これは吃驚。トヨタ本体が保有する水素燃料車関連の特許5680件について、相手を問わず無償で公開、提供される事になったんだそうです。
部品メーカー等、子会社の保有する特許は対象外だし、一部を除いて2020年までの期限付きではありますけれども、利用者の資格を問わず全て使い放題。特許は保有にも相応のコストがかかる事からしても、競合他社に寄付をするに等しい、極めて異例な話ですね。といっても、競合する大手自動車メーカーとの関係で言えば、元々クロスライセンスで相殺するなり、開発時点で住み分けが図られていて、それ程大きいメリットがあるとも限りませんから、これは実質的に、主にベンチャーや他業種等の新規参入組向けの話、という事でしょうか。トヨタのリリース中の記載を読むに概ねそういう解釈で正しそうです。
とはいえ、水素燃料車は延々と開発を引っ張った挙句にようやくトヨタがmiraiをリリースしたところで、商業的にはそれ以外の実績は事実上無いも同然だし、これから普及を図るにあたっては周知の通りの課題すなわち、触媒に白金を必須とする事による高コスト性と、また燃料としての水素供給のための諸々のインフラが全く整備されておらず、またその設置コストも一件あたり数億円と、競合する電気自動車の充電設備と比較しても桁違いに高く、整備困難な点が致命的な障壁として聳え立っているのでありまして。それらを悉く乗り越えない事には特許を保有する益はないわけです。しかしながら現時点では解決の目処すら立っていないそれらの課題の難度と、仮にクリアするにしてもそれに必要となるだろうリソース、殊に時間を考慮すると、モノになる前に特許切れになってしまう可能性が高いのですね。
そういう事情を考慮すると、このまま特許を後生大事に抱えていても意味はない、ならばいっそ課題解決のためのツールとして役立てるべく放出してしまおう、というような考え方は確かに成立し得るでしょう。それで広く新規の協力を募りつつ、併せて競合他社にも同様のアクションを促し、基盤の整備を推進しよう、と。そういう事なら、理屈としては分からなくもありません。
ただまあ、そうだとしても、その辺は建前なんだろうなと。というのはそもそもの話、この辺の知財とかはあくまで補助的というか、少なくとも諸々の根本的な問題を解決するものではないのであって。触媒等の技術的な課題については当然それを解決する技術が必要になりますが、その開発についてトヨタは白旗を挙げたものと解釈する他ないし、インフラ整備にしても、その膨大な設備投資には民間に担い手が必要になるわけで、仮に成功すれば巨大な利益が見込めるにも関わらず、自ら担おうとはせずに他所に丸投げした、と言う事はすなわち、採算が採れるとは考えていないものと読む他ない話なわけで。
結局のところ、水素車自体、事業として成立する見込みが薄く、ぶっちゃけ出来ません、と宣言したようなものだと思うのです。ハイブリッドを投入した時のやり方と比較すれば明らかですけれども、実際、本当に事業として成立させる成算があるのなら、トヨタ単独進める事も厭わなかったでしょう。それを可能にする規模もリソースもあるし、後発というわけでもないのですし。しかるに、そのトヨタをして匙を投げるような問題を、他社、いわんや新規参入組に解決出来るだろうか、というと。。。その可能性は極めて小さいものと考えざるを得ません。
そんな本件。一見前向きに見える施策ではあるものの、一方で同時に水素車全体の先行きの暗さをも浮かび上がらせるものなのでありました。自治体や政府はミライ発表からこっち、補助金をえらい勢いで注ぎ込んでるようですが、高確率でトヨタに無駄金をバラ撒いただけで終わりそうです。といってこの種の建前ドリブンな案件の常として一旦動き出してしまうとしばらくは引き返せないんでしょう。残念な話ですが。
Toyota shares its fuel cell patents to help its hydrogen dreams come truets