7/09/2022

[biz] Elon MuskがTwitter買収を撤回

したそうで。まあ、それ自体は大方の予想通りではあるんですが、その際の言い分がね。。。Twitter関係者をはじめ、振り回される人たちはご愁傷様です。

事の次第を大まかにまとめると、次の通り。

まず2022年4月に突然MuskがTwitter社の株式を9%取得し大株主になった事を公表し、それと併せて残りの91%についても買い付けて100%買収する旨を発表したところから始まります。その際の買い付け価格は1株あたり$54。当時の株価からしてもプレミアムの付いた価格で、総額で440億ドルにもなる超大型買収案件でした。

本件は大きな反響を呼びます。と言っても、どちらかと言うと困惑の面が大きかったでしょうか。というのも、周知の通りTeslaをはじめMuskの手掛ける事業はどれもTwitterのようなITメディアのプラットフォーム事業とは関係が薄く、いわゆるシナジー的なメリットを見出し難い不自然なものに見えたからです。実際、Musk自身も買収する事による事業的な利益についてはほとんど何も語っていません。

一方で、当時は特にウクライナでの戦争等に絡んだMuskの過激な発言に起因してMuskへのバッシングがネット上で多数見られ、これに激しく反発するMusk自身の言動も相俟って、そのバッシング等の主たる場でもあったTwitterを半ば衝動的に攻撃しようとしたように見えもしました。実際、買収にあたってMuskがTwitterにまず要求した事は、スパムやボット等のまさにMuskを攻撃していたアカウントの情報だったのです。その上、Twitterの事業自体について建設的なやり取りがなされていた形跡は現在に至るまでおよそ認められません。

もちろん、Twitter側は経営陣から個々の従業員まで、全社を挙げて激しく反発しました。もっとも経営陣は立場的に好条件のオファーを撥ね付ける事は困難ですから、建前上は買収交渉の契約を結び、折衝を重ねてはいました。とはいえ、Muskの真意がTwitter(とそのユーザ)を害する事にある事はほとんど明らかでしたから、Muskの事は信頼せず、用心深く事に当たっていたであろう事は疑いようがありません。従業員については何をかいわんや。公然とMuskへの非難を表明する社員は数知れず、大筋での合意以降は退職者も続出したと聞きます。

そんな状況が外部からもはっきりとわかる位でしたから、これはそのうち破談するんじゃないか、と大方の向きは思っていたわけです。

で、資金の払込等をする前に情報を寄越せとMuskが無茶な要求をし、ふざけるなこれ以上は買収が終わってからだ、とTwitter側が撥ね付ける押し問答をしていたりして、一向に話が進まない間に、暗号資産のバブル崩壊に端を発する形で株式の大幅な価格下落が起きてしまいました。Tesla株をはじめ、買収の資金源であるところのMuskの資産の大半を占める株の価値も大幅に毀損し、一方でTwitter社の株価はさらに数10%も下落し、Muskの提示した買い付け価格の半額近くまで下がってしまうに至り、誰もがMuskが買収を取り下げるだろう、と確信するようになっていたのです。だからこそ買い付け価格からの乖離が定着したとも言えるわけですが。ついでに金利も上がり、資金の借り入れコストも爆上げ。

そんなわけで、誰もが思っていたとおり、果たしてMuskは買収の撤回を宣言するに至りました。なので、それ自体は特に驚く事はありません。

問題は、その後始末です。具体的には、買収交渉の合意の中に、撤回時の違約金10億ドルが設定されていたところ、その履行の有無が問題になります。買収を実行していれば生じたであろうのれん代という名の損失に比べれば1桁小さいとは言え、結構な大金です。Muskが支払いを渋るだろう事もまた予想されていましたが、その通りにゴネはじめました。その理由が、この期に及んで、スパムやボットの比率に関するデータ開示が不十分で、交渉契約に定められた協力義務に違反していた、すなわち解除はTwitter側の義務不履行に基づくものだからMuskに責任はなく、違約金の支払い義務もない、とするものでした。

何を言ってんだろう、と思うわけですが。。。ユーザの情報も多数含むようなまさに営業上の機密に属する情報を、信用も出来ない相手に契約が完了する前から全部出せるわけもないし、そもそもそのような情報が買収時の判断、すなわちTwitter社の事業評価に際して必要なわけもありません。語るに落ちたというか、始めからそれらの情報がおそらくは個人的な報復のために欲しかっただけで、買収する気もなかったであろう事はほとんど明らかなように思われる有様ですね。

Twitter社はもちろん激おこです。ふざけるなそんな理由は通らん、契約通り買収を実行するか違約金を払うかしろ、と至極当然の返答を返しました。Muskももう後には引けませんから、裁判沙汰になる事は確実な状況です。

もっとも、どう見てもMuskの言い分が常軌を逸していて正当性のかけらも見えませんから、実際に裁判になれば適当なところで和解に持ち込んで多少減額した違約金で手打ち、とかその辺りに落ち着きそうではあるのですが、展開も終わりも見え見えなだけに、何から何まで全くの無駄手間という事になるわけです。Twitter側はひどい目に遭っただけ。

本件に限らずMuskは暗号資産関連での相場操縦も公然と行ったり、詐欺まがいの風説流布も頻繁に繰り返しますし、迷惑この上ないわけで、いい加減痛い目を見てもらいたいと思う次第なのですが、さて。

Elon Musk pulls out of $44bn deal to buy Twitter