5/21/2015

[law] ドローン撮影配信の少年、業務妨害容疑で逮捕

結局はこうなるんですね。配信用映像撮影のため各地でカメラを搭載した無人ヘリ通称droneの遠隔操作によるイベントの空撮を繰り返して、一度は行事の只中に墜落させて社会中から非難を集めもし、幾度と無く警察の指導・警告を受けながら、全く反省もせずその後も挑発的に飛行・撮影を続けていた少年が逮捕されたそうで。

容疑は威力業務妨害。先日開催された浅草・三社祭に際し、事前に撮影の予告をして開催者に撮影自粛のアナウンスや掲示等、諸々の対応を強いる事で運営を妨害したものとされています。本来なら墜落のあった善光寺の件も同罪に該当する筈なのですが、その際は善光寺側が予告等を認識せず、従って事前の被害は無かった事、また当日の墜落やそれ以降の騒動についても、単に善光寺側が告発を控えた為に刑事化が避けられたに過ぎませんでした。あの無反省ぶりからすれば、いずれはこうなるだろう事は当然に予想されたところであって、特に驚くべきものではないし、それ自体は有り触れた単なる愚か者の不法行為が、たまたま話題性あるデバイスを使用し、また個人映像配信を介したがために注目を集めた、というだけの話なのでしょう。

とはいえ本件の社会的影響は小さくないわけで。すなわち、遠隔操作ヘリに関して、その犯罪に悪用され得る負の側面が広く社会に印象付けられ、その対策のために法による強行的な規制の導入を是とする論調が急速に高まっている事は周知の通りです。無論、これまでも官邸屋上へのデモを意図した墜落等を経て規制が導入されつつはあったものの、産業発展への配慮もあってか、概ね重要な施設等での個別限定的なものに留まっていたし、一般的な規制については必ずしも強く意識されていたわけでは無かったように思うのです。そこに現れた本件。それら個別の規制ではとても対応し得ず、従って一般的かつ広範な規制を求める根拠足り得る具体的な事例として認識されてしまった、いうわけですね。

しかし、一般的な規制を導入する、と口で言うのは簡単ですが、実際には相当に面倒な話だろうものと懸念されるのであって。予想される規制の内容としては、大まかに言って、使用者及び機体の登録制導入や、私有地外における飛行可否の条件や各種注意・管理義務の制定、事故等の発生時における規律、各種損害保険への加入義務付け等が考えられますが、それらを満たすために利用者に求められる知識の複雑さは相当なものと思われます。加えて、仮に事故等が発生した場合、基本的に高所からの重量物落下であって、さらにプロペラの破損や高容量バッテリーの発火等により深刻な被害に直結し得る危険性を考えれば、資格制又は免許制が導入される可能性も低くはないでしょう。

もっとも、自宅敷地内での私的利用についてはさほど厳格にする必要もないだろうし、実際にそこまで規制するのは困難でもあるでしょう。その困難さから、従来法制すなわち本件同様個別に業務妨害や過失傷害等による規律で足りるとして放置するという考え方も無いではないだろうし、それは流石にまずかろうという意見も強かろうし、果たして何処までどう規制するか、あるいはしないのか、それを検討するだけでも、とても一筋縄では行かないだろう話なわけです。

ましてその後の運用、特に費用周りの面倒さについては何をかいわんや。人件費だけでもどれだけかかるか、その予算は何処から捻出するのか。ドローン税とか導入する?と言っても、現時点では国内に保有されている機体は数万台に過ぎず、そんな大掛かりな手間を掛ける程の経済的な利益は無く、従って税収も期待し得ないわけで。社会的にはもう面倒だから、と一律禁止になってもおかしくない状況に見えるんですが、さて立法と行政は頑張ってくれるのでしょうか。

正直に言えば、あまり建設的な結果は期待しづらく思うところなのです。けれども、元々遠隔操作ヘリ自体が個人より産業的な利用の方で役に立ちやすい類のものだろうと思うし、リスクやコストが過大になるというのなら、未普及な今の段階で思い切って切り捨ててしまうのもそれはそれで是認すべき判断と言えるのかもしれません。

こういう規制導入の是非やその程度に関する議論は、3Dプリンターで製造される銃器類を巡って起きたものと構造としては類似のものだろうと思うのですが、それに比べても本件のドローンは危険性や違法行為との関係性が有意に高いし、同様の結論が妥当とは考えづらいんですよね。うーん。どうなるのでしょう。

ドローン飛行示唆、15歳逮捕=浅草・三社祭の業務妨害容疑-動画で配信・警視庁

(追記)

ちなみに外国ではどうかというと、やはりそれなりに規制されているのです。操縦者から100m以内でなければならない、とか、一定以上の密度で人が密集している所の上空は禁止だとか。例えば英国だと1000人以上が集まるイベントでは不可になっているそうで、サッカーの試合を撮影していた人がこれに引っ掛かって逮捕される事件が少し前に起きもしたのです。本件の少年は英国なら普通に逮捕される事になりますから、国内導入されるだろう規制もそれに倣うというのも一つの候補になり得るでしょう。今の論調を見る限り、必ずしも多人数相手でないテロや示威行動の懸念も強いようですし、それを踏まえるともう少し厳しいものになりそうですけれども。

Man arrested for filming Premier League matches with a drone

そういう、ドローンの規制云々や少年の罪状とは別に、その活動の動機であり資金源でもあるところの動画配信周りに議論が飛び火しているようで。一応幇助や教唆の容疑は掛かりうるのですから無関係というわけではないものの、主に責任の所在に関してむしろそちらの方が問題視されつつあるようです。確かに、本件は未成年者の犯罪という時点で、監督義務のある保護者はじめ、周囲に一定の責任が帰せられるべきものではあるし、多少なりとその動画配信システム、またそれを通じて教唆や資金提供が成されたというのであれば、それぞれが相応の責任を問われて然るべきところかと思われるわけです。しかるにサービス自体が犯罪の温床になるというのであれば、規制が掛かるのも避け得ないところなんでしょう。経済的、社会的に見れば、ドローンへの規制よりもむしろこちらの方が影響が大きいかもしれませんね。逆に言えば、動画配信サービスの仕組み自体に内在する問題が表面化したのが本件と言えるのかもしれません。そうであれば、本件の発生は偶然ではなく必然の帰結だった、と解釈すべき話になるわけですが、さてどうなんでしょう。

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