8/31/2011

[law] オリンパスの内部告発報復人事訴訟で社員勝訴

とか。本件、オリンパス社員の浜田正晴氏が内部告発で嫌がらせ的な報復人事を受けたとして会社を訴えたものですけれども、その原因となったところの行為、すなわち上司のヘッドハンティング行為をコンプライアンス部門に通報した事、またその行為者たる原告が公益通報者保護法の保護対象に含まれるかどうかが判然としないものとされて争われ、第一審では否定の判断がなされていたところでした。今回の控訴審では、報道を見る限りその部分には触れず、単にその後の人事行為を分離して乱用と判断したようですね。結果としてはまずまず無難かつ妥当な判断のように見えます。

ただその中身というか経緯の部分については少々複雑なところです。結局のところ、本件原告の行為は公益通報者保護法の保護対象には含まれないという判断が維持されたようですが、裁判所の判断を俟つまでもなく、ヘッドハンティング自体は原則として特に違法な行為でもないし、むしろ管理職としては業務の範囲内に入るものなのだから、そもそもそれをコンプライアンス部門に通報した事自体が不適切だった筈で、その時点で却下扱いにされるべきだったのだろうと思うのです。内部告発に関しては、制度として内容問わず調査確認の手続きを取る事になっている場合も多いし、オリンパスもそうだったのかもしれませんが、仮にそうであって調査等は避けられず、かつ上司の行為にある程度の問題があったとしても、上司にも本件原告にも注意程度で済ませる事は十分可能だっただろうと思えるのですよ。

内部告発制度は、コンプライアンスの実現・維持に非常に有効、事実上欠くべからざるものである、その事は間違いないのですけれども、本件は制度が一人歩き的にあらぬ方向へ働いてしまったもののように見えるのです。告発者は当然に自らの定める基準で判断し、告発に及ぶわけですけれども、それは必ずしも一般に法の知識経験に基づくものではなく、正当とは言い難い場合も起こりうるし、そのような告発に基づいた処分は当然に誤ったものになるわけで、それは防止されなければなりません。そしてその責任は告発の窓口となるコンプライアンス部門にあるわけです。裁判所と同じような役割、能力を備え、告発者・被告発者とも不当な権利侵害が起こらないように注意しつつ裁く必要がある。本件のように客観的に不適切な場合にはそう判断出来た上で機能しなければならない筈なのですよ。

しかし現実は、そのコンプライアンス部門自体が素人同然な有様だったり、実質的に人事総務部門の一部に過ぎなかったりするんですよね。そういう状況からして、本件のような事態の発生はむしろ必然的なものと考えるべきなのでしょう。残念な話です、と嘆いてばかりいても仕方ないのですけれども。

本件訴訟は多分に最高裁まで行くんでしょうしまだ終わったわけではないけれども、この辺りの判決の主旨が、広く速やかに浸透して、状況の改善がなされる事を願う次第です。覆水盆に返らず、訴訟をしても失われたものが戻るわけでもなく、計り知れない損失が残るだけなのですから。もっとも、何らかの強制力が働かない限り、改善の望みは薄いだろうとも思いますけれどもね。

「内部告発で配転は人事権乱用」 オリンパスに賠償命令
東京高裁