょうし、そもそも気づかないユーザの割合も小さくはないでしょうから、十分に対策が行き渡るまでどれだけの時間がかかるかも未だ見通せない状況で、当然ながらそれらの無防備な分につき諸々の攻撃による被害が懸念されています。いや大変な事になりましたね。しかし、当のメーカー自身はというと、公式サイトでは本件について触れてすらいないばかりか、クリスマス向けに直ぐ入手出来る旨の、当該Wifiルータ製品群の宣伝及びオーダーの受付窓口を大々的に掲げている始末という。危機感が薄いのか、あるいはあまりに致命的に過ぎて、無かった事にしようと絶望的な試みに走ったのか。いずれにしろ論外と言わざるを得ないわけですけれども。

一応、R7000及びR6400自体は、同社の個人向け製品群の中ではハイエンド寄りのモデルにつき、対象がそれらハイエンドカテゴリの製品群に限定されるのであれば、リテラシが高く迅速に対処出来るユーザが比較的多数を占めるでしょうから、まだ被害は限定的に留まる可能性もあるにはあります。ただ、こういうインタフェース部分は廉価版と共通にするのが通常でしょうから、実際のところはあまり期待は出来ないだろうものと思われるところです。

しかしNetgearがねぇ。。。老舗の専業という事で、評価は最も高い部類のメーカーだった筈なのですけれども、これで一気に評価を落とし、信用を失うだろう事も避けられないでしょう。直近の決算は悪くないようですけれども、おそらく本件は長引くでしょうし、さてどうなることやら。ソニーの監視カメラの件といい、過去の販売実績やブランド等ももはや全くあてにならない、という事なんでしょうか。だとしたら、極めて残念な事です。

Vulnerability Note VU#582384 Multiple Netgear routers are vulnerable to arbitrary command injection

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12/09/2016

[IT biz] ソニーが監視カメラにバックドアを仕込んでいた事が発覚

Sony製の監視カメラにバックドアが存在していて、オンライン・オフライン共に外部から自由に操作及びデータの取得が可能な状態になっていたことが発覚したそうです。

具体的には、SonyのIPELA Engine IP Cameraシリーズとして発売されている約80機種のIP接続対応の監視カメラ群につき、ファームウェア上に、root権限のアカウントに対する固定の第2パスワード('himitunokagi')が設定されており、これを知っていれば誰でもネット経由(Telnet!)及びシリアル接続により文字通り全ての操作が可能になる状態にあった、というのです。確かにこれは脆弱性ではなく、正しくバックドアというべきものですね。しかも公式の。

本件バックドアが導入された経緯等についてSonyは何も説明していないため、その目的等は不明です。一応、報道の中では、テスト目的等と推測されていますが、だとしてもrootの隠しパスワードなんて、何のテストに必要なんだという話ですし、俄に首肯し難いところです。当然ながら、Sony自身が顧客データの不正取得を目的にしていた可能性も否定する事は出来ない、というかその方がむしろ自然と言えるでしょう。何にせよ、Sonyの目的が何であろうと、顧客のシステムを危険に晒すのみならず、その秘密情報を無断で取得し得る仕組みをSonyが導入していた事が事実である以上、言語道断な所業と言わざるを得ない事は間違いなく思われるところです。

しかし本当にSonyは自分達が何を売っているのか、全く理解していないものとしか思えません。セキュリティ目的のデバイス自体にバックドアとか本末転倒も甚だしいわけで、ユーザに与える不利益、また心証、それにより失われる信用等の影響の甚大さを考えれば、正気を疑うべき愚行とも言えるでしょう。仮に単なる過失によるものだとしても、こんな致命的な欠陥が放置されたまま出荷される体制自体、セキュリティ関連デバイスのメーカーのそれとして論外と言わざるを得ないところです。わけがわかりません。

なお、当該バックドアについては、発見者であるところのSEC Consult社の事前連絡に従って公表直前にバックドアを潰したバージョンのファームウェアがリリースされており、これを適用すれば解消されるとのことです。対応に追われるSEの方々には御愁傷様。

先日、中国製ウェブカメラがその杜撰な設計からMiraiに大量感染して大規模なDDoS攻撃に利用された件の際には、中国製につきまだ潜在的な危険に留まるものと解して若干他人事のように捉えていたところもあったわけですが、残念ながらその認識は甘く、既に他人事ではなかった、という事になるわけで、その点につき反省しなければならないものと言えるでしょうか。全く以って油断なりませんね。だからといって、本件のようにメーカーにバックドアを仕込まれるというのでは、ユーザーの側ではもうどうしようもないわけなのですけれども。困ったものです、では済まない話なのですけれどもね。

Backdoor accounts found in 80 Sony IP security camera models

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12/08/2016

[biz] SMBCダイレクトのワンタイムパスワード強制切替も杜撰すぎる

今回は、ネットバンクの悪夢再び、的な話です。もっとも、前回と違って私は直接の被害者というわけではないのですけれども。

三井住友銀行のネットバンキングサービスSMBCダイレクトがワンタイムパスワードへの強制移行に踏み切ったようで。これに伴い、12/5付で従来の暗号表による取引は出来なくなっており、代わりにトークン(パスワードカードと呼称)もしくはスマホアプリによるワンタイムパスワードの入力が必須とされています。

先日、MUFGが同様の強制切替を実施した際にも相当な混乱があり、一度ならず二度までも切替がなかった事になった件も記憶に新しいところですが、これも同様の混乱があったようです。というか、とある知人に泣きつかれました。ほぼ毎日業務で使用している決済処理が出来ないんだけどどういうことだろう、と。急遽呼び付けられ、サポートをする羽目になったわけなのです。

なのですが、これがまた面倒で。何はともあれまず問い合わせようとしたのですが、決済処理が出来ない旨の画面に表示されているSMBCの問い合わせ窓口の番号に電話をかけても、音声対応で告げられる区分に、ネットバンキング関連の問い合わせに対応するものが存在しないのです。試しにその中で近いと言えなくもない感じの2つ程を選択してみましたがいずれも外れ。これは電話番号の記載がおかしいのだろう、と諦めてSMBCのHPからネットバンク関連の問い合わせ窓口を探してようやくそれらしきものを見つける事が出来たのです。しかしその後も、混み合っているという事でオペレータに繋ぐまで長時間待たされるという。。。

ちょっと酷過ぎませんかね。こんな重大な変更に際し、最も重要な筈のエラー画面の誘導に誤った窓口を表示するとか、問い合わせを受けたくないからわざとやったのでは、といった類のSMBCの悪意を疑わざるを得ません。窓口が混みあうというのも、本件のようなドラスティックなシステムの切替えであればトラブルが大量に発生して問い合わせも殺到するのは当然の話で、窓口の十分な増員等その準備がなされていなかった事は、文字通り不備と言う外ないでしょう。いずれも極めて遺憾です。

その後は、 まあお決まりの、今すぐに決済をしなければならない状況だというのに送付に一週間かかるだとか、スマホを持っていないのにアプリを使えだとか、そういった類の木で鼻をくくったような対応を受けた知人が憤慨して悶着があった後、最終的には最寄りの店舗に出向いたところ運良くパスワードカードの在庫があり、何とかその日の内に切替えのち決済をする事ができたのです。が、解決の見通しの立たないまま長時間に渡って業務が滞り、手間も掛けさせられた知人は当然ながら憤りが治まらず、相当に不満が残った様子でした。聞けば、本件切替えについて、特にメールやDM等での告知はされた覚えはなく、本人にとって完全に不意打ちだったんだとか。そりゃ怒るに決まっています。おそらくは画面上に注意的な表示はあったんでしょうけれども、日々機械的に同じ作業を多数繰り返す中では、そんな細かい注意書きなんて一々読まないでしょうし、SMBCの怠慢により起こるべくして起こった障害というべきところだったわけです。

しかしMUFGの時といい本件といい、こうも当たり前のように顧客に迷惑をかける杜撰ぶりには流石に驚きました。MUFGの場合はあまりにしつこい催促それ自体が主たる迷惑の要素だったのに対し、SMBCの場合は全く告知をしないも同然のまま切替を強行したという事で、その態様は両極端に対照的ではあるものの、いずれも手続上の不備があったと言うべき点に違いはありません。そもそもワンタイムパスワードへの切替は完全に銀行側の都合による話であって、顧客に一方的に不利益を被らせる話だというのにこの対応の漫然さ加減は、銀行もベンダも一体何を考えているんでしょうか。あるいはやはり何も考えていないと言う事なんでしょうか。

これらの惨状、その原因が部分的にせよそういう事なのであれば、システム更新時等に頻繁に大規模な障害を起こすというのも、その作業自体が困難だからというのではなく、要するにその種の変更作業におけるリスク及びそれに際して負うべき自己の責任に対する認識が甚だしく不十分で、そのために対応も杜撰なものになっているというだけなのでは、といった銀行とベンダのシステムの管理運用の能力自体に対する疑念を強くせざるを得ないところなのです。事システムに関する限り、銀行を信用してはいけない、という事なのでしょう。困ったものです。そんな銀行がfintechとか何の冗談だと言わざるを得ないわけなのですが。

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11/29/2016

[pol] 英米に続き仏も保守回帰、排外へ

フランスの次期大統領選の予備選において、右派共和党(旧UMP)ではFrancois Fillonが決選投票でAlain Juppeを大差で退け、候補者として確定しました。

本選では、Fillonの他、極右派国民戦線のMarine Le Penに加え、現職のHollande大統領率いる社会党を含む3者で候補が乱立する左派が票を食い合う選挙戦が予想されていますが、現時点の世論調査ではFillonが優勢な模様とのことです。具体的には、第一回投票を想定した調査では対Le Penで僅差、左派の各候補には2倍から3倍程度で圧勝の見込みで、また決選投票のように1対1を仮定した場合には、Fillon対Le Penではダブルスコアになる等、いずれの候補にも大差でFellonが勝利する見込みだそうです。要するにFillonの圧勝ですね。

無論本選はまだ数か月も先の話で、新候補はしばしば登場時に過剰な期待を受ける事があるものだし、情況は様々に変化するものにつき予断は禁物ではあります。が、支持の拡大も踊り場に来たように見える極右に競り勝ち、かつ左派3陣営の各候補はFillonには遠く及ばない事からすれば、現時点でFillonが次期大統領になる可能性は相当に高いものと見てよいのでしょう。

特に、左派はもう無理かもしれない、と思うわけです。近々では移民政策での明らかな失敗等から政権への批判が高まって極右や保守に支持が流れ、左派が一枚岩になっても対抗は相当に困難であろう現状にあって、極左とそれ以外の対立に加え、Hollade政権下で事務局長を務めたEmmanuel Macronが独立候補として立って社会党の基盤を大幅に侵食しているうえ、肝心の社会党ではHollande現大統領と首相のManuel Vallsが内紛に近い状態にある、というのですから。率直に言って明らかに対Fillonを云々する以前の段階で全く話になりません。実際、3者(社会党は党として)各々10%前後しか支持が得られておらず、全部足してようやく可能性が生じるにすぎない、というのでは、そもそもその仮定が成立するところの決選投票に進む事すら出来ないという事になるわけで、むしろ不可能と言い切っていいかもしれません。

というわけで、結局のところ、フランスも保守回帰が見込まれるところとなりました。これがさらに極右にまで進む可能性はあっても、左派へと戻る事は当面は考えられないでしょう。すなわち、既に移行が進む英国・米国に加えて仏も保守回帰を果たす事となり、ドイツを除く主要国が揃って国内優先政策に舵を切ったものと言えます。その経緯からすれば、移民政策は根本的に排外へと転換する事は避けられず、経済的保護主義とも合わせて欧州各国間での方針の相違はさらに鮮明となり、EU崩壊の懸念はより一層深まるところとなるわけです。

今や主たる指導者のうちリベラリズムを掲げるものはAngela Merkelただ一人、しかしそのMerkelすら、大幅な支持の低下を前にして難民の大規模な強制送還を打ち出す等の修正ないし転換を余儀なくされている以上、事実上欧州はなべて排外主義に染まったと言っていいのでしょう。実態はともかく、少なくとも建前としては国家や人種、思想の相違を全て受け入れ融和する社会を目指した欧州の夢が、かくも儚くも崩壊する様を見るのは残念なところではありますが、毎日のように難民キャンプで爆発等の騒乱が発生し、不法入国者も一向に減らず、依然としてテロに脅やかされ続ける諸国の現在の有様からすれば、これも必然という他ないのかもしれません。排斥された者達は一体何処へ行き、何者となるのか。誰もが懸念するように、反社会性を帯びた無法者の群れへと転じてしまうのか。どうなろうとも、それを止める事はもはや誰にも出来ないのでしょう。自他共に認める自由の国ですら、抗うことは出来なかったのですから。

France election: Socialists scramble to avoid split after Fillon win

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11/25/2016

[IT law] 中国にて犯罪者予備軍を顔つき(のみ)で判別するシステムの開発が進行中

中国で、顔の特徴から潜在的な犯罪者を見つけ出そう、というクレイジーな実験が行われているんだそうです。以前からよくあるところの、そして大金をつぎ込んだ挙句失敗に終わるところの、顔写真を元に監視カメラで指名手配犯やテロリストを探す、というのではありません。純粋に顔画像のみを用いて、すなわち顔つきだけから、既遂未遂未着手も含め、犯罪を犯しそうな者を判別しようというのです。

具体的には、中国の国家機関が過去に容疑者とみなして摘発した市民数百人を含む2000人弱分の顔写真を学習セットに用いて、顔認証等に用いられる一般的な特徴について容疑者群とそれ以外との差異を抽出して判別基準を作成し、それによって顔写真のみから犯罪者(潜在的なものを含む)を判別しようとしているのだとか。担当の研究者曰く、上唇の曲率や両目間の距離等には容疑者に特徴的なものがある、と主張しているそうです。

実験は、18歳から55歳までの、髭や刺青等のない男性の1856人分の顔画像セットが用いられました。その約4割、730人分が容疑者です。それら画像の90%を用いて学習した判別基準につき、残りの約200人分程度の画像を判別させた実験の結果、その成功率は89%だった、とのこと。

結果だけを見れば、およそ10人に9人は判別出来るという事で、驚愕すべき高精度です。・・・この数字が信用のおけるものなら、という但書は付くし、色々と疑義もあるわけですけれども。

さて。当然ながら、本件試みには各方面から批判・非難が山ほど寄せられているそうです。その内容・論拠は大別して2点。1つは、犯罪すなわち具体的に定義することさえ出来ない不特定の広汎な行為に及ぶ、という内面的な性向と、外見の、しかも静的な特徴との間に、因果関係の存在を見出すべき根拠が存在せず、従って科学的に意味不明な点。もう1つは、本件における犯罪者データは、中国当局が容疑者として摘発した者を集めたに過ぎないため、そもそも犯罪行為を行ったかどうかも定かではなく、従って本実験は、"当局に容疑者として摘発されやすい外見"を判別しているに過ぎず、これをもって犯罪者を判別したものとは到底言えない点です。

実験とそれに対する上記の批判を前提にすれば、ある程度判別が出来た、という結果を論理的に解釈し、理解する事が可能になります。例えば、次のように。

本実験の前提として、外見と犯罪行為一般への積極的性向の間に論理的な根拠は見出だせない。そうである以上、外見による判別は不可能であり、従って、偏りのないデータに対する本実験の成功率は50%に漸近するものと考えられる。しかし、本実験の結果には、明らかに有意な偏りが認められる。従って、データに偏りが存在するものと思われる。学習に用いたデータは、当局に容疑者として摘発された者とそれ以外の者であるから、偶々データ内に偏りがあったのでない限り、外見の特徴と中国当局による摘発対象となる事の間に強い因果関係の存在が示唆される。従って、中国当局は、外見的特徴のみに基いて相当割合の容疑者の摘発を行っているものと推定される。

という感じで。結局のところ、本実験を合理的に解釈して得られた結果は、顔つきから犯罪者を判別出来る、という事ではなく、中国当局は、当局がステレオタイプ化している犯罪者らしい見た目の男を見た目だけで検挙しているらしい、という事になるわけです。恐ろしいですね。もっとも、それはあくまで結果であり、間接的な原因は幾つか考えられるわけですけれども。例えば、中国国内ではウイグル族やチベット族をはじめ、多数のマイノリティが政治的に迫害され、その多数が検挙されてもいる事は周知であるところ、本件で判別に用いたような外見的特徴は、特に民族間に表れやすいものである事からすれば、中国各地の少数民族への迫害を裏付けるものと見る事も可能かもしれません。なおさら恐ろしいですね。

しかし、本件が怖いのはその点に止まりません。中国当局が今回の実験を行った理由は、明らかに犯罪者(潜在的なものを含む)を自動的に識別し検挙するためと思われるところ、本方式をそのままそこに適用するとすれば、これまで行ってきたところの外見のみによる偏見に満ちた根拠のない摘発に倣って検挙を進める形となり、従って無実の市民の摘発する結果になるものと考えられるわけです。それは、本方式により(見かけ上の)根拠が与えられる結果、従来よりもさらに強制的なものになり、規模も大幅に拡大する事が予想されます。しかしその実、これまで(根拠もなく見た目だけから怪しんで)検挙した市民と、その見た目が似ているからというだけで検挙されるという。

家族や親類に検挙された人がいたらその時点でもう大体アウトになる、と考えればその異常性が想像しやすいでしょうか。偶々顔の一部の特徴が過去の容疑者に似ているに過ぎない人でも、整形しなければ、何ら罪に問われる事をしていなくとも、ある日突然容疑者にされてしまうのです。容疑者っぽい顔をしているから、というだけの理由で。

それはもうマッチポンプどころじゃないですね。自分たちでこれまでレッテルを貼ってきた挙句、それを是正するどころか、逆にそれを基準にして、これまでの相手と似ているからお前も犯罪者に違いない、と言いがかりを付けて回るわけです。性質の悪いことに、顔画像のみから自動的に、従って大規模かつ迅速に出来てしまう一方、中国の権力構造からすれば、誰にも修正することは出来ません。無力で哀れな市民は、ただ理不尽を前に絶望するしかないでしょう。

こういう無茶苦茶な話を聞くにつけ、自分は中国人でなくてよかったと心から思うのです。中国人の方々は・・・御愁傷様としか。ただね。どこまで本気なのか、と疑問に思うところもないわけではありません。単に言いがかりのネタをでっち上げようとしているだけなのか、それとも本当に外見だけから犯罪者とわかると信じているのか。非論理的だったり非科学的だったりする事自体は途上国としてある程度致し方ない部分はあるだろうけれども、中国の場合は大体理解していて、それでも悪意の下あえて実行する事もざらにあるものだから、本件もその一例に過ぎないのかもしれない、等とどうしても疑念を抱かされてしまうのです。であればなおさら救えない話ということになるわけですけれども。どちらせによ、恐ろしい事には変わりありませんし、多少その性質が変わるというに過ぎないんでしょうけれどもね。

Convict-spotting algorithm criticised

11/22/2016

[note] Launchyのビルド失敗への対処について(on ubuntu16.10)

ubuntu(lubuntu)上のランチャーとして、もう何年もバージョンが2.5のままでアップデートも長らくされていないLaunchyをなんとなく使い続けているのですけれども。先日、新規にlubuntu16.10の64bit版を導入する機会があり、いつものようにセットアップ作業を行っていたところ、Launchyのビルドに失敗したのです。

結構長い間新規のビルドはしていなかったので、本件失敗が何時何が原因で発生するようになったのかは不明ですが、少なくとも2年前位までは問題なかった筈ですし、おそらくはライブラリ類の変更に伴う些細な問題とかその辺だろうと推測し、調査の上対処することにしました。

まず、ビルド中に発生したエラーは、下記の通りリンカにおける未定義参照すなわちライブラリの参照失敗でした。

[ビルドエラー]
/usr/bin/ld: build/platform_x11_hotkey.o: シンボル 'XKeycodeToKeysym' への未定義参照です

これを見た時、少し首を傾げてしまいました。というのも、問題の関数XKeycodeToKeysymはDeprecatedになっていて後継の関数への置き換えが可能ではあるものの、使えないわけではなかった筈です。実際、後継関数のXkbKeycodeToKeysymに置き換えてみると、上記エラーは消えたものの、別の、Deprecatedになっていない関数の未定義エラーが発生しました。というわけで、本件は個別の関数の問題ではなく、X11関連のライブラリへの参照一般に失敗している事が原因だろうと理解し、Makefile中のg++のリンカオプションに-lX11を追加したところ、無事ビルドに成功。なお前記関数の置き換えは元に戻しましたが、やはり問題なくビルド出来ます。というわけで割とあっさり解決して一安心です。

具体的な修正点は下記の通りとなります。Launchyのソースのバージョンは2.5。
[修正ファイル] src/Makefile.Release
 ※本ファイルは、正規のビルド手順の途中でqmakeにより自動生成されるものです。
[修正点]
 LIBS変数(18行目あたり)の中に、-lX11を追加挿入
 (修正例)
 LIBS = $(SUBLIBS) -L/usr/lib/x86_64-linux-gnu -lX11 -lQtGui -lQtNetwork -lQtCore -lpthread

なお、本件とは関係ありませんが、以前行ったアイコン処理関連で落ちる現象の修正(下記)は適用済みです。
[note] Launchyが落ちるので暫定修正

というわけで今回は以上です。

11/18/2016

[note] ubuntu16.10のtcshに修正版がようやくリリース

ubuntu16.10において、オートコンプリート(tabキー押下)実行時に必ず落ちるという酷いバグが発生していたtcshですが、ようやく修正されたようです。アップデート適用後に使ってみると、tabキーを押しても落ちなくなっていました。

なお、修正後のバージョンは、修正前と変わらず6.18.01です。

$ tcsh --version
tcsh 6.18.01 (Astron) 2012-02-14 (x86_64-unknown-linux) options wide,nls,dl,al,kan,sm,rh,nd,color,filec

内部的には、024-use-sysmalloc.patchを当てた修正版として6.18.01-5ubuntu0.16.10.1とサブバージョンが振られているようです。これはあくまでubuntu専用に独自に修正したものだから、という事なんでしょうけれども、紛らわしいし、そういう独自の修正は今後のバージョン間で仕様にズレを生む危険も当然あって、新たな問題の温床になるといった副作用が生じる可能性も懸念されるわけで、それが見た目は同じバージョン、というのはやはり適切とは言い難いと思うのです。表層的な部分であれば格別、シェルのような基幹的部分への、しかも本件のような重大な事象に対する修正であれば、なおさら慎重であるべきでしょう。実際、本件修正のログを見ても、副作用の可能性についても言及されているのですし。もちろん一応一通りチェックはされているのですけれども、そういう問題ではないでしょう。

かように少々怪しい感じではありますが、修正された事自体は歓迎すべき事でしょうから、折を見て徐々に戻すか、あるいはこのままbashを使い続けるかを決めようと思います。しかし発生からおよそ1ヶ月、その間は殆ど使用不能というべき症状の酷さからすれば、いささか時間が掛かり過ぎ、遅きに失した感も否めません。Canonicalは、リリースという言葉と行為の意味、そこに当然伴うべき責任、及びその適切な実行の方法を、今一度再考する必要があるのではないでしょうか。

[前記事 [note] ubuntu16.10導入 ※tcshユーザは回避推奨]

11/16/2016

[note] 地デジ用室内アンテナの作成

今回は趣味の工作的な話です。最近は色々と壊れた物の修理をする事が多かったわけですが、久しぶりに新規の作成となります。事の経緯は、先日知人から、小型テレビの電波の入りが今ひとつよろしくない、との話を伺った事に始まります。詳しい状況を聞いてみたところ、問題のテレビは所謂ポータブルテレビで、付属のアンテナを付けて窓際に設置しているのだけれど、フルセグでの受信は不安定で、ワンセグでしか入らなくなる事が多いんだとか。地域的には電波塔からさほど離れているわけではなく、電波自体が弱いわけではないらしい事から、受信側のアンテナの問題だろうと思われる状況でした。

素直に考えれば、市販のアンテナを使えばいいって話なんでしょうけれども、調べてみるとそこそこの価格が付けられている事と、そのテレビ自体も1万円程度の安価なものという事もあり、たかが地デジ用の小型アンテナをそこまで出してわざわざ買うのも若干不釣り合いな気がしないでもない、という事で、今回は安価さを重視し、100均で調達可能な部材を使ってアンテナを作成してみる事にしたわけです。なお、同軸ケーブル(F端子付)は手元にあったものを使いました。

今回作成したのは2種類。ダイポールアンテナとヘンテナ。いずれも多数作成事例が存在しますので詳細は割愛しますが、定番ですね。共に周波数500MHz、すなわち波長60cm程度に合うようにしました。受信専用だしそんなにシビアでもないだろう、と期待して。

結果から言えば、ダイポールでは足りず、ヘンテナでOKとなりました。というわけで、以下その作成についてメモ。

まずダイポール。以前キーボードのパターン修復に使った銅箔が残っていたので、これを1/2波長すなわち約30cmずつ切り出して段ボールに貼り付け、


中央部に開けた穴からF端子を通して、


 導線をハンダ付けして出来上がり。


 非常に簡単です。が、流石に性能は良いとは言えず、付属のアンテナとどっこいな感じでした。そりゃそうか。というわけで没。


次に、シンプルな割に利得が高いと定評のあるヘンテナの作成です。スチールの針金を用いて、F端子プラグを取り付け可能な形で作ります。100均で下図のようなプラグ2個と針金を調達。


本体の寸法は、長辺30cm、短辺10cmの長方形状のループに、長辺の1/3(端から10cm:20cm)の内分する位置に短辺と平行にして両側から内向きに伸ばした枝に中央でプラグを固定する形です。大まかに針金をペンチで伸ばし、曲げ、カシメて調整し、各接点をハンダ付けしてからグルーガンで覆います。覆う必要は必ずしもありませんが、尖った部分が剥き出しだと何かと危険ですからね。安全第一。というわけで出来上がった姿が下図です。


 裏側。


全体図。ちょっと歪んでいますね。もちろん修正しようと思えば出来るのですけれども、今回は受信専用という事もあり、性能面では問題なさそうなので放置。


コネクタ部分は少し苦労しました。同軸ケーブルを固定する金具にそれぞれ針金の先を挿しこんだり、巻きつけたりしてからハンダ付けして、これも同様にグルーガンで固めてあります。とてもスマートとは言えませんが、強度面では十分でしょう。


これを、窓際でハンガーから垂らしたケーブルの先に接続する形で設置した結果、流石にダイポールや付属アンテナとは違い、全チャンネル安定してフルセグ受信出来るようになったのでした。めでたし。ただ、角度はある程度電波塔の方へ向ける必要があるらしかったり、窓からは少し離したほうが良いらしかったり等、若干調整は必要ではあったのですけれども。といってもその程度、些細なことです。というわけで、今回はこれでおしまい。

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[note] 鞄の取っ手金具(手カン)の修理

鞄が壊れたのです。ビジネスバッグの類なんですけれども、PCや書類等を詰め込んで、ちょっと重いなと思う位だった時に、突然持ち手の付け根の片方が取れてしまいまして。見ると、本体と持ち手を繋ぐ金具(手カン)の取っ手に差し込まれていた棒状の部分が根本からもげてしまっていたのです。その鞄は2wayなので、そのまま肩掛け鞄として使う事も出来なくはないものの、不格好な事この上ありません。程なく修理をしようと決める事になったわけです。

本件の金具は、四角形に近い比較的単純な形状のもので、割と汎用性も高そうに思われたため、最初は交換用の部品を探したのですが、これが意外と見つかりませんでした。そうそう壊れるものでもないし、あまり需要がなく、そのために流通もしていない、という事なのでしょうか。他にも、ワイヤーの接続用金具(シャックル)の細長いもので代用出来ないかと検討してみたりもしましたが、微妙に寸法が合わず、本体側の穴に差し込む事が困難につき断念。

仕方がないので、壊れた金具を修理する事にしたのです。材質はおそらく亜鉛系で、そもそももげる位には柔らかいものなのだから、それほど苦労はしないだろうと見込んで。具体的な修理方法としては、サイド部分のみ流用して、折れたシャフトは取り払い、代わりに長いネジを通す事にしました。結果から言えば概ね思い通りに修理する事が出来たのです。以下はその工程のメモ。

まず、 シャフト部分にネジを通すための穴を開けます。バイスに固定して、


ドリルで3mmの穴を開けます。


位置や角度がズレないよう、特に最初の内は軽く当てては目的の位置に近づくよう斜めに動かして離す、を繰り返しつつ、少しずつ削り取るようにして掘っていきます。


ほぼ位置が定まったら、角度を優先して掘り進めます。柔らかいので削りやすいのはいいのですが、逆に言えば間違った位置・方向にも削れやすいという事なので、 気を使います。


当然ながら削りかすが沢山出るので、時々外して掃除します。同時に位置等を確かめつつ。


数ミリ以上まで行くと、あとはひたすら垂直になるよう掘り進めるだけです。


これで出来上がり。


 もう片側。シャフトが残っているので、まず切り落とします。


金鋸でコリコリと。


 やはり柔らかいので、さほど苦労する事もなく切れます。


先ほどと同様にバイスにセットして、


もう片方に開けた穴と位置が合うよう、殊更に気を使って位置決めして、ドリルで穴を開けます。


これで穴あけは完了。組み上げます。


シャフトの代わりには、3Mの小ねじ、今回は元々の壊れた原因であるところの強度を重視してステンレス製を採用しました。なお長さは40mmです。ちなみに、もげていなかった側のシャフトも長さを合わせるため同じく交換。本体と取っ手のそれぞれに通した後、両側をボルトで固めて出来上がりです。


写真を見ればわかるとおり、片方のネジが長すぎて少し飛び出しています。いささか不格好ですが、そこまで目立つというわけでもなく、とりあえず強度は問題ない様子なので、ひとまずはこれでよしとしました。気になるようなら片側だけ35mmに交換するかもしれませんけれども。というわけで今回はこれでおしまい。

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11/11/2016

[note] 壊れたマウスのスイッチを交換修理

殆ど恒例になりつつある、デバイスの修理の話です。日常的に使っていれば、あるいは使っていなくとも、何だかんだでチラホラと壊れるのですよね。今回故障したのはマウス。型番はLogicool製のM235で、同社製品の中でも安価なカテゴリのモデルです。症状は左のスイッチを押しても反応しない事が頻繁に発生する、というもの。完全に壊れたわけではなく、カチカチというクリック音はするし、数回に一回は反応もするのですが、通常のクリックとダブルクリックの使い分けが殆ど出来なくなるし、ドラッグの途中で勝手にグリップが外れてしまったりして、実際の所使い物になりません。

購入してから既に数年経っていてそこそこ古いものの、使用頻度の非常に低いPCに接続している事から殆ど摩耗等はしていない筈なのですが、運が悪かったのでしょう。ただ、当然ながら見た目もさほど劣化しておらず、いくら安価なモデルとはいえ廃棄は躊躇われる、というわけで、スイッチだけを交換して修理する事にしたわけです。

まずは交換用部品を調達しました。本機のスイッチは、D2FC-F-7Nという角形のポピュラーな部品が使用されているのですが、これは各所で流通しており、入手も容易です。それだけ故障も多いという事なのかもしれませんね。国内でも入手可能なのですが、やはりそこそこの値段がします。数百円のマウスの修理に数百円の部品というのはいささか不釣り合いのように思われ、かつ急ぐ理由もない、というわけで、今回はコストを重視してebay経由で中国は深センの業者から購入しました。5個入りで送料込$1.07。発送から2週間弱と比較的早く到着したのは幸運でした。OMRONの刻印が入っているものの、本物かどうかは・・・まあ、気にしない方がいいのでしょう。動けばいいのです。


というわけで、以下は作業記録です。まず、問題のマウスを分解。


本機のネジは1箇所。電池を入れる部分の裏、シールで覆われた下にあります。


蓋を開けて、


基盤を取り外します。基盤はネジ止め等はされておらず、爪と電極部分で固定されている形です。爪を押さえつつ、マイナス側の電極を持ち上げるようにして外します。


裏側。 下図の画面上側の3端子を外します。


ハンダごてと吸取線でちまちまと格闘する事数分、取り外し。うっかり一つの端子について接点のリングパターンも剥がしてしまいました。


 が、慌てず交換部品を差し込み、リング諸共ハンダ付けします。


ついでにレンズユニットの掃除などしつつ、組み立て直します。動作確認の結果は良好で一安心。ちなみに元の部品のメーカーは中国のHiMAKEで、交換前後で比較すると、新しい方は若干幅が細く、だからというわけではないのでしょうけれども、クリック感は軽く、音も小さめでいい感じです。今回は左側だけを交換しましたが、これなら両方交換してもいいかもしれない、とも。


ともあれ、めでたしめでたし、というわけで、今回はこれでおしまい。

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11/10/2016

[pol] 排外主義へと転換する米国、その行く先について

Trump大統領の誕生により、米国では諸々の政治的事項・案件について相当にドラスティックな方針変更が見込まれる事となりました。それらの事項等を適当にまとめてみたいと思います。

第一に、移民関連。不法入国者の摘発と強制送還、及びメキシコ国境への障壁建設が主たる公約に掲げられており、原則として積極的に移民を制限ないし排斥する事になります。その実現は極めて困難な事も明らかなのですが、それでも氏が支持を集めた最大の要因とも言える公約であることから、無理にでも進める事になるでしょう。議会の承認は得られるのか、というところから不明なのですけれども。

第二に、税制。米国内での個人向けの大規模な減税は、おそらく氏の公約の中で、実利面を重視する有権者に対し最も訴求しただろう目玉政策です。財政面の整合をどう取るのかは全くの不明である等、これも実現手段の面で相当の困難が見込まれますが、上記と同様の理由により、やらないという選択肢は有り得ないでしょう。その皺寄せが何処へ向かうのか、それが問題です。相続税は廃止、法人税も半減レベルで大幅に減税するというのですから、それこそお得意の"You're Fired"を連発して人件費を半減する、位の大幅な制度変更をしなければ実現不可能な筈なのですが。他に関連する話としては、軍事費は減らすどころか増える見込みだとか。これ程の減税を進める中で、その費用はどうやって賄うつもりなのか、これまた謎です。

第三に、社会保障。米国内の保険制度改革、通称Obamacareに対する氏の非難はあまりに苛烈なものでした。元々制度上の不備や欠陥が多々指摘され、脆弱そのものである同制度が廃止されない理由は殆ど存在しないように思われるところであり、果して国民皆保険の夢は潰え、諸々の保障は再び裕福な個々人と大手保険会社との間にのみ存在する高価なサービスでしかなかったところの旧来の制度へ回帰する事になるでしょう。規制から開放され、患者から搾り取る事が出来るようになるAIGをはじめとした保険会社は大喜びです。とはいえ、既に数千万件以上の契約が存在する以上、廃止と言ってもその後始末も大変な事になる筈なのにも関わらず、殆ど誰もそれには触れていない点はいささか奇妙であり、どこぞの無責任な党が政権交代を果たした後の惨事を彷彿とさせるわけですが、さて。

第四に、米国内産業の保護。逆に言えば、国外産業の冷遇。保護主義の復活そのものと言っていいだろうその方針に沿った政策が取られれば、米国内の産業・雇用には補助金や案件の割当等でそれなりの優遇がされるだろう一方、関税等の輸入障壁が復活し、加えて生産と雇用の海外移転にはペナルティが課される事になるでしょう。少なくとも近年増加を続けていたメキシコの生産拠点はやり玉に挙げられる形で冷遇されるでしょう。日本にとっては、自動車の関税がどの程度になるかが問題でしょうか。TPP?何のことでしょう。知りませんね。同時に、労働ビザの取得・維持の要件もさらに厳しくなるだろうものと見込まれます。永住権を持たない外国人の相当数について、帰国あるいは別の国への移転を検討する必要が生じるかもしれません。

第五に、思想差別。大統領の公認の下、イスラム教は米国内で危険思想と見做され、程度はともかくとして、監視・管理の対象となるでしょう。新規入国の制限に始まる形で排斥も始まり、そこから進んで社会的に迫害される事例も増えるでしょう。 当然、イスラム教徒を多数抱える国々との深刻な対立も招くでしょう。ジェンダー関連についても保守的な方向への回帰が予想されます。

第六に、諸外国との関係。まず前提として、この点において氏はあまりに無知であり、少なくとも協力関係の維持・構築については殆ど無関心です。およそロシア以外の国については共感も関心すらも示していない、という事実は、その国内を再優先にする方針を証明するものです。その一方で、積極的に諸外国を支配しようとする姿勢もまた見えません。要するに、自国の事しか知らないし、考える気もない、という事です。

従来の、数十年に渡る同盟関係は、氏の中ではリセットされ、もはや存在すらしていないのかもしれません。そうであれば、NATOを筆頭とする西側諸国間の安全保障の枠組みが事実上解体される可能性も低いとは言えないでしょう。国連ですら例外とは言い切る事は出来ません。すなわち、本当の意味で第二次世界大戦後の、西側諸国の同盟を中心にした秩序体制が終焉を迎える可能性もある、と言えるわけです。中国やインドはじめ、経済的に米国の雇用を奪っていると見なされる国々と米国の対立も進むでしょう。また、それらの大国間の話からすれば些細な事でしょうけれども、日米安保についても、条件の見直しは避けられず、その交渉の成り行き次第ではその解消も普通にあり得るでしょう。米国の圧力が弱まる、あるいは消える事で侵略主義を強めるだろう中国やロシアへの抑止は誰が担うのか、それとも誰にも止められなくなるのか。欧州にしろ、極東にしろ、その不安定化した軍事バランスが、暴発を招く可能性はどれほどでしょうか。

関連して、アフガニスタンとイラク・シリアを中心とする現在も進行中の戦争についてはどうなるのでしょうか。今の所それを判断する材料は乏しく、具体的にどうなるとも予想する事は困難です。軍需産業への補助として維持・拡大を続けるのか、減税等への資金捻出のため、縮小へと舵を切るのか。どちらの判断もあり得るでしょうけれども、もし終わらせる判断を採るのなら、その際の措置は他国・他国民への配慮等微塵もない自己中心的なものとなり、従って残される結果は悲惨なもの以外には成り得ないでしょう。それも仕方がないのです。彼には、知識も経験もなく、そもそも配慮をしようとする意思のかけらもないのですから。

かように数多くの決定的な変化が見込まれます。その多くが前代未聞というべきドラスティックなものですから、予測も対処も相当の困難が伴うだろう事は疑いようもありません。ただ、警官と市民の殺し合いといった、近年深まり続けてきた米国内における国民間での対立については、おそらく彼の就任後も変わる事はなく、むしろさらにその傾向は強まるでしょう。それに伴い、銃規制や死刑廃止等の議論も消滅するでしょう。刺激的な日々が続く事に、喜ぶ向きも少なくはないのではないでしょうか。テロリスト等の、米国や西側諸国の自滅を願う者にとってもおそらく歓迎すべき事なのでしょうしね。

無責任と無秩序が支配する、狂った世界はすぐそこにあるのかもしれません。そういった世界を好む者にとって、Trumpは最高の案内人であり、エンターテイナーであるように感じられるでしょう。God bless U.S!

当事者としては正直勘弁して欲しかった、と思う一方、第三者的には、積み上がった空手形の山のうち、何を何処まで実行出来るのか、仮に実行出来た場合はどのような世界になるのか、また実行出来なかった場合はどのようなタイミングと形で失望に転じるのか、等、正直に言えば色々と興味も感じるところではあります。Obama,Hillaryはじめ民主党側の手のひらを返したような協力姿勢にも無理してる感が凄すぎますし、あそこまで決定的に分裂対立した国民が素直に連帯を取り戻し得るとは思えませんから、そういった諸々の無理がどういう帰結をもたらすのか、せいぜい観察させて頂こうと思う次第なのです。もう決まってしまった事なのですし、何せ色々と前代未聞の事態、それもこの規模で、というのでは、興味を惹かれずにいられるわけもないのですから。

[前記事 [pol] 米大統領選に感じる"予想外"のデジャヴ]

11/09/2016

[pol] 米大統領選に感じる"予想外"のデジャヴ

米大統領選が先日の英国でのEU離脱国民投票と似たような展開になってるようで、各種市場関係者を中心に阿鼻叫喚な感じですね。いや、稼ぎ時だ、とか言って逆に喜んでる人も多いのかもしれませんけど。

半数程度が決定した段階では、予想に反してTrumpが健闘、というより優勢です。同時実施中の議会選の方は明らかに共和党の勝利に傾いている、という事もあり、現時点ではTrumpの勝利の可能性が相当に高いものと予想されています。これにより、基本的にClintonの勝利すなわち現行路線の踏襲を予想し織り込んでいた各界は強制的に修正を迫られ、大混乱に陥った、というわけです。

このままTrump政権が成立すれば、広く長く世界中の政財界が未曾有の大混乱に陥るだろう事は明らかであって、同氏が従来から具体的かつ建設的な政策を殆ど呈示して来なかった事からすれば、少なくとも経済的には当面マイナスの影響が見込まれるわけで、当然ながらロシアを除くほぼ全ての諸外国にとっては歓迎出来ない結果であり、その損失回避あるいは軽減を図るべく頭を悩ませる事になるでしょう。なのですが、しかしその選択もまた英国のそれと同じく、米国民の固有の権利を行使した結果である以上、他者が異を挟む権利はなく、米国そのものの決定として受け入れざるを得ないものなのであります。

これはあれですね、現実に起こり得る可能性がある限り、その中で最も無さそうに思われ、かつ多数が望ましくないと考える結果が往々にして現実になってしまう、というやつですね。それを防ぐには、あらかじめ可能性を0にしておかなければならないのだ、という。ビジネスの現場なんかではよくある話、とはいっても普通は繰り返している内にいつかは起こるという統計的確率の話で、今回のような2者択一で可能性が低く見積もられていた側が予想に反して現実になるというのはさほど頻度は高くない筈なのですが、よりによって米国の大統領選でそれが起こってしまうとは。いや、まだ可能性がそこそこ高くなったというだけの段階ですけれども。

それはそれとして、為替はじめ市場のボラの高さは何とかならないものなのでしょうか。数時間で5%以上の幅で上下するとか、価格調整もクソもない単なる賭場と言わざるを得ない惨状なわけで、最初から投機目的の向きはともかく、それ以外にとってはそれで被る損失はあまりに大きく、迷惑というだけでは済まないと思うのですよ。まあ、途中経過に左右されて混乱する事は目に見えていたのだから、この日の取引はあらかじめ避けるのが適切なのでしょうが、そうするわけにもいかない向きもいるわけですから。困ったものです。

ともあれ、どのような結果になるにせよ、自分の周囲や政府がトチ狂ってしまったりする事のないよう願いたいところです。もっとも、Trumpが当選した場合には、彼の基本ポリシーが外国人の排斥であり、日本もその範疇に含まれるだろう以上、問答無用で排斥される可能性は高いだろうし、そうなったとしてこちらから何が出来るというわけでもないのでしょうけれども。

(追記)

Trump大統領誕生だそうです。悪夢が現実のものになってしまいました。あっちもこっちも大変です。アメリカは何処へ行ってしまうのでしょうか。

なお、今回"予想外"の結果になった原因は、各種メディア等の予想の基礎データすなわちオンラインによる統計調査におけるモデルの設定と母集団の選別に不備があり、現実の有権者の分布と乖離していた事が原因のようです。すなわち、この種の調査は通信手段等の有無により母集団の抽出に際して元々都市部への偏りがあったところに、Hillary支持者は都市部で圧倒的で調査に応じる率も高い一方、Trump支持者は地方に多く、またネットを利用しない層が多かったために、オンライン調査等による推測は本来的に困難なケースだった、という事なのでしょう。要するに、統計的調査の方法の誤りが今回の"予想外"を生んだ、というわけです。これは、英国のEU離脱の際にも見られたものですが、メディアはその辺を全く反省していなかったという事なのでしょう。困ったものです。

[過去記事 [pol] 怒涛の勢いで政治的自殺行為を重ねるTrumpがそれでも大統領候補という恐怖]
[過去記事 [pol] 傲慢で愚かなTrumpが大統領候補筆頭という現実]
[過去記事 [pol] 英国は独立を取り戻すか > 取戻します。さらばEU]

11/08/2016

[biz] ニコン国内1000人リストラ、露光装置・カメラ等主力事業から

ニコンがリストラだそうです。国内人員の約1割にあたる1000人程を、主に露光装置とカメラ事業から削減する、との事で、その規模、また両事業が同社の主力事業である事からして、事業全般に渡る業績不振によって追い込まれた結果の事業縮小策と解釈すべきところでしょうか。主原因がスマホ等の普及、また市場縮小による半導体産業の不振、及び先行き見通しの暗さにあるだろうあたり、色々と既視感も覚える次第なのですが、それはさておき。

一応レンズ関連は直接的な対象ではない様子ではあるものの、関連が深く、その主たる出口でもあった上記事業の縮小の影響が及ぶ事は避けられないでしょう。光学周りの技術については今更一々論ずるまでもなく最先端の技術を維持し続けている同社をして、あっけなくもかような状況に至った事実には、やはりこうなったか、といったある種の納得とともに、幾らかの残念な思いも感じずにはいられないのです。

同事業の周辺を見渡しても、ここ数年以上に渡ってもはや画期的と言えるような飛躍的な技術の進歩はなく、それによって生産含め技術・製品が成熟するとともに、従来は世代交代を頻繁に繰り返していた殆どの製品群、とりわけ同社が最も強みを持つところのハード類は、必要十分な性能を備えた低コストの汎用品に集約されて行きました。それを受けて、技術面での優位性を強みとし、しかしスケールとそこから得られる種々のメリットの面で全く太刀打ち出来ない既存各社は、必然的に数よりも高単価を志向せざるを得ず、結果として、高級路線や法人向け特殊用途等の、ほとんどニッチと言えるような、全体からすれば部分に留まる特別な需要向けに特化する事で生き残りを図って来たわけです。

しかし、画期的な進歩が途絶えてしまった以上、技術・製品全体の陳腐化は避けられず、従って生き残りを期したそれらの高級路線等についても時間の経過と共に困難さを増す事はあってもその逆はないだろう事はもとより殆ど明らかでした。事実、一時は持ち直した需要は減少に転じ、競合は強まり、売上は減少していったのです。しかしその路線を維持するためには、如何に費用対効果が悪かろうとも開発費を減らす事は出来ませんから、その減少分を補うために価格に転嫁したところ、さらに急激な需要の減少を招く悪循環にも陥ってしまっていました。露光装置のような特殊用途については、元々トップ1社の総取りになり易い製品の性質もあり、シェアの面で競合に大きく差を付けられた時点で挽回は極めて困難になっていました。

結果だけを見れば明らかに失敗と言う他ないところです。しかし、それ以外にやりようはなかったのか、といえば、おそらくはなかったのでしょう。技術をその根幹とする事業の先行きは、既存技術を誰よりも知り、あらゆる可能性の追求を続けているところの、その技術開発を担っている者が一番良く知っているものです。その分野のトップに長年在り続けているニコンが、この程度の状況認識を出来ていなかった、等という事は有り得ません。遅くとも、数を追う事を諦めた時点では、もはや先は長くないだろう事も理解していた筈です。個々の施策に対する批判も多々ありました。それでもこうなってしまったその理由は、結局のところ他に取り得る手段が無かったから、という事なのでしょう。その意味で、この成り行き、及びその結果は、一種の必然であったと言えるのだろうと思うのです。

このような成り行きすなわち、汎用品や上位シェアとの競合に敗れて衰退するという流れは、既に国内の携帯電話やテレビ等で経験されたところであって、それ自体は特に目新しいものでも何でもなく、特に注目すべき点があるわけでもない事は明らかです。ただ、そこまで壊滅的ではないにせよ、かつて唯一無二とも言えた筈の技術的な優位によって独自のポジションを築いていた筈のニコンもまたその例に倣う事になった、という事実は、技術革新による発展を続けた時代の完全な終わりを象徴するもののように思えて、殊更に印象深く感じられるような気がするのです。

無論それは必ずしも悪い事とは言い得ない一方、歓迎すべき事とも言い難く、どう捉え、評価すべきものなのか、判然としないのですけれども。ところで、本件のような話はニコン以外も人事ではないはずなのですが、どうするんでしょう。どうもしないのか、それとも再編ブーム再び、とかあるのか。ただ、再編するにしても、以前ですらほぼ押し付け合いな状況だったのに、今の状況で最終的な引き取り手とかあるのかどうかは疑問ですけれども。さて。

(追記)

レンズの開発・生産についても担当子会社間で統廃合が行われるそうです。当然といえば当然なんでしょうけれども、大変ですね。

11/01/2016

[biz law] ゴキブリ以前にハエも混入、嘘と隠蔽を重ねたはごろもフーズ

シーチキン缶へのゴキブリ混入につき隠蔽しようとした事が発覚し、なおも回収等の対応採らず放置を続けるはごろもフーズですけれども、同製品で過去にハエの混入が発生し、同社も認識していたにも関わらず、それを隠蔽していた事が発覚したそうです。写真付きで。

ハエの混入があったのは、2014年に同じ工場で生産された製品。同年に消費者が発見し、同社が調査したところ加熱の痕跡もあったため、先日のゴキブリの件と同じく生産過程で混入したものと認識していた、というのです。で、それを公表せずに隠蔽し、先日の件も同様に隠蔽しようとしたところ失敗し露見、そこからさらに本件も、件の消費者が当時撮影していた写真をマスコミに持ち込んで発覚、というのが経緯のようです。まさに因果応報というところでしょうか。
 
同社は前回のゴキブリ混入の際、混入の報告事例はその一件のみであり、その他には報告がないと説明し、それを理由に、他に混入はなく、従って回収等の対応は不要である、として、同社の常識外れと言うべき対応を正当化していたところでした。しかし、実際にはその説明の時点で複数事例の発生を把握しており、にも関わらずあえて虚偽の説明をした、という事になります。他にはない、と断定したその言い分自体も常軌を逸した到底理解し難いものでしたが、それすらも虚偽だったとは恐れ入ります。

というか、隠しおおせると本気で思ってたんでしょうか。実際に混入が起こり得た環境を長期間に渡って放置し、その環境下で生産を続けていた以上、混入が一回だけであったと考えるべき理由はなく、むしろ逆であり、それなりの頻度で発生していただろうものと推測されるところであって、実物が消費者の手に渡ってしまった後では、いくら同社が無視を試み、あるいは詭弁や強弁を弄したところで何の意味もなく、発覚は時間の問題に過ぎない事も分かり切っていた筈なのに。

もとより同社には、後始末を可能な限り上手く行う以外に取りうる手立ては存在しなかった筈です。すなわち、従来のこの種の不良品発生の例と同様、可能な限り速やかに非を認めて被害者に償うとともに、被害の拡大を防止する事で、誠実な姿勢を示し、それによって信頼の回復を図るべきでした。第三者も基本的にそうして当然と考えていたところ、対応を拒絶したために驚愕し、多数の消費者が反発してもいたわけです。

が、同社は、本来為すべき対応をするどころか、この期に及んでコメントすら拒否しているそうで。虚偽に虚偽を重ねた事がバレて、言い逃れのしようもないだろうところ、もはやその事を謝罪する以外に道はないと思うのですけれども、まさかここからさらにバックレるつもりなんでしょうか。だとしたら凄いですね。意味がわからないし、事業を続けるつもりがあるのかすら疑問であると言わざるを得ません。

隠蔽や虚偽の説明をした事への責任云々は一旦おくとしても、少なくとも、複数ではないから他にはなく回収は不要、と説明していたのは他ならぬ同社であって、複数の混入が確認され、その前提が誤りであった事が明らかになったのだから、被害者に対して相応の対応をするべきところな筈です。まさかハエとゴキブリは別、とでも言うつもりなんでしょうか。それとも、自身のした説明に責任を負う気すらないという事なんでしょうか。

CRMって何?と言わんばかりの、現代の大手企業のそれとは到底理解し難く、もはや反社会的とも評価し得るだろうその振る舞いには、唖然として言葉もないわけです。いやもう頭おかしいでしょう。どうなってんのこの会社。何がどうすれば今時こんな、不誠実という表現すら不足に思える酷い対応が出来るのか、逆に興味が湧いたりもするわけですが。。。流石に笑う気にはなれませんね。

[前記事 [biz law] はごろもフーズ、シーチキン缶へのゴキブリ混入の隠蔽に失敗し開き直る]

10/27/2016

[biz law] はごろもフーズ、シーチキン缶へのゴキブリ混入の隠蔽に失敗し開き直る

はごろもフーズがやってくれました。同社の主力製品であるところのシーチキンの缶詰について、2年ほど前に製造された製品につきゴキブリの混入が発生し、製造過程で混入したものと判明していたにもかかわらず、回収等の対応を取るどころか公表すらせず隠蔽していた事が発覚してしまったそうです。

何という愚かな。無論、食品製造業としてゴキブリが混入した事自体も相当に問題ながら、それだけならまだ不可抗力との抗弁も可能であり、非難はあれども対処可能だった筈です。にも関わらず、おそらくはその対処に必要となるコストを惜しんだためにその後隠蔽に走った点は、企業倫理や顧客対応の観点からは論外であり、最悪という他ありません。信用云々以前に、自身の利益を優先し、同製品を購入した顧客を裏切って傷害を加えたも同然であり、不法行為としてその間の全ての購入者から慰謝料を含め損害賠償を請求されて然るべき愚行です。しかもそれが明らかになったこの期に及んでも、他に申し出がないため他にはない、等という誰からも到底納得され得ないだろう意味不明な理由で回収等はしないと言い放っているのだから、もう救いようがありません。

本当に何を考えてるんでしょう。ここまで無茶苦茶だと、自分たちが何をしたのか、何をしているのか、理解していないものと見做さざるを得ないわけですが、だからと言って許されるわけもなく、その愚かさの代償を支払う事は避けられないだろうのであって。このような事実が明らかになってしまった以上、少なくとも同様の懸念が存在するだろう期間すなわち2年分の回収と返金、あるいは賠償に加え、当然相当期間に渡って販売も出来なくなるだろうし、会社、製品としての信用もブランドも何もかも壊滅必至なわけで、これはもう同社は潰れてしまうんじゃないでしょうか。だとしても当然の報いだとしか思えませんけれども、しかしせめて把握した時点で即座に対応していれば再起も可能だったかもしれないだろうのに、あえて消費者に害を加え、自滅する道を選んだ事については、極めて残念に思われてならないのです。

ツナ缶 ゴキブリが混入 自主回収はせず はごろもフーズ

(追記)

他にない、というのも嘘だったそうで。恐れ入りました。

[続き記事 [biz law] ゴキブリ以前にハエも混入、嘘と隠蔽を重ねたはごろもフーズ]

[law] 大川小津波被害訴訟、教員の過失認定

注目の訴訟の1審、原告勝訴となりました。無論この種の訴訟の例に倣えば控訴の可能性も高く、またそこで変更される可能性も高いのでしょうけれども、まずは教科書通りの詳細な事実の検証と認定がなされ、それに基いて概ね妥当な判断がなされたものと言えそうです。

本件は、関東大震災における津波の被害、その中でも象徴的に捉えられている大川小の児童・教員らの避難方法の誤りによる多数死亡者につき、学校側(石巻市)の過失責任が問われたものです。その被害の悲惨さもさることながら、本災害の原因が、数百年に一度程度と頻度の低い地震とそれによる津波である事から、その予見可能性の判断についてのリーディングケースになるものと目され、注目を集めていました。

本件訴訟において主たる争点となったのは、通常の過失訴訟と同じく、予見可能性と被害回避の可能性の2点であり、その前提たる事実として、津波の発生から大川小周辺に到達するまでの時間、警報やラジオ等により伝達された情報の内容と伝達時期が検証され、その一方で、被害の回避可能性、その手段の有無等が検討されました。

その結果、通常為すべき注意を払っていても津波の到達可能性を予見出来なかったものとは考えられず、また大川小の裏山への避難という容易に選択可能だった筈の回避手段が存在し、かつ津波の情報が伝わってから裏山へ避難するために必要な時間も存在し、一方で実際に選択された避難先である堤防付近の三角地帯は比較して明らかに不適切と言える事等から、本来為すべき注意を尽くしていれば本件被害の回避は可能であり、その点に学校側の過失があるとされたものです。

本件における問題は、やはり本件規模の津波を伴う大地震という事象の発生頻度が他の天災に比して小さく、そのために津波が到達する可能性を十分認識することにつき存在していただろう一般的な困難性にあります。この点につき地裁は、上記の通り個別具体的な状況を注意深く詳細に検証し、本件学校側に伝わった筈の情報の内容とその伝達時期を認定した上で、それを前提として取り得た選択肢も同様に具体的な検証を重ね、本件の状況下での回避は可能であったと判断したわけです。そこに論理の飛躍や強引な決定等の要素は窺われず、集まった注目に堪え得るというか、一般に納得し得る丁寧な判決と言えるのではないでしょうか。

無論、今回の審理の中で挙示された証拠が全てであり真実である、等とは到底言い得ないのであって、とりわけ本来決定的に重要な筈の、亡くなられた当事者の主観的な要素については知るよしもないのですから、この判決が正当とも不当とも判断する事は困難ですし、控訴審ではまた別の判断がなされる事も十分にあり得るでしょう。ただ、数百年に一度の災害だから予見は困難だった、などという東電絡みの訴訟等でしばしば主張される類の一般論に拠って安直に判断する事を許容せず、あくまでも個々の現実的かつ具体的な状況とそれを裏付ける事実によって判断するべき事を改めて示したとも言えるだろう本件判決は、この種の稀な大災害における被害についての判断の在り方、そのモデルとして正当足り得るものとは言えるだろうと思うのです。

<大川小訴訟>仙台地裁 判決要旨

10/25/2016

[IT biz] あまりにも容易なIoT機器乗っ取りによるDDoS攻撃の脅威

先週、TwitterやSpotify等のサービスが大規模かつ長時間に渡りダウンした件の原因というか、DDoS攻撃で利用された主要経路が判明したそうです。

一言で言えば、ネットワークWebカメラが大量に乗っ取られ、一斉にDNSリクエストを発信する方法が採られた、とのこと。問題のカメラは、中国はHangzhou Xiongmai製であり、本件攻撃に利用された事が判明した結果、今週に入って該当製品のリコールも発表されたそうです。他にも似たような脆弱性のある機器は幾つもあっただろうし、実際他の機器も多少なりと含まれていたというのに、何故かその主要ターゲットに選ばれてしまった哀れなXiongmai社には御愁傷様というしかないところですが、それは兎も角。

利用された理由は簡単、デフォルトのパスワードが容易に推測出来るもので、かつユーザに変更を促す事もしていなかったため、簡単かつ大量に乗っ取る事が出来たから、だそうで。特別な技術も何もありませんね。単に虱潰しに機器を探し、ログインを試み続けていればいいわけですから、攻撃者からすれば楽なものだっただろう事は容易に想像されます。

一応、この種のネットワークに接続するタイプのWebカメラは、全体から見ればさほど普及しているというわけではなく、数もそうですが、探すのにはそれなりの手間もかかる筈ですが、今回の攻撃に利用されたデバイスの数は数千、その程度の数を満たすには十分であり、またWebカメラの権限などはまずユーザは一々チェックせず、従って発覚もし難いため、ある程度時間を掛けて本件攻撃に必要となる程度の数を揃える事も容易く、丁度良かったという事なのでしょう。

しかし、高々数千程度でDNSを機能不全に陥らせる事が出来てしまう、というのはやはり看過し難く思われるところです。とりわけIoTの普及に伴い、本件Webカメラ類似のネットワーク通信機能を備え、かつ滅多にチェックも管理もされないだろうデバイスがこれから増加する事が見込まれるところ、当然ながらそれらのIoT機器も同様に乗っ取り・悪用の対象となり得る事は明白なわけで。

本件メーカーのした対応のようにいくらパスワードの変更を呼びかけても、それに応じない向きはどうしても相当割合残る事も間違いないだろうし、数千どころか、将来的には母数が数億のオーダーに上る事も普通に想定されるIoT機器のうち、0.1%程度が脆弱なだけで本件同様の攻撃が実現出来てしまう計算になるのだから、実際のところ極めて解決が困難で深刻な問題と言えるかもしれません。

個々のIoT機器をメーカーが責任を持って遠隔から管理する、というのも解決策の候補としてはあり得るでしょうけれど、遠隔管理するコストも相当なものになって、法人向けならいざ知らず、個人等一般向けの安価なカテゴリの機器には導入出来ないだろうし、サポート期間切れの場合や、そもそもメーカー自体が消える場合もあるでしょうから、根本的な解決にはならないだろう事も明らかです。さしあたりこれといった有効な解決策というのは見当たらないように思われるところ、さてどうするんでしょう。DNSの仕様変更とか根本的な方式面での対策が出来ればいいんでしょうが、流石に無茶もいいところだろうし、やっぱりどうしようもないですかね?うーん。

(補足?)

何か、報道の中には、本件攻撃で数千万件のIPアドレスから攻撃があった、とかいう情報が流れているようですが。今回利用されたとされるMiraiによるbotnetの規模は、トラッカーの計測結果では大多数を占めるオフラインのものを含めても150万台程度とされていて、どう考えても桁が合いません。一体どういうことなんでしょう。通常のアクセスを攻撃と混同しているとかそういう事なんでしょうか?それとも、トラッカーが把握出来ていない範囲の方が圧倒的に広いという事なんでしょうか。謎です。

(補足?その2)

上記のIPアドレス量の不自然な多さは、やはり正規アクセスと攻撃を区別出来ず両方カウントしている事によるもののようです。具体的には、本件攻撃で接続が不安定になり、それによって正規のDNSリクエストがリトライを繰り返したものと推測される分が含まれていた、と。これら正規のアクセスをサーバ側では悪意の攻撃と区別出来ず、その結果、関与したIPアドレスが数千万、というような表現になったらしいですね。紛らわしい事です。

Webcams used to attack Reddit and Twitter recalled

[law] 宇都宮連続爆発、家裁手続において被告の権利は保護されているのか

宇都宮で元自衛官の老人男性が白昼公園で爆発物を用いて自殺し、巻き添えで怪我人が複数発生した件ですけれども。徐々に経緯等の事情が明らかになりつつあるところ、法制度との関連で少しばかり思うところもありますので、軽くまとめておこうかと思います。

まず事実から。当該男性は当地在住の栗原敏勝、72歳。元自衛官で、妻と娘の3人家族。自宅から大量の花火の残骸が見つかった事から、その花火から取り出した火薬を用いて製造した爆発物を用いて今回の爆発を起こしたものと推測されています。爆発物には多数の釘等の金属片が込められており、明らかに殺傷力の確保が意図されていた事も判明している、とのこと。爆発は当人が自殺した公園ベンチ、その近くの駐車場の車、自宅の3箇所で起こされ、本人は死亡、車はその他近くの車2台を巻き添えにして焼損、自宅は全焼するとともに、本人の近くにいた通行人数名を負傷させています。本人以外の死人はなし。

その実際に本人を死に至らしめた爆発物の殺傷力の高さ、同時に3箇所で爆破を成功させた確実性に比して、他人の被害は怪我人数人に留まった点から、無差別殺人の意図はなく、主たる目的は自身の自殺と、その財産たる自宅建物及び車の破壊にあっただろう事が推測されています。その意味で、現時点では怪我人の発生について殺人未遂罪には該当せず、傷害罪が成立するに留まる可能性が高いものと考えられるところです。また、自宅建物と車の爆破については、周辺に延焼した事から、現住建造物等放火罪及び非建造物等放火罪が成立するでしょう。

これらは、間違いなく重罪ではあります。ただ、その手段の苛烈さと比すれば、その被害は相対的に小さいものに留まったと評価する事も可能でしょう。当人は、ブログの記事上で、秋葉原や南仏ニースでの事件のように、車両で人混みに突っ込むような行為に言及した事もあったというのですから、そのような大量殺人に至る手段の選択を思い留まった点は、社会にとって不幸中の幸いだったとも言えるかもしれません。

ただ、今回の主たる結果であるところの自身の自殺と、自宅建物と車の破壊とだけが目的であったとするなら、わざわざ3箇所に分けて爆発させる必要はなく、自宅内でまとめて実行する方が余程容易であっただろう筈で、目的と手段の間にズレが認められます。そこからは、そのような手段を採るだけの特別の理由、一般的には他者への当てつけや顕示欲等の存在が窺われるところですが、本件に至るまでの経緯を見ても、必ずしもそのような理由の存在が否定されるわけではないようです。

というのも、 当人の残したブログ等の記載に曰く、

・娘が精神病(統合失調症)に罹患
・娘の治療等につき妻と対立(妻は宗教的治療を主張?)
・妻は宗教に傾倒し、退職金2000万を費消
・娘を措置入院させたところ、妻がDVと訴え、シェルターへ駆け込み
・精神障害者の相談員をしていたが、不適格な行為を理由に解任される
・妻からDVを理由とした離婚訴訟(調停?)提起
・家裁に自身の主張を全面的に排斥され敗訴
・離婚訴訟全面敗訴に伴い、財産分与のため自宅・車の差押のち競売決定
・全財産ほぼ喪失の一方、年金があるため生活保護不可

等の記載があり、全体を通じて不当な扱いである旨不満が述べられています。その文書は率直に言って論理性に欠ける、稚拙かつ半ば支離滅裂にも感じられるものであって、その精神の健全性にも疑問を抱かせ、そのため真実性にも疑義を抱かざるを得ない面はありますが、その真否はさておき、当人の主観としては、家族と社会、およそ自分以外の全てに裏切られ、お前など死んでしまえ、と言われているように感じ、生きる理由を見失って絶望を感じていただろう事を読み取り得るものでした。

元自衛官という経歴と併せ、国家・社会を守るために生きてきたとの自負があったのなら、尚更のこと裏切られた等と感じる事も、一般的に言ってあり得ないものではないでしょう。その一方で、頻繁かつ大量の書き込みが存在する事から、ある種の自己顕示欲、その発露に対する積極性が比較的高く、また習慣化してもいる人物だっただろう事が示唆されます。これらの発信に対する積極性とその内容からすれば、自身を裏切った家族や社会に対し、その不満の発信としての当てつけ等を図った可能性も、それなりにあり得べきものと言えるでしょう。

無論、そのように特異な精神的傾向が存在し、多分にそれに起因して上記の犯行に至る状況に追い込まれた、というような事情があったとしても、それが放火や傷害等の罪を正当化し得るものではなく、情状の判断に影響を及ぼす可能性があるに過ぎない事は明らかです。ただ、上記の経緯のうち、決定的だっただろうDV認定から離婚調停に係る家裁の判断については、看過し難い問題があるように思われるのです。

というのは、広く周知されている通り、DV関連や離婚調停等、家庭裁判所で取り扱われる訴訟や調停の手続においては、その多くについて非訟事件につき後見的な立場を取るためとして、裁判所及び裁判官、ないし調停委員に、通常の裁判より強力な裁量権が与えられています。また原則非公開につき、一般に客観的性や公平性の保証につき不備が生じやすい面もあります。調停委員による偏った判断や思い込み、それに基づく暴言等も、本来ならあってはならない事ですが、非公開である時点でその防止は十分とは言えず、委員の性向や状況等により、しばしば起こり得るものであろう事は否めません。無論、控訴すれば公開の法廷で争う事も可能になるわけですが、委員の判断は裁判所の判断であり、それには従う他ないものと思い込んで(思い込まされて)しまう事もあるでしょうし、実際問題として一般人には困難な面は多いでしょう。

そして、最大の問題点として、とりわけDV等急迫の危険を理由とする裁判・調停の場合、その危険が存在しない事を証明し得るだけの余程の事情が無い限り、被害者の保護が優先される、という事情も存在します。すなわちそもそも公平な判断がなされる事自体が殆ど期待し得ないのです。しかも、仮にその判断が偏った不当なものであったとしても、一度調停が成立してしまえば、差押や競売も実行出来てしまうのですね。そして、経緯はどうあれ、その財産への強制執行がなされた事が、今回の自殺及び破壊行為を決断させたものと考えられるのです。

本件において、加害者側とされる栗原敏勝が家裁における調停ないし裁判の結果を承服していない事は明らかですし、本来なら上級審に進み、公平性を担保された公開の法廷における審理の下で判断を仰ぐべき案件であっただろうところ、その手続きは取られず、本人は家裁での結果が最終的な司法判断であると考え、それが今回の破滅的な自殺を含む一連の行為の契機になったものと考えられます。そうであれば、一連の経過を通じて、弁護士等を介さず自身で臨んだとされる家裁での審理、決定の手続きの際に、彼の権利の保護は十分に図られたのか、その本件事件において決定的な意味を有するだろう点について、大いに疑義があるように思われるわけです。少なくとも、その点だけは明らかにされなければならないし、もし保護が図られていなかったというのであれば、それは到底看過し難い法の不備であり、許されざる不正義といわざるを得ないだろうと。

それらの事情につき、客観的な検証に耐えうるような情報は未だ公開されず、彼の残した記録の事実性も疑問視されるところ、これらの推測がどこまで真実なのか、判断する術はありません。彼の行為が犯罪である事も事実です。ただ、現時点で、彼をただの狂人として扱い、全ての責を帰し、それで完結するものとして本件を扱う事は、到底相当とは言えないだろう、とそう思うのです。

<故栗原敏勝の残したブログ>

bwssf171のブログ
精神障がい者の子を持つ夫婦の多くは悲劇の連鎖が絶えない。
このまちが好き! 栃木県 宇都宮市 雀宮

なお、facebook等は利用不可になっているようです。

10/24/2016

[IT] 現行Linuxのほぼ全てに深刻なカーネル脆弱性発覚

またしてもLinuxに致命的な脆弱性が発覚しています。今回の脆弱性はカーネル自体に存在するもので、既に各主要ディストリビューションの現行カーネル用のパッチも公開されていますが、適用には相当の労力と時間が必要になるでしょう。とりわけ、組込系や各種稼働中のシステム等、容易にカーネルを変更出来ない、もしくは変更するにも膨大な検証が必要になるだろう各々のシステムの管理者の方々には、誠にご愁傷さまです。

本件脆弱性は、大まかに言えば、読み込み専用領域に権限のない一般アカウントから不正アクセス出来るようになり、それによってroot権限等も奪取されてしまうというものです。該当するカーネルバージョンは2.6.22(2007年リリース)から直近までであり、事実上パッチが当たっていないものはほぼ全てが対象という事になります。Copy On Writeの機能部分に存在する事から、Dirty Cow(汚い牛)と呼ばれているようですが、それはさておき。

Linusの説明によれば、11年前、すなわち元々の開発中の段階で本件脆弱性の存在を把握していたけれども、その時点では悪用は困難であり、修正もまた困難であった事からそのままにしていたところ、その後のカーネルの変更に伴い悪用が容易になってしまったんだそうです。

・・・これはちょっと勘弁して頂きたい(かった)ですね。事情は理解出来なくもないし、正直に説明した点は好ましくも思われますが、あまりに見通しが甘すぎたと言わざるを得ません。何よりいくら実装が困難だったと言っても、放置した期間が長すぎます。その結果としてあまりに膨大な範囲に被害を及ぼしてしまった事からすれば、その被害を受けた向きから相応に厳しい非難をされても当然と言うべきでしょうか。

ともあれ。Ubuntuにおけるパッチ適用済カーネルのバージョンは下記の通りとなっています。これより古いものはアウトにつき、可及的速やかに適用が必要ですね。既に悪用するコードも出回っているとの事ですし。

<対策済カーネルバージョン>
  
Ubuntu 16.10: 4.8.0-26.28
Ubuntu 16.04 LTS: 4.4.0-45.66
Ubuntu 14.04 LTS: 3.13.0-100.147
Ubuntu 12.04 LTS: 3.2.0-113.155

なお、カーネルバージョンの確認コマンドは下記。

$ uname -rv

またしてもLinuxの信用が。。。とほほ。ここ数年、毎年のように起こっている話ではあるし今更かもしれませんけれども、残念です。

Dirty COW explained: Get a moooo-ve on and patch Linux root hole

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10/22/2016

[IT biz] iPhone7も発火、車を焼損

先日あえなくご臨終となったGalaxy Note7に続き、iPhone7も発火が報告されたそうです。意外というよりは遂に来たか、という感の方が強い気もしますが、何にせよSamsungの惨事を目にしたAppleがどう対応するのか、要注目、でしょうか。

発生場所はAustralia、被害者は現地在住のMat Jones氏。同氏曰く、サーフィングのレッスンを受ける間、車の中(シフトレバー近くの小物置き近辺)に布を被せて置いていたところ、レッスン終了後に車に戻った同氏が目にしたのは、車内に煙が充満する光景だった、とのこと。そして灰の中から溶けたiPhone7が見つかり、そこが発火原因である事は明らかだったとか。

火が出てから早めに発見することが出来たからなのか、燃えたのはiPhone7と被せていた布、あと座席の一部を含む小物入れ近辺に留まっていたそうです。そこまで燃えたらもう廃車必至につき、物損面では大損害には違いなく、その点はご愁傷様と言う他ないものの、少なくとも発火が走行中ではなく、かつ無人の状態であったために人的被害が無かった点については、幸運と言えなくもないかもしれません。いずれにしろ、看過し難い重大事象と言うべき事故には違いありませんが。

その原因については、ある程度高温状態であった事は推測されるものの、iPhone7を置いていた場所は車内でも比較的内側であり、布を被せてもあった点からすれば、少なくとも直射日光に晒したわけではなく、単なる車内温度の上昇があったに過ぎないのであって、この事をもってこの種の発火の原因として社会的一般の通念に照らして許容され得るものとは到底評価し得ないだろうところです。夏に車の中に放置する、というごくありふれた普通の状況で発火のリスクがある、というのでは、ユーザにしてみれば欠陥品というしかないわけですから。

問題は、本件について、それ以外の、すなわち夏の車内温度程度の比較的緩やかな高温環境、という以外の、本件ユーザたるJones氏の過失による異常な事故、と評価し得るだけの特別の事情、理由が存在するのか否か。もしこれがあるのであれば、本件はiPhone7一般の不良とは評価されず、従ってNote7のようなリコール等も不要とされるでしょうけれども、それがないというのであれば、iPhone7一般の欠陥と評価される結果、範囲はさておき、Note7類似の惨事に発展するだろうわけです。iPhone7、ないしAppleは重大な岐路に立たされていると言えるかもしれません。

Appleは今のところ調査中としかコメントを出していません。が、Note7があんな事になった直後の今の時期に出てしまった本件ですから、誰もが連想的に不安視するだろうし、疑いの目が集まる中で下手な対応をすればNote7の二の舞に発展しかねない事も容易に想像されるところ、極めて警戒しつつ事に当たっているだろう事は間違いないでしょう。その流通する台数と期間に比した頻度を見れば、Note7より格段に発生の危険性は小さいのでしょうけれど、しかしいくら頻度が小さかろうとも、発火は致命的な欠陥につき、メーカーに求められ得る検証の内容やリコール等の対応について特段の違いはないのでしょうし、大変ですね。担当者にかかるストレスも尋常ではないでしょう。

ただ、iPhone7は初の防水対応という事で、防水仕様には往々にして放熱関連の問題が伴う事は周知の事実なのであって、その辺の疑惑も根拠なしというわけではない事も明らかなところです。そうである以上、Note7の時にSamsungがしたように、先入観や願望をその行動・判断に介在させ、楽観論に傾斜したり、結論ありきで事にあたるならば、事実認識を誤り、取り返しの付かない結果をも招きかねないものと懸念されますし、万が一にもそのような事にならぬよう、Appleには確実かつ誠実な検証及び対応を期待したいところです。どうなることやら。

iPhone 7 goes up in flames, sets fire to vehicle in Australia

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10/21/2016

[note] 古いキーボードを修理・その3

随分前に修理した古いキーボードが又調子を崩してしまったので、再修理をする羽目になりました。対象はFMV-KB321、前回の故障の原因はメンブレンの配線パターンの劣化に伴う断線で、断線箇所を特定して導電塗料を塗るだけで修理出来たのですが、しばらく使っていなかった本機を久しぶりに繋げてみたところ、前回とは異なる複数のキーが応答しなくなってしまいました。スペースキーとZを含む文字キーの一番下の段がほぼ全滅。全く使えません。

折角修理したのに、とガックリしつつ、古いモノだし仕方がない、とすぐに諦めて確認してみると、今度は複数箇所、具体的にはカーソルキー周辺の三本のパターンが変色して消えかけてしまっていたのです。その断線している範囲が結構長く、導電塗料だと抵抗値が大きくなり過ぎて無理かな、と不安に思いつつ、駄目元程度のつもりで前回同様に塗料を塗ってみたのですが、やはり抵抗値が大きすぎ(数百Ω〜)るらしく、治りませんでした。


まあ、元々電子楽器等を大雑把にアースするためのものに過ぎないのだし、何cmも回路を繋げ得るようなものじゃないですよね。予想はしていたもののやはり残念。

で、諦めて代わりの方法を検討していたところ、割と最近に発売されていたらしい回路マーカーなる導電インクの一種が目に止まりました。要するに回路パターンをペンで書けるというものですが、割と大きなパターンも書けるというので、試しに一本調達して使ってみたのです。下図のような、どうにも電子工作関連らしからぬチャチなパッケージの割には結構高くて1000円強。"6歳以上"の文字がこれまたなんとも微妙な玩具的な印象を醸し出します。実際、分類としては玩具になるのかもしれませんが、思っていたのとは違う感は否めません。


なんとなくダメそうな予感を抱きつつも、まずは確認と、メンブレンのパターンに使う前に、樹脂の類への乗りだとか、抵抗値だとかを確認するために軽くテストしてみました。

結論から言えば、残念ながらアウト。理由は抵抗値の高さです。数mm程度の幅で数cmの長さのパターンだと、大体数十〜数百kΩにもなります。導電塗料より高く、これでは使えません。実際試してみましたがダメでした。無念。

ただ、このペン(インク)自体は結構面白いです。描いた直後は焦茶色がかった液体状なのですが、時間が経過すると緑がかった銀色になるのです。テストした際の写真を下記に掲載しておきます。

下1つ目の図は、テストに使った樹脂板で、既に時間が経過したパターンが銀色になっています。この左の余白にペンで縦線を描いた直後が2つ目。色はほぼ茶色です。


その数十秒後。拡大すると、かなり黒に近い焦げ茶色になっています。


さらに時間が経つと、黒味が抜けてだんだん銀色に変色していき、


 最終的にはこうなるのです。描いてからここまで数分程度。


変色後の見た目はいかにもAgっぽい感じではあるので、これは金属同等、とまではいかずともそこそこ近い導電性があって、銀パターンの補修に使えるのでは、と期待を持たせてはくれたのですけれども、実際には炭素系塗料を超えるものではなく、使えませんでした。実際にキーボードのパターンの配線にも塗ってみました(下図)が、銀色になってからも抵抗値が極めて高く、当然のようにダメでした。見かけだけだったようで残念。


というわけで回路マーカーも没。これはいよいよ昔からあるところのAgペースト等の金属塗料を使うしかないのか、でもあれは流石にこんな少しの配線補修に使うには高すぎるし、と思案していたところ、もういっそ薄い金属箔を貼り付けて配線してしまおうかと思いつきまして。で、手軽なところで銅箔を使う事にしました。丁度100均で売っているらしいとの情報を得て、調達してきたのが下図。ダイソーの園芸コーナーで、植木鉢用の防虫テープとして売られていました。18mm幅で長さが1mしかありませんが、今回の目的には十分過ぎる程十分です。


これの端からカッターを用いて幅1mm強で長さ数cmずつ細く切り出し、両端付近の接着剤(導電性なし)を一部落としつつ貼り付けます。ガタガタですけど見た目はとりあえず気にしない。で、テスターで導通を確かめつつ、短絡が無いよう微調整(テープの位置をずらして配線間の隙間を確保)します。


銅箔と配線パターンの接触が結構微妙で、若干やり直し等もする羽目になりましたが、なんとか3本とも安定して導通するようになりました。

そして、上側のシートを戻します。 幸い厚みも問題なし。


ラバーシートやキー等を戻し、若干ドキドキしつつテストした結果、全てのキーが復活している事を確認し、完了と相成ったわけです。しかし、気づけば結構な手間と時間を掛けてしまいました。元々は200円かそこらのジャンク品なのに。。。それでも、このシリーズのキーボード、その最高に軽く生産性抜群のタッチには、その手間をかけるだけの価値があると思えるところではあるのだから、まあ仕方ないか、とぼやくだけなのですけれども。またそのうち別のところが壊れたりするんでしょうけど、何時まで修理出来るものやら。やれやれです。ともあれ、今回はこれでおしまい。

[関連記事 [note] 古いキーボードを修理・その2]
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10/18/2016

[note] ubuntu16.10導入 ※tcshユーザは回避推奨

半期に一度の恒例であるところのubuntuアップグレードがまたやって参りました。コードネームはYakkety Yak、おしゃべりなヤク(ヒマラヤ近辺に生息する毛長牛)さんです。

とはいえ、既にその変更の対象はクラウドはじめサーバ周りに移行して久しいところ、今回もクライアント関連については表面上は無論内部的にも殆ど変更はなく、従ってユーザ側では適用する理由に乏しいだろう事は周知の通り。また前回の16.04がLTS版だった事もあって、尚更適用を見送る向きも多いでしょう。しかし、どうせ次のLTSリリースまで全く上げないわけにもいかないだろうし、と最近の例と同じく極めて消極的ながらの適用に踏み切ったのでした。

今回の対象は、デスクトップ1台、ノート5台。全てubuntu、もしくはlubuntuの16.04LTSからのアップグレード適用です。手順はいつもの通り、update-managerの[設定]-[Ubuntuの新バージョンの通知]を[すべての新バージョン]に変更してからupdate-managerを再起動し、ダイアログに追加表示される[アップグレード]を選択します。後は画面の指示に従い、時々挿まれる確認に応答しつつ待つことしばし、で完了。

で、結論から言えば、lubuntuから上げたものはアップグレードの最後の辺りで一部パッケージのインストールに失敗し、不完全な状態になってしまうため、修正が必要になります。また、ubuntuから上げたものについても、アップグレード自体は特に問題なく完了したものの、tcshがtabキーを押しただけでクラッシュするようになる不具合に遭遇。総じて、久々に嫌な感じです。

<lubuntuのアップグレード時の一部失敗について>

まず、lubuntuの場合に問題が生じたパッケージは、lubuntu-desktopです。これのインストール時に失敗し、アップデートが不完全につき問題が生じるかもしれない旨警告が表示されます。もっとも、それをスルーすれば一応インストールは完了し、概ね普通に使用する事は可能ではあります。ただ、そのまま使い続けるにも、アップデートをしようとするとエラーが出るので、やはり支障なしとは到底言えない状態になってしまうのです。具体的には、下記のようなエラーが表示されます。

[lubuntuアップデート後、apt upgrade時エラーメッセージ]

($ sudo apt-get upgrade実行後)

パッケージリストを読み込んでいます... 完了
依存関係ツリーを作成しています               
状態情報を読み取っています... 完
これらを直すためには 'apt-get -f install' を実行する必要があるかもしれません。
以下のパッケージには満たせない依存関係があります:
 lubuntu-desktop : 依存: gnome-software しかし、インストールされていません
       依存: language-selector-gnome しかし、インストールされていません
       依存: software-properties-gtk しかし、インストールされていません
       依存: system-config-printer-gnome しかし、インストールされていません
E: 未解決の依存関係があります。-f オプションを試してください。

という。割と基本的なパッケージがインストールされていない感じでとてもいけません。仕方がないので、下記コマンド。

$ sudo apt-get -f install

これをすると、ざっと数十個ものパッケージが強制適用され、その後少し使ってみたところ、目に見える問題はなくなったように見えます。が、この手の強制適用は不整合を来す可能性も懸念されるわけで、やってしまった、という敗北感が漂う結果になってしまったのでした。

これについては、やはり適用を早まったかなと。というのも、後から確認してみたところ、適用した時点ではlubuntuはまだ16.10リリースを正式にはしていなかったようなのです。トップページにはまだアナウンスが出ていませんでした。あらかじめ確認しておけばよかった、と少し後悔及び反省。ただ、今はもうリリースが公表されているので、既にこの問題は解決されているだろうとは思いますけれども。

<tcshがtabキー押下で即落ちる不具合について>

次に、ubuntuからのアップグレードで発生した不具合について。具体的には、サーバとして運用しているデスクトップ(64bit版)について、アップグレード後にターミナルが落ちるようになってしまったのです。トリガーはTABキー。要するに、コマンドプロンプト上でオートコンプリートをしようとするとsegmentation faultで端末が落ちるのです。オートコンプリートの利用はもう身に染み付いているわけで、それが禁じられた状態では実際のところまともに使えません。ユーザ側からすれば、近年稀に見る程の酷い不具合と言えるでしょう。

本当に致命的なので、嫌でも早急に対処をせざるを得なくなったわけです。とにかく原因部分の絞り込み乃至特定が必要、という事で色々試してみたところ、本現象は、xtermとかLXTerm等の端末エミュレータや、Xではないコンソール等、ターミナルの種類を問わず再現しました。この事から、アプリケーションやライブラリの問題ではなく、シェルの問題だろうと見込み、端末上で各種シェルを起動して比較しつつ確認してみると、デフォルト設定にしていたtcsh上では必ず落ちて元の端末に戻る一方、bash上では問題なく機能する事が確認されました。ということであっさり原因はtcshに確定。バージョンは下記です。

[16.10アップグレード後に落ちるtcshのバージョン]

 $ tcsh --version

 tcsh 6.18.01 (Astron) 2012-02-14 (x86_64-unknown-linux) options wide,nls,dl,al,kan,rh,nd,color,filec

本件問題のtcshは、以前bashに酷いセキュリティ関連バグが発生した時に代替として切り替え、以来常用して来たものです。が、流石に補完が効かないというのでは使えませんので、bashの問題も片付いた筈だし、と下記コマンドでbashに戻し、環境変数等諸々の設定等も移行してひとまず解決。

 $ chsh -s /bin/bash

しかし冷や汗をかきました。心臓に悪いので勘弁して欲しいです。ていうか、何故にtcshのような、古くからあって枯れ切った、かつ重要極まりない基幹部分で、かように致命的な不具合が入り込み、極めて露見もしやすい症状の筈なのに見過ごされ、あまつさえそのまま正式リリースに乗ってしまうのか、全く以って理解し難いところなわけです。

なお、この16.10のtcshがtabキーで落ちる現象については、下記の通り8月末の時点でβテスト段階で各所でBug報告も上げられていたようなのですが、何故かリリース後の今になっても未だに対処されていません。基幹部分につき修正に困難を伴う等の事情はあるのかもしれませんが、こんな重大なバグを放置したままのリリースを正当化し得る理由とは到底考えられず、従って許容し難いものと言わざるを得ないところであり、把握していなかったというのならディストリビュータとしての最低限の注意義務を果たしていない事になるし、把握していたというのなら尚更悪質と言わざるを得ないわけで、率直に言って話にならないと思うのですよ。いずれにせよCanonicalには猛省を求めたいと思います。

tcsh crashed with SIGSEGV in __GI__rewinddir()

一応、本不具合は64bit版のみで発生するもので、32bit版では発生しません。が、64bitの方が圧倒的に多数だろう今、大した意味もないわけですけれども。

というわけで、久々に遺憾な経過を辿った今回のアップグレードですが、まあ一応修正は出来たという事で、ひとまずはこれでおしまい。やれやれです。

(追記)

これはubuntu自体の問題ではないのですけれども、16.10では、PNG画像ライブラリlibpngのバージョンが大幅に上がっていて(16.04LTSでは1.2.54、16.10では1.6.24or1.6.25)、これに伴いNULL定数等が廃止されたり、構造体メンバへの直接参照が禁止される等の変更がなされているため、それらを利用しているコードはビルドに失敗するようになっています。自身でコードを書くような人の場合は容易に対処出来るでしょうけれども、これも留意すべき点でしょうか。

(追記その2)
発生から待つこと約1ヶ月、ようやく修正版のtcshがリリース。少し不穏な感じもしますが。
[続き記事 [note] ubuntu16.10のtcshに修正版がようやくリリースされました]

[関連記事 [note] Lubuntuはやはり軽くて良いけれど]
[関連記事 [note] Ubuntu16.04LTS導入]
[関連記事 [IT] bashに最悪の脆弱性発覚]

10/17/2016

[note] 今更ながらLooxUのzif-msata変換基板によるssd換装

をしました。ご存知の方が殆どでしょうが、LooxUは2008年頃に発売された、今となっては殆ど見かけなくなったところの物理キーボードを備えたクラムシェル型の超小型PCです。その物理キーボードによるユーザビリティの高さから、タブレット類に取って代わられた今でもちょこちょこと愛用していたのですが、どうも最近、只でさえ遅いHDDのアクセス速度がさらに遅くなったようで、流石にHDDの交換が避けられない感じに。が、当然ながらLooxUのHDD接続形式のzifはもう廃れて久しく、代替品自体が入手困難かつ高価なわけで。その値段を出して交換する価値があるかというと、流石にないだろうと言わざるを得ない性能ですし、じゃあssdに換装するかとなったのです。

無論、ssdに換装と言っても、zif接続のssd自体も殆ど消え、Kingspec等の極めて割高かつ信頼性の欠片もない古いモデルが数種流通しているに過ぎませんから、自然と現行のsata等のssdをzif接続に変換して繋ぐ事になるわけです。とりわけLooxUのような小型PCの場合は、1.8インチ以内というスペースの制限から、msata接続のssdをmsata-zif変換ボードを介して接続する方法が事実上ほぼ唯一の方法となっている感じですね。

その種のmsata-zif変換ボードが流通し出して早何年、LooxUは無論、VaioPやLatitudeの4シリーズ等、その他メーカーのzif採用の各PCを含め、とうの昔から多数の換装成功事例が公表されていますから、何番煎じかもわからない位に今更の話と言うべきでしょう。ただ、このところのその辺の部品の価格、また供給状況等を見るに、msata-zif変換基盤の価格は当初の半額以下に値下がりしており、ssdの価格も同様に大幅に下がった事に加え、msata接続もまたM.2接続に取って代わられつつあり、msata接続のssdの生産・流通もまた細りつつある事も考慮すれば、その移行をするにはまずまず丁度いい時期でもあり、かつタイムリミットも迫っているのかな、と。

というわけで、部品を調達して換装する事にしたわけですが、手段自体はもう確立されていますし、今更特筆するような事は何もありません。ただ、一発ですんなり成功したわけではなく、恥ずかしくも残念な事に1回目は失敗してしまいました。何をやらかしたかというと、変換ボードのコネクタを破損させてしまったのです。なので、再度入手しなおして、2台目でようやく成功したのでした。無論理由もあるのですが、その辺の細かい注意点のメモがてら、手順を下記に記録しておこうと思います。

<換装手順:部品準備>

まず、何はともあれ部品の調達。zif-msata基盤(1台目)は、ebay経由の輸入で香港の業者から調達。送料込で$3.4位、約350円でした。到着までは2週間あまり。経験的には割と速く着いた方と言っていいでしょう。


ssdは、Plextor製のPX-128M6MVを採用。発売開始から半年も経っていない、同シリーズ中では最新のモデル。既存の成功例では、これの前世代のPX-128M5Mがよく使われているので、その実績を重視した選択です。NANDセルの構造がTLCではなくMLCという所もGood。ただ、実はこのシリーズ、128Gモデルは書き込み速度が170MB/sと、世代が新しい割には他の製品と比較しても遅い部類で、それ故にSSDの中ではあまり人気がない様子なのです。しかし、zifの転送速度が上限になる今回の換装にはむしろ明らかにオーバースペックにつき、障害にならなかったのでした。


これを、基盤に接続して基盤付属のネジで固定するわけですが、既存の報告には、ssdも基盤も剥き出しなので、場合によっては干渉したりショートしたりする危険がある、という警告も複数あるのです。そこで、これも先人に倣い、基盤の間に紙を挟んでおく事にします。用意した紙と、それを挟んだ様子は下記の通り。


結果から言えば、干渉云々は取り越し苦労で、基盤同士は全く接触していませんでした。が、まあ用心するに越したことはない、という事で、念の為紙は入れたままにします。スカスカなので、傾けたりするとすぐに落ちるような状態につき、ほぼ気休めにもならない感じなのですが。

次に、LooxUの方を準備。 背面手前側のパネルを7点のネジを外して開けます。


で、HDDを、フレキ等を壊さないように慎重に外します。


ビクビクしながら途中まで外して、実はzifコネクタが上向きで、あらかじめケーブルを外す事が可能な事に気づき、外しておくことにしました。その方が安全ですしね。ケーブル側を先に本体から外しても良いのでしょうけれども、HDDを付けたままだと変な力がかかりそうでもありましたし。


その後、フレキケーブルも外します。ただ差し込んであるだけなのですが、これを壊すと換えが効かないので、極めて慎重に。つい力を入れすぎそうになってしまいますが堪えます。


外したケーブルを、基盤に差し込みます。基盤の接点は上側のようなので、ケーブルの接点が上を向く方向で。


差し込んだ後、zifのラッチバーを下げ、 固定します。
 

そして、再び本体側コネクタへケーブルを差し込みます。スッカスカですね。


無論スッカスカでいいわけはないので、ウレタンシートで緩衝しつつ固定する事にします。まずはシートを1.8インチサイズに切って下に敷くだけの超適当な方法を試してみましたが、これは当然ながら横方向にはイマイチ安定しない感じで却下。左右と下にそれぞれ棒状に切って、前後左右上下から挟み込む形にしたところ、まあこれでいいかと。下記写真では作りが適当すぎて、色々ズレたりしてますけど、安定性はそこそこです。


で、やれやれ一段落、とカバーを閉め、ドキドキしながら電源を入れてみたのですが・・・これが芳しくないのです。何かというと、起動時にSSDは認識され、型番も表示されるものの、そこでフリーズしてしまうのですね。BIOS画面に入ろうとしても、そこでフリーズしてしまって入れません。

ありゃりゃ、と一旦電源を落とし、カバーを開けて確認してみたところ、zifコネクタ側のケーブルがズレて、半分程度抜けかけている状態でした。クッション類と位置合わせ等をしているうちに応力がかかり、それで抜けてしまったのでしょう。・・・で、(何回か)挿しなおしたりしたのですが、これが一向に改善しないのです。ある時は全くストレージが認識されず、ある時はSSDの名称が一部文字化けして認識されていたり。一度だけ認識された状態でBIOSに入れた事もあったのですが、その際にはssdの名称の他、容量もデタラメになってしまっていました。

これには参りました。接触不良が原因だろう事はほぼ明らかなのですが、どう対策していいのかと。何度が抜き挿ししていたところ、元々この変換ボードのzifコネクタはケーブルの噛みが緩いようなのですね。元々入っていた東芝製のHDDのコネクタと比較すると明らかに緩いのです。そこで、試しに、と若干zifコネクタを上から押してみたりしてしまった、のがいけませんでした。全く改善しない、どころか、一切認識されないようになってしまったのです。やっちまった、という事で落ち込みつつ、この日はここでお開きとなったのでした。ちなみに異常発生以降はテンパッていたため写真記録なし。

失敗は残念ではあるけれども、再調達は容易だし諦める必要もない、ともう一枚調達して再トライすることに。ebayだと安いのですが、また輸送に2週間以上かかってしまうし、その間悶々とするのも何なので、割高な事には妥協して、国内から調達しました。送料込800円強。前の2倍以上ですが、仕方ない。これでも数年前の半額以下だし、と言い訳しつつ発注。そして届いた物が下図下側。上側は1台目です。偶然か必然か、基盤のパターン、部品配置、刻印等から、QCのシールまでも全く同じ。尚更割高感が強まりますが、しかし前回の反省をそのまま反映出来るメリットもあるので、まあいいか、と割り切ります。


前回の反省点その1、ssdとケーブルの接続後に不要な応力を掛けないよう、緩衝材はあらかじめセットしておく。という事で、前回よりもう少し幅等を適切になるよう調節してウレタンシートの切れ端を貼り付けます。


で、前回同様に紙を挟みつつ、変換ボードにssdを接続。



次いでフレキケーブルの接続ですが、事前にzifコネクタを確認したところ、やはりこの個体のものも東芝のHDDのそれと比べてかなり緩いです。このままやれば、高確率で二の舞になる、と判断し、フレキケーブルの接点のない側にテープを貼り、厚みを増やしてからセットしました。東芝HDDに接続した時のように、ラッチを下げる前からそこそこ強い固定感があります。 もっとも、一度こういう規格超の厚みのケーブルを使ってしまうと、コネクタがその分さらに広げられてしまうでしょうから、このケーブル(ないし、厚みを増やしたケーブル)以外の通常のケーブルには適合しなくなってしまうデメリットもチラッと頭をよぎったのですが、もうここはこれ専用、と割り切る事にしました。使い回しを考えて失敗してては元も子もないわけですから。予備をあらかじめ準備しておくのもいいかも、とも。


で、ラッチを倒して固定。前回は画面上側がユルユルだったのが、全体に渡ってがっちり噛み込んでいい感じです。ただ、それでも東芝HDDより若干緩いかもしれないとは感じました。


ともあれ、速やかに本体にセット。前回はここからちょこちょこ動かしたのが第一の敗因だろうところ、もう二度と動かさない、位のつもりで。


素早く、丁寧にカバーを閉め、遊び等もない事を確認した後、またしてもドキドキしながら電源ON。結果は、無事認識され、かつ認識されたままBIOSに入る事も出来たのでした。型番の文字化け等もありません。ここに至ってようやく、やれやれ、と胸を撫で下ろす事が出来たのです。


この後、lubuntu(16.04LTS)のインストールと、あらかじめ退避しておいた各種設定ファイルやプログラム・ツール類の移行・導入と初期設定をし、なんとか移行を完了。使用感もまずまず。CPUの非力さと、zifの転送速度上限の縛りもあって、絶対的に爆速、というわけでは無論ないわけですが、それでも起動時間はHDDの好調時と比べても半分以下になったようですし、何より耐衝撃性が向上しました。だからと言って手荒に扱っていいわけではないけれども、移動中に利用する場合、ちょっとした衝撃で破損する懸念を抱く必要が随分と軽減された点は、とても良いと思います。

ちなみに、丁度ubuntuの16.10がリリースされたところ、 Lubuntu16.10のisoも某所に転がっていたので、最初は試しにそちらをインストールしようとしたのですが、インストール終了間際のGRUBのインストールに失敗してしまう不具合が確認されたために16.04LTSにしたのです。ちょっと無謀過ぎたと反省。やはりこういう時に色気を出して不確定要素を増やしちゃダメですね。

ともあれ。不用意な痛恨のミスで、当初の目論見から大幅に時間も手間も費用もかさんでしまった今回の換装作業ですけれども、 基盤の特性を把握するためには必要なコストだった、と全く言えなくもない気もしますし、失敗を繰り返さず、2回目で何とか修正出来た事には、消極的ながらそこそこの満足は得られたのでした。というわけで、これで今回はこれでおしまい。やれやれです。

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