10/11/2013

[biz] 自動運転製品化の動きが性急過ぎて心配です

日産に続きトヨタと、国内自動車メーカーによる自動運転の実用化宣言が相次ぐこの頃。自動運転の対象範囲と時期の目処は、日産は一般道も含めて2020年、トヨタに至っては高速道限定ながら2015年とのこと。また強気ですね。

トヨタの2015年というのは、自動車関連技術の開発期間一般の長さからすれば、もう既に出来上がっていると言うに等しい時期の早さです。法的には以前から国交省が高速道限定で許容する法改正を行う方向で調整を進めていたところで、可能な見込みではあるんでしょうけれども、それでもまだ不確定には違いないし、いささか性急な感も否めません。日産に先を越されて焦った、とかそういう危うい話でなければいいんですけれども。

そもそも、法的な認可はあくまで制度上の形式的なハードルに過ぎません。自動車の自動運転は、一度でも事故を起こそうものなら取り返しが付かない類のリスクの高いものなのですから、技術に100%はない、という作る側のエクスキューズは通用しない事を強く認識し、その導入には極限まで慎重であるべきところです。

しかるに、当然ながらその適用される環境は現実の道路そのものである以上、天候、道路状況等の外部要因から、機材類の劣化等の内部要因まで、人為的自然的問わずあらゆる種類の環境変動が発生し、リスク要因になるわけで。

自動車間の通信システムは大多数の車に実装されなければ意味を成しませんから、当面は事実上個々の車がそのセンサーで計測した情報のみに基づいて制御されざるを得ません。しかしレーザーにしろ超音波にしろ、降雨・降雪・積雪時等は計測範囲と精度が激しく変化します。その耐性は十分なのでしょうか。センサーの一部に泥が被った時等は、使用不可な旨確実に検知されるのでしょうか。赤外線カメラは外光の影響を強く受けますが、その急激かつ極めて多様な変化への応答は精度速度耐性全て完璧なのでしょうか。トヨタの技術では、原則としてレーンをキープするとの事ですが、白線が見えなくなる場合も多々あります。その場合にも正しくレーンを認識出来るのでしょうか。GPSの誤差も小さいものではありません。前車に追従するにしても、前車がいない、もしくは頻繁に車線変更を繰り返しているような状況でも、判断を誤る可能性は無いのでしょうか。それらを組み合わせて個々のエラーを補う、と言っても、その全て、もしくは重要な要素に誤りが生じて、結局誤った判断を導いてしまうような事は起こり得ないのでしょうか。リスクはあまりにも膨大で、列挙すら困難な程です。

ここで問題なのは、その膨大なリスクを前にして、"絶対に、100%事故を起こしてはいけない"、という事なのです。一般的な人間による運転よりは安全だとか、リスクに対するエクスキューズとして一般に用いられるその種の相対的な優位性の主張には意味がありません。

事故には当然民事的刑事的な責任が伴います。人間が運転する場合は、その責は当然その個人に帰せられます。しかし、自動運転時に事故に至れば、その個人ではなく、またその車自体でもなく、自動運転技術とその開発主体たるメーカーに帰せられる事になるでしょう。事故の程度にも依りますが、自然人であれば免許停止になる程度のものであれば、技術そのものが法的に排除される結果もあり得るでしょうし、そうでなくても、発生した損害はメーカーが負担する事になります。誤動作を起こす条件が発見されれば、それを悪用した詐欺等も発生するでしょう。果たしてメーカーは、あまりに膨大なそのリスクを負ってまで自動運転の搭載を続ける判断を下せるでしょうか。極めて困難なものと容易に想像されます。

もっとも、今回発表されたトヨタによる自動運転については、既に実用化されているオートクルーズアシストの延長的なもので、かつ高速道路のみにつきリスクはある程度限定されているとは思いますし、技術開発の進展自体は歓迎すべき事には違いないところ、健闘を祈りたいと思います。ただ、その製品化にあたっては、くれぐれも拙速に陥る事のないようにと願うのです。メーカー各社もその辺はよく承知しているだろうし、余計なお世話かとは思いますけれども。

トヨタ、高速道路限定で自動運転車を実用化 15年にも

言うまでもない事かもしれませんが、日産の方は論外です。 一般道の自律型自動運転なんて、歩行者云々以前に信号の認識とか基礎的なレベルのデータの計測すら不可能になるケースが当たり前にあるのですから。道路側にセンサ兼通信機を埋め込んで通信し協調する類の、完全他律か少なくとも半他律式でないと話にならないでしょう。そのようなシステムを標準化して整備するのにどれほどの時間を要するか。想像するのも難しい程で、7年で実現なんて100%不可能です。どうせ東京五輪に合わせようとか言う安直な発想だけで、技術的な見通しなしに適当言っただけなんでしょう。馬鹿馬鹿しいにも程があります。

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折しもITS世界会議が東京開催という事でプログラム等を拝見しましたけれども、V2X花盛り、中でも車間通信とか自動運転絡みのセッションがとても多いですね。ただ、各国の行政関係者らの制度面での議論が中心で、技術的な発表が少なく、かつ概ね新規性も実用性も今一つな様子なあたり、やはりまだ実験段階で現実性に欠ける印象を受けます。少なくとも後数年でどうこうって話じゃないのは間違いないところで、その前にどう筋道を付けるかも定まらない中、予算確保のための宣伝活動に着手した、といったところですか。その割には花火の打ち上げ方が派手というか極端すぎな気もするわけで、後々にやっぱり無理、と転換する時に突っ込んだ資金の責任を誰がどう取るのか、早めに明確にしておいて、それを踏まえて進める位の配慮は必要なんじゃないの、とは思うのです。