とりあえずその日は天候がよろしくなかったので水分の浸潤防止用にラップ等を張り付けておき、リペア用の樹脂材と注入器具のセット、あと傷確認用のミラー、さらに屋外作業なので作業中の紫外線による樹脂材硬化防止用のスクリーン等の機材を用意して、天候回復を待つこと数日、満を侍して作業開始と相成ったわけです。
結果から言えばまずまず成功。一般に修理業者での施行の場合とさほどの差もない程度には修復出来たその手順は以下の通り。
何はなくともまずは樹脂材が必要。個人向けキットも幾つかの種類が販売されていますが、今回は定番のホルツ製のガラスリペアキットを使用します。中身は下図のような感じ。左上の遮光シートでラッピングされているのが樹脂材、レジンです。目薬のような容器に入っています。
問題の傷は下図。 若干イレギュラーなヒビもあるものの概ねスター型、大きさは直径20mm弱といったところでしょうか。なお下のミラーは注入中に車外から進捗を確認するために車内に設置したものです。
樹脂材は中心から注入するのですけれども、その前に末端のヒビまでレジンが浸潤するよう、中心とヒビの間を確実に繋げておく必要があります。キットにもそれ用の針が付属しているのですけれどもこれはいかにも頼りないので、今回は手持ちのハンドドリルに1mm位の細いピットを付けてこれで削りました。回転数を上げないように慎重にコリコリ削ります。極めて緊張します。あまりやりすぎないよう、中心部を少し広げる程度で切削を終了し、しかるのちに吸盤付のプレートを中心が傷の真中にくるように取り付け、インジェクタを装着します。あまりねじ込み過ぎてプレートがたわんだりしないように注意しつつ。
注入中のレジンに紫外線が当たらないようにフロントガラス部を二重に覆う形で遮光シートをセッティングしたのち、ポタポタとレジンを投入。そして素早くシリンダをねじ込みます。ねじ込み過ぎると貴重なレジンが接着面の隙間から溢れ出てしまいもったいないのでここも加減に注意。2~3分待ち、シリンダを緩め、また2~3分待ち、またシリンダをねじ込む、これを何回も繰り返し、ヒビの中の空気とレジンを入れ替える事で浸潤させて行きます。ミラー等で進行を確認し、微調整もしつつ、根気よく繰り返します。プロの使うような圧力調節が可能な専用のインジェクタがあれば素早くより確実にできるんでしょうけれども、数十万はする筈でとても手が出ません。我慢です。最初はなかなかヒビが消えずやきもきしますが、頑張って10回も繰り返せばレジンが染み込んでいき、ヒビが目に見えて薄くなってきます。下図はその終盤、車内から確認したもの。写真だと分かりづらいですがうっすらと線が見える位です。
数回繰り返しても変化しなくなったら完了。あとは硬化させて仕上げるだけです。インジェクタを外し、レジンを中心に一滴垂らしてキット付属のフィルムで覆い、遮光カバーを外して日光が当たる状態にして2~3分待ち、一旦フィルムをめくってさらにレジンを一滴してまたフィルムを戻して準備完了。日光(紫外線)に晒して固まるのを待ちます。この日は曇り時々晴れ、雲が7割方空を覆う微妙な天気だったので長めに一時間余り程度待ち、十分に固まった事を確認してからフィルムを剥がして、膜状に広がって硬化した余分な樹脂材を削り、さらにガラス研磨用のコンパウンドでわしわしと磨いた結果が下図。筋状の跡と、中心部にまだ瘡蓋状の跡が見えますが、ヒビの概ね全体に樹脂が行き渡って硬化し、無事修復されてくれました。めでたしめでたし。
しかし疲れました。作業自体は重労働というわけではないしむしろ楽な部類なんですが、一度レジンを浸潤硬化させてしまうと不十分だった場合にも注入経路が閉ざされてしまうためにやり直しがほぼ不可能で失敗が許されない事と、注入中の比較的長時間に渡って紫外線が当たらないように配慮しながら作業をしなければならないので精神的に消耗します。ミスが許されないのはつらい。ドリルで削る時もそうだし、レジンの量もとても少ないとか、様々な面でとにかく余裕がありません。もっとも苦労した分成功した時の安堵感や幸福感も強くなるんですけれども、出来れば避けたい類の作業ではあります。自分の物ならまだしも人の物だったし。まあもう終わった事だしいいんですけどね。というわけで今回はこれでおしまい。