コーヒーチェーン大手スターバックスの米国本社が、日本法人を完全子会社にする計画が発表されました。計画の内容をざっと確認してみたんですが、、、これ成立するのか、というか、成立はするんでしょうけど、随分と黒い感じで、すんなりとは行かないだろうな、と首を捻らざるを得ないものだったわけです。
株を取得するのはSolar Japan Holdings合同会社。これは中間的な持ち株会社で、事実上その完全親会社エスシーアイ・ベンチャーズ・エス・エルが取得するものと言えます。で、このエスシーアイ社はスターバックス本社の100%子会社で、現時点で日本法人株の39.52%(57,000,000株)を保有する大株主です。と言うわけで、今回の計画での目標は残りの60.48%の全取得、という事になるのですが、日本法人のスターバックスコーヒージャパンは上場企業ですから当然TOBによらなければなりません。
で、このTOB。普通ならスターバックスレベルの規模の企業で60%超のTOBなんて成立させるのは極めて困難、頑張って成立させるにしても相当なプレミアムが必要になるわけですが、この点スターバックスは色々とアクロバティックな手法を使う事で回避を図っています。
その基本として、TOBを条件の異なる2回に分けて行います。その1回目では、サザビーリーグというエスシーアイと同数の株を保有する大株主と応募契約を結び、事実上の単独対象にします。ただTOBは形式的には応募者に制限は付けられませんから、募集価格を965円と時価より相当低く設定します。割安過ぎて他の株主はまず応募しないだろう、という事ですね。
そして、2回目では募集価格を1465円にして再びTOBをかけます。こちらは時価(計画公表前日の終値)より5%ほど高く設定されていますから、事実上一般の株主はこちらに応募するかどうかを検討する事になるでしょう。
この2段階TOBですが。一見すると、通常であればどちらも成立が危ぶまれる条件です。1回目はサザビーリーグがみすみす大損をする事になるし、2回目はプレミアムの5%というのが相場より小さすぎます。普通は30%位は付くものですから。ほぼ全ての株主が不満に感じるだろうと思われるところです。
これらの問題点に対してはスターバックスも当然承知していて、それぞれ対策的な措置が採られています。サザビーリーグの第1回TOB応募については、同社が子会社にならない限り、スターバックスと現在結んでおり、平成33年3月31日に切れる日本での合弁に関するライセンス契約を更新しない旨を通告し、それによって強制力を働かせています。普通に脅迫ですね。こちらはサザビーリーグの株主、すなわちその親会社たる株式会社AHAの同意が必須となりますが、その説得は済んでいるという事なのでしょう。恐ろしや。
一般向けの第2回TOBについては、今年度末の配当や優待の廃止を打ち出しています。要するにあえて短期的な株式の価値をなくす事で、売却を促すというわけです。ただ、普通は手切れ金的に上乗せする筈のプレミアムが殆どありません。ぶっちゃけ脅迫同然の追い出しと言って良く、納得しない、というか激怒する株主が多数出る事は避けられず、普通に揉めるでしょうね。今後の流れを想像するに、1回目のTOBが成功した時点で約80%のシェアを握れますから、その議決権を用いて取得条項を設定し即発動、で買取価格で揉めて裁判所の価格決定のち強制買取、とか。最悪訴訟もあるかもしれません。
とまあ、内在する分だけでも随分と不安要素に満ち満ちているわけです。よくこんなややこしくも危うい手法を考えつき、かつ実行に踏み切ったものだと。しかもそれだけではありません。外部要因、すなわち対抗的買収者が出ないとも限らないのです。1回目の買付価格の安さはいくら契約があるとは言ってもちょっかいを出す向きが居ないとは言えないでしょうし、2回目もプレミアムが低すぎですから、手を出したくなるファンドも普通に出るんじゃないかと。もっとも、スターバックスの意見書にはその辺の強制手続きや対抗買い付け等についても記述がありますから、スタバにしてみればそこまでもが既に織り込み済み、規定路線と言うべきなのかなとも思いますけれども。その黒さ加減には正直引きます。
というわけで、それこそ有象無象も含め多数のプレイヤーが色々と慌しく動くだろう本件、さてどう展開するのやら。スタバの目論見通りすんなり行くのか、それとも混沌とした泥沼案件になるのか。価格決定等のアドバイザーにゴールドマンサックスの名前がある時点で色々とお察しな感じでもありますから、あまり深入りせず、適当に見守るのが吉ですかね。突然のカオスに巻き込まれた株主各位におかれましては、誠にお疲れ様かつご愁傷様です。
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