東芝のフラッシュメモリ機密漏洩の件、珍しく犯人の逮捕に至ったと聞いて、そんな事があるのかと少し驚きました。容疑者は杉田吉隆、元サンディスク社員であり、東芝の四日市工場に勤務した際に技術情報を取得し、それを転職先のHynixに流した不正競争防止法違反容疑で逮捕、と。
これ、確かに漏洩ではあるんですけれども、あくまで社内ではなく外部の人間によるもの、ということで、通常懸念される社員引き抜きに伴う技術流失移転とは性質が異なりますね。その意味で、高報酬による引き抜き等を関連付けて論じるのは筋違いのように思われます、とそれはともかく。
如何なる経緯、状況で容疑者が当該情報を取得したかは未公表につき不明ですけれども、容疑者が東芝へ派遣される側だった事、またSandiskと東芝の関係からすれば、おそらくはOEM生産に関する業務の際に付与された権限を不正利用した形でしょうか。であれば、これはNDA違反の事例で、その後始末と見るべきもののように思われます。
だとしたら、NDAが破られた事によって後始末的に実際に効力を発揮した珍しい事例であると同時に、その限界というか、その目的であり期待される機能であるところの漏洩抑止が、個人レベルの悪意に対しては機能しない事実を示したものと理解する事も出来そうです。
だからNDAは無意味だとか、いや有意義だとか、そういう話ではなく、この辺はNDAをそこそこ頻繁に利用する向きならおそらく誰もが想定しているだろう話なのですね。すなわち、ある種の機密情報を外部に出すにあたって、自らの管理が及ばない所に委ねる以上は、実際問題として最悪競合への漏洩も避けられない、その事は容易に想像出来るし、覚悟せざるを得ないわけです。そして、本当に漏れてはいけない決定的な部分は、例えNDAでも外部には出さないようにして、どうしても外部への開示が避けられない部分は、パテントにしておく、だとか、そういう実質的な面での管理がなされるのが常なわけで。知財の扱いに長けた東芝が、その辺の措置を全くしていなかったとは想像し難いところで、だからこそ容疑者を特定出来たし、今回の逮捕に至るまで証拠を伴う形で追跡し得たのかな、と推測したりするわけです。
本当の所は分かりませんが、もしそういう想像の通りなのであれば、今回逮捕された容疑者が一番の馬鹿だった、という帰結になるわけで、それはそれで一つの教訓として有意義とも言えるのかな、と。適当に管理してたら本当にヤバい所を漏らされた東芝がブチ切れた、ってだけかもしれませんが。
しかしそれにしても本件容疑者、何でそう馬鹿な真似をしたんでしょうか。只でさえ裏切り者が信用される訳がないところに、その拠って立つところが自力ですらないなんて、技術者としても何の価値もない、というか技術者とは言えないし、そんな体たらくでは、現代の産業界にあって一時すらもポジションが得られよう筈もないし、早晩詰んで、行き先も無くなる事は明らかだったでしょうに。それでも構わなくなる位の報酬があったなら、といって、当時には既に凋落の度を強めていたHynixにそんな余裕があったとは到底思えませんしね。どうにも理解しづらいところです。
東芝の技術漏洩容疑、提携先元社員を逮捕
続報によると、容疑者は内部のサーバにもアクセス出来る権限が与えられてたんだそうで、単に東芝が管理してなかったってだけだったようです。東芝って実はザルなのかと。とは言っても生産技術に関するものという事なので、厳密には最先端の研究情報というのとは少し違うようですけれども。
そして東芝からHynixへの提訴、さらにSandiskの提訴も続きます。当然ですね。Hynixもいよいよご臨終でしょうか。南無。