9/25/2014

[biz] ドイツAmazonとAir France、2つの対照的なストライキ

Air Franceでのパイロットによるストライキが続く中、隣国ドイツのAmazonでもFC従業員によるストライキが起こっていたのですけれども、こちらは何事も無かったかのようにひっそりと終了してしまったそうです。

より詳細な経緯としては、ドイツ国内に7箇所あるAmazonの倉庫(FC)の内5つに所属する従業員を中心とした労組が賃金の改善を求めて月曜からストライキに入ったものの、3日経過しても経営側は交渉に応じる事もなく、またストライキによる出荷遅延等の業務への支障も殆ど発生せず、従ってストライキは無意味になったために中止に追い込まれたんだとか。

Amazonのストライキに参加した従業員数は、労組側の発表では2000人程度、経営側の発表では1300人程度とズレがありますが、全体の従業員数は9000人程度という事ですから、概ね2割前後と考えれば良いのでしょう。2割が多いか少ないか、それは意見の分かれる所でしょうけれども、通常の組織であれば到底無視出来る規模では無く、それだけの規模で行われたストライキが全く意味を成さなかった、というのは相当に珍しいケースと言っていいでしょう。セオリー通りに成功を収めているAir Franceのケースと何が違うのかと、興味が惹かれるわけです。

といっても、理由は概ね容易に推測出来るところではあるのですけれども。元々Amazonのような通販業というのは需要やリソースの変動が激しく、季節や日、時間毎に数倍程度の差が発生する事もざらです。しかるに2割程度の変動は当然に想定したシステムになっているでしょうから、キャパが一杯になる繁忙期でも無ければ、元々用意されているバッファ分のリソースで対応可能だった、というだけの事なのでしょう。そうであれば、ストライキを有効なものとするには起こすべき時期と規模をそのバッファ分を超えるように設定する必要があって、労組側がその見通しを誤った結果と結論づけ得るわけです。

そうだとして、次に疑問になるのは、何故2割しか参加しなかったのか、です。Amazonの労働環境の劣悪さは周知の事実で、残り8割の従業員が賃金等に不満がないというのはあまりに不自然です。ストライキへの参加を思い止まるだけの事情があると考えるべきでしょう。

ストライキは法によって保障された労働者の基本的な権利です。ドイツはとりわけそのあたりの権利意識は厳格な国柄ですから、報復的人事等を恐れた、とかいう理由では説明し難いでしょう。そもそもそれらの報復やストライキ不参加によるインセンティブは禁じられている筈ですから。

この辺の事情は、外部からは推測する他無いのですが、、、マクロ的には、Amazonの事業の立ち位置がその要因になっているのではないかと思うのです。Amazonは大手ではありますが、Air Franceのように寡占・独占とまでは行かず、代替となり得る競合企業が多数存在します。そのような企業が、業務に支障のあるレベルでストライキを起こせば、一時的な損失に加えて消費者の信用をも失い、顧客の流出を招きます。ストライキが終わっても元通りにならない可能性が高いのですね。これを恐れて慎重になる可能性はあるでしょう。

また、具体的な割合は非公表ながら、契約社員等の有期雇用者が多い点も、当然に大きな影響があったものと考えるべきでしょう。 その種の社員がストライキ等すれば、再契約を拒否されて終わりになるだけでしょうから、参加出来る筈もありません。むしろ、仮に正社員への登用をちらつかされれば、団結どころか労働者間での対立にさえ繋がり得るでしょう。労働条件がどうであろうが、その改善どころではないわけです。

ここでふとJeff Bezosがこの前最悪の経営者に選ばれていた事を思い出しました。そのニュースを目にした時は、今ひとつピンと来ずに首を傾げたものでしたが、こういうAmazonの、従業員がその労働における基本的な権利すら剥奪され、奴隷のように酷使され使い捨てられる仕組みを認識した後では、なるほど、最悪と言われるわけだ、と納得させられてしまった次第なのです。

翻って、Air Franceはというと。今更言うまでもないのですけれども、企業は独占、労働者も代えの効かない特別資格職で、参加者の比率はパイロットの約半数、大量の欠航を出して営業損失は毎日数十億。要求は通り、会社の新規事業計画は撤回されました。何から何まで、まるで正反対です。今回のストライキは、格安路線への配置転換に伴う賃金等の低下を嫌って起こされた、という事ですが、恐らくそれが成されたとしても、その悪化した条件はAmazon従業員のそれに比べれば夢のような好待遇なのでしょう。

これは、どちらの条件、環境が妥当かと言えるような話では無いのでしょう。ただ、同じ労働者でも、環境や立場が違えばこれだけ差異が生まれるという事例です。本来は法の規律によって公平が図られるべきところであって、法の不備があるとも言えるんでしょうけれども、さてどうあるべきものなのでしょうか。少なくとも、Amazonを非難し、あるいは排斥すればそれでよい、というような簡単な問題ではない事は間違いないんでしょうけれども。

Strikes at Amazon Warehouses in Germany End for Now

Air France offers to scrap low-cost Transavia expansion plan

(その後追記)

独Lufthanzaも同じくLCC絡みの新路線導入に反対してストですか。本件に参加したAmazon従業員はじめ、一般の労働者はさぞ白い目で見ている事でしょう。