NSAによるネット監視の件、事はネットワークの自由そのものへの根本的な脅威であるわけで、その割にはいつも激しく反発する向きが大人しいなと怪訝に思っていたのですけれども、全く声が上がっていないわけでもなかったようで。
Here's Who Is Behind Those Creepy Billboards That Say 'Your Data Should Belong To The NSA'
"Your Data Should Belong To The NSA"、"The Internet Should Be Regulated"と、NSAによる監視を皮肉る広告看板を掲げたのは、P2Pソフト開発会社のBitTorrent。その後ただちに"Your Data Should Belong To You" "The Internet Should Be People-Powered"などとストレートな表現に改変された画像も出回り、アピールとしてはそれなりの効果が出ているようです。
まずは、ネット上の自由独立を尊ぶ精神性が消えてはいない事を示すものとして喜びたいと思います。しかし、全体として見ればこのような活動はごく一部、従前の例からすれば驚くほど小さい散発的なものです。その意味ではやはり今ひとつすっきりしません。
抗議活動が極めて小さい、その理由は、そもそもGoogleはじめ大多数のネット企業がNSAと結託し、監視する側に属している点にあるのだろうと思われます。すなわち、従来なら当然に抗議活動に加わっていたであろう人達が、それらの企業群に属するか利害関係にあるために、敵対的な活動となるだろうネット監視への抗議を行えない状況にあるのではないかと。
だからといって、抗議活動が不当に制限されているとは思いません。それどころか、おそらくはその抗議を抑制している人達の多数はエンジニアであり、従って各企業における中核業務すなわち、ネットワークのトラフィックを集め、分析し、利用する、そのネット監視に他ならない活動の中心的な役割を担ってさえいるものと考えられます。であれば、NSAの活動に抗議する事は自己否定になるのですから、それらはむしろ控えて当然の振る舞いと言えるだろうし、NSAの実現した大規模ネット監視システムは実質的に自分たちの夢でもあった、等と積極的に肯定する向きすら有り得るでしょう。
そして、支配的なネット企業が、その規模によって提供するサービス、その利便性を一般の人々は享受しているわけです。誰も強制などしていません。結局のところ、ビッグ・ブラザーになりたい人達と、ビッグ・ブラザーを作りたい人達、ビッグ・ブラザーの与えるサービスを求めた社会、その利害が一致した結果が現状であり、多くの人は抗議をしたいともすべきだとも思っていないという事なのでしょう。それならそれで別段問題があるとは言えません。
ただそれは、あくまで監視側がその立場、集めた情報を悪用せず、その信頼が担保されている事が前提です。しかるにその悪用に伴う利益は一般にあまりに大きいため、その抑制は殆ど不可能と言うべきものですから、極めて不安定なものと考えざるを得ません。そこに問題があります。
悪用の実例はまだそれ程多く発覚しているわけではありませんが、それでも国家・企業・個人のあらゆる関係に深刻な、致命的とすら言ってもよいだろう悪影響が認められ、今後の悪化も懸念されます。放置されて良い筈はありません。世界中を中国のようにしたいというのなら話は別ですが。
この不適切な状況を是正するには、監視される側、特にその中でも公権に属するところから排除規制を加えていくより他ないものと思われます。先日、EU圏でGmailにおけるプライバシー侵害に対する集団訴訟の認可が決定された事は記憶に新しいところですが、そういった活動を積み重ねるという事です。一方的に監視されて来た、従ってそのシステムの下に留まるメリットに乏しい地域・カテゴリの人々には、その事を周知した上で、拒絶の意志を示したならば、司法の手続きに従い順次解放されるべきなのです。逆に、米国や英国、カナダといった、監視する側の人・企業・地域については、自分たちが好きでやっているのだし、社会的に許容されるのであればそのまま監視する・されるに任せるべきなのでしょう。それも自由と言えなくもないだろうし、それで良いのだと思います。個人的には御免蒙りますけれども。
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