仏でMichel Barnier首相の不信任が通ったんだそうです。
就任からわずか3ヶ月。Macron大統領が後任を指名するまではその任に留まりますが、もう何も出来ませんし、退任したも同然ではあります。お疲れ様でした。
原因は、600億Euro(約10兆円)規模の歳出削減及び増税を盛り込んだ2025年の予算案につき、与党が少数派であるために議会の承認を得られる見込みが立たず、専決処分的に議会の承認なしで予算を成立させようとした事によります。
予算を議会の承認なしで成立させる。それは暴挙と言う他ありません。というかそんな事が可能なの?と耳を疑うような話です。
ざっと確認してみたところでは、それが実際法的に可能なのかどうかについては、当のフランスでも微妙だそうです。憲法上明文で否定されているわけではないようですけれど、歳出削減は別にしても、増税等の国民に重大な義務を新たに負わせる措置は、その前提として国民の同意すなわち議会の承認が必須であり、一般に専決処分の対象にはなりえないものと考えられます。どう見ても無理筋ですね。
仏議会は当然の反応を示しました。到底受け入れられない、と反発し、そのまま本来不倶戴天の敵同士の筈の極右派と左派が不信任で一致してしまい、あっさり不信任が成立した、というわけです。Barnier首相は、私をクビにしてもフランスの債務は消えない、等とほとんど捨て台詞的な牽制等をしていましたが、無意味でした。これに伴い予算案も廃案。
要するに、債務の膨張に苦しむフランス政府がそれに対処すべく予算・税制に手を付けようとしたところ、ポピュリズムに傾斜する事で近年国民の支持を高めている極右派・左派に潰された、というだけの話です。
それで、今後はどうなるのか。Barnier首相の案は潰えましたが、後任はその路線を継承出来るのか。これについては、その継承・継続は困難だろうと思われるところです。
というのも、そもそもの話、Barnier首相とMacron大統領の立ち位置は中道右派です。一般に、全体のバランスを取って妥協案をまとめるには最も適している、筈です。とりわけ今回問題になった増税や歳出削減といった根本的に意見・方針が対立するシビアな政策について、極論さえ公然と掲げる各陣営を妥協に導く事は至難の業です。比較的中立性の高い筈の彼らにまとめられないのなら、他の誰もまとめる事は出来ないでしょう。
つまり、今のフランスでは、増税や歳出削減は実現不可能だという事です。よって、その方針の継承は無意味という他ないのです。
ではフランスはこれからどうなるのか。それは誰にもわかりません。ただ、おそらく明るいものにはならないでしょう。
フランスの債務は、年間GDPを越えたそうです。日本では遥か昔に通り過ぎ、最早手遅れとして対処も諦められたそれですが、激しいインフレ下で既に年3%を越え、さらに上昇する可能性も高い金利水準もあって、財政破綻の危険性は到底無視出来ないレベルにあると言えるでしょう。日本の二の轍を踏まないためには、今ここで踏みとどまるしかありません。相応の犠牲を払って。
にも関わらず、その対策は不可能。どころか、真逆の政策を主張する筆頭の極右派が政権奪取にあと一歩のところまで迫っています。おそらく現状のまま事態が膠着すれば、何も出来ない政府・与党への国民の不満・批判はさらに高まり、極右派への支持もまた強まるでしょう。
そして、極右派が政権を奪取すれば、財政再建どころか、積極財政へと踏み切る見込みは極めて高い、というかほぼ確実です。そのあまりに無根拠で楽観的なスタンスに、これまで政権を担った事もないために稚拙・杜撰になるだろう政策が無秩序に実行に移されるでしょう。
バランスも考慮されず、もはや支出に歯止めをかける事すら出来なくなり、債務の底が抜ける。そして爆発的に進むインフレ。一方で、既に膨大な人数に及んだ移民の排斥が始まり、社会は混乱を極める。 米国でTrumpがもたらしたものとある程度類似するだろうそれらの混沌とした状況が、政権が一体として推し進める事で、さらにスケールを拡大する形でフランスに訪れる、のかもしれません。
しかし、何も出来ない。どうにもならない。今のフランスは、そんな絶望的な状況にあるわけです。
あるいは極右派ではなく、左派が伸びて、社会保障政策の強化が志向される可能性もあるのかもしれませんが、そちらにしたところで、積極財政に傾斜するだろう点では変わりませんし、経済政策面の懸念に関しては極右派のそれと大差があるわけでもありません。
自由の国。人権の国。その行き着いた先が、分裂と対立に溢れ、終わりの見えない争いが続き、ただひたすら破綻へと向かう、しかしそれを避けるために犠牲を払おうとはしない、誰も彼もが我儘に振る舞うだけの社会だった。何とも皮肉な話です。