10/03/2013

[IT law] 不法薬物売買サイトSilkRoad摘発

悪名高き薬物売買サイトSilkRoadがFBIに摘発され、運営者(であるとされている)Ross William Ulbrichtが逮捕され、FBIは歓喜に沸き、決済通貨のBitCoinは暴落し、世界中に十万とも言われる膨大な利用者・業者は大騒ぎです。

Ulbricht容疑者は運営にあたり、摘発を避けるため当然ながらその氏名や居所を全て秘匿していたわけです。オペレーションはVPN経由、Torも介し、決済はBitCoinと、通常容易に足がつく所は初めから回避していたとのこと。しかし時間が経てば必然的にそこかしこに残るその活動の痕跡が積み重なる事は避けがたく、IT大手の大半と結託した盗聴システムを駆使するFBIの前にあえなく特定されてしまったのでした。

直接の手掛かりは、Gmailのアカウントとのこと。 その情報を"Googleから"入手し、そこから辿ってVPNのプロバイダも特定のち接収し、管理人の拠点と判明したSan Franciscoのとあるネカフェ周辺を捜査し、関連が疑われた各種IDの写真等を周辺で照合する事で、めでたく容疑者に到達したという経緯なんだそうです。

こうまとめてみると、技術的には特段目新しい要素も複雑な部分も無く、容疑事実も明確で、正直大した話でも何でもないように思われます。Googleとかプロバイダとかの全トラフィックを自由に監視出来る以上は、むしろその程度のトラッキングになんでそんな何年もかかってるのかと不思議に思うくらい。けれども、IT技術的には稚拙で、これまで同種の犯罪の摘発に失敗し続けてきたFBIにとっては画期的な勝利、という事なんでしょうね。まあお疲れさまです。

ただ、そもそも本件自体、そんな血眼になって無差別で大規模な盗聴もしてまで摘発する意味があった事件なのかというと、疑問に思う面も否定できません。違法薬物の取引と言えば、中米諸国や国内のドラッグマフィアやら、悪質極まりない連中がそれこそ山ほどいるわけです。それを放置して、比較にならないほど秩序もあって健全と言って良いだろう取引サイトを摘発し、単なるGeekに過ぎない管理人を逮捕したところで、違法薬物に関連する犯罪の対策になるものとは考えられませんし、むしろ悪質な取引とそれに伴う犯罪が増える害が残るだけなのではないかとも思われるわけで。

だからと言って、公権力としては、あれほど大っぴらに運営されて、いつまでも放置出来るわけもない事情はわかります。わかるんですが、ただ、鬼の首を取ったように成果を誇るべき類のものではないように思うのです。

実際、摘発後の当該サイトのフォーラムにおける利用者の反応を見る限り、SilkRoadが閉鎖したとしても、その大半が薬物を止めるかと言えばそんな事は到底考えられません。やはり、より悪質な取引の方へ流れるだけなのでしょう。

薬物依存が極めて脱しがたいものである事は動かしがたい事実。それがそこまで広く社会に広がり定着してしまった以上は、残念な事ではありますが、"違法には違いないけれども、よりマシな"部分は許容していく他はないのでしょう。つい先日実施されたばかりのCaliforniaでの薬物合法化も、そういう判断の結果だった筈ですが、要するに、その後への考慮、受け皿が必要なわけです。違法サイトを摘発したら、より悪質な取引が増え、ドラッグマフィアが増長して治安が悪化しました、では本末転倒なのですから。しかるに、そういうアフターケア的な部分の話が一切聞こえてこない点が気がかりなのです。

とはいえもう摘発してしまったものは仕方がありません。問題はこれからの処理ですが、利用者や業者の摘発はどのくらい進めるつもりなんでしょうか。FBI自身もSilkRoadを調達に使っていたとかいう話も流れたりしてる位なんですが、規模的にも内容的にも相当の難がありそうです。さて。

Arrest in U.S. Shuts Down a Black Market for Narcotics

Silk Road: How FBI closed in on suspect Ross Ulbricht

Silk Road Fans On Reddit Go Ballistic After Seizure

そういえば、本件に伴ってFBIが押収したとされる容疑者所有のBitCoin、少なくとも3.2millionだから今のレートで言うと数億ドルの価値がある筈ですが、その扱いはどうなるんでしょう。まさかFBIが換金するわけにもいかないでしょうし、そのまま只のデータとして死蔵され、のちに失効する事になるんでしょうか。だとしたら何とも儚い話です。