6/29/2011

[law] サッカーボールによる転倒事故訴訟判決

が酷いと聞いて。ニュースを読んだだけですが、確かにこれは酷い。当時87歳の男性がバイクで通行中にたまたま校庭から飛んできたサッカーボールを避けようとして転倒し骨折、入院。入院中に痴呆になって、入院6ヶ月頃、それによる誤嚥から肺炎になって死亡。最初のサッカーボールを蹴った少年を相手取って遺族が起こした訴訟で、まさかの遺族勝訴、1500万の賠償請求認容判決と。

マジかよ、と目を疑ってしまいました。この要約の中だけでも問題はいくつもあって、まず第一に87歳の男性がバイクに乗っていた中での事故であり、果たして男性に正常、十分な注意力等があったのかという事。これが不十分な場合は事故の責任は男性にある事になります。しかるに、その後入院してからの痴呆の症状の深刻さからすれば、既に相当の能力低下があった事が疑われるところです。

第二に、入院までは事故との因果関係が明らかですが、その後の死亡原因であるところの誤嚥と事故の因果関係については明らかでない事。普通に考えれば、入院してなくてもボケてたんじゃないの、という事です。また因果関係がゼロではないとしても、直接の原因である誤嚥自体は病院における看護責任の範疇である筈で、事故との因果関係はあまりに小さいものと思われますし。

第三に、相手が少年本人、またその代理人としての両親である事。活動場所は校庭、少年が狙って蹴りだしたのではなく、ならばボールが外に出る事自体は通常の活動で起こるべきであった筈で、そうであれば、まず第一に責任が問われるのは本来その場所、活動の管理者である所の学校である筈です。フェンスの設置等の防止措置を怠った、とか。さらに、少年を相手にするとしても、賠償責任を負わせるには、基本的にその行為に何らかの有責性が必要であるところ、この場合はそれが認めがたいのですし。報道の記述を見る限り、過失というよりは単なる偶然による不運な事故に思われるわけです。

さらに、損害賠償の額。87歳、痴呆も容易に発症するような状況であった事を鑑みれば、逸失利益はほぼ無きに等しいだろうし、6ヶ月分の入院費用を考慮しても1500万は有り得ないと思われるのですよ。本来なら骨折の治療に要する数百万程度であろうと。保険屋が絡んだのかもしれませんけど、どういう根拠で算出されたのか極めて疑問です。

要するにありえない。明らかに逸脱した判断に思われる本件、少年側もさすがに控訴するでしょうし、上級審ではまずひっくり返るものと予想されますけれども、控訴にかかる負担も少なくはないのだし、何よりも地裁の判決は、拘束力は無いにしてもある程度規範として広く参照されもするし、社会的な影響も小さくないのだから、いい加減なというか恣意的な判断を出されては困ります。担当の田中敦裁判官は非難されてしかるべきかと。何なんでしょうね本当に。

サッカーボール避け転倒死亡 蹴った少年の親に賠償命令

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高裁でもまさかの控訴棄却。血迷ったか大阪高裁。
[関連記事 [law] サッカーボール転倒訴訟、高裁も原告勝訴 ]

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最高裁でようやく破棄。なお自判につき確定。こんな事にどうしてこんな手間も時間もかかったのかと。。。
[続き記事 [law] サッカーボール転倒訴訟、最高裁にて破棄、賠償責任否定]