2/20/2025

[biz] 米EVトラックNIKOLA破産

EVバブルの崩壊を実感させる出来事がまた一つ。

米NIKOLAがChapter11の申請をして破産したそうです。

かつてTESLAの後追いで沢山生まれたEVメーカーの中でも、名前からしてとりわけパクリ感の強かった同社ですが、既に殆ど忘れられた存在になっていました。私自身、そういえばそんな会社もあったね、と今回の報を聞いて思い出した位です。

破綻自体は、まあ、そりゃそうだろう、としか。同社が開発・製造していたのは大型トラックですが、EVはその巨大なバッテリーの重量が致命的に大型車とは相性が悪く、重すぎて例えば日本国内では法令上の重量制限に引っかかって殆どの道を走れないという、わけのわからない代物になってしまっていました。 

さらに、数年前にはモックアップを走っているように見せかけたプロモーション映像で資金を集めて詐欺で訴えられたり、全車リコールをやらかしたりと、色々と不祥事が絶えなかったそうです。なお、投資詐欺等で訴えられた創業者で当時のCEOのTrevor Miltonは既に有罪が確定しています。(4年の実刑+1m$の罰金)

それでも年に数十台程度は売れていたようですが、採算が合うわけもなく、当然のように毎年数億$レベルの赤字を垂れ流し続け、この程ついに資金が底をついた、というわけですね。株価は既に殆ど下がりきっていたようですから、関係者も市場もみな織り込み済みの結果なのでしょう。

むしろ最初からその構造上事業として成り立たないだろう事が明らかだったのに、よくそんな体たらくでここまで保った、と評するべきなのかもしれません。

その意味で、十分な実体を備えない殆ど詐欺同然のスタートアップも、投資をする側が実体に頓着せず、最低限の精査すらしようともしない(あるいはその能力がない)ために、最低限の外面的な体裁と流行のネタに絡んだ話題性があれば巨額の資金を集める事が出来てしまう、バブル生成機構としての株式市場を含めたスタートアップ環境の病的な現状を象徴する一例であったとも言えるのかもしれない、とそう思うのです。

太陽光バブルは既に遠く過ぎ去り、さほど時を置かずEVバブルも破綻しました。しかし同様の、実体がないのにあたかも実体があるかのように見せて無知・無頓着な人から資金を集め、資金が集まっている、という事実のみによって得た仮初の価値によってさらに資金を集め、ガワに使ったネタの神通力が切れたらゴミになる、という詐欺同然の仕組みの投資対象は、見た目だけを変えて日々生成と消滅を繰り返し、途絶える気配はありません。

現時点でその代表的な立ち位置にあると言えるだろう暗号資産も、バブルの生成と崩壊を無限に繰り返しながら今の所は存続していますが、さてあちらはいつまで続くのでしょうね。 NFTは終わった感がありますし、有象無象のmeme系の暗号資産についても同様に終わりが見えているように見えます。 

BTCやETHについては正直先が読めません。その仕組み上維持に必要となる計算リソースのコストはあまりに重く、それ以上のバブルの膨張を続けられなければ維持出来ないだろう事は明らかであり、膨張が止まれば終わらざるを得ない、それは間違いないでしょう。

しかし、虚像のバブルがそうと知られながらここまで長期間に渡って膨れ上がった例も今までになく、当然にその終わりに直面した経験もないために、先行き及び着地点の予想が困難なのですよね。それ自体に実体的な価値など無い事は他と同じなのだし、危ういにも程があるのは事実なのですが。

Nikola goes bankrupt, to sell assets in latest EV market turmoil

2/08/2025

[biz pol] 当事者不在で勝手に決まった事にされる恐怖のTrump's deal

日本製鉄によるUS Steel買収の件で、Trump大統領が石破総理との会談の席でまたよくわからない事を宣ったそうで。

曰く、"過半数の持分(majority of stake)を取得せずに多額の投資をする事になるだろう"、と。

これを素直に読むなら、発行済株式総数の半分以下の範囲での出資&業務提携、という意味合いであるように思われます。まさか予約券なしの社債発行とかじゃないでしょうし。

仮にそうだとして、具体的な出資額は次のような感じでしょうか。

現在のUS Steelの時価総額はおよそ$8.3billion、1.2兆円。その半額だと6000億程度。1/3なら4000億。確かに多額ではあります。日本製鉄の時価総額は3.6兆円程度ですから、その1割から2割弱程度の資金を投入する計算になります。

日本製鉄がその資金をどこから調達するのかはわかりませんが、自己資金で賄うには厳しい額でしょうから、おそらく基本的には株式を追加発行して調達するのでしょう。この金利上昇局面で金融機関からの借り入れは博打が過ぎるでしょうし。

何にせよ、経営権を握らないのなら、出資自体は金融機関がするのと同種の純粋な投資になります。である以上は、リターンがプラスになる見込みがなければ話になりません。少なくとも、資金調達コストをペイするだけの収益を上げた上で資金を回収出来る見込みが立たなければ実行出来ないでしょう。

ですが、US Steelの経営状況、また今後の見通しは知っての通り非常に芳しくなく、むしろ資金だけ出してもすぐに食いつぶされて終わり、になりかねない状況です。

普通に考えれば、そのような危険な状態の企業に、金だけ出して経営には口出しせず黙って見ているだけ、などという条件で多額の資金を出そうという者はいないでしょう。そうでないなら、とっくにファンドなりが出資して、そもそも外資たる日本製鉄などに出る幕はなかった筈です。

必然的に、今のUS Steelに資金を提供するには、その経営を抜本的に改善する施策とセットでなければならないわけです。そして、その施策の実行を担保するには、経営権を取得しなければならない。ゆえに、議決権の過半数取得は出資に際しての欠くべからざる条件になる。経営危機に陥った企業の救済の大半が買収の形を取る所以です。

なのに、Trump大統領は、金だけ出して口出しはしない、という条件を出して、しかもそれが既に決定事項であるかのように言ったわけです。Trump大統領はもちろん、その話相手の石破総理も含め、出資交渉の当事者が誰もいない場で。当然根回しも何もありません。

意味がわかりません。何の権利・権限があってそんな発言をするのか。US Steelはともかく、日本製鉄がなぜそのような案を飲むと思えるのか。そもそも仮にその案の通りにするとして、US Steelの経営危機自体は解決しないわけで一時凌ぎにしかならず数年後に破綻してしまう、それじゃ意味がないだろうと。

本来そんな事は一々指摘するまでもない話な筈だし、両政府の管轄部門を含め、関係者は当然よくわかっているだろうに、トップがアホだとこんな無茶苦茶になるんですね。目を覆うばかりの惨状とはこの事です。

とりわけ、日本製鉄は今頃大混乱でしょうね。。。担当者はストレスで死ぬんじゃないでしょうか?日本政府も同意した事にされて、しかし純然たる私企業同士の話に口出しする権限も筋合いすらもなく、否定しようにも正面切ってTrumpの顔を潰すわけにもいかず、経産省も外務省もどうしたものかと途方に暮れているのではないかと。おそらくは米国側の産業回りの担当部署も。

当該発言の際には、日本製鉄のNipponをNissanと言い間違えてもいた、という冗談のような話もあるそうです。Trump大統領はマジでボケ始めているのでは?との疑念もちらつきます。就任したばかりの今からのそれは洒落になりませんね。勘弁してほしいものです。

いや、正気で言ってるならそれはそれで困るんですけれども。いやはや。

Gazaの件といい、お前部外者だろうが無茶苦茶言うな案件が連発していますが、そういうのは流石に迷惑でしかないのでやめて頂きたいですね。

2/05/2025

[biz] ホンダ・日産の経営統合、あえなく破談

まあそうなりますよね、としか。むしろ成立すると思ってた人っているんでしょうか。公表から一ヶ月あまり。ホンダ・日産の経営統合の件、具体的な組織上の手続きに入る事もなく、また株主からの反発等を受けるまでもなく、経営陣同士の交渉、その初期の時点で早々に破談したそうです。

救済される側の日産の側から撤退した点は少し意外だったというか、いやそれは殆ど部分的廃業にも等しいリストラ要求とホンダに吸収されるも同然の合併形態・比率等に我慢ならなかったというだけなのでしょうけれど、それでも存亡の危機にあるのは事実なわけで、一体日産はこれからどうするつもりなんだろうと疑問を抱かずにはいられないわけです。

今の日産にホンダ以外の、今回ホンダが要求したであろうより良い条件、つまり対等な立場で合併等を申し出てくれるあてがあるとも考えられません。本件によって日産に抜本的なリストラ等をする気がない、すなわち経営状況の改善が望めないという事が明らかになってしまった今となっては尚更でしょう。もはや同業他社による救済の道は閉ざされたも同然です。

である以上、もはや日産には独力で立ち直る以外に生き残る術はない事になります。

言うまでもなく猶予はさほどありません。事業自体、強みらしい強みもなく、手札は無いに等しい。組織は腐敗しきって機能不全。それでいてプライドだけは山より高い。そんな日産が、残されたわずかな時間で、経営統合という目標もなく、外部からの圧力もなく、自律的に体質も含めた事業の抜本的な構造改革など出来るものでしょうか。正直不可能なのでは、と思わずにはいられません。

さよなら日産、と別れを告げる日はそう遠くないのかもしれませんね。そうなったとしても、完全に自業自得なので同情する気も起こりませんが、行き詰まった企業というのは無残なものだなと、しみじみ思うのです。

[biz] 無理筋に見えるホンダ・日産の経営統合 

<補足: ホンダの言い分も酷い件>

とはいえ、今回のホンダ側の言い分も大概ではあって、到底支持出来ない酷いものではあります。

ホンダは、日産をホンダの子会社にするという、当初の合意から大きく逸脱して、基本的な枠組みを自分に都合のいいように大幅に変更する重大な要求をしておきながら、日産側に殆ど検討の時間を与えず、その上で意思決定が遅いと宣ったわけです。

公表前の水面下での話ならいざ知らず、既に基本方針も公表されている以上、そのような重大な不利益を伴う変更の是非の判断を日産側経営陣が独断で出来るわけもなく、社内外との調整検討説得に多大な手間その他の困難がある事は明らかであるにも関わらずです。

救済する側される側として事実上力関係ははっきりしていたとはいえ、少なくともその時点での建前上は別企業として当然に対等な立場の交渉相手であり、そもそもこれから一つの企業体として仲間になろうという相手に対し、あまりに傲慢かつ不誠実で理不尽な振る舞いと言わざるを得ません。正直ドン引きです。

そのような扱いをあからさまに受けて、日産側が屈辱を感じなかった筈はありませんし、もはや信頼できないし経営統合など論外、と判断するのも仕方ないでしょう。その意味で、日産側にも同情すべき点は大いに認められるのです。経営危機云々は別にして。

2/04/2025

[pol] 予想通り?世界を振り回すTrumpに試される平常心

Donald Trumpの大統領就任から2週間。激動、というべきなんでしょうか。何か違う気もしなくもありません。

何にせよ、概ね予想通りとは言え、洒落にならないレベルの過激な大統領令の連発に世界中が振り回され、精神的にとても疲れる日々でした。それでも、人は慣れるもの、な筈です。数ヶ月もすればきっと。・・・多分?

これまでの振る舞いを一期目と比較して見ると、個人への攻撃的な言動は殆どなく、その代わりに特定の属性毎の集団にターゲットを絞っている点に違いがあるように見えます。

各々の行動に際して何も根回しもせず、合憲性すら考慮せず、周囲を混乱に陥れる点は同じなのですが、対象が桁違いに広く、また規制等の程度が前例がない程に過激なため、個人から企業団体まで、一瞬にして危機的状況に見舞われる人たちが膨大に発生し、各所で当然に阿鼻叫喚の大混乱が生じました。Trumpが大統領の権限について理解を深め、より効果的な行動を選択するようになったものと評価できるでしょう。

米国籍の出生地主義の廃止は早々に違憲との司法判断から差し止められ、連邦政府の補助金・貸出金の一律停止についても司法により一時差止措置が取られましたが、それ以外の、米国憲法による規制が原則として及ばない対外的な政策については抑止が困難で、個々に標的となった近隣国等の対象との間の交渉に委ねられています。

相手が国家であれば、アメリカ側が圧倒的に優位とはいえ、何もせず黙って受け入れる程弱くもないわけで、対抗措置の応酬が当然に始まり、その損害が割に合わないとなれば和解がなされ、結果として当初懸念される程の深刻な事態への発展までは至らないケースが多いでしょう。

交渉が不可能ないし困難な相手なら?言うまでもありません。不法移民のような交渉の余地のない相手は無論、DEI関連職員等のマイノリティには抗う術はなく、淡々と排斥が進められていますね。このあたりはTrumpの公約の中核的な部分ですし、法的にも問題は殆どありません。このまますんなり行くところまで行くでしょう。

流石にカナダ・メキシコへの25%の関税については、その目的(オピオイドの流入抑止等)に比してあまりに国内経済への影響が大きすぎるし、報復措置もきつく、主に経済界からの反発を受けてあっという間に殆ど事実上の撤回に等しい延期に追い込まれました。このインフレ下でさらに何割も上乗せとか、米国民からしたら何の冗談だって話でしょうしね。

しかし、中国への10%追加についてはそのまま実行されそうです。もっとも、中国はWTOに提訴する構えを見せていて、提訴されれば間違いなく米国は負けるでしょうから、そう長く続くわけではないかもしれませんが。

とまあ、やっている事は過激ではありますが、実のところ概ね公約通りでもあります。その意味で驚きはないのですけれども、程度の面で予想を超えていた、という向きも多いようです。そういう意見については、正直甘いのでは、と言わざるを得ません。

明確に国民の多数の支持を得て大統領に復帰したTrumpには今更恐れるものもためらう理由もなく、1期目より過激になるだろう事は目に見えていました。これまでの言動からおよそTrumpが実行し得る事は原則として全て為されるものと想定すべきです。

もっとも、インサイダーなど知ったことかと無価値な暗号資産を売り出して儲けようとした件など、大多数からも想定外だろう権力濫用の類もないわけではありません。とはいえ、そのレベルになるともう予想とかしても無駄だろうし、影響もたかが知れているでしょうから、事が起こった後でその都度対処すればいい話なのかもしれません。

疑心暗鬼は百害あって一利なし。無警戒は難しいでしょうしするべきでもありませんが、過剰な心配はしないに越したことはありません。落ち着いて見れば、大多数の人にとってTrumpの振る舞いが実際に利害が絡む点はそう多くはありません。平常心を心がけましょう。

ただ、軍事関連についてだけは別です。軍事政策でのやらかしは、およそ取り返しのつかない事になるので。その意味では、Trumpが軍事関連には一貫して消極的な点だけは救いと言えるでしょうね。どうかこのまま乱心を起こさずにいてくれますように。

[pol] インフレに翻弄される米国、その先に待つもの