QRコード決済国内最大手のPayPayが大幅にサービスを改悪したそうですね。
具体的には、口座への振り込みに際し、他社のクレジットカードを使用する場合等に多額の手数料を取るようになるんだそうです。
手数料の割合は、概ねクレジットカード決済の手数料と同レベルで、ポイントの還元率等より遥かに高く、利用すればするほどユーザは損をする事になりますから、事実上他社クレジットカードの利用拒否という事になりますね。決済手数料の転嫁は信販会社との関係では規約違反な筈で、信販会社から契約を打ち切られてもおかしくない筈ですが、いいんでしょうか?まあPayPay側としては打ち切られてもいい、という判断なんでしょうけれども。
何にせよ、今回の施策は、自社サービスへの誘導による増収と、誘導に乗らないユーザの締め出し又は搾取、すなわちコストの削減が目的である事は疑いようがないところです。赤字を減らそうというだけの話で、その意図自体には特におかしな点はありません。
ただ、この種の、純粋にユーザにとって不利益にしかならない、しかも無視出来ない程大きな変更というのは、当然ながらユーザの強い反発を招き、他社サービスへの乗り換え・流出の動機になり、サービス自体の縮小、引いては売上・利益の低下を招いてしまいます。下手をすれば消滅すら有り得ます。そうなってしまえば元も子もありません。なので、通常は流出が起こらない状況、すなわち他に選択肢がないレベルでのサービスの寡占に成功した場合にのみ行われるものです。
しかるに、PayPayはQRコード決済の中ではトップシェアではありますが、キャッシュレス決済全体で見ると、クレジットや交通系、またそれらをまとめたスマホ等でのタッチ決済等も一定の支持を得ており、それらを圧倒する程の地位は築いていません。さらに決済手段全体で見れば、当然現金とも競合する状況にあります。
それら競合との比較で見れば、元より利便性ではタッチ決済には及ばず、汎用性では現金に及びません。普及度合いについても、QRコード決済の強みであるところの店舗側での導入コストの低さから利用可能な店舗の数では優位ではあるものの、現金以外はPayPayだけしか使えないような店舗はごく一部にとどまり、そもそもPayPayが使えない店舗も少なくはありません。通用性の面では現金とは比べるべくもないという事です。というか、規格乱立の弊害で、現金以外には一本化すら困難なのが現状です。実際問題、PayPayをよく使うユーザですら、現金や他の決済手段と併用している人が大半でしょう。
つまるところ、寡占というには程遠く、ユーザは自由に他の決済手段への切り替えが可能な状況にあります。
こんな状況で、今回のような強烈なインパクトのある改悪をすれば、当然にユーザの流出を招く事は火を見るより明らかで、それはPayPayの側もわかっている筈です。にも関わらず今回の改悪に踏み切った、という事は、そうせざるを得ない程、財務状況が悪いという事でしょう。ある程度ユーザの流出を招いたとしても、コストを削減しなければならない程に追い詰められているのではないでしょうか。
周知の通り、PayPayはこれまで無理をしてきました。持ち出しで大規模な還元サービスを乱発し、現状のシェアの確立と引き換えに積み上げた負債は数千億レベルで、毎年の決算を見ても営業損失が売上高を上回る惨状です。利益剰余金が年間売上を上回るというのは、いくら成長中の事業と言っても限度があるというべきでしょう。普通は株主が許さないし、むしろなぜ継続出来ているのか不思議な位です。
加えて、PayPayの莫大な損失を補填し続けて来た親会社のSoftbankグループは、周知の通りここ数年投資に失敗して、こちらはこちらで二年連続で兆単位の空前の損失を計上する体たらく。グループ各社に財務体質の改善を指示している事は容易に想像されます。とりわけ赤字事業への風当たりは強烈でしょうし、おそらくは、PayPayには年600億規模の損失は容認出来ないと強く通告されたのではないでしょうか。数年以内に黒字化しろとか言われたかもしれませんね。いやまあむしろ当たり前の話ではあるんですが。Softbankにしてみれば、成長が見込める数少ない事業なのですし、藁にもすがりたいだろうこの状況下では希望を持ちたくもなるでしょう。だからといって無理が通るわけではないのですが・・・。ユーザは信者でもボランティアでもないのです。
こういったPayPayの置かれた状況を鑑みるに、結局のところ、今回の改悪は、ユーザの流出と目先の財務の間で進退窮まった結果、前者を取った、という事ではないかと推測されるわけです。貧すれば鈍す。寡占する前にこんな事をしても、焼け石に水か、下手すれば油を注ぐような事になりかねないでしょうに。PayPayとしては背に腹は代えられない、という事なのでしょうけれども、客観的に見た場合、決済サービスにとってはむしろユーザの方が重要なように思えますし、単に目先の金を取ったという方が適切なのかもしれませんね。だとしたら、もうPayPayは終わりが近いのかもしれない、と半ば確信をもって想像せざるを得ない次第なのです。