3/03/2014

[biz law] 米GMのリコール、隠蔽10年間に死者13人の因果応報

先月発表されたGMによる米国内140万台、世界160万台の大規模リコールの件、よくある製造不良の類かと思って特段気にも留めていなかったんですが、突っ込んで取り上げる記事が幾つか散見されて、何かと読んでみたらこれがまた異様な事件だったようなのですね。

というのも、本件が原因とされる死亡者者が13人にも及び、かつその最初の死亡事故は2005年、実に9年も前から始まっているというのです。それもその最初の事故当時から本件の不具合の可能性は強く指摘され、GM側は間違いなく認識もしていたようで。

本件不具合は、具体的にはイグニッションキーの設計不良によるもので、エンジン、電気系統、またエアバッグまでもをオフにしてしまうという酷いものです。死亡との因果関係があるとされているのは最後のエアバッグの部分ですね。衝突事故を起こしてもエアバッグが作動せず、即死に至ったケースがそれだけあった、という事です。確かにこれは発生したならば一目瞭然、最初の死者が出た時点でGMも認識出来ない筈はなかったでしょう。

当局もその疑いを持ち、最初の2件が起こった当時からGMへの聴聞も行っており、また最初の事件の直後、被害者の遺族は独自調査の結果、当該不具合を原因と推測し、GMを相手取っての訴訟の末に和解を勝ち取っています。その際に詳細な調査も分析も行われたでしょう。そして、その後も同様の死亡事故は続き、偶然ではないとも認識されたでしょう。にも関わらず、GMはリコールをせず、NHTSAも公式捜査には踏み切りませんでした。その後、2009年にGMが破綻、先頃その再生処理が完了した矢先の本件発覚まで、本件を認識したならば即座にその是正を図るべき誰もが、明確に認識しておきながら放置され続けて来た事になります。

これは見るからに不可解で、あり得べからざる事態です。どういう事でしょうか。その不具合の程度の深刻さ、明確さ、何より結果の重大さからして、過失とは考えられません。人為的な意図があっての結果でしょう。ここで人為を働かせただろう当事者は、当時の同社を巡る環境から見て、経営陣を中心としたGM社と、規制当局をも含む米国政府の二者に尽きるでしょう。そしてその期間は長期に渡り、時期毎に様々に状況は変化したでしょうけれども、おそらくは概ね時期で分けて二段階、其々の期間毎に異なる事情があり、それぞれその当事者の思惑によって隠蔽放置されたと見る事が出来そうです。

まず第一に、最初の事故が起きた2005年もしくは同車種の販売が開始された2004年から、2009年の破綻前まで。この期間は、GMは不振の真っ只中、破綻へ向かう途上にありました。エコカーを中心に据える他社に押される中で、最初の事故を起こしたChevy Cobalt、また同不具合を抱えるSaturn Ionはそのセグメントでの対抗を期して投入された戦略車として、失敗は許されない状況にあった模様で、その営業的事情が原因と推測されるところです。要するに深刻な悪評を生まないために、例え死者が出ていようとも本件のような不具合は隠蔽したかった、という最悪の利己的理由ですね。GMを潰したくない当局は抱き込まれ、見てみぬふりをしたと見るべきでしょうか。GM自身の事情が主であった時期と言えるでしょう。

次に、2009年の破綻から、2013年末の政府によるGM株売却完了まで。この期間は、国内産業再生の象徴としてGMの存続が米国を挙げての至上命題となり、しかも政府が公的資金の拠出に伴いGM株を大量に保有していました。また政権にとって、GMの再生処理はその存在意義を賭けた看板政策として失敗の許されない状況にありました。このため、再生が完了し、かつ政府がその株式を手放すまでは、その評価を毀損し、多額の損失を発生させ、その破綻再生処理の評価を失敗に導き、政権自体をも揺るがしかねない本件のようなリコールは、何としても回避したかっただろうと容易に推測されます。その意味で、こちらは政府の事情が主であった時期と言えるでしょう。

要するに、GMと米国政府、双方がそれぞれ主体となってかような長期に渡り隠蔽を図り、多数の死者を出した、稀に見る最悪の不具合と見るべきものと思われるのです。

当然、米国民も同様の見方を強めており、メディアによる厳しい追求が始まっています。これに対し、GMの歴代の責任者は揃って説明もコメントも全て拒否し、ただ公式のプレスリリースの文面で謝罪を表すだけの異様な対応に終始しているとか。これは、全ての疑いを肯定しているに等しい振る舞いと言えるでしょう。結果の重大さから、放置や隠蔽を認めれば重い刑事罰は免れない、しかし客観的に見て知らなかったは通らない、と追い込まれての黙秘というわけです。当然これで収まるとは到底考えられず、自動車産業史上でも稀に見る凶悪な大量殺人事件とも言える本件、民事・刑事の両方で相応の大規模な訴訟に発展するものと強く推測されます。その場合、当局の側の責任も相応に追求される事も避けられないでしょう。その経緯、すなわちユーザーの命を犠牲にして目先の経済的利益を追った挙句のこの帰結である事を思えば、全て自業自得、全く以て愚かと言う他ない本件、残念と言うのも躊躇われるところです。

In General Motors Recalls, Inaction and Trail of Fatal Crashes
G.M. Announces Repairs in Recall of 1.4 Million Cars

さらに続報によれば、当該リコール対象の販売時期が古すぎるため、交換用の部品が終息してしまっていて調達出来ておらず、その目処すらも立っていないとの事。夏までは無理だろうとの予測もされているようですが、それでもこんな危険を抱えている以上は乗車禁止、としようとしても、そもそも大半のオーナーが連絡すら付かない状態で実質放置状態であるとも。無茶苦茶であります。

Now Comes Hard Part for G.M.: The Repairs

順調に追求拡大が進む本件、色々と消えた筈の亡霊が蘇りつつあるようで。

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