ちょっと意外なところから大規模リストラの話が。独Siemensが、発電用タービン等の重電関連機器の製造事業について、GoerlitzやLeipzig等の工場閉鎖、またBerlinを含むその他拠点の人員削減等により、ドイツ国内中心に7000人近い大幅なリストラを実施するんだそうです。
理由は単純、需要の低迷です。発電事業に関して、とりわけ同社が販売基盤を持つドイツ周辺では、従来の火力発電等から風力等の再生エネルギー向けへと需要がシフトし、それに伴って生産能力が過多になっているんだとか。具体的には、タービンの年間需要について予想される110基に対し同社は現在400基生産可能な体制になっているそうです。 事実であればそのギャップは著しく大きなものと言う他ないものであり、相応の縮小はやむを得ないところでしょう。
この種の事業の生産体制は、施設も人員も、その規模の大きさや高い練度が求められる事業の性質上、需要の増減に合わせて適応的に拡大ないし縮小する事が難しいため、一般にリストラを実施しづらいものと考えられています。無論、労組も受け入れられない、と激しく反発しています。にもかかわらず、これほどの大規模なリストラを、しかも本拠たる国内で行うというのですから、Siemensとしては欧州周辺の電力市場について、再生エネルギーへのシフトはもはや不可逆であると、確信を持って捉えている、という事なのでしょう。
なお、直近の業績を見てみると、同社のPower and Gas事業については前年比で若干利益は落ちているものの、営業利益率は8%を超える黒字となっています。この点からしても、普通に考えればそこまで大胆なリストラに踏み切るのはなかなか難しいところだったでしょう。周囲には相当の驚きを与えただろうし、意思決定に至るまでに社内でも反発があっただろう事も想像に難くありません。それが分かっていたからこそ、需給のギャップが4倍近くになるまで決断出来なかった、という事なのかもしれません。逆に言えば、よくそれで利益を出せているものだとも思うわけですが。
この種の、衰退が見込まれる主力事業について、実際に追い込まれる前に大規模な事業の縮小を行う経営判断のありようは、合理的な判断を指向する欧米の大企業にあってはしばしば見られるものではあります。ただ、それはIBMやGoogleといった、設備や人員の改廃をやりやすく、比較的フットワークの軽いIT関連の事業者が中心で、自動車や重電といった、どうしても設備投資のスパンが長い事業ではあまり多くはないように思います。その点で、今回のSiemensの決定には注目すべきところがある、と言えるでしょう。
それとは全く逆、往々にして手遅れになってから場当たり的に右往左往するばかりの東芝をはじめとする国内企業各社とは比較するのも馬鹿馬鹿しい位の違いがあります。少しでもこの種の合理性が経営陣に備わっていれば、少なくとも各社が被ったような破滅的な損失は生じ得なかったでしょうに。
とはいえ、労組の反発が激しいというのは実際その通りで、今後の政治も絡むだろう各方面との交渉ないし調整は難航が予想されるのですけれども。 そこを上手く計画通りに纏め、押し通す事が出来るのか、それとも計画の見直しを含む修正ないし過大な補償を強いられる事になるのか。その点でも一種のモデルケースとして、注目に値する案件と言えそうです。
Siemens to Cut About 6,900 Jobs Worldwide in Sweeping Revamp