8/19/2016

[biz law] PCデポの高齢者を狙った高額契約の件が理解しづらくて困る

PC販売チェーンのPCデポが老人相手に不当な契約を結び、その解約に際して異常に高額な解約金を請求したとして炎上している件ですけれども。何がどうなっているのか、と理解できないでいるうちに大騒ぎになった、と思ったらあっという間に既に沈静化しつつあるようで。

いやもう何がどうなっているのやら、と。本件は個人の告発、それもTwitterによる五月雨的で一方向的な発信という事もあって、第三者の立場からはどうにも事情が掴みにくく、理解に難儀していたのです。しかし事態は瞬く間に進展し、収益の柱を直撃した不祥事として、事業面の影響を重く見たPCデポ側の自白的な公式対応が発表されるに至り、ようやく問題の概要位は見えるようになって来たようにも思われるところ、遅ればせながら、少し整理をしてみようかと思った次第なのです。

バラバラで断片的な情報、すなわち公開されているレシートや契約書(請求書?)の写真等から読み取り得た事実等をまとめたものが以下となります。

<本件契約内容等>

本件の当事者は、下記2者。

・契約者 投稿者(ケンヂ@kenzysince1972)の父(80歳超)
・PCデポ幕張インター店

問題の契約は、PCデポが"プレミアムサービス"と称して提供する、保証を含む総合的サポートサービスです。契約の経緯は、

"普段使用していたノートPCの修理のためPCデポへ出向きました。するとなぜかこのような高額の契約を結ばされました。"

との事で、これ以外の具体的な状況等は公開されていないようですが、当該来店時に上記契約者が店頭で店側の誘引を受けて申込み、即日締結されたものと推測されます。契約日は2015年12月14日ですね。

契約されたサービスは、サポート対象となるPC等の台数及びサービスの内容の範囲に応じて数種類設定されているプランの内、10台分を対象とし、全てのサービスを提供するものとして最も高額となるファミリーワイドプランとの事。いわゆる全部入りプランです。詳細は公式に掲載されているので省略しますが、プラン間の相違点は下記。

・各種対応台数
・無線接続サービスの有無・種類
・トラブル復旧サービスの一回当たりの利用料金の額
・年10回に限り無料の電話サポートの有無
・ビデオ関連サービスの有無
・スマホ関連サービスの有無

本件のファミリーワイドプランの月額料金は5,500円、これらオプションが適用されない基本のシングルプランは2,500円とされています。

ただし、ファミリーワイドプランには、加入者限定でiPad優待と称し、iPad Air 16GBが月額料金無料でレンタル(リース)されます。シングルプラン含めその他プランには適用されません。現行のiPad Air2ではなく型落ちモデルの処分(しかも解約料の基準値は小売価格より高い)という事で、非常にセコい感じと共に胡散臭さも漂いますが、それはさておき。

本プランを基本として、下記オプションが追加されています。

・VoDサービス 月額1,990円
・コンテンツ 東洋経済・日経ビジネス 計2,200円
・プロバイダ・回線契約 月額3,500円(最大12ヶ月間 以降は4,500円)

上記計で、(契約開始から1年間は)月額13190円(税抜)、税込で14,245円の契約となります。投稿者のTweetでは、月額14000円位の請求が来ている、とされており、この金額に合致しますから、おそらくはこの契約内容で正しいものと考えられます。言われるがままに全部契約してしまった格好でしょうか。

<解約時・解約後の事情>

で、まず投稿者からのTwitter上での証言によれば、正確な時期は不明ですが、その後、おそらくは今年になってから解約を申し込んだところ、

・20万円の解約料を請求された
・ゴネたら10万円になりました

とのこと。10万円は実際に支払われているようで、レシートの記載も10万円きっかりとなっています。
また、投稿者によれば、優待によるレンタルのiPadが見当たらない、とも。しかしこの点はそれ以上の情報は何もありませんから、現時点では考慮に値せず、無視すべきものでしょう。

そして、PCデポ側からは以下の説明等があったとされています。

・不愉快な思いをさせたことは謝罪する
・契約には正当性がある
・契約者がiPadを欲しがった
・解約料も適正
・iPADは渡してある
・父が使用したログも残っている

これ以外、PCデポ側から説明に関する情報は殆どありません。個人情報も絡む話ですから当然ではあるのですが、本件を受けて発表された対策の内容を見るに、上記事情を事実上認めたものとみなして良いのでしょう。ただ、当初20万、減額後10万の解約料についてだけは、その根拠を裏付ける情報は見当たりません。20万の方はおよその値のようですし、チラホラと公開されている各項目について設定された3万〜6万程度の解約料の積み重ねという事なんでしょうけれども、減額後の方は10万円きっかりである事はレシートから読み取り得る一方、その内訳等が完全に不明です。

<検討>

さて。ざっと見ただけでも、本件の問題点は大小取り混ぜて多々あるように見えますが、ここでは法的な部分に絞りたいと思います。法的な妥当性を評価するには、当事者間で争いがあるだろう概ね下記の3点で足りるでしょうか。

1.契約に至る経緯の正当性
 特に説明義務の履行有無
2.契約内容の妥当性
3.解約料とその請求・支払の正当性

それぞれにつき仮に無効事由等がある場合にも、その後の契約者による追認の有無等が問題になるでしょうけれども、それはひとまずおくとして、上記の事情の内、具体的な事実に関する証言等の内、争いの無い部分を概ね事実と仮定して見てみることにします。

まず1.について。言うまでもなく、全ての契約においてここが一番肝心なところです。・・・がしかし、この部分の情報は殆どなく、肝心の経緯が殆ど不明なんですよね。"ノートPCの修理のため"に店舗に向かった契約者が、店舗で本件契約を結んだ事自体は、何らの問題もありません。

無論、その正常とは言い難い契約内容を見れば、おそらくは多少なりと強引な誘引や、ミスリードの類もあった可能性も相当に強く示唆されるだろうところではあります。同社の商品等にはミスリードを狙った表示が多々あるようですから、本件でも連想的に疑いの目がかかるのも致し方ないところでしょう。しかし、評価・判断を下すための具体的な証拠が何もないのであれば、それは憶測に留まるのであって、正当とも不当とも判断は成し得ないものと言わざるを得ません。とはいえ、もし推測される通りの行為があったのであれば、民事に留まらず詐欺罪等の刑事罰にも該当し得るわけで、わからないなら仕方ない、と見過ごすにはあまりにも重要な部分なのです。

結局のところ、本件の理解が困難になっている原因はここに集約されているように思われます。しかし第三者からはどうする事も出来ません。PCデポ側からは個別の顧客情報につき経緯の詳細が説明される事はないでしょうから、投稿者側の説明を待つ他ないわけですが、可能な限り早急な説明が期待されます。でも一般人ですから、社会的に求められる程度の説明を期待するのは酷なのかもしれませんが。困ったものです。いっそ訴えが提起されれば、司法の判断も仰げるし有り難いのですけれども、それには額が微妙ですかね。

さておき、次に2.については、上記記載の個々の項目を見ても、違法と断ずべきものは存在しないように思われます。まあ流石にそれは当然でしょう。でなければこの程度の騒ぎで済む筈はなく、公権力による摘発もとっくにされていたでしょう。ただ、契約者との関係においては、契約者が投稿者の言う通りの独居老人であり、特に多数のデバイスを扱うわけでもない事は間違いないのだから、名称にもある通りファミリー向けと自ら謳い、多数のPCの利用を前提とするプランの契約を希望していたものとは到底考えられません。従って、この点については店側の悪意の程度によらず、明らかに不適切と評価する他ないでしょう。

一応、いかに客観的に不適切に見えようとも、特に契約者が希望する等の特段の事情があれば別です。しかるにこの点については、契約者が"iPadを欲しがった"ことから、iPadの無料リースが附帯する唯一のプランとして本件ファミリープランが選択されたものとの説明があります。これは特段の事情と言えるか否か。おそらく否でしょう。iPadは当然に本件サービスとは別に売買が可能だし、むしろiPadの入手を希望する場合、通常想定されるところはそれ単体の売買契約の意思のみです。少なくとも、本契約の主たる要素である台数はじめサービスの内容について、その契約の意思があったものとは到底言えないでしょう。

従って2.については、結局のところ、違法な契約ではないものの、妥当とは言えない、と評価すべきものと考えられます。契約者に錯誤があった可能性も高いでしょうから、それが立証されれば、無効の主張も可能でしょう。PCデポ側に悪意があれば、詐欺罪も成立する可能性もあるように思われます。やはり経緯が不明につき断定は不可能ですけれども。

3.についてはどうか。解約料は本契約の有効無効及びその内容の評価と直結するものにつき、前提たる具体的な事情の詳細が不明な現状ではその評価は困難なわけですが、大雑把な処理としては、不当な部分と正当な部分に分けて、

・不当・無効な部分については、解約料は発生しない
 ただし、不当利得の返還等は必要

・正当・有効な部分については、当事者が予め合意した解約料が発生する
 ただし、解約料の合意に瑕疵がある場合等には減額等もあり得る

という事になろうかと思われます。これを本件について見ると、下記の3ケースに分かれるでしょう。

A.元々本件サービス自体の契約の意思がなかった

 -> 契約無効、解約料は原則無料 現存利益は原則要返還

B.本件サービス契約の意思があった

 B-1.かつ、解約料については十分な説明を受け、理解の上契約した
  ->契約は有効、解約料も原則有効で額によらず支払い義務あり

 B-2.しかし、解約料については説明を受けず、又は理解せず契約した
  ->契約は有効、しかし解約料の合意は無効につき減額等あり

本件は、1.及び2.の内容如何によって、上記A.もしくはB-2.に該当する可能性が高いものと考えられます。B-1.はこの種の契約について常識的な限度で、部分的に認められるに過ぎないでしょう。また、仮にA.だったとして、"父が使用したログも残っている"点から、その利用の程度によっては追認した場合と同様となり、結果としてB-2.の状況と同等と見るべき状況にあたる可能性もあるでしょう。そう考えると、経緯がどうあれ、本件で問題とされている、異常に高額である疑いのかかっている部分については、B-2.に準じて処理されるべき可能性が一番高いように思われるわけです。

A.と仮定した場合は無効につき解約料も原則発生しません。B-2.と仮定した場合は、ほぼ解約料の額の妥当性のみが問題となるわけですが、ここで特に問題になるのは、下記2点です。

・当初20万、減額後10万の合意の有効性、妥当性
・減額後の10万支払いの意味・効果
 
当初の20万は、予め予定されていた解約金の総額という事で、上記合意の無効等の事情が無い限り、一応有効と言えるでしょう。しかし、後の減額はその額の根拠が示されておらず、その正当性は判断出来ません。これが、不適切とされる項目を除外した額が結果として10万きっかりになった、というのであれば別ですが、各要素毎の解約金が1円単位であるところからしても、そのような事はほぼありえないでしょう。ゴネたら10万になった、という情報から考えれば、10万以上の分は放棄したか、でなければ新たに弁済契約を結んだ、等と色々と解釈出来るようにも思われるところですが、いずれにしろ、解約料を10万円と定めた当事者間の合意が必要となります。この点、証明すべき書面等の情報は見当たりません。すなわち、正当とも不当とも判断出来ないのです。

従って、10万円の支払の有効性、及びその効果の有無についても原則として判断し得ない結論になります。ただ、これによって解約及び清算が成立したとすれば、契約期間は2015年12月から高々8ヶ月に過ぎない事、解約料とは別に月額14,245円の利用料が請求されていた事、また最終的に契約者の手元にはiPadも含め何等の財産も残らなかった事、といった事情を考慮すれば、光回線の解約料を控除したとしても6万を超えるその解約料は、社会一般の通念を逸脱し、特別の事情がないのであれば不当に高額であるとの評価は免れないところでしょう。 ただ、一応契約者は解約料と理解して支払っているようですから、詐欺とまでは言えないでしょう。

まとめれば、現時点で公表されている情報からすれば、

1.契約に至る事情は不明につき評価不能 
 不法行為を示す具体的な証拠の類はない
 ただ、その他商品の表示方法等から連想的に疑いがかけられている

2.契約内容に明らかに違法な点はない
 ただ、契約者の合意が疑われる明らかに不要・不適切な内容が
 多々含まれ、詐欺等の疑いも否定出来ない

3.解約料も違法とは言えない
 しかし金額の根拠はないに等しく、特段の事情の無い限り、 不当な高額
 である可能性がある

といったところでしょうか。要するに、色々と詐欺っぽいし、解約料は異常に高いけれど、明らかに違法と断じるだけの証拠はない、という、何ともすっきりしない状態にあるという事です。何はともあれ、経緯が定かでない現時点では、如何に怪しかろうとも評価は出来ないし、従って是非の判断もなし得ないのですから、出来る限り早急に経緯かが公表されるよう願いたいところですね。

ただ、本件で疑われているような、高齢者らの無知に付け込んだ詐欺まがいの悪質なサービス契約は決して特異なものではなく、残念ながら程度の差こそあれ、ありふれたものである事は周知の事実です。無論、それを妥当と評価し、利用している消費者も多くいるのでしょうけれども、だからといって明らかに正当な範囲を逸脱し、消費者を害する悪質な業者を放置して良いわけはありません。にも関わらず何らの規制もなく、これまで殆ど放置され続けて来たPC関連業界を是正する契機ともなり得るだろう本件、詳細かつ正確な情報が早急に公表され、それに基づき消費者の保護が図られる事を望みます。

なんと言うか。一応、これも時代の変遷、帰結の一つとも言えるのかもしれません。PC業界は進歩・変遷が早かった以前ならば、それだけ情報にもサポート類にも価値があり、費用がそこそこ高くても許容され得たんでしょうけれど、もう行き着くところまで行ってしまいましたから。どんな技術も商品も、進歩を止め、枯れて陳腐化してしまえば、それだけ価値は際限なく下がるものです。もし疑われている通りの、顧客を騙して搾取を図るような勧誘が事実であれば、知識やサービスの価値が下がったのに、そこから無理に収益を上げようとして、顧客を騙すやり方を選択した結果がこれ、という事で、当然の報いと言えるでしょう。この際PCデポは存分に報いを受けて、業界全体の教訓になってくれればいい、と思う次第です。どうせここまで悪評が広まったらもう駄目でしょうし。

弊社プレミアムサービスご契約のお客様対応に関するお知らせ