5/12/2014

[pol] 漫画作品における原発事故による健康被害描写に対する公的非難の違法性

あっちもこっちも、何たかが漫画の一作品にそんな目くじら立ててるんでしょう。某コミック週刊誌に先日掲載された福島原発事故による健康被害を訴える描写が異様なまでの非難を受けている件ですけれども。個人的には作品にも作者にも全く興味はないし、非難を受けている事自体は別にいいんですが、公的機関や関係者、首長や閣僚らが公的に行っているのには、それは流石にまずいだろうと。

まず前提として、表現の内容自体は、偏ってはいても当事者への取材に基づいたもので、全くの出鱈目というわけでもないとの事。具体的には、福島へ往来した登場人物が鼻血を出す描写があり、それが原発事故で放出された放射能によるものであるとして、その他の登場人物が残留放射能の健康被害を主張する表現がなされていると。それらは、前双葉町長や研究者ら実在人物の証言として描かれているそうです。

従って、本件を客観的に見て、特に問題となるべき点の存在は認め難く思われるところです。作成にあたっての裏付け取材の程度も、完璧とまでは言えなくとも、この種の作品の作成において通常なされるべき程度には行われているように思われます。というより、個人の作品に完璧を要求する事など不可能というものです。もちろんこれが政府や自治体の公式発表やメディアによる報道等、高度に公共性が高く、事実としての信頼性を備える事が必須のものであれば看過出来ないものと言えるんでしょうけれども、そうではないのですから。

加えて、原発事故による健康被害の懸念、またその発生の主張等については、既に週刊誌等で遥に極端に偏った内容の記事がそれこそ無数に発行されて来た事は周知の事実であるところ、およそそれら全てを看過しておきながら、本作品のみを取り上げて非難の対象とするというのは、控えめに言っても一貫性や公平性に欠け、恣意的で非合理な行いと言わざるを得ないでしょう。

では、一貫性があれば良いかと言うと、それも論外です。それは、原発での健康被害を示唆する言論、表現全てを糾弾の対象にするという事であって、まさに政府による言論統制であり、表現の自由の侵害として憲法に違反する違法行為に他なりません。というより、本件だけを取っても、正しく表現の自由に抵触する事は間違いないところ、閣僚や自治体関係者が公然と非難を口にしている事自体、信じ難く思われてなりません。違法行為をして多数がやれば正当化されるとでも言うつもりでしょうか。仮にも立法と行政を担う人間が。

本件作品の作者個人の特質、特にこれまで政治的な主張を繰り返してきた点を取り上げ、本表現も政治的主張と捉える事で公的非難の根拠としている向きもあるようですが、そうだとしても、本件は法に触れるものではなく、従って一個人の言論の範疇に留まるものです。それは正に言論の自由が保証されるべきところ、公権力の圧力によって撤回や修正を強制されるような事があってはなりません。違憲行為である事を自覚せず、脊髄反射的に軽々しく非難を公言する政府・自治体の面々の振る舞いには、強く遺憾の念を抱かずにはいられないのです。

どういう作品、どういう意見だろうと、違法でない限りは、個人の行為、そういう表現も見方もある、で受け流すべきところでしょうに、ほんと何考えてんでしょうか。自分たちの近視眼的かつ経済的な利益以外、何も考えてないんでしょうけど。見方を変えれば、原発事故を巡るその種の懸念がそれだけ強く、行政関係者自らの主観からしても否定出来ていない事の裏返しなんでしょう。それだけ取り返しの付かない事が起こってしまった帰結なのだから、今更どうしようもないのですけれども。

「美味しんぼ」の原発描写「風評被害助長、断固容認できない」 福島県、HPで非難