8/05/2014

[IT] 顔認証による出入国審査実証実験再開

羽田・成田での出入国の顔認証実証実験、始まってしまったそうですね。ほんと気が滅入ります。

オープンスペースで実施した前回から、室内での実施に切り替えて一般に失敗要因とされる外光による変動を除去し、装置に照明も追加して、少しでも失敗率を低減させようとする姿勢は一応見られます。が、前回の20%近くにもなる論外な認識失敗率と、実際に求められ、メーカーのNECも喧伝するところの1%未満程度の目標失敗率のギャップからすれば、その程度で埋まる筈もないだろう、としか思えないわけで。

それでも、少しでも改善が見られれば、その相対的な進歩を理由にして、絶対的な失敗率が如何に実用に耐えなかろうとも、省庁関係者は予算獲得のため、NECは受注のためだけに、種々の詭弁を弄して継続しようとするのでしょう。というより、今回の実験自体がその一環なわけで、その意味では最初から実施する意味自体が存在しない試みと言うべきものです。これまで、膨大な費用、10年にも上る歳月、人的リソースが本件のために費消されて来たところ、この上さらに浪費を重ねて恥じもしないNECはじめ官僚ら関係者には憤りを禁じ得ません。全く以て鹿馬鹿しい限りです。

個人的には即止めるべきとは思うんですが。。。止まらないのでしょう。で、このままこの茶番的なゴリ押しが続くとして、実際に導入するとなれば、当然色々と無理が来る事が予想されるわけです。特に、今回の実験は特別に設けられた室内スペースで実施されているようですが、本運用の際には本来の通関ゲート近辺、すなわち前回の実験と同様のオープンスペースで実施出来なくてはなりません。ゲート丸ごと改築とかするわけにはいきませんから。それで今回多少底上げされるだろう認証率が逆戻りしたとして、どうするのでしょう。というより、そもそも今回底上げされても、多少の程度の差こそあれ、認証失敗が頻繁に発生する点に変わりがないわけです。

そんな装置を導入して、どうなるか?分かり切った事です。認証結果がどうあれ、認証失敗の可能性が相当に残る以上、原則全員、従来同様に人手でチェックし直さなければならないでしょう。その結果、確認の多重性が増えるのですから信頼性は向上するでしょうけれども、本来の目的たる通関の人手削減の観点から見れば、自動化は全く出来ませんし、結局のところ従来のプロセスに加えて顔認証の手間が追加されるだけで、通関業務の効率化どころか、逆に各種の手間もコストも大幅な増加が予想されます。加えてシステムの管理者や説明員も必要になるでしょうから、むしろ必要な人員も増えるだけの結果になるでしょう。

また、そもそもの話として、顔認証によるゲート自動化は対象が日本人限定とされていますが、これが不合理なのです。本件推進の主たる理由は、東京五輪の開催による外国人観光客の増加への対応とされています。であれば、当然今回の措置も、外国人の通関処理の機能強化に充てられるべきもの、むしろ日本人は対象外となるべき筋の話です。この点、本措置により生じる余剰人員を外国人通関に振り分ける、とか理由付けがされていますが、日本人向けの通関を自動化出来る見込みが無い以上、現実性も全くありません。

単に人員不足が問題で、その強化で対応可能だというのなら、普通に採用なり他部門から異動するなりして補充しておけばいいだけの話です。認証ゲートのような複雑で、実用性も定かではなく、従って計画の確定も困難な仕組みを、このような莫大なコストや手間をかけて導入する理由にはなり得ません。せめて補助的に機能してシステム全体のトータルのコストが安くなる、といったメリットがあればまだしも、それもなし。

最初から、目的と手段が全く噛み合っていないのです。要するに、この辺の理由や目的は全て建前、それも後付けのものなのでしょう。NECはじめ企業各社が非現実的な認証性能を謳って省庁に顔認証製品を売り込み、それを官僚が予算獲得のダシに使い、数多く突き付けられた筈の実態と建前の齟齬を前に、延々とその場しのぎの取り繕いと糊塗を続けたその結果という事なのだろうと。であれば、当人達はその過去の経緯から自縄自縛となって、もはや如何に非現実的だろうと引き返す道は残されていないのかもしれません。このまま、彼ら以外の誰にとっても害悪としかなり得ないただのハリボテが現実に作られる、その日まで。

顔認証:自動化ゲート実証実験 成田、羽田空港で

[関連記事 [IT] 顔認証による入出国自動化に性懲りもなく復活の試み]
[関連記事 [IT] 顔認証による入出国自動化、廃案]

そして、到底あり得ない高精度の結果発表。倫理の欠片も感じられません。

[関連記事 [IT] 顔認証による入出国実証実験結果の出鱈目さに脱力]