Isramic Stateによる日本人人質殺害脅迫の件ですが。本件の分析や論評の類は既に山ほど出されていますが、今ひとつすっきり同意出来るものが見当たらないので、個人的に思うところをメモとして。
本件、元々中東の紛争には直接関与せず、おそらく当事者からはその他大勢の一つに過ぎず敵でも味方でもない第三者的な位置づけだっただろう日本が直接の脅迫相手にされた、イラク戦争時の捕虜殺害等とは一線を画す事案ですが、無論それには相応の理由もあるわけです。仮に何もなかったとしたら、普通の人質として関係者に身代金が要求され、あるいはそれを支払えば解放されて終わりだったものと想像される事案なのですから。
そうはならず、一線を画してしまった原因は明らか。安倍首相の中東訪問、その際に発表した政策や発言等の振る舞いに帰せられると言えるでしょう。すなわち、イスラエルとの協力関係構築を初め、中東での紛争関係国の一部に対する従来とは明確に異なる積極的な関与への政策転換と、IS敵対国の支援を明確にした多額の資金提供の決定、またその大々的な発表。これを以って、中東諸国を含め、世界から公式に日本はイスラエルの味方であり、ISの敵と認識される事になりました。ISにとっての敵、というだけですらなく。発言の内容、表現から言っても、誤解の類ではなく、むしろ安倍首相はそういう認識を広く周知させる事を意図したものと解釈する他ない振る舞いをしています。
そういう前提を踏まえれば、本件ISの脅迫も、敵対国へ攻撃を加えるにあたり、今ある手札で取りうる最も効果的な手段を選択し実行したに過ぎないものと理解出来るわけです。すなわち、国際社会から日本とISの敵対関係が認定されたが故の必然的な帰結と言えるでしょう。
で、実際にそういう事態に至ったわけですが・・・そこで曝け出されたのは、本件のように敵対側からの攻撃が実際に行われた場合、日本は何ら取りうる対策を有しないという事です。実力的手段は勿論の事、口頭の交渉すら殆ど不可能。訳が分かりません。そんな事は分かりきっていた、とは思うのですが、今回のように積極的な紛争への関与を打ち出すのなら、それなりの備えがあって然るべき筈、それが蓋を開けてみたら何も考えてませんでした、どうしようもないです、というのですから。幾ら何でもあんまりだと、その無謀、無能ぶりに眩暈がするのです。
集団的自衛権絡みで勇ましい事を言っていたのは何だったのでしょう。散々国民の安全を守ると軍事への備えを説いて組織も作り予算を注ぎ込んでおきながら、リアルな殺し合いには何の備えもなかったとか、笑い話にもなりません。もういいからお前ら全員行って何とかしてこいと。何ともならなかったらそのまま死んでこいと。元々信頼も期待もしてませんでしたから今更失望するわけでもありませんけれども、そのあまりの醜態には、いささか自棄な気分にもなろうというもの。
その上最悪な事に、上記紛争への関与表明等はもう取り返しがつかないのであって。最初から、ISとか区別せずに、紛争で被害を受けた人への人道援助として広く支援する、とか従来通りのスタンスにしておけばよかったものをと個人的には思うし、実際政府は脅迫後公式見解をその線に修正している様子ですが後の祭り。今後は国内でテロとかも冗談抜きにあり得るわけですけど、どうするんでしょうこれから。と言ってどうにもならないんでしょうけど。せめて私や私の知人友人の近くでは起こらない事を祈るばかりです。
Japan's Abe pledges support for Mideast countries battling Islamic State
(後日、追記)
そういう決定的な出来事があってから暫く。その間、事態は何も動かず、否、日本政府は何もする事が出来ず、ただ無意味な非難と解放要求の発信を繰り返すばかりでした。結果、人質の一人が予告通り殺害され、その一連の中で破格の広告効果があり、かつ反撃も無くISにとって安全である事が確認されたが故に、残った人質は広告塔として利用されています。おそらく、この先も相当期間に渡ってそのように利用され続ける事になるのでしょう。そして、その度に、日本社会はその解放を求め、それを受けて日本のメディアはISの要求を世界中に広報し、かつ日本政府はISの脅迫相手となる各国に対し働き掛ける事で、結果として日本全体が各国に対しISの要求に従うよう圧力をかける事にもなるのでしょう。あるいは、新たに日本人の人質を増やそうともするでしょう。取り返しが付かない、というのはそういうことなのです。逆に言えば、そうした利用価値があるが故に、日本人の人質は比較的殺されにくくなる面はあるでしょうけれども。。。気休めにもなりません。
(再追記)
と思っていたら、もう一人の人質もあっさり殺されてしまいました。ご丁寧に、今後の日本人を対象にしたテロの予告も添えて。交渉の余地が無い旨を知らしめる実績を積む事を優先したか、単にパイロットの方が交渉材料として直近の利用価値が高いと判断しただけの事か。いずれにせよ、日本はどうする事も出来なかったし、これからも何も出来ないのだろうから、大した違いもないのでしょうけれど。
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