4/01/2025

[pol] Marine Le Penが公金使い込みで有罪判決、被選挙権停止。仏極右崩壊

仏極右系指導者の筆頭であり、Macron大統領の対抗馬として近年支持を拡大し続けていたMarine Le Penが有罪判決を受け、被選挙権停止となってしまったそうです。

容疑は、2004年から2016年と12年にも渡り、EU議会の補佐官用の資金を、自党(National Rally)の職員への給与に私的流用していた、というものです。彼女だけではなく、他に同党所属でEU議会議員として務めた8人及び職員12人も同容疑で訴追され、無罪判決を得たのは1人だけとのこと。要するに党ぐるみでカネについて真っ黒でしたと。

期間、規模、流用した資金の性質等を併せて見れば、如何に彼女が仏政界において重要な地位にあると言っても、アウトになるのも致し方なしでしょう。Le Penとその支持者達の叫ぶdemocracyの危機、等というお決まりの捨て台詞が虚しく響きます。

なお、本判決はまだ1審なので確定ではありません。ほぼ確実に上訴もなされる見込みとの事でもあります。が、日本とは違い、上訴をしても被選挙権停止の効力は(上訴裁判所が取り消さない限り)消えないそうです。停止期間は5年。(なお、上訴に伴い拘禁や罰金等、その他の刑の効力は停止するそうです。被選挙権だけ別扱いな理由はなんでしょうね?)

しかるに、一般に上訴の審理には数年かかるとのこと。判決の内容からして、審理中に取消がなされる可能性は限りなく低く、その間は被選挙権は復活しないものと見られています。

つまり、Le Penは事実上次の仏大統領選には出られない、と言ってよいだろうわけです。勿論、党の顔と多数の中核メンバーをまとめて失ったNational Rallyも総崩れ必至です。お疲れ様でした。

言うまでもない話ですが、今回の判決はEU全体としては歓迎すべきものです。対Trump、対Russiaで連帯を強めるEUにとって、その中心的役割を担う仏の右傾化とそれによる不安定化は大きな懸案の一つだったところ、このタイミングでのその主要因たる彼女と同党の失権はあまりに都合が良すぎて裁判への政治的な介入の気配を感じずにはいられませんが、それ自体が正当であれば問題はないでしょう。

綺麗に懸案が片付いたわけではなく、まだドイツをはじめ各国に大小様々な不安定要因はありますが、とりあえずまとめ役の仏が安定するなら、EU全体が内部から分裂瓦解、というような破滅的な危機はさしあたり避けられそうで一安心です。

とはいえ状況の変わる速度も程度も激しい昨今ですから、束の間の平穏、あるいはそれ自体錯覚に過ぎないのかもしれませんけれども。代わりがすぐに出てくる可能性も高いでしょうしね。それ自体はしょうがない話なんですけれども、新興勢力が揃って平和とは真逆の方向にばかり向かおうとするのはどうにかならないものなのでしょうか。

French court finds far-right leader Marine Le Pen guilty in embezzlement case

3/14/2025

[pol] 中途半端な知識は時に身を滅ぼす

石破首相も終わり、でしょうか。

元々憲法解釈等で素っ頓狂な自説を披露する等して、法律に関する正確な知識・理解に欠けているところを伺わせており、そのうちとんでもない失敗をやらかすのではと、大いに不安を感じずにはいられなかった首相ですが。案の定というか、やってしまったようです。

事案自体は極めて単純です。一年生議員15名に対して各10万円相当の商品券を配ったとのこと。政治資金規正法違反(21条の2)である事は明らかです。 

当然に追求を受けた石破首相は、個人的な土産であり政治活動上の寄付ではないと主張しているようですが、一考の価値もありませんね。そもそも会食の土産、の時点で意味がわかりません。なにそれ。

しかも、同様の金品の配布はこれまでにもやっていたと口走ったそうで。本人は慣習的な意味での正当性を主張したつもりなのかもしれませんが、社会一般にすらそんな慣習はないし、仮にそのような慣習があったとしても、厳格に規制されている政治家への寄附の違法性を阻却するものとは到底考えられず、そうである以上、何ら反論になっていません。どころか、それはむしろ余罪の自白そのものです。流石に恐れ入りました。

ただ、その言だけを見れば苦し紛れの世迷い言とも取れるお粗末な物言いですが、その他の石破首相の言も合わせて見ると、本人は本気で合法だと思っていたようにも見えます。 そんな危うい認識でこれだけ長い間議員として活動をして、よく今まで摘発されずに済んだものだと、悪い意味で驚きを覚えずにはいられません。

勿論、首相は立法府の一員ですから、法律とその規定についての知識をそれなりに有してはいるのでしょう。しかし、彼の言葉の端々からは、法律を、自分を含めた社会全体を規律する客観的なルールではなく、自身に都合よく解釈し得る形式的な建前と捉えている事が伺えます。

その点、首相は法学部出身だからある程度正式に学んだ経験もある筈、なのですが、おそらく法律自体にはあまり真摯に向き合わず、表面的にしか付き合って来なかったか、あるいはかつては持っていた法に関する諸々の精神、姿勢を議員として過ごすうちに失くしてしまったのか。

本来、法律の各規定はそれぞれの趣旨に従い、個々の事情を勘案しつつ合理的に解釈すべきものなところ、彼はしばしばその場その場で自身の都合に合わせて到底合理的とは言えない独自の解釈を開陳し、しかもなぜか強弁します。明文の規定がある場合にそれがないと思い込んだり、逆に規定も学説もない場合にそれがあると思い込む事も。当然、誰の支持も得られません。

おそらく石破首相には、それらの、法律についての正確な知識がないのです。足りない、というだけではありません。個々の規定について、自分に十分な知識があるのかないのか、規定に関連する事柄について自身に適切な判断、発言が出来るのか出来ないのか、その判断も出来ていない。

断片的で不十分な知識を、自身の稚拙な思い込みで都合よく補填した結果、時にあのような不合理な発言が生まれてしまう。指摘を受けても、訂正する事も出来ない。自分でも何処が間違っているのか、何が正しいのかわかっていないから。

自分の中では筋が通っている。自分の知識は正しいと思っている。だから、何故非難されるのか理解できず、反発する。しかし理論的な裏付けもない、あやふやな知識しかないために筋立てた反論が出来ず、出来ることと言えば強弁か、でなければ揚げ足取りや詭弁の類ばかりで他者からすれば逆ギレそのもの。挙句の果てに開き直り。

後から自身の発言を振り返って誤りに気づいても手遅れです。言い訳をしようにも、自身がその道を閉ざしてしまっているのですから。知識は力ですが、それが中途半端だと、逆に自身の首を締める事もあるのです。自身でも気づかない内に。怖いですね。

紛うことなき自業自得、身から出た錆で、周囲には呆れられ、見限られる。石破首相の今の状況はそんなところじゃないかと思うのです。元々仲間が少なく、四面楚歌に近い状況だった事もありますし、流石にもう首相としては終わりなんじゃないでしょうか。もしかすると政治家としても。 

[law] 石破総理のトンデモ憲法論に困惑

3/08/2025

[PC] Windows11の24H2強制適用でPCが死にかけた

ひどい目に遭いました。いやほんとに。

何かというと、Windows11です。多分にその最新の大型アップデートである24H2のせいでPCが死にかけたのです。

最終的には生還させる事が出来たのですが、何日もに渡って、ぶっ壊れたとしか思えない、しかもその挙動がころころと変わる不可解な状態が続き、それに翻弄されて精神的なストレスは尋常ではありませんでした。あと作業にかかった時間、労力も。

概要をまとめると、下記のような流れでした。

[概要]

・24H2の適用が強制になり、サブのミニPCに気づかない内に適用される

・ミニPCが頻繁に落ちるようになる。

・次いでOSが起動しなくなる。LED点灯,ファン回転,無反応等、挙動はまちまち

・色々試行。ファン回転orLED点灯等の頻度が減り、ほぼ無反応ばかりになる

・それでも悪あがきをしていると、ごく稀に起動に成功

・起動成功時に数点設定を変更し、24H2の累積パッチを当てる。不具合解消

という感じです。数日に渡っての悪戦苦闘でした。

悪あがき〜の段では正直9割方死んだかと思い、代替機調達の検討を進めていました。その作業は徒労に終わったわけで、安堵はしつつも少々複雑な気分でもあります。

以下は細かい部分を補足したメモです。長いことPCを使ってきましたが本件のような状態に陥った経験はほぼなく、他でも起こり得る話なのかどうかは極めて怪しいのですが、似たような症状が出た場合の参考になれば幸いです。そもそも起こって欲しくないのですけれど。一応、原因についての個人的な推測も載せていますが、確証はないのでご参考程度に。

[詳細メモ]

ユーザー諸氏もご存知の通り、Windowsの大型アップデートの最新版である24H2がつい先日windowsupdateで強制適用の対象になりました。当然ながら、私が使用しているサブのミニPCも漏れなく対象に含まれていたわけです。

なお、対象のPCはいわゆる中華ミニPCです。メーカーはTRIGKEY、APUはJasper Lake世代のN5095A、メモリはDDR4のモデルです。 使用期間は1年半強。使用頻度は数日に1度の起動で、各数時間程度の稼働でした。流石にこの期間、またその程度の使い方で壊れられるのは信頼性が最底辺の安物にしても少々納得し難く思われたところです。

以前から、設定パネルのwindowsupdateの項目に24H2を任意で適用出来る旨が表示されていた事には気づいていましたが、周知の通り24H2に関しては既に色々と致命的な不具合が山ほど報告されていたので、可能な限り適用は遅らせたい、適用が避けられないにしても不具合が解消されてからにしたい、と思いスルーしていたのです。

が、勿論microsoftが配慮してくれるわけもありません。そんな気遣いが出来るならそもそも不具合だらけの状態でリリースする筈もないのですから。そして容赦なく、不具合が解消される事もないままに強制適用されてしまったのです。バックグラウンドで告知も警告もなく。

そして始まった悪夢の時間。

症状としては、時系列順に以下の通りです。

1. 初期 突然OS自体が落ちる

そのまんまです。特に重い処理でもなんでもない、ただの事務作業中にプツッと電源が切れて落ちるのです。これ自体はマザーボードの故障時や熱暴走時、またUSBハブ等の周辺機器の不具合の際等に割とよく見られる症状なので、ハードの故障かと冷や汗を流しつつも、再起動はするので、PCのメーカー(とmicrosoft)に呪詛を吐きながら未保存で消失した分の作業のやり直しをしたりしていました。

しかし当然ながらこの手の不具合が自然と治るはずもなく、事態は悪化します。

2.中期 起動しなくなる

何度か作業中に落ちた後、立ち上がらなくなりました。結果としてはそれだけの話なのですが、質の悪い事に、その後電源を入れようとした際のLEDやファン等の挙動がコロコロと変わって一定せず、単純にハードウェアがぶっ壊れたとも判じ難い状態でした。なので、諦めるに諦められず、色々と試行錯誤する羽目になったのです。

なお、この間試した事は、USB機器等の取り外し、本体を分解して掃除&メモリ等を抜き差し、CMOSクリア、ACアダプタ等の電圧チェック、等です。

症状の例としては、概ね次のような(2-1,2-2,2-3)挙動がほぼランダムに発生しました。

2-1. 電源ボタンを押してもうんともすんとも言わない(何の反応もない)

2-2. ACアダプタを抜き差ししただけで、電源ボタンを推してもいないのにLEDが点灯してCPUの冷却ファンが回り始め、しかもその状態が続く(ファンが回り続ける)。しかしその間、画面には何も表示されない。

2-3. 電源ボタンを押すと、一瞬ファンが回ってすぐ電源が切れ、その後は2-1と同じになる

他にも、ごく稀にBIOSの起動画面が表示される事もあり、また更に稀にそこから進んでOSのログイン画面まで辿り着く事はありました。ただ、これらの場合はいずれもすぐに落ちてしまってログインまでは進めない、極めて不安定な状態でした。

この不安定さと、比較的頻度が高かったのが2-2の症状であった事から、熱暴走か、でなければ温度センサあたりが逝ったのかと疑いました。もちろん発熱は全くしていないし、温度センサは壊れやすい部位ではない筈な事もあって、その見方もあまり有力とは思えなかったのですが。

症状的にハードウェアが逝った可能性は高い、しかし完全に壊れたと言い切れるわけではない、と判断に迷いつつ、考えうる操作の組み合わせを試しましたが、改善の兆しは見られませんでした。しばらく試行錯誤を繰り返し、徒に時間を浪費する事になります。 

そして現実は非情でした。症状は改善するどころか、悪化へと傾いたのです。

3.終期 殆ど基盤が完全に壊れたように見える

2で行った操作をしても、LEDは点かず、ファンも回らない。当然画面も出ない。無反応。つまり、2-1.の状態が殆どになったわけです。

ここに及んで、その症状からして基盤の故障が原因である可能性が高く思えた事から、復旧を諦めかけました。実際、代替機の調達も検討していたのです。

しかし、殆ど無反応ではあるけれど、稀に反応がある。であればハードウェアが完全に壊れたとも言い切れないのでは、と半ば諦めつつも未練たらしく比較的長い時間の放置を絡めて色々試していると、ハード面の反応が見られるケースが見つかったのです。

4.蘇生期

反応が見られたのは、主に次のような操作(?)を行った場合でした。

・電源ケーブルを抜いてしばらく放置(数時間〜)した後に電源ケーブルを刺し込む

こうすると、高確率で2-2の状態になるようになったのです。起動はしないけれど、LEDが点灯してファンが回り続ける、という症状です。

そして、またなんでこんな挙動が、と理解に苦しみつつそれを何度か繰り返していると、ついに決定的な変化が現れました。OSの起動に成功するケースが発生したのです。

のみならず、起動に成功した後は、それまでの不調が嘘のように正常かつ安定的に動作するのです。恐る恐るログインし、色々と操作をしてみても、落ちるそぶりもありません。

もちろんこれ幸いと、まずデータ類のバックアップを取り、次いでアップデート時に不具合の原因になりやすいとされる高速スタートアップを無効化。

しかし、再現を願いつつシャットダウンすると、また起動しなくなってしまいました。

だけれども、ついに掴んだ解決への糸口です。一度成功したのだからと、またケーブル抜き放置からのケーブル差し込みを繰り返していると、やはり稀に起動に成功するのでした。起動後の動作は問題ない事も同様です。

この段になって、ようやく原因はハードウェアではなくソフトウェア、すなわちOS(とBIOS)の方にあるのでは、と思い始めます。つまり、ブートの最初期の段階で躓いているのでは、と。

ではソフトウェアの何が問題なのだろう?そういえば24H2がそろそろ強制適用される時期だった筈。確認すると確かに適用されている。いつの間に。不具合の出始めたタイミングと完全に合致しており、これが偶然とは考えにくい。

24H2が深刻な不具合を多数引き起こしていた事は知っていました。その中にPCが落ちるとか起動しなくなるというものがあった事も。おそらくこれが原因だ。

という流れで、やっと原因が24H2であるらしい事に気づいたのです。この時の脱力感は半端なかったですね。Microsoftへの憎悪も当然感じました。ふざけるなと。

ここまで気づいてしまえば、後は簡単です。強制適用直後に不具合に陥ったのなら、24H2の不具合に対処するためのパッチはまだ適用されていない筈。これをあてればいい、とネットワークに接続してwindowsupdateを実行してみると、24H2の累積アップデートが降ってきました。当然適用。

適用後は、それまでの不調が嘘のように普通に起動するようになったのです。再起動も問題なく出来るようになり、一連の不具合は全て解消されました。

不具合の発生から解決まで、一連の事の次第は以上です。 

[具体的な原因についての推測]

それで、結局具体的には24H2の何が障害になっていたの?という疑問が残るわけですが。これについては色々調査したものの、今に至るまで確証はありません。

仮説はあります。多分にセキュリティ関連、特にセキュアブートの部分にバグがあったとかではないかと思うのです。

というのも、イベントビューアのログ等を確認したところ、当該PCでは以前からセキュアブートに問題があったらしく(自覚はありませんでした。おそらく購入当初からそうなっていたものと思われます。なおTPM2.0は有効)、それに応じてエラーが記録されていました。

なおBIOSを確認したところでは、セキュアブートは有効に設定されていました。なのに何が問題でエラーが出ているのか、それは推測するにも情報が乏しく難しい。もやもやします。

この点、24H2の起動に関する不具合の大部分はBIOS(UEFI)の更新で解決するケースが報告されている事、また24H2ではTPMも含めたハードウェアに関連するセキュリティ回りの大幅な変更(厳格性の強化)が行われたらしい点等を併せて考えると、セキュアブート回りで想定と異なる挙動があった場合にOSが起動に失敗するバグがあった可能性は低くないと思われるのです。その真偽を確認するのはこれまた困難なのですけれども。

もしそうであれば、本件のような不具合が生じるor生じている可能性は実はものすごく高いのでは、と考えて、背筋が寒くなりました。こんな推測は外れていた方がいい、とも思います。もしそうでも、既に今更というか手遅れでどうにもならない話なんでしょうし。

[最後に]

何にせよ、ひどい目に遭いました。対処に費やした数日に渡る時間と労力は勿論の事、解決までミニPCがまともに使えず、その間当該PCで行う筈だった事務作業等が滞りもしました。原因の分析と推測が正しければ、私にはMicrosoftとPCメーカーに不法行為ないし製造物責任の義務違反に基づく損害賠償を請求する権利があると思うんです。 少なくとも10万くらいは。

しかしMicrosoftもPCメーカーも、24H2に限らずこの種の損害に対して補償をした例は殆どありません。まさしく無責任。これだからWindowsをメインで使う気にはなれないんです。

とはいえ、これでもまだサブだったから被害がマシだった筈なのです。もしメインだったら、と思うとゾッとしますね。ちなみに、今回そのPCを使っていたのは、Windowsでしか動かないアプリを使わざるを得ない作業だったからです。そうでなければ誰が使うものかこんなもん。

 Linuxならこんな事は起こらないのに。。。世の中の標準がLinuxに移行する事を願わずにはいられません。たとえそれが不可能だとわかっていても。

3/05/2025

[pol] 米国中心の世界秩序の終焉

ひどかったですね。Zelensky大統領とアメリカ首脳連との会談。

話が全く噛み合っておらず、あまりに醜悪で、見るに耐えませんでした。

特にVance副大統領は一体何がしたかったんでしょうか。最初からまともに話をするつもりもなく、もちろん援助を続けるつもりもなく、ただ自身の嗜虐性を満たすために、相手の窮状に付け込み理不尽な難癖を付けて、挑発し辱めた上で屈服させて悦に入ろうとしていたように映りました。

そして当然に決裂。もはや米国には頼れない。期待する事も出来ない。米国にその意思がないのだから。苦悩に満ち、悲壮感も色濃いZelensky大統領の言動には、そういう諦めがありありと見て取れました。おそらくは、他の殆ど全ての国の指導者や市民も、同様の思いを抱いたのではないでしょうか。

UkraineとRussiaに対する一連の振る舞いを見る限り、米国は、自国領土の近隣地域とIsraelのような自国内で影響力を確保しているごく少数の例外を除く、ほぼ全ての地域について、その安全保障に関わる事を放棄しようとしているように見えます。

否、それどころか、GreenlandやPanama等の近隣諸国、それにGazaやUkraine等の紛争地域に対する姿勢は、武力行使にこそ及んではいないものの、明らかに侵略者のそれです。もはや米国はRussia、Chinaと同様の、ならず者国家の一員に成り下がりました。

善意の協力者としての建前を捨て、圧倒的な暴力を盾にして、財産を差し出せ、領土をよこせ、属国になれと要求する。しかもあらゆる発言、提案、約束を、その時の都合に合わせてなかった事にさえする。

このような振る舞いを見て、米国を信頼できると考えるような者はいないでしょう。最低限の判断力があれば、要求に従ったところで裏切られるだけ、そう悟り、どうやってその侵略・干渉を回避ないし緩和するか、身の振り方に頭を悩ませる事になるのです。

Russia、China、そして米国。大国が揃って武力による侵略に傾斜するのは、ある種の必然なのでしょうか。おそらくそうなのでしょう。倫理の欠如した権力者にとって、武力はあまりに便利なツールです。面倒な交渉も政策もすっとばして、およそ全ての犯罪が思いのままなのですから。脅迫も強盗も、もちろん殺人も。ほとんど全ての独裁者が、善良な市民の敵に堕ちる所以はそこにあるのでしょう。その点、米国も例外ではなかったというだけの事です。

米国では、国連からの脱退さえ現実的な選択肢として取り沙汰されています。米国が世界の警察と言われた時代は、既に過去のものになりました。多極化を強める世界にあっては、むしろそれは自然な事なのかもしれません。

欧州の事は欧州が。中東の事は中東が。アフリカの事はアフリカが。アジアの事はアジアが。そして、米国の事は米国が。その地に住む人がそれぞれに決める。争う。自国を脅かす者は誰であろうと打ち倒すべき敵となる。米国もその例外ではなく、むしろRussia、Chinaと同列の侵略者に位置づけられる。

かくして大国は独裁的な覇権主義に染まり、それぞれの利益のみを追求し、その国土を拡大させるべく侵略を目論む。侵略を受ける近隣諸国はその脅威に怯えながらも生存をかけて抗う。存亡の危機を前にして、必然的に各国は軍事力の強化を際限なく進め、生産力を低下させ、生存に必須ではないものを切り捨てる。

訪れようとしている世界のあり方が、近代化以前の、原始的な世界のあり方に回帰していくように見えるのは、多極化のもたらす自然な帰結と言うべきなのか、それとも退化と言うべきなのか。いずれにせよ、米国中心の世界秩序は終わろうとしています。

その行き着く先に、悲劇の少なからん事を、そして、避け得ない破滅が訪れない事を願いつつ。

2/20/2025

[biz] 米EVトラックNIKOLA破産

EVバブルの崩壊を実感させる出来事がまた一つ。

米NIKOLAがChapter11の申請をして破産したそうです。

かつてTESLAの後追いで沢山生まれたEVメーカーの中でも、名前からしてとりわけパクリ感の強かった同社ですが、既に殆ど忘れられた存在になっていました。私自身、そういえばそんな会社もあったね、と今回の報を聞いて思い出した位です。

破綻自体は、まあ、そりゃそうだろう、としか。同社が開発・製造していたのは大型トラックですが、EVはその巨大なバッテリーの重量が致命的に大型車とは相性が悪く、重すぎて例えば日本国内では法令上の重量制限に引っかかって殆どの道を走れないという、わけのわからない代物になってしまっていました。 

さらに、数年前にはモックアップを走っているように見せかけたプロモーション映像で資金を集めて詐欺で訴えられたり、全車リコールをやらかしたりと、色々と不祥事が絶えなかったそうです。なお、投資詐欺等で訴えられた創業者で当時のCEOのTrevor Miltonは既に有罪が確定しています。(4年の実刑+1m$の罰金)

それでも年に数十台程度は売れていたようですが、採算が合うわけもなく、当然のように毎年数億$レベルの赤字を垂れ流し続け、この程ついに資金が底をついた、というわけですね。株価は既に殆ど下がりきっていたようですから、関係者も市場もみな織り込み済みの結果なのでしょう。

むしろ最初からその構造上事業として成り立たないだろう事が明らかだったのに、よくそんな体たらくでここまで保った、と評するべきなのかもしれません。

その意味で、十分な実体を備えない殆ど詐欺同然のスタートアップも、投資をする側が実体に頓着せず、最低限の精査すらしようともしない(あるいはその能力がない)ために、最低限の外面的な体裁と流行のネタに絡んだ話題性があれば巨額の資金を集める事が出来てしまう、バブル生成機構としての株式市場を含めたスタートアップ環境の病的な現状を象徴する一例であったとも言えるのかもしれない、とそう思うのです。

太陽光バブルは既に遠く過ぎ去り、さほど時を置かずEVバブルも破綻しました。しかし同様の、実体がないのにあたかも実体があるかのように見せて無知・無頓着な人から資金を集め、資金が集まっている、という事実のみによって得た仮初の価値によってさらに資金を集め、ガワに使ったネタの神通力が切れたらゴミになる、という詐欺同然の仕組みの投資対象は、見た目だけを変えて日々生成と消滅を繰り返し、途絶える気配はありません。

現時点でその代表的な立ち位置にあると言えるだろう暗号資産も、バブルの生成と崩壊を無限に繰り返しながら今の所は存続していますが、さてあちらはいつまで続くのでしょうね。 NFTは終わった感がありますし、有象無象のmeme系の暗号資産についても同様に終わりが見えているように見えます。 

BTCやETHについては正直先が読めません。その仕組み上維持に必要となる計算リソースのコストはあまりに重く、それ以上のバブルの膨張を続けられなければ維持出来ないだろう事は明らかであり、膨張が止まれば終わらざるを得ない、それは間違いないでしょう。

しかし、虚像のバブルがそうと知られながらここまで長期間に渡って膨れ上がった例も今までになく、当然にその終わりに直面した経験もないために、先行き及び着地点の予想が困難なのですよね。それ自体に実体的な価値など無い事は他と同じなのだし、危ういにも程があるのは事実なのですが。

Nikola goes bankrupt, to sell assets in latest EV market turmoil

2/08/2025

[biz pol] 当事者不在で勝手に決まった事にされる恐怖のTrump's deal

日本製鉄によるUS Steel買収の件で、Trump大統領が石破総理との会談の席でまたよくわからない事を宣ったそうで。

曰く、"過半数の持分(majority of stake)を取得せずに多額の投資をする事になるだろう"、と。

これを素直に読むなら、発行済株式総数の半分以下の範囲での出資&業務提携、という意味合いであるように思われます。まさか予約券なしの社債発行とかじゃないでしょうし。

仮にそうだとして、具体的な出資額は次のような感じでしょうか。

現在のUS Steelの時価総額はおよそ$8.3billion、1.2兆円。その半額だと6000億程度。1/3なら4000億。確かに多額ではあります。日本製鉄の時価総額は3.6兆円程度ですから、その1割から2割弱程度の資金を投入する計算になります。

日本製鉄がその資金をどこから調達するのかはわかりませんが、自己資金で賄うには厳しい額でしょうから、おそらく基本的には株式を追加発行して調達するのでしょう。この金利上昇局面で金融機関からの借り入れは博打が過ぎるでしょうし。

何にせよ、経営権を握らないのなら、出資自体は金融機関がするのと同種の純粋な投資になります。である以上は、リターンがプラスになる見込みがなければ話になりません。少なくとも、資金調達コストをペイするだけの収益を上げた上で資金を回収出来る見込みが立たなければ実行出来ないでしょう。

ですが、US Steelの経営状況、また今後の見通しは知っての通り非常に芳しくなく、むしろ資金だけ出してもすぐに食いつぶされて終わり、になりかねない状況です。

普通に考えれば、そのような危険な状態の企業に、金だけ出して経営には口出しせず黙って見ているだけ、などという条件で多額の資金を出そうという者はいないでしょう。そうでないなら、とっくにファンドなりが出資して、そもそも外資たる日本製鉄などに出る幕はなかった筈です。

必然的に、今のUS Steelに資金を提供するには、その経営を抜本的に改善する施策とセットでなければならないわけです。そして、その施策の実行を担保するには、経営権を取得しなければならない。ゆえに、議決権の過半数取得は出資に際しての欠くべからざる条件になる。経営危機に陥った企業の救済の大半が買収の形を取る所以です。

なのに、Trump大統領は、金だけ出して口出しはしない、という条件を出して、しかもそれが既に決定事項であるかのように言ったわけです。Trump大統領はもちろん、その話相手の石破総理も含め、出資交渉の当事者が誰もいない場で。当然根回しも何もありません。

意味がわかりません。何の権利・権限があってそんな発言をするのか。US Steelはともかく、日本製鉄がなぜそのような案を飲むと思えるのか。そもそも仮にその案の通りにするとして、US Steelの経営危機自体は解決しないわけで一時凌ぎにしかならず数年後に破綻してしまう、それじゃ意味がないだろうと。

本来そんな事は一々指摘するまでもない話な筈だし、両政府の管轄部門を含め、関係者は当然よくわかっているだろうに、トップがアホだとこんな無茶苦茶になるんですね。目を覆うばかりの惨状とはこの事です。

とりわけ、日本製鉄は今頃大混乱でしょうね。。。担当者はストレスで死ぬんじゃないでしょうか?日本政府も同意した事にされて、しかし純然たる私企業同士の話に口出しする権限も筋合いすらもなく、否定しようにも正面切ってTrumpの顔を潰すわけにもいかず、経産省も外務省もどうしたものかと途方に暮れているのではないかと。おそらくは米国側の産業回りの担当部署も。

当該発言の際には、日本製鉄のNipponをNissanと言い間違えてもいた、という冗談のような話もあるそうです。Trump大統領はマジでボケ始めているのでは?との疑念もちらつきます。就任したばかりの今からのそれは洒落になりませんね。勘弁してほしいものです。

いや、正気で言ってるならそれはそれで困るんですけれども。いやはや。

Gazaの件といい、お前部外者だろうが無茶苦茶言うな案件が連発していますが、そういうのは流石に迷惑でしかないのでやめて頂きたいですね。

2/05/2025

[biz] ホンダ・日産の経営統合、あえなく破談

まあそうなりますよね、としか。むしろ成立すると思ってた人っているんでしょうか。公表から一ヶ月あまり。ホンダ・日産の経営統合の件、具体的な組織上の手続きに入る事もなく、また株主からの反発等を受けるまでもなく、経営陣同士の交渉、その初期の時点で早々に破談したそうです。

救済される側の日産の側から撤退した点は少し意外だったというか、いやそれは殆ど部分的廃業にも等しいリストラ要求とホンダに吸収されるも同然の合併形態・比率等に我慢ならなかったというだけなのでしょうけれど、それでも存亡の危機にあるのは事実なわけで、一体日産はこれからどうするつもりなんだろうと疑問を抱かずにはいられないわけです。

今の日産にホンダ以外の、今回ホンダが要求したであろうより良い条件、つまり対等な立場で合併等を申し出てくれるあてがあるとも考えられません。本件によって日産に抜本的なリストラ等をする気がない、すなわち経営状況の改善が望めないという事が明らかになってしまった今となっては尚更でしょう。もはや同業他社による救済の道は閉ざされたも同然です。

である以上、もはや日産には独力で立ち直る以外に生き残る術はない事になります。

言うまでもなく猶予はさほどありません。事業自体、強みらしい強みもなく、手札は無いに等しい。組織は腐敗しきって機能不全。それでいてプライドだけは山より高い。そんな日産が、残されたわずかな時間で、経営統合という目標もなく、外部からの圧力もなく、自律的に体質も含めた事業の抜本的な構造改革など出来るものでしょうか。正直不可能なのでは、と思わずにはいられません。

さよなら日産、と別れを告げる日はそう遠くないのかもしれませんね。そうなったとしても、完全に自業自得なので同情する気も起こりませんが、行き詰まった企業というのは無残なものだなと、しみじみ思うのです。

[biz] 無理筋に見えるホンダ・日産の経営統合 

<補足: ホンダの言い分も酷い件>

とはいえ、今回のホンダ側の言い分も大概ではあって、到底支持出来ない酷いものではあります。

ホンダは、日産をホンダの子会社にするという、当初の合意から大きく逸脱して、基本的な枠組みを自分に都合のいいように大幅に変更する重大な要求をしておきながら、日産側に殆ど検討の時間を与えず、その上で意思決定が遅いと宣ったわけです。

公表前の水面下での話ならいざ知らず、既に基本方針も公表されている以上、そのような重大な不利益を伴う変更の是非の判断を日産側経営陣が独断で出来るわけもなく、社内外との調整検討説得に多大な手間その他の困難がある事は明らかであるにも関わらずです。

救済する側される側として事実上力関係ははっきりしていたとはいえ、少なくともその時点での建前上は別企業として当然に対等な立場の交渉相手であり、そもそもこれから一つの企業体として仲間になろうという相手に対し、あまりに傲慢かつ不誠実で理不尽な振る舞いと言わざるを得ません。正直ドン引きです。

そのような扱いをあからさまに受けて、日産側が屈辱を感じなかった筈はありませんし、もはや信頼できないし経営統合など論外、と判断するのも仕方ないでしょう。その意味で、日産側にも同情すべき点は大いに認められるのです。経営危機云々は別にして。

2/04/2025

[pol] 予想通り?世界を振り回すTrumpに試される平常心

Donald Trumpの大統領就任から2週間。激動、というべきなんでしょうか。何か違う気もしなくもありません。

何にせよ、概ね予想通りとは言え、洒落にならないレベルの過激な大統領令の連発に世界中が振り回され、精神的にとても疲れる日々でした。それでも、人は慣れるもの、な筈です。数ヶ月もすればきっと。・・・多分?

これまでの振る舞いを一期目と比較して見ると、個人への攻撃的な言動は殆どなく、その代わりに特定の属性毎の集団にターゲットを絞っている点に違いがあるように見えます。

各々の行動に際して何も根回しもせず、合憲性すら考慮せず、周囲を混乱に陥れる点は同じなのですが、対象が桁違いに広く、また規制等の程度が前例がない程に過激なため、個人から企業団体まで、一瞬にして危機的状況に見舞われる人たちが膨大に発生し、各所で当然に阿鼻叫喚の大混乱が生じました。Trumpが大統領の権限について理解を深め、より効果的な行動を選択するようになったものと評価できるでしょう。

米国籍の出生地主義の廃止は早々に違憲との司法判断から差し止められ、連邦政府の補助金・貸出金の一律停止についても司法により一時差止措置が取られましたが、それ以外の、米国憲法による規制が原則として及ばない対外的な政策については抑止が困難で、個々に標的となった近隣国等の対象との間の交渉に委ねられています。

相手が国家であれば、アメリカ側が圧倒的に優位とはいえ、何もせず黙って受け入れる程弱くもないわけで、対抗措置の応酬が当然に始まり、その損害が割に合わないとなれば和解がなされ、結果として当初懸念される程の深刻な事態への発展までは至らないケースが多いでしょう。

交渉が不可能ないし困難な相手なら?言うまでもありません。不法移民のような交渉の余地のない相手は無論、DEI関連職員等のマイノリティには抗う術はなく、淡々と排斥が進められていますね。このあたりはTrumpの公約の中核的な部分ですし、法的にも問題は殆どありません。このまますんなり行くところまで行くでしょう。

流石にカナダ・メキシコへの25%の関税については、その目的(オピオイドの流入抑止等)に比してあまりに国内経済への影響が大きすぎるし、報復措置もきつく、主に経済界からの反発を受けてあっという間に殆ど事実上の撤回に等しい延期に追い込まれました。このインフレ下でさらに何割も上乗せとか、米国民からしたら何の冗談だって話でしょうしね。

しかし、中国への10%追加についてはそのまま実行されそうです。もっとも、中国はWTOに提訴する構えを見せていて、提訴されれば間違いなく米国は負けるでしょうから、そう長く続くわけではないかもしれませんが。

とまあ、やっている事は過激ではありますが、実のところ概ね公約通りでもあります。その意味で驚きはないのですけれども、程度の面で予想を超えていた、という向きも多いようです。そういう意見については、正直甘いのでは、と言わざるを得ません。

明確に国民の多数の支持を得て大統領に復帰したTrumpには今更恐れるものもためらう理由もなく、1期目より過激になるだろう事は目に見えていました。これまでの言動からおよそTrumpが実行し得る事は原則として全て為されるものと想定すべきです。

もっとも、インサイダーなど知ったことかと無価値な暗号資産を売り出して儲けようとした件など、大多数からも想定外だろう権力濫用の類もないわけではありません。とはいえ、そのレベルになるともう予想とかしても無駄だろうし、影響もたかが知れているでしょうから、事が起こった後でその都度対処すればいい話なのかもしれません。

疑心暗鬼は百害あって一利なし。無警戒は難しいでしょうしするべきでもありませんが、過剰な心配はしないに越したことはありません。落ち着いて見れば、大多数の人にとってTrumpの振る舞いが実際に利害が絡む点はそう多くはありません。平常心を心がけましょう。

ただ、軍事関連についてだけは別です。軍事政策でのやらかしは、およそ取り返しのつかない事になるので。その意味では、Trumpが軍事関連には一貫して消極的な点だけは救いと言えるでしょうね。どうかこのまま乱心を起こさずにいてくれますように。

[pol] インフレに翻弄される米国、その先に待つもの

12/27/2024

[biz] 無理筋に見えるホンダ・日産の経営統合

このところ世間を賑わしている、自動車大手ホンダと日産の経営統合の件なんですけれども。既に多数の指摘がある話ですが、私もあまり筋のいい合併ではないだろうと思うのです。 

ホンダによる日産の救済という話なんですが、救済になってないんじゃないかとも。というのも、周知の通り両社はあまりにも事業の内容が被りすぎているのです。

通常、企業の合併によって得られる利点は、主に互いの弱みを強みで打ち消す相互補完とスケールメリットの2点です。

ですが、このうち前者については、それぞれの強みと言えるだろうのは日産がEVと運転支援関連で若干先行している点、ホンダが自動車以外も作っている点位で、両社の事業の大半を占める自動車製造業本体についてはもろ被りです。

そして、後者のスケールメリットについては、前提として設計・部品の共通化が必須になりますが、そのためには被っている部分を一本化する、すなわち単純にいずれかの競合車種をリストラする必要があるわけです。付随する開発部隊等の人員・組織も含めて。

そうすると、結局のところ片方が生産・販売部門だけを売り払って廃業するのと殆ど変わらない結果になってしまいかねません。

それはそれで、両社を合わせて一つの連合体と見た事業全体の合理化という観点からすれば、いずれか一社規模の冗長性が解消されるのですから無論有意には違いないでしょう。実現できるのなら。

けれども、両社の個別のステークホルダーの立場からはどうでしょう。銀行等の債権者は問題ないでしょう。彼らは最終的に債権を回収できればそれでいいのですから。しかしそれ以外、殊に社内はおそらく経営陣以外反対一色だろうし、株主にも反対する向きも多数いるのではないでしょうか。

業績等を見る限り、現時点では経営危機にある日産の方が弱い立場にあるのは明らかですから、とりわけ日産側の社員は自分達がリストラされる可能性が極めて高いだろう今回の合併には猛烈に反対するでしょう。株主も、救済と捉えて歓迎する向きもいるでしょうが、事実上の廃業になりかねない本件については、歓迎一色とはいかないのではないでしょうか。

逆に、差し迫って経営危機にあるわけではないホンダ側にしてみれば、自分達の側がリストラされない保証はないし、何より近年不正が多発している日産の開発・生産部隊を受け入れる事に懸念や忌避感を抱く社員は多かろうと思われます。もちろんホンダ側の株主にも同様の懸念はあるでしょう。日産がホンダにない特別な必須技術を持っているわけでもなし、割に合わないと評価する向きは少なくないでしょう。前提とされる日産のリストラや採算改善等についても、その実現性は極めて怪しいわけですし。

その辺りの事情を鑑みると、正直言って本当にまとまるのか、とこちらも懐疑的にならざるを得ません。

そもそも、いくら両社の経営陣が合意したとて、最終的に決定権を持つのは株主です。合併等に必要となる両社株主の各々2/3の同意を総会で得られなければ実現しません。しかるに両社とも株主は多種多様で、主要株主の同意だけでは足りません。経緯からして両社経営陣のトップダウン的な決定で、株主への根回しは全くされていない様子ですし、普通に考えれば無理筋じゃないでしょうか。

ただ、かと言って今の日産をこのまま放置すると、本当に潰れてしまいかねないし、合併に準ずるような措置が必要なのも事実なのでしょう。どうしたものでしょうか。

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一ヶ月と少し後。早々に破談したそうで。お疲れ様でした。日産はもう駄目かもしれませんね。

[biz] ホンダ・日産の経営統合、あえなく破談 

12/21/2024

[biz] 米で相次ぐスト、長年のツケを払わされるAmazon

Strikeです。

年の瀬の最中ですが、米国ではそんな事関係ないと言わんばかりにStrikeが頻発しています。

秋頃に長らく続いたBoeingのストがようやく終わったと思ったら、AmazonのDelivery Driverがスト、続いてStarbucksの一部でもストです。

要求内容はほぼ同じ。賃上げと労働環境の改善です。もちろんこの超のつきそうなインフレ下ですから賃上げが主たる目的である事は明らかです。

要求はBoeingの例に倣えば概ね通る見込みではあります。およそ30%〜が相場でしょうか。インフレ率からすればまだ控えめと言っていい位ではあるのですが、凄い率ですね。

ただ、Amazonだけはちょっと、いやかなり事情が違います。以前日本国内でも一部地域で発生したストの時と同様、 配送担当のドライバーは形式上Amazonに雇用されているのではなく、委託契約を受けた下請け業者の立場にあります。なので、AmazonはそもそもDriver達(及びその結成したUnion)を交渉相手と認めておらず、門前払いしている状況なのです。

日本の労働法で言えば、契約の形式によらず、実質的にAmazonの指揮命令下にあればその限りで雇用関係にあるものとして交渉権が認められるものと解されていますから、その拒否は違法という事になるだろうわけですが、米国の労働法は統一的なものではなく、しかも連邦法・州法によって様々な規定が分散していて一概にこう、という解釈が困難らしい感じなのですね。

だから門前払いも即違法とはならず、そこから裁判、もしくは実力行使で争う必要がある。何にせよ、時間稼ぎにはなるでしょうし、その間にAmazon側が個別に契約解除なりしてしまえば終わりだったわけです。これまでは。今回はそうなっていません。何故か?それは、Driver達をAmazonの被用者と認めるお墨付きが最近になって出たからです。

一般的な感覚では、注文から配送まで完全に一体のシステムとして組み上げられたAmazonの通販サービスの中で、機械的に委託を受けるドライバーに個別の裁量の余地などなく、実質的にAmazonの指揮命令下にある労働者と見るべき事は明らかですが、米国の労働関係局が最近になってAmazonを"joint employer"、つまり実質的な雇用者に分類する判断を示したのです。(もっとも、Amazonは不服として争っているそうですが。)

このお墨付きが与えられた事によって、これまで成立しづらかったUnionが成立し、ストが起こせるようになった、というわけですね。

とはいえ、Driver達のUnionは、Amazonの労働者の一部に過ぎず、ストの効果も限定的で、交渉力は弱く、要求をAmazonに飲ませるには不十分です。そこで、その弱い交渉力を補い、ストを効果的なものにすべく、Amazonの他の部門の労働者とも連携を進めており、その一環としてNY,California等の一部Hubの労働者がDriverのストに呼応してWalkoutを実施しました。

AmazonはDriverのストによる影響は殆どないとしていましたが、HubでのWalkoutについてはその配送への影響を認め、遅延等の発生を警告しています。つまり、ストが機能している。これまでのようにAmazon側が無視して終わり、とはいかなくなっているわけです。

今後の見通しは不透明です。決着の形以前に、そもそも交渉の席に未だついていない、という現状からして、Amazonのストが収まる見込み自体立っていません。しかし事業に無視できない支障が出ている以上、無視・放置を続けるわけにもいかないでしょう。

また、これまで交渉自体を拒否し、放置し続けて来た経緯上、労働者側の溜め込んだ不満は尋常なものではないだろう事は明らかで、その分要求は苛烈なものになるだろう事も必至です。Amazonにとって、その交渉は困難を極めるものになるでしょう。長年のツケを払わされる時が来た、という事なのかもしれません。であれば自業自得と言う他ないのですが。

委託契約を使って雇用・労働法制を潜脱し、不当な労働条件・環境を強いてきた搾取企業の代表であるAmazonの、その悪しき体制の終わりにつながるのか、労働者達の健闘を祈りつつストの行方に注目する次第なのです。

Amazon workers are striking at multiple facilities. Here’s what you should know

<追記>

一部のwarehouseもストに参加したそうです。それらの地域ではクリスマス休暇の配送が相当割合困難になる見込みだとか。これはAmazonを避けるユーザーが沢山出そうですね。

Starbucksもストに参加する地域は増えている模様。こちらもクリスマスの営業が出来なくなるということで、Amazon程ではないにせよそれなりに機会損失は痛そうです。

<追記2>

Amazon,Starbucks共にストは予定通りクリスマスイブに終了しました。両社共に組合の要求に応えた様子はなく、組合は今後も要求を続ける旨の声明を出していますが、現時点では具体的な成果は得られていないようです。それとも内々に何らかの措置が取られたのでしょうか。

いずれにせよ、騒がれた割には肩透かしな結果になったようで少々残念です。

12/11/2024

[biz] GMが自動運転タクシー事業から撤退

米自動車大手GMが、自動運転タクシー事業からの撤退を決定したそうです。

同事業は、子会社のCruiseを通して実施されていたものですが、2023年にSan Franciscoで女性に重篤な怪我を負わせる人身事故を起こして以来その運行は停止され、罰金も課されていました。運行再開の目処も立たないまま、結果としてこれが致命傷になった格好です。

米国のrobotaxi事業自体はまだ黎明期にありますが、既にWaymoをはじめ、Teslaの参入も報じられるなど、技術的成熟も社会からの認容も待たず、早くも過当競争に陥る兆しを見せていました。収益など無いも同然であっただろう事は明白です。

GM社は、その市場環境の先行き見通しの不透明さに加え、技術的な課題の困難さ、開発コストの高さ、前記のような事故のリスク等を勘案した結果、事業としての成功が見込めないと判断したものと思われます。

今後は、ドライバーレス車の開発は全て中止し、通常の運転支援技術に注力するとの事。事故の際の責任が全てメーカーに降り掛かってくるその性質上、やはりドライバーレスの自動運転車はメーカーにとってあまりにもリスクが高すぎるのでしょうね。他社はどうするのでしょうか。

そもそもの話、ドライバーレス車をその高い追加コストを払い、諸々のリスクを許容してまで求める人ってそんなにいるんでしょうか。自分で運転が出来る人には少なくとも必須ではないでしょうし、そうでなくとも周囲の人や、それこそ通常のタクシー・uber等、従来通り人に運転を頼めば十分なケースが大半でしょう。

結局、運転手がおらず通常のタクシーもuberもなく、バスすら走っていないような過疎地域において自分で運転出来ない人がメインターゲット、という事になるわけですが、それは極めてニッチな需要でしかありません。ユーザーの密度や許容される単価を考えると、採算が取れるとは考えられませんね。その上技術的にも未熟で安全性も担保されないとなると、やはり事業としては厳しいと言わざるを得ず、今回のGMの判断にも首肯せざるを得ないのです。

GM is pulling the plug on its robotaxi efforts  

12/10/2024

[law] 石破総理のトンデモ憲法論に困惑

石破総理が、なんか変な事を口走ったそうで。

企業・団体献金の禁止の是非に巡る国会での議論の最中に、憲法21条規定の表現の自由に抵触する、との見解を述べた件についてです。

多くの人が疑問を感じたのではないでしょうか。特に法律論に明るくない一般の人には、企業・団体の政治献金が表現の自由で保障されている、と言われても、何を言ってるんだとしか思われないでしょう。 

法的に見ても結論としては似たような感想を持たざるを得ません。全く根拠がないというわけではないのがややこしいのですが、詳細に論ずると切りがないので要点だけ。

本見解は、おそらくは企業献金の合憲性を認めた八幡製鉄政治献金事件を念頭に置いたものかと思われますが、これは一般論として法人も憲法に規定された各種の権利・義務の主体となりうる事を認めたものであって、個々の権利に対する規制の可否とその審査基準については何ら審査も判示もしていません。従って上記見解の根拠にはなりえません。

また、表現の自由により保護される権利は広範に及びますが、その大部分は個人の尊厳を保護の根拠としており、それを観念する事の出来ない法人等については、自ずから憲法上の保護を受けるべき権利の範囲は個人のそれと比して狭く、かつ保護の必要性も小さいものと一般に解されます。

法人等では、その行為につき構成員間での意見の相違や個人の信条との不整合等、個人の人権との衝突も起こり得ます。その場合は、原則として個人の人権の保護が優先されます。すなわち、法人の行為に対する規制が合憲性を帯びるわけです。なお、その規制立法が他の人権を侵害する場合にはその限りで違憲となる事については言うまでもありません。

必然的に、法人等への規制に対する違憲審査においては、個人に対するそれより緩やかな審査基準が適用される傾向にあります。つまり、法人等の活動への規制は合憲とされやすい。というか、余程の明白な違憲性が認められるのでない限り、裁判所が違憲と判断する可能性は限りなく低いのですね。その意味で、個人と法人とは憲法上の保護の度合いが全く違うのです。

規制を違憲とする最高裁の判断が示されたのなら別ですが、それもない。である以上、表現の自由に抵触する、等と言える筈がないのです。現時点で言える事は、規制のやり方によってはその可能性が生じうる、といった程度でしょう。それにしたところで、その判断に際しては、法人独自の権利が保護されるのではなく、最終的にその大部分が個人の権利の侵害如何に帰着するのではないでしょうか。個人の人権を侵害しない限りにおいて合憲、といった形で。

そもそも、企業・団体による政治献金につき表現の自由として保護が及ぶ事と、他の人権の保護のために制限を加える事の是非とはレベルの異なる話なのですが、石破総理の発言ではこれらを混同しています。

石破総理の思い込みなのか、それとも意図的に混同したのかはわかりませんが、少なくとも一般には通じない言説には違いありませんし、あの文脈でわざわざ述べる必要も意味もなかったように思われます。企業・団体献金の規制をしたくない旨をもっともらしく主張したかっただけなのかもしれませんが、不適切と言わざるを得ませんね。困ったものです。

12/08/2024

[pol] また一人、中東から独裁者が消える

ついに、でしょうか。IraqのHussein,LibyaのGaddafiに続き、また一人、中東から独裁者が消えます。 

親子二代、50年以上に渡って中東Syriaの支配を続けてきたAssad家ですが、国内武装勢力に敗北し、その支配が終わろうとしています。既に首都Damascusは包囲され、事実上陥落したも同然の状況となり、Assad大統領は既に国外に脱出したとの情報も流れています。

Bashar al Assad。2000年に父のHafazの後を継いで以来、常に不安定な中東情勢にあって、その戦場の中心の一つとして、国内の武装勢力、Al QaedaやIslamic states等のイスラム諸勢力、Israel等の敵対国家まで、国内外の様々な勢力との戦争に明け暮れる一方、就任直後の粛清と知識人等の大量逮捕・収監に始まり、Sunni派の弾圧、また数多の虐殺といった明らかな犯罪にも頻繁に及び、多くの人を常に虐げ、殺し続けました。

それはまさに、血塗られた、と形容するにふさわしい独裁者のそれだったと言えるでしょう。情勢的にそれ以外に選択肢はなかった、というだけなのかもしれませんが、本当に戦争以外の話が全く聞こえてこない大統領でした。

永遠に続くかに思われたそのAssad家によるおぞましい支配も、終焉を迎えます。代わってSyriaの統治を担うのは、イスラム系の武装勢力の連合体です。AfghanistanのTalibanほど原理主義的ではありませんが、自由主義的な統治になるわけはなく、程度の差こそあれ前時代的なイスラム国家としての道を歩む事になるのでしょう。

直近の戦闘では、LebanonのHezbollahも参戦していたとの話もありますし、イランの影響が強まる可能性は高いものと推測されます。その場合、Israelとの戦争が本格化する可能性もあります。ただ、地域的にはSunni派が多数派なのと、その他の勢力も多数入り乱れている状況なので、どのような傾向が強く出るのか、また安定的な体制になるのか等、殆どの事が不確定な状況には違いありません。

長年の戦乱によって国内は荒廃しきっており、また今回の政権移行はIraqの時のそれと違い、西側諸国の意向があまり働いていない事もあって、安定や秩序、そして平和がかの地にもたらされる日は遠そうです。

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行方が判然とせず死亡説も流れていたAssad大統領ですが、Moscowに亡命して存命であるとの報が流れています。今のRussiaにそんな余裕があるのかという疑問も浮かびますが、流石に注目が集まっている今見捨てる、あるいは切り捨てるのは躊躇われたという事でしょうか。

なお、Iranの影響については、世間的にはどちらかというと減ると見る向きの方が多いようです。いわゆるShiaの孤の一角が崩れた、として。確かにそういう面はあります。Iranは長年Assad政権を援助し続けて来ましたし、そのラインを通じてLebanonに武器を供給もしてきました。それが消滅する影響はそれなりにあるでしょう。

しかし、今回政権を打倒した反政府勢力はその総意として反Shiaや反Iranを掲げているわけではなく、欧米やロシアを含め、特定の外部勢力の傘下にあるわけでもありません。現状は、単にAssadの支配が崩れ、地域の情勢が不安定化したものと見るべき状況のように思われます。しかるに、近隣のどの勢力が最も介入を強め、また今後強い影響を持ちそうかと言えば、それは長年実体的かつ密接な交流を通じて影響を保ち続けて来たIranであろうと思われるわけです。

政権が消えても、人やモノの流れを通じた実体的な繋がりはそう簡単に消えるものではありませんし、むしろ混乱に乗じて影響を強める可能性も低くはないでしょう。勿論、新政府のあり方如何によりますし、とりわけSunni派の意向が強く反映されるものになれば、Iranが排除される可能性もあります。ただ、実際問題としてあの地域でIranを排除するというのはそんな簡単な話ではないし、それが可能な程に一体性を有する、統制された政権になるのかすらわからない現状では、そこはまだ判然としません。

勿論Israelはありえません。Syriaの武装勢力は全てMuslimですから、むしろ対Israelで一致団結する可能性が高いでしょう。

12/05/2024

[pol] 息子を見捨てられなかったBiden大統領

米国のJoe Biden大統領が、息子のHunter Bidenに恩赦を与える大統領令に署名しました。

身内への恩赦。特段の正当な事由もなく行われたそれは、紛うことなき権力の濫用です。これまで度々その行使の是非を問われ、否定し続けていた前言を翻して踏み切った事もあり、背信行為と看做されてもいます。

当然、米国はほとんど非難一色です。身内である筈の民主党内からも、左派を中心に公然と批判の声が上がっています。

その長い政治家としてのキャリアを通じて受けた批判は数え切れない程あれども、このような明白な権力の濫用は一度たりともする事はなかった彼が、そのキャリアの最後に犯した、たった一度の過ち。

彼は、この過ちによって、間もなく訪れるそのキャリアの終わりに当然に得られた筈の、公正を貫いた政治家としての名誉を損なう事になりました。完全に失ったと見なす人も少なくはないでしょう。

このような結果を大統領が予想出来なかった、等という事はあり得ません。それは承知の上で、全ての応報を覚悟して踏み切ったのだろうと考えられます。

その事情は概ね理解できます。脱税等の容疑で訴追されていたHunterは、司法取引に失敗し、元々有罪となる見込みでしたが、次期大統領のTrumpから明らかに敵視されており、次期政権下でその意を受ける司法当局に恣意的かつ不当な厳罰を課される可能性が極めて高くなっていました。

その主たる原因は、TrumpがJoeを政敵として敵視しているから。それだけです。すなわちBiden大統領の息子であるという、Hunter自身にはどうする事もできない理由によるものです。Joeからすれば、自分のせいで息子が危機に晒されている状況にあったわけです。

そして、Joeには恩赦を出す権限があった。つまり、息子を助ける事は不可能ではなかった。その行使の是非は、Joeにとって、政争に巻き込んでしまった息子と自身の立場、そのどちらを取り、どちらを捨てるのかという、残酷な選択をJoeに強いるものになっていたのです。

Hunterにかけられた容疑は正当なものでした。である以上、それは法に則って裁かれるべきであり、罪が認められれば当然に罰せられなければならない。将来その罰が不当なものになる可能性があったとしても、それを理由に訴追自体の赦免などしてはならない。当然の事です。

また、正当な理由なき恩赦は権力の濫用であり、誰よりも公正であるべき大統領として厳に慎むべきもの。身内に対するそれであればなおさら。これもまた当然の事です。

大統領の立場からは、どうやっても正当化など出来はしません。もし行使すれば、自身のみならず大統領という立場の威信をも損ない、後世まで拭い難い汚点となる。多くの人の信頼を裏切った者として、名誉も信頼も、何もかもを失うだろう、論外の行為。大統領自身、その事は誰よりもよく理解していたでしょう。

しかし、最後の最後で。自分が原因で、その人生を破壊されようとしている息子を前にして。彼は、見捨てる事が出来なかった。これはそういう事なのでしょう。

そうでなければ、どうして彼が、その人生をかけて築き上げた輝かしい名誉を投げ捨て、信頼を裏切り、当然に予想されていた司法当局や国民、仲間達からの非難をも甘んじて受け、あまつさえTrumpに自己への恩赦の口実を与えてしまうような、大統領という立場そのものの威信、ひいては統治体制への信頼をも決定的に損なうだろう暴挙に及んだ事に説明がつくというのでしょう。

その立場や公益、自身の名誉と親子の情を秤にかけ、前者を捨てて後者を取った。大統領と言えど、否、大統領であるからこそ生まれたその葛藤の末、我が子に情をかけるために、全てを犠牲にしなければならなかったJoe。

その行いが批判を受ける事は必然という他はありません。

ただ、彼はまず間違いなく全てを承知の上で、Hunterへの恩赦に署名した筈です。名誉も信頼も全てを捨てて。そんな彼を、殊更に袋叩きにする事に正当性はあるのでしょうか。それ以前に、意味はあるのでしょうか。

民主党議員をはじめ、良識を重んじる点を自身の正当性の根拠にしている人達としては、この先、Trumpが権力の濫用、特に自己への恩赦をしようとした場合を想定して、その時に非難するためにはここでBidenを非難しておかなければならない、という事情もあるのでしょう。あるいは、Hunterが受けるべきだった刑罰の肩代わり、という意味合いもあるのかもしれません。

しかし、であればこそ、それは不当な行為であると言わねばなりません。味方も失って、反論の術さえない、たった一人の老人に過ぎない彼に寄って集って加えられる、法の歯止めもなく無秩序な非難。それらは、ただの私刑でしかないのです。

法治国家にあって、あらゆる行為の正当性は、法によってのみ担保されます。Trumpのそれと対峙する際に正当性を主張しようとするなら、法に基づかないそれらはなおさら厳に慎むべきものである筈です。Bidenの今回の恩赦にしても、あくまで大統領として法によって与えられた権限に基づいて恩赦を与えたのであって、違法な事をしたわけではないのですから。

そもそも、そんな事をしても、何も得られるものはないのです。 彼はそういう選択をした。もはや取り返しはつかず、非難を加えたところでその事実は動きません。大統領としての任期も間もなく終わりを迎え、同時に政治家としても引退する彼に、次はありません。年齢からすれば、この世から去る日も遠くはないでしょう。

そんな彼を痛めつける事に、意味も正当性もないのです。憤慨する人や、無念に思う人も少なくはないでしょうが、ここに至っては、もはやただ静かに見送る他ない、とそう思うのです。

願わくば、去りゆく彼に残された日々の中に、許しと救いの訪れんことを。

ただ、Hunterについては話は別です。そもそもの責任はほぼ彼にあるわけで、彼がまっとうな生き方をしていたならこんな悲しい事にはならずに済んだ筈なのです。それが無罪放免というのは納得しろと言う方が無理というものです。

実際のところ、彼に対する米国民のヘイトは半端なものではありませんから、自分の身を守るためにも、なにがしかの罰は受けておいた方がいいだろうとも思いますね。主要な容疑は脱税であって、たかが、とまでは言えませんが、強盗や殺人等の重犯罪が日常茶飯事な米国にあっては、それらと比較すれば遥かに軽い部類のありふれた経済犯に過ぎないのですし。

[pol] 増税と歳出削減はやはり鬼門。仏首相、不信任可決

仏でMichel Barnier首相の不信任が通ったんだそうです。

就任からわずか3ヶ月。Macron大統領が後任を指名するまではその任に留まりますが、もう何も出来ませんし、退任したも同然ではあります。お疲れ様でした。

原因は、600億Euro(約10兆円)規模の歳出削減及び増税を盛り込んだ2025年の予算案につき、与党が少数派であるために議会の承認を得られる見込みが立たず、専決処分的に議会の承認なしで予算を成立させようとした事によります。

予算を議会の承認なしで成立させる。それは暴挙と言う他ありません。というかそんな事が可能なの?と耳を疑うような話です。

ざっと確認してみたところでは、それが実際法的に可能なのかどうかについては、当のフランスでも微妙だそうです。憲法上明文で否定されているわけではないようですけれど、歳出削減は別にしても、増税等の国民に重大な義務を新たに負わせる措置は、その前提として国民の同意すなわち議会の承認が必須であり、一般に専決処分の対象にはなりえないものと考えられます。どう見ても無理筋ですね。

仏議会は当然の反応を示しました。到底受け入れられない、と反発し、そのまま本来不倶戴天の敵同士の筈の極右派と左派が不信任で一致してしまい、あっさり不信任が成立した、というわけです。Barnier首相は、私をクビにしてもフランスの債務は消えない、等とほとんど捨て台詞的な牽制等をしていましたが、無意味でした。これに伴い予算案も廃案。

要するに、債務の膨張に苦しむフランス政府がそれに対処すべく予算・税制に手を付けようとしたところ、ポピュリズムに傾斜する事で近年国民の支持を高めている極右派・左派に潰された、というだけの話です。

それで、今後はどうなるのか。Barnier首相の案は潰えましたが、後任はその路線を継承出来るのか。これについては、その継承・継続は困難だろうと思われるところです。

というのも、そもそもの話、Barnier首相とMacron大統領の立ち位置は中道右派です。一般に、全体のバランスを取って妥協案をまとめるには最も適している、筈です。とりわけ今回問題になった増税や歳出削減といった根本的に意見・方針が対立するシビアな政策について、極論さえ公然と掲げる各陣営を妥協に導く事は至難の業です。比較的中立性の高い筈の彼らにまとめられないのなら、他の誰もまとめる事は出来ないでしょう。

つまり、今のフランスでは、増税や歳出削減は実現不可能だという事です。よって、その方針の継承は無意味という他ないのです。

ではフランスはこれからどうなるのか。それは誰にもわかりません。ただ、おそらく明るいものにはならないでしょう。

フランスの債務は、年間GDPを越えたそうです。日本では遥か昔に通り過ぎ、最早手遅れとして対処も諦められたそれですが、激しいインフレ下で既に年3%を越え、さらに上昇する可能性も高い金利水準もあって、財政破綻の危険性は到底無視出来ないレベルにあると言えるでしょう。日本の二の轍を踏まないためには、今ここで踏みとどまるしかありません。相応の犠牲を払って。

にも関わらず、その対策は不可能。どころか、真逆の政策を主張する筆頭の極右派が政権奪取にあと一歩のところまで迫っています。おそらく現状のまま事態が膠着すれば、何も出来ない政府・与党への国民の不満・批判はさらに高まり、極右派への支持もまた強まるでしょう。 

そして、極右派が政権を奪取すれば、財政再建どころか、積極財政へと踏み切る見込みは極めて高い、というかほぼ確実です。そのあまりに無根拠で楽観的なスタンスに、これまで政権を担った事もないために稚拙・杜撰になるだろう政策が無秩序に実行に移されるでしょう。

バランスも考慮されず、もはや支出に歯止めをかける事すら出来なくなり、債務の底が抜ける。そして爆発的に進むインフレ。一方で、既に膨大な人数に及んだ移民の排斥が始まり、社会は混乱を極める。 米国でTrumpがもたらしたものとある程度類似するだろうそれらの混沌とした状況が、政権が一体として推し進める事で、さらにスケールを拡大する形でフランスに訪れる、のかもしれません。

しかし、何も出来ない。どうにもならない。今のフランスは、そんな絶望的な状況にあるわけです。

あるいは極右派ではなく、左派が伸びて、社会保障政策の強化が志向される可能性もあるのかもしれませんが、そちらにしたところで、積極財政に傾斜するだろう点では変わりませんし、経済政策面の懸念に関しては極右派のそれと大差があるわけでもありません。

自由の国。人権の国。その行き着いた先が、分裂と対立に溢れ、終わりの見えない争いが続き、ただひたすら破綻へと向かう、しかしそれを避けるために犠牲を払おうとはしない、誰も彼もが我儘に振る舞うだけの社会だった。何とも皮肉な話です。