周知の通り、毎年のように巨額赤字を連発し、財務的に存亡の危機に追い込まれた電機大手シャープが、99%以上の大幅な減資に踏み切る運びになっているそうで。1218億を1億にするという、狂気の沙汰的な減資なんだそうです。
理由は明白、積み上がった債務の返済に充てるという事です。がしかし、当然ながら資本金は株主にとっての会社の主たる価値そのものであって、対外的には資金調達等も含めおよそ全ての営業活動の担保となるべき会社運営の基礎、一言で言えば信用なわけです。それをほぼ0にするいう事は、すなわち信用が無くなるわけで、その意味では倒産と等価ともいうべき、決定的な措置なのですから、単に債務を返済して終わりになる筈もありません。
本社はじめ不動産等の資産は売却済み、工場等もとうの昔に売却乃至抵当に入っている筈な現状、もう目の前の資金を調達出来なければ倒産する他無いところまで追い詰められている、という事なんでしょうけれども、それにしても無茶をするなと思います。驚き半分、呆れ半分といったところでしょうか。
そういう事情は殆ど周知の事実ですし、ともかくとして。本件はこの規模の会社では殆ど前代未聞の措置ではあるわけですが、本当に実現するんでしょうか。減資の法定要件は株主総会での特別決議、すなわち別段の定款の定めがなければ議決権過半数の株主が出席した総会での2/3以上の賛成となります。然るに減資は株主にとっての保有株の換価価値そのものであるところの資本金(及び剰余金)を配当するどころか逆にみすみすほぼ全て放棄する事になるのですから、いくら破綻の危機と言われても、容易に同意が得られるものとは考え難いところです。
とはいえ、現実として資金面で破綻の危機にあるのは間違いないのだから、その回避を図るに当たって他に取りうる手段が無い、として説得が不可能なわけでもないでしょう。ただその説得が容易ではないだろうのが問題なわけで。これが、創業者一族だとか、ある程度大きな割合を持つ大株主が中心なら、手間はかかるけれども個別に交渉すれば何とでもなるのかもしれません。けれども、現在のシャープの株主構成は個人も機関も入り乱れていて、国内の個人だけで4割、外国人も2割にもなっています。決議の成立要件から考えれば、その膨大な個人株主のうち相当割合の出席及び賛成が必要になるわけですが、これはとても個別に説得し得る数ではありません。その達成は控えめに言っても困難で、いっそ至難と言ってもいいもののように思われるところですが、果たしてシャープ経営陣にどれ程の成算があるのでしょうか。少なくとも銀行周りの後押しはあるのでしょうから、数割程度は確保済みなんでしょうけれども。
ともあれ。その成否はひとまず置くとしても、少なくともこの話が出てしまった以上、来週以降シャープ株は紙くず同然の評価を受けるだろう事は必至です。減資すれば、PBRで見れば超絶な割高になってしまうのですし、評価する投資家も大変でしょうね。というか、東証はどうするんでしょう。一応、時価がそれなりにあれば上場継続の可能性もある筈なのですが、予想される諸々の混乱を考えれば、上場廃止にすべき案件だと思うのですけれども。一時的な取引停止は当然として、減資成立後はやはり廃止でしょうか。何せ前例の無い話なので予想しづらいですね。事業の実態面からは先行き復活の可能性が全く無いとも言えない点もその混乱に拍車を掛けるでしょう。さてどうなってしまうことやら。
あと、仮に減資が成立したとして、それで終わりになる筈もなく、その後の営業にも色々と困難があるでしょうから、その行方も気になるところです。とりわけ、資本金が無いも同然なのだから、借金をしなければ当座の資金すらまかなえなくなる点は誰が見てもヤバい、というか紛うことなき自転車操業になってしまうのに問題にならないわけがありません。元々シャープの事業はどれも巨額の設備投資を要し、従って資本のサイクルがとても長く、にも関わらず非常に市場の変動が激しく不安定なものなのだし、安定して黒字を出す事が困難な性質の事業である事は明らかなのです。しかし、減資によって資本金が無くなり、従って当座の運転資金も含めて全て借金によって賄わなければならなくなるがゆえに、その金利の支払い分も含め、安定して黒字を確保する必要があるわけです。でなければ運転資金すら得られないのですから。それに、減資で得られる資金は1200億強、剰余金が2000億強。ここ数年で毎年出す赤字を賄うには全く足りず、しかもこれは本当に最後の手段で、次は無いのです。もはや短期長期問わず、些細な失敗すら許されません。ここ数年の決算を改めて見るまでもなく、この期に及んでそんな理想的な経営が出来るとは到底思えないのですけれども、シャープ経営陣は正気なのでしょうか。
もっとも、個人的には上記のような自転車操業に陥る時点で既に終わっている気もするのですけれども。正直に言ってしまえば、あっという間に資金がショートして即死する未来が見えるかのような。多分に、無理に資金を注ぎこんで延命させたとして、その追加資金も含めて不良債権が増えて、破綻した時の被害が増えるだけなんじゃないかと思うのです。
ならば、いっそ一旦破綻して、再出資を受けるなりして出直す方がましなのでは、とも思うのですが。。。そんなに整理分割されたり海外資本に買収されたりするのが嫌なんでしょうか。嫌なんでしょうね。hong-hiの話も未だに決着してないみたいですし。でもそうだとしても、今現在のSHARPの動きは、どれもあまり意味のない悪あがきに過ぎないように見えますし、このままだと結局は同じ末路に至りそうにも思われるところ、あまり他所に被害を拡大させない内に始末が付けられるよう願います。無論、その辺はどう足掻くも当事者の自由ですし、他人がどうこう言うべき話ではないのですが、話が話だけに、やはり興味は惹かれてしまうのです。本当にどうなるんでしょうね。
シャープ大幅減資、増資で株主持ち分減少も
(追記)
減資の要件について補足。減資の要件は原則として上記の通りですが、定時株主総会で欠損との相殺をするのであれば普通決議で良い特例があるので、今回はそれを使うという事なんでしょうか。であれば、上記より大幅にハードルが低くはなります。それはそれでいいんですが、もしそうだとすると、シャープの前期における欠損は200億強につき、今年は1000億以上の欠損が発生したという事にもなるわけだし、運転資金を借金で賄う事になるとかの実体面での追い込まれっぷりについては変わりない、というかやっぱり終わってるんじゃないかと。
(追記その2)
2015年3月期の赤字は2000億超。これを穴埋めするため、銀行からの優先株による増資2000億を受け入れ、事実上銀行の管理下に入る運びになりました。減資は5億残す方針に修正。唯一のメリットだった筈の税制優遇すら無くなり、もはや意味不明です。
[続き記事 [biz] 赤字2223億で資本消滅、錯乱するシャープ ]
[過去記事 [biz] hong-hiがシャープ出資契約無効を主張]