日本製鉄によるUS Steel買収の件で、Trump大統領が石破総理との会談の席でまたよくわからない事を宣ったそうで。
曰く、"過半数の持分(majority of stake)を取得せずに多額の投資をする事になるだろう"、と。
これを素直に読むなら、発行済株式総数の半分以下の範囲での出資&業務提携、という意味合いであるように思われます。まさか予約券なしの社債発行とかじゃないでしょうし。
仮にそうだとして、具体的な出資額は次のような感じでしょうか。
現在のUS Steelの時価総額はおよそ$8.3billion、1.2兆円。その半額だと6000億程度。1/3なら4000億。確かに多額ではあります。日本製鉄の時価総額は3.6兆円程度ですから、その1割から2割弱程度の資金を投入する計算になります。
日本製鉄がその資金をどこから調達するのかはわかりませんが、自己資金で賄うには厳しい額でしょうから、おそらく基本的には株式を追加発行して調達するのでしょう。この金利上昇局面で金融機関からの借り入れは博打が過ぎるでしょうし。
何にせよ、経営権を握らないのなら、出資自体は金融機関がするのと同種の純粋な投資になります。である以上は、リターンがプラスになる見込みがなければ話になりません。少なくとも、資金調達コストをペイするだけの収益を上げた上で資金を回収出来る見込みが立たなければ実行出来ないでしょう。
ですが、US Steelの経営状況、また今後の見通しは知っての通り非常に芳しくなく、むしろ資金だけ出してもすぐに食いつぶされて終わり、になりかねない状況です。
普通に考えれば、そのような危険な状態の企業に、金だけ出して経営には口出しせず黙って見ているだけ、などという条件で多額の資金を出そうという者はいないでしょう。そうでないなら、とっくにファンドなりが出資して、そもそも外資たる日本製鉄などに出る幕はなかった筈です。
必然的に、今のUS Steelに資金を提供するには、その経営を抜本的に改善する施策とセットでなければならないわけです。そして、その施策の実行を担保するには、経営権を取得しなければならない。ゆえに、議決権の過半数取得は出資に際しての欠くべからざる条件になる。経営危機に陥った企業の救済の大半が買収の形を取る所以です。
なのに、Trump大統領は、金だけ出して口出しはしない、という条件を出して、しかもそれが既に決定事項であるかのように言ったわけです。Trump大統領はもちろん、その話相手の石破総理も含め、出資交渉の当事者が誰もいない場で。当然根回しも何もありません。
意味がわかりません。何の権利・権限があってそんな発言をするのか。US Steelはともかく、日本製鉄がなぜそのような案を飲むと思えるのか。そもそも仮にその案の通りにするとして、US Steelの経営危機自体は解決しないわけで一時凌ぎにしかならず数年後に破綻してしまう、それじゃ意味がないだろうと。
本来そんな事は一々指摘するまでもない話な筈だし、両政府の管轄部門を含め、関係者は当然よくわかっているだろうに、トップがアホだとこんな無茶苦茶になるんですね。目を覆うばかりの惨状とはこの事です。
とりわけ、日本製鉄は今頃大混乱でしょうね。。。担当者はストレスで死ぬんじゃないでしょうか?日本政府も同意した事にされて、しかし純然たる私企業同士の話に口出しする権限も筋合いすらもなく、否定しようにも正面切ってTrumpの顔を潰すわけにもいかず、経産省も外務省もどうしたものかと途方に暮れているのではないかと。おそらくは米国側の産業回りの担当部署も。
当該発言の際には、日本製鉄のNipponをNissanと言い間違えてもいた、という冗談のような話もあるそうです。Trump大統領はマジでボケ始めているのでは?との疑念もちらつきます。就任したばかりの今からのそれは洒落になりませんね。勘弁してほしいものです。
いや、正気で言ってるならそれはそれで困るんですけれども。いやはや。
Gazaの件といい、お前部外者だろうが無茶苦茶言うな案件が連発していますが、そういうのは流石に迷惑でしかないのでやめて頂きたいですね。