お騒がせにも程があった今回の都知事選は、有力候補が知名度の無さや醜聞で自滅する中、内紛で押された"無所属"の烙印を逆手に取って無党派層の支持を得た小池氏の圧勝による当選、という事前予想通りの結果に終わりました。
もっとも、実際のところ、圧勝という結果に見合うほど、小池氏に政策面で積極的な支持があったわけではなく、概ね他候補との比較において相対的に失点が少なく、消極的な選択が集中した結果と言えそうです。実際、どの候補からも従来から指摘されていた批判以外の具体的かつ建設的な政策の主張はほとんどなされませんでしたし。しかしそれは、前知事の唐突な責任問題浮上からこれまた突然の辞職という選挙に至る経緯、また間に参院選を挟んで候補者の選定及び立候補手続が公示直前まで手付かずとなり、その結果、全体的に準備期間が殆ど無かった今回の選挙の制約上、仕方のなかったところと言うべきなのでしょう。
小池氏は何を血迷ったか、都議会の解散を公約に掲げ、協調する姿勢が最初から皆無、どころか対立必至な状況ですから、議会の運営には不安しかないわけですけれども。議会と敵対すれば、条例等の審議もままらなくなり、その首長の自治体運営が困難を極める事は従前の例を挙げるまでもなく明らかなところです。議案が尽く通らず立ち往生、という状況も普通に起こりうるでしょう。しかし、あらかじめその旨公約する人物を選出した以上、予想される通りの状況に至り、その結果としての著しい混乱が生じたとしても、それも有権者の選択の結果ですから都民の自業自得と評価する他はないのでしょう。融和路線に転向してもそれはそれでむしろ公約違反になってしまうのですしね。
ところで、今回の知事選においては、国政に属する筈の政策の主張や、自治体の首長としての資質等とは直接関係ない、特定の政治的主張が独立して個別に飛び交う様子が色々と目につきました。自治体の首長選挙で何故それを?と思わず考えこんでしまう事もしばしば。
最も目立ったのは無論鳥越氏による憲法改正反対はじめ、軽減税率導入等の立法に関する主張でしたが、当然ながら実現云々以前に、そもそも地方自治体及びその首長に、これらの実現に関与する法的権限は何もありません。にも関わらず臆面もなく曝け出されたその齟齬は、最後まで主張がバラバラなまま、およそ対立軸の定まらなかった今回の選挙を象徴するものだったようにも思われるところです。
的外れにも思われた謎の個別主張も様々でした。例えば山口氏による五輪関係者の責任追及等の主張は、立法関連と比べれば当事者の一員としてまだ自治体の関与はあり得るだろうとはいえ、その人事等はこれも基本的に国の行政の管轄ですし、責任追及よりも重要な筈の、如何にして開催を成功に導くか、その手段等については全く何も触れないという有様でした。外国人排斥の主張、アンチNHK運動等、特定の主張のみを繰り返す候補に至っては、それらの主張が少なくとも従来及び通常の都政とは関係ない上に、実質的に立法権・司法権の管轄でもあるところ、仮に当選しても実現する術がない以上は自治体の選挙でその是非を問う事自体が本来的に無意味と評価する他ないものでした。選択肢が増えるのは望ましい事だと言っても、そもそもそれは選択肢とは言えない以上、その観点からであっても正当化は困難でしょう。
無論、当人たちには最初から当選する意図もなかっただろう事は明らかであり、要するに従来からよくあるところの、世間の注目が集中する都知事選を単なる個人の主張の場、すなわちプロパガンダの手段として利用したに過ぎないものなのでしょう。けれども、今回はちょっと露骨に過ぎたというか、それ以外の本来当然にあるべき首長としての一般的な資質の有無、運営全般の方針に関する主張がそれらのプロパガンダに埋もれてしまった感がある程だった点は、やはり行き過ぎと言わざるを得ないし、それなり以上の違和感も禁じ得なかったところなのです。本末転倒な感じがひしひしとしました。
有権者にアピールするにあたって何を主張しようとも、明らかに違法行為に当たるわけでもない限り自由ではあるんですけれども、当選する気がない候補者の繰り返すプロパガンダ的な主張も建前上は候補者の発言の形を取る以上は社会的に完全に無視する事は出来ないわけで。そうである以上、明らかに無視すべきものであったとしてもそれなりの頻度でそこかしこに広報される結果、選挙において少なからずノイズとして働きます。その影響が無害なものである筈はなく、法の知識に乏しい有権者、特に国政と自治体の運営とを区別し得ない向きをミスリードする事も多々あり得るでしょう。プロパガンダをする側はそれこそが目的な場合もあるのでしょうけれども、それは公正な選挙を妨げる行為であり、到底許容され得ないところです。
やはり、供託金を宣伝費と割り切ってしまう候補者が多すぎると思うのです。それらの候補の中からは供託金が高すぎるという不満の声も上がっていたそうですが、今回の有様を見るにつけ、逆に安すぎるんじゃないかと思った位です。勿論、このような事が起き得るのは突出した有権者数を背景に国政選挙に準じる重要性を持つとされる都知事選ならではと言えるでしょうから、都知事選に限っては安易な立候補を防止するために供託金を10倍にした上で没収基準を10%超に設定するとか、要件を加重する例外規程を設ければそれでいいのではないでしょうか。といって、特定自治体のみに適用する特別法を設ける際には憲法95条により住民投票が必要になるのでそう簡単な話ではないのでしょうけれども。
ともあれ、如何に微妙な選挙を通じて選出されたものと言っても、有権者の付託を受けた正当な首長が選任された事には違いありません。選出の時点で既に都政の対立・混乱は不可避とは言え、前任者の不始末とそれに伴う都政の混乱・停滞の解消を目的として選出されたものである経緯を踏まえ、今回の退任・選任が本末転倒であった、などという事にならぬよう、適切な都政運営がなされるよう願いたいところです。率直に言えば難しいだろうとは思いますけれどもね。
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