4/25/2012

[biz] 原発はこのまま終焉するか、するべきか

震災直後から、長らく膠着状態の続いてきた原発の利用を巡る動きにも、ようやく一つの決定的な分岐点に差し掛かったようで。何かと言うと、先日研究者から指摘された敦賀原発直下の断層の存在の件です。正確には、それによって再び表に引き出されて来た、定性的、構造的な意味での原発設備の安全性の有無という根本的な疑問点ですね。要するに、原発は安全なのか、安全たりえるのか、という、原発を巡る全ての問題の根本であるところの単純な問いに答えを出す時が来たものと言えるかもしれません。

前置きは抜きにしましょう。原発は安全か否か。その問いに答えるには、まず原発における安全という状態を明確に定義する必要があります。その表現には様々なレベルがあるでしょうけれども、端的にまとめるならば、以下のような表現がありえそうに思われます。

[原発における安全の定義例]
経時劣化、地震、風雨等の自然現象、管理不備や攻撃等の人為的な作用、また社会経済等の状況による運営状況の変化等、およそ現実に原発の設備状態に影響を及ぼしうる全ての事象またその組み合わせに対し、事後も含め外部への物理的な影響を与える可能性が皆無である

そして、上記のような安全、その是非を判ずるには、その判断基準と基準への適合性を測る手段が必要となります。全ての事象を文字通り把握する事は不可能ですから、近似的な手法、すなわちこれまでに蓄積された物理法則と経験知に従って特に決定的であろう事象を抽出し、さらにその中で各々発生しうる最大の影響を想定した現象による作用、その原発に対する影響を物理理論に従って仮想的に検証するわけです。そして、特に決定的とされるものは何よりもまず地震、その揺れによる構造破壊の可能性であるわけです。個人的にはテロ等の人為的な攻撃の方が発生する可能性は高いとも思いますけれども、それはともかく。

しかるに、件の敦賀原発では、直下に断層が存在する旨が指摘され、それが事実であれば廃止すべきものと広く共通に認識されています。すなわち、いわゆる直下型の地震が発生した場合、それによって原発は損壊し、外部に物理的な影響を与える可能性があり、安全ではない、それは既に肯定されている。少なくとも直下型地震の発生可能性があれば安全ではないという事は明確で、そこに疑いの容れる余地はない。では、他の原発、また仮に新設するとした場合における日本国内の土地一般についてはどうか。直下型地震が絶対に発生しないと断ずる事が出来るのか。

そんな事が出来る筈はありません。それを確認するには、対象となる土地を含め、連動する可能性のある地盤の全域に対し、少なくとも数十キロの深さまで立体的に十分な密度で地中の構造を把握する必要がありますが、その前提として必須となる計測手段は存在しないからです。安全とされてきた敦賀原発で新たな断層の存在が今になって指摘される、そのような事態が起こるのもその証左と言えるでしょう。要するに、日本全国の大半において、直下型の地震が発生しないとは言えないのが現実であり、それは現存する原発の立地についても例外ではない、そう判断するのが妥当に思われるわけです。

そして、その事実が上記の安全に反する事は明らかです。従って、原発は安全か?という問いに対しては、明らかに否である、そう言わざるを得ません。そして、その技術的な困難さから、将来に渡っても状況が改善する見込みすら得難いわけで。そうである以上、論理的には、日本における原発、その存在自体このまま終焉すべきものである事にも、疑いの余地を見出し難いところです。

しかし、周知の通り原発業界における利害関係の範囲、またその規模は非常に大きいものであるし、組織にせよ個人にせよ、その多数が保身に走るだろう結果、如何にも安全であるかのように装う詭弁や、代替策の整備をあえて怠りながら脅迫的に危機感を煽る類の行為もさらに勢いを増すでしょうし、当然それに対する反作用的な動きも強まって対立を深めていくのでしょうから、現実としては紆余曲折を極めるんでしょう。その結果、敢えて事実に目を瞑り、原発は安全との建前が押し通され、再び原発の利用が増加に転じる可能性も相当にあるでしょう。極めて残念なことですが。

ただ、如何に詭弁を弄しようとも、原発は安全ではなく、甚大かつ回復不可能な被害を発生させる危険がある、それは紛れもない事実であり、従ってそれを安全と称して設置稼働に及ぶ事は、如何なる理由があろうともその周辺地域、またその住民を欺罔して危険に晒すものに他ならず、決して許されない人命・財産双方に対する犯罪である事、それだけは申し上げておきたく思う次第なのです。そして電気が足りないなら、危険を冒して原発を動かすのではなく、安全の保証される火力発電所の増設を急ぐべきだと思うのです。それで燃料費分のコストが上がろうとも、それは安全のために必要な費用なのだから甘受せざるを得ないものでしょう。福島の惨事を目にした今なればこそ。

願わくば、この思いが多くの方と共にありますよう。

敦賀原発直下に活断層か 2号機、廃炉の可能性も