3/10/2017

[biz] 6倍値上げで非難のEpiPenに価格1/60の競合出現でシェア崩壊

昨年あたりから主に米国で社会問題化していたところの、医薬品の価格高騰とそれを主導する医薬品メーカー各社への非難、またそれに対する法規制の議論、その契機となりまた象徴ともされていた米Mylan社のEpiPenについて、今年に入って大きく事態が動いたようです。

まず、EpiPenは、アナフィラキシーショックや小児喘息等の治療薬として用いられるホルモン剤であるところのepinephrine(通称adrenalin)を、その投与を容易にする注射機器に封入したものです。このepinephrine自体は既に特許切れでgenericとなっているのですが、注射器の構造の方の特許をMylan社が保有しているため、製品としてはMylan社の専売となっています。当然ながら注射器部分を異なる構造にした製品も複数存在してはいたものの、昨今米製薬業界でよく行われているgeneric品製造業者を次々に買収していく手法を取ることで独占状態を維持し、その立場を濫用して競合を駆逐して高価格を維持、というかそれに留まらず短期間の内に大幅な値上げを続けていたものです。具体的には2009年に$100程度だったのが2016年には$600を超えており、その値上げ幅は実にここ約500%、6倍にもなる高騰ぶり。当然ながら患者の中には高価になったEpiPenを購入するために困窮に陥ったり、購入出来なくなった者が続出し、他の超が付く程高価な新薬の頻発と共に、社会問題化して各方面から広く非難の声が上がったわけです。

で、急激に高まった非難の声に押される形で、Mylan社は自社で半額程度の互換品を出しはしたものの、解決されたとは到底言えない状況にあって非難の声は一向に治まらず、Trump大統領も薬価の大幅な低減を目指す旨公言している事もあり、その行方はさらに注目を集めているところです。

なのですが、今年に入って、競合製品が格安で発売されたところ、雪崩を打ってユーザがそちらへ移行していて、このまま行けば今後数か月の内にEpiPen(とMylan製の互換品)は駆逐される見込みになっているんだそうです。

どういう事なのか、と確認してみれば、有力な競合製品2種の一つであるImpax Laboratories社のAdrenaclickについて、価格が$110に引き下げられ、Mylan製の互換品よりも大幅に安くなっていたところ、さらに被保険者向けにメーカーから$100引のクーポンが発行されるようになったんだそうで。これを用いれば、実質の価格は$10ドル、EpiPenの60分の1になるわけです。なお被保険者の大半はクーポンを適用出来、また米薬局チェーン最大手のCVSがAdrenaclickを常時在庫を保持するようになったこともあり、事実上大半の患者がこの価格で購入出来るようになった、とされています。

この価格差のインパクトは極めて大きいものでした。今年に入ってから2ヶ月の間に、EpiPenのシェアは95%から71%へと激減し、減少分のほぼ全てがAdrenaclickへと流れた格好だとか。勿論これで終わったわけではなく、早晩、ほぼ全てのユーザがAdrenaclickへと流れるものと予想されています。このクーポンが何時まで発行され続けるのかは不明ながら、Mylan社製品の寡占状態が解消された時点で、少なくともEpiPenの暴利とそれに関連する問題は事実上終わったものと考えて良いのでしょう。

勿論、社会的には歓迎すべき事なのは疑いようもないのですが、あれだけ社会的に非難を受けても動かなかった本問題が、かようにあっけなく解決されてしまった事には拍子抜けというか、これから薬価決定の制度改正の議論を始めようとしていた向きにはその象徴が失われた事で少なからず困惑がもたらされたのではないかとも思うわけです。振り上げられたその拳の行き先はさて何処になるのでしょうか。

EpiPen is getting crushed by a $10 copycat