2/27/2011

[law] 入試カンニング疑惑による業務妨害の主張は妥当か

うーん。大騒ぎですね。京大は偽計業務妨害で被害届を出す方針らしいですけど。試験結果が不正確になって、不正な合格者を出す事は業務に支障を来たす恐れがあるから業務妨害だ、という主張で。

当事者がそう認識しているのなら、その旨を主張するのは当然自由なのですけれども、果たしてその主張、ロジックは妥当なのでしょうか?正直微妙だと思うのです。特に被害の内容について。

カンニング行為が反社会的な行為である事は間違いないし、危険性の段階での告訴も可能ではあるし、本件だけを見れば告訴は別段不当とまでは言い難いようにも思われます。しかし、カンニングというのはぶっちゃけ入試に限らず、大学内での業務に関して、例えば単位認定に絡む各種試験等で少なからず発生しているし、レポート一つ取っても、本来は自ら作成すべき所、本件と同等の不正行為は日常茶飯事なわけで。京大と言えどその例外ではない事も周知の事実で、そちらの方も不正確な単位、学位の認定に繋がる恐れがあると言う意味では被害の程度、範囲も似たようなものの筈ですが、告訴等はせず、大半は目を瞑り、処分にかけるとしても該当分の単位認定取り消し程度、あっても停学処分までで、少なくとも内部で完結する類の話なのですね。退学にすらならない。

そこに、入試だからといって、この件に限って合格取り消し等の内部処分で済ませず、刑事告訴まで行くというのは、いかにも均衡を欠いているように思われるわけです。勿論入試の重要性が高いのも事実ですが、それは相対的な程度の話であって。今回京大が主張する内容の被害が真実刑事罰に値する程に深刻というのなら、逆に内部で発生している数多の不正行為も、程度の差こそあれ刑事告訴に値する筈です。しかしこれまで全くそうしてこなかったわけで。にも関わらず今回に限って行うというのでは、いま一つ説得力に欠けるものと言わざるを得ません。

一言で言えば、一貫性の無い恣意的な振る舞いに見えるわけで。主張された被害の内容も、結局の所、真実性、実質性に欠ける後付けのレトリックに過ぎないように思われます。もっとも、通常のカンニングと違って事が公になって、大学丸ごとメンツが潰されたわけで、怒って冷静さを失う類の声が支配的になるというのも、同時に権威の維持回復のために強引・過剰な示威行動を取るというのも、自然と言えば自然な振る舞いではあるし、それ自体は疑問という程ではないのですけれども。

しかし、少なくともまず事実関係の調査が先でしょ?実際に回答・結果に影響があったのかなかったのか。京大側の監督に手落ちは無かったのか。内部者が別の目的で行った可能性も無いわけじゃないでしょうに。それらの調査確認すらせず、仮説だらけのあやふやな状態のまま脊髄反射的になされた感じの今回の告訴方針発表は、さすがにいかがなものかと思うのですよ。

客観的に見て、大学側に手落ちが全く無かったかと言えばそんなわけもないんですしね。この問題での先進国である韓国の事例は日本でも広く報道されていたところ、日本の関係者がその可能性を認識していなかった筈はなく、韓国と同等の措置、金属探知機やジャマー、とまでは行かずとも、身体検査程度の対策を講ずるべきではあったとも思われますし。

あと、仮に受験生のカンニングだったとして、刑法的には偽計業務妨害罪位しか適用できそうなのがない、というのはわかるんですけど、もうちょっとマシな理由は付けられなかったものでしょうか、とも。ねえ。発信者の開示命令を得る為に必要な被害届の建前として立てただけの可能性もあるし、それならそれでいいんですけど、そうであれば例えば、所轄官庁の文科省の方でまとめて、国家的、公的な法益侵害の線とかで進めた方が自然だった気がするのです。もっとも結果的には似たような形になってるみたいですし、瑣末な事なのかもしれません。

-----追記
そうこう言ってるうちに話が大きくなって。
続き記事 [law] 入試カンニング騒動が行き過ぎでヤバげ