遂に、と言うべきでしょうか。 米Washington州Seattle近郊の高速で、金属物と接触事故を起こしたTeslaのEV、Model Sがその際にバッテリーから発火し大炎上したそうで。
事故自体は乗員が怪我すら負わない程度、車体の損壊もさほど深刻ではなかったとの事ですから、殆どバッテリー部分のみに起因する惨事という事になります。しかも、消防隊による消火活動の際にも、一旦鎮火したと見せて再び燃え上がり、バッテリーを穴だらけにするまで収まらなかったとか。そういったガソリン車のそれとはまた異なる厄介な現象は、無論大容量リチウムイオンバッテリーの特性上想定されたところで、本件事故自体も、やはりというか、遂に来るべきものが来たかと、少なくとも特段の驚きを誘うものでは全くないのですけれども。それでも一度発生すればかようにまで対処困難となる、その様子を現実に見せられては、相当の戦慄は禁じ得ないのです。
この事故によって、これまでメーカーが喧伝してきた発火対策、すなわちバッテリーセルをブロックに分けて隔離する事で発火可能性を低下させるとする構造も、やはり外部からの衝撃には無意味であった事が実証されてしまいました。EVやPHV等、高密度かつ大容量のリチウムイオンバッテリーを搭載する車両一般に潜在的に内在するこのリスクを現実に顕在化させた本件、その影響は小さいものであろう筈はありません。先日の業績好調を受けて狂ったような上昇を続けていたTesla株も急落、とまあそれはどうでもいいとして。
この種の破損等による発火リスクは、バッテリーの基本的な性質そのものに起因する以上、本質的な意味での発火防止は、やはり不可能であると認めなければならないでしょう。従って今後取られるべきは、そのリスクを前提に、利用者らをその危険から保護する対策です。まず最低限、事故の際には速やかに退避・隔離措置を取るべき旨、周知が図られる必要があるでしょう。また、一定の程度の事故があった場合には、内部の破損状態の確認検証が困難である以上、バッテリーの交換が義務付けられるべきです。
以上、メーカー各社、また監督行政各位には、速やかに対応がなされるよう、強く願う次第です。発火の心配はなく安全、としてきた製造側の主張は、単なる都合のいい願望に過ぎなかった事が証明されました。現実と向き合う時が来たという事でしょう。真摯に取り組んで踏み止まるのか、安易に逃げて社会に害をなすのか。前者が選択されるのであれば、まだ未来もあるだろうと思うのですけれども。
Highway Fire of Tesla Model S Included Its Lithium Battery
本件、よくある路上障害物の軽い接触事故で引き起こされた事から、リチウムイオンバッテリー搭載車一般における深刻な欠陥と指摘する向きがあちらこちらで見られます。折からの米行政一部機能停止の影響で監督部門からの対応はありませんが、それを待つまでもなく事業者による早急な措置が求められるところ、Tesla社の今後の対応に注目が集まっていますね。
Car Fire a Test for High-Flying Tesla
そしてリリースされたテスラ公式の見解。CEOのElon Musk自らの発表によるものですが、要するにガソリン車よりマシだから問題ない、というわけですか。EVの利用自体がまだ極端に少なく、統計的にそんな結論を導けるようなデータがある筈もないのにこんな事を言ってしまうとは。不安定な事業環境にあって保身に走りたくなる気持ちは分からないでもありませんけれども、目先の利益に目が眩み、最も優先すべき利用者の生命の安全を軽んじたものに他ならないわけで、その無責任さに失望するとともに、極めて残念に思います。
Tesla CEO Defends Electric Cars After Battery Fire
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