9/23/2022

[note] 自転車のブレーキ交換修理

愛車のブレーキの交換等をやりました。その記録です。

対象の自転車はフラットハンドルのクロスバイク型です。が、材質やコンポーネントのランクは最低、すなわち実質はママチャリと同じ、いわゆるルック車というやつですね。前カゴも泥除けもあり、変速機はついていますが、後輪側に6段のものだけ。フレームの剛性等スポーツ車にあってしかるべきあれこれは無きに等しい、紛うことなき安物。でも街乗りする分には問題なく、むしろ安物だけあって盗難に遭う心配等もあまりせずに済むので、かれこれ10年以上に渡って愛用し続けて来ました。

それなりに大事にして来たつもりですが、それでも流石にこれだけ長く乗っていると、故障が生ずるのも避けられないわけで、今回はそれがブレーキだったということですね。実のところ、大分前から後輪側がブレーキを強く効かせた時にキーキーと甲高く不愉快な音で鳴くようになってしまっていて、何とかしたいなあと思っていたところに、加えて前輪側のブレーキワイヤーが切れかけてしまい、この際だから両方交換するかとなったわけです。作業内容は、前輪側がワイヤーとブレーキシューの交換、後輪側がブレーキユニットの交換です。後輪側のワイヤーは特に問題なかったのでそのまま。

ちなみにというかこれは余談ですが、音が鳴る原因について少し触れておきます。後輪のブレーキはバンドブレーキと言って、その名の通りバンド状のゴムで車輪に固定されたドラムを締め付けてそこに生ずる摩擦力により車輪を制動する仕組みになっています。このゴムバンドがゴムなので経年劣化により硬化・摩耗してしまい、摩擦時に滑るようになってしまうのですね。これはゴムバンドを使っている以上避けられない構造的な事象なわけで、これを解消するにあたり、単に新品に交換するだけだと、またしばらくすれば再発する事は必至です。であれば、音が出ない、あるいは出にくい構造のものに交換した方がよい、という事になります。

ただ、交換先のブレーキには、当然ながら物理的に元のバンドブレーキと互換性がなければなりません。スポーツ車で一般に使われるリムにシューを当てるようなタイプは無論駄目ですし、そもそもの目的からして鳴きが出にくいタイプでなければなりません。そうなると、選択肢としては事実上サーボブレーキ一択になります。

サーボブレーキは、バンドブレーキを最初に開発した唐沢製作所がその欠点を改善した互換品として開発したもので、開発元自らが用意した互換品だけあって見た目の構造はバンドブレーキと同じですが、その中の構造がバンドブレーキとは逆、すなわちドラムの内側から円環状のブレーキシューを押し付けるタイプのブレーキです。バイクではおなじみなタイプのブレーキですね。

名称中のサーボ、というのは、ブレーキシューとドラムが接触する際に生じる摩擦力がフィードバックとなって、ブレーキシューがさらにドラムに押し付けられてより制動力が増すという点でサーボ的な動作をする、というところからつけられています。本来のサーボの定義であるところの出力値と目標値との差に応じてフィードバック制御をかける挙動とはいささか異なるように思いますが、それはともかく、制動力と耐久性の双方に優れる方式で、摩擦音も低め。ただ、バイクに乗る人ならば分かるでしょうけれども、ブレーキシューが摩耗すればキーキー音が鳴るようになる事もあります。あくまで摩耗しにくい、摩耗しても高音は鳴りにくい、というだけの話ですね。自転車であれば、必要な摩擦力がバイクよりは格段に小さい分、摩耗もしにくいでしょうから、そこまで心配はしなくてもいいのかもしれませんけれども。

斯様に素性良さげなサーボブレーキですが、実はあまり普及していません。価格ではバンドブレーキの方が安いためコスト優先の低価格帯ではバンドブレーキが採用され、一方で高級車にはサーボブレーキ以上に鳴きが生じにくく、かつ密閉性も高く雨風等環境の影響を受けにくいローラーブレーキが主流だからです。特に電動アシスト自転車はモーターを回生ブレーキとして利用する(事を想定する)構造と相性のいいローラーブレーキ一択ですね。そしてローラーブレーキとバンド/サーボの両者間には構造的な互換性がありません。というわけで、サーボブレーキはほとんどバンドブレーキからの交換にしか使われていないのですね。その割には部品一式で1500円〜2000円程度と安い事もあって、今回のようなバンドブレーキからの変更・交換に際しては事実上唯一の選択肢と言ってよいというわけなのです。

なお、ローラーブレーキへの変更は不可能ではないのですが、あまり現実的ではありません。というのも、ローラーブレーキは車輪のハブ内にブレーキシュー等が埋め込まれる形式なので、ホイールも交換する必要があるのです。ということはギヤやらタイヤチューブやらあれこれ移植もしなければならないということで、費用も手間も跳ね上がりますから、元々安物の自転車のブレーキのためだけにそこまでするというのは流石に割に合わないというか本末転倒というかなので、それなら本体ごと買い替えた方がいいでしょう。

前置きはここまで。作業開始です。後輪に手をつける前に、前輪を片付けます。簡単なので。前輪については、ワイヤー交換とついでにブレーキシューを交換。これは至極簡単なので詳細は省きますが、調整が二度手間にならないよう、先にシューを交換しておいてから元のワイヤーを取り外し、交換用のワイヤーとその保護チューブをそれぞれ元と同じ長さになるように切断して取り付けるだけです。後はワイヤーの固定位置を調整しておしまい。ちなみに、下図のような感じになっていました。図は交換の途中、ワイヤーを取り外すところです。半分ぐらい切れていますね。所要時間は15分程度でしょうか。

しかるのちに本命であるところの後輪ブレーキの交換です。 下図が元の状態。黒いキャップの下にシャフトとボルトがあります。元に戻す際に必要となるシャフトに留められている部品の順番は、外側から順に[キャップ]-[ボルト(15mm)]-[ワッシャ]-[泥除け]-[スタンド]です。

反対側は下図。こちらの順番は、同じく外側から[キャップ]-[ボルト]-[ワッシャ]-[泥除け]-[変速機ガード]です。

それぞれ順番をメモしてから、車体を逆さまにして両側ともキャップを取り、レンチ(15mm)でボルトを外し、泥除けやスタンド、変速機ガード等を順次外します。言うまでも無い事ですが部品はなくさないように管理します。


 
同時に、ブレーキユニットのワイヤーとユニットをフレームに固定しているボルトを外します。この機種ではワイヤー一箇所とフレーム側二箇所ですね。ワイヤー固定部は10mmのレンチ、フレーム側はプラスドライバーで外します。

これで車輪がフリーになったので、引き抜きます。この時、変速機が干渉しにくいよう、シフトは一番外側(ギヤ比が重い方、この場合は6速)にしておきます。チェーンや変速機ユニットを少し引っ張りながらやると抜きやすいでしょう。

引き抜けました。ブレーキユニットはナットで留められているので、ナットをスパナ等で外してから取り外します。
ちなみに取り外したバンドブレーキの内側はこんな感じ。まだそれほど摩耗しているわけではなく、ブレーキとしての機能自体には問題なさそうですが、それでも音がひどい、というのはやはり元々の構造上の問題なのでしょう。ともあれ長い間お疲れ様でした。
ブレーキ本体を外した車輪側には、まだドラムが残っています。このドラムはサーボブレーキのドラムと似ているもののサイズ等が異なるのでこれも交換しなければならないのですが、これを外すのが最難関。長年ブレーキの制動力を受け続けて来ただけあって、締め込まれ方が半端ではなく、例えば手で回そうとしてもびくともしません。
当然というか、このドラムの取り外しには、専用の工具が存在します。HOZANのC-349という、バイク用のY字ホルダーと同様の形状の工具です。通称ドラム抜き。一般のY字ホルダーとの違いはその剛性と柄の長さ。Y字ホルダーの方が一般に安価なので、それで試してみる人も多いようですが、剛性が足りず工具のほうが壊れてしまう事も多いそうです。南無。経験上、この種の専用工具は代用品で済ませようとすると碌な事にならないので、私は最初から大人しくこの工具を使うことにしました。4000円強。もしかしなくてもこの作業での一番の出費です。とほほ。ともかく、それを下図のような感じでドラムの穴にセットします。
で、車輪を立てて、体重をかけてぐいっと。やはり固いですが、流石に専用だけあって工具が負ける事はありません。容赦なくぐいぐいと力を強める事しばし、ようやく回ります。
回りだしたら後は手でも問題ないので、くるくると回します。
取れました。
取り付けに移ります。サーボブレーキ一式が下図。
ドラムを取り付けて、

 本体を取り付けます。ちなみに本体の内側は下図のようになっています。半月状のブレーキシューが外側についた部品が2つ、Cの字というかパックマンのような形になるように配置されていて、その片方が軸に留められています。軸の反対側、パックマンの口にあたる部分に挟まっている台形状の金属部品はワイヤーを引くと回転するようになっていて、これが回る事でパックマンの口が拡がって円の半径が大きくなり、外側のブレーキシューがドラムに押し付けられて摩擦力を生ずる、というわけです。まんまバイクのものと同じですね。自転車の部品としてはかなり重たいのが欠点ですが、その分制動力も耐久性も高い事は間違いありません。
これを車輪に取り付けます。ナットを忘れずに。
本体に戻します。チェーンを外側のギヤにかけてから押し込みます。この時、ブレーキユニットが所定の向きになるように調整しておくとよいでしょう。後から回そうとするとフレームに干渉する場合があり、そうなるとフレームに傷がついたり、やり直す羽目になったりしますので。
外した際と逆の順番で変速機ガードや泥除け、スタンド等をシャフトに差し込み、ボルトで留めます。後の調整時に緩めるのでここでは軽くで。
ブレーキユニットをフレームに留め、ブレーキワイヤーを取り付けます。こちらも後で調整するのでどちらも仮留めで。ワイヤーにはスプリングを通すのを忘れずに。通した後でワイヤーの後端にはピンをカシメておきます。

最後に調整。調整するのは2点、車輪の向きと、ブレーキの効き具合です。まず車輪の向きについて、後側からフレームと車輪が綺麗に並行になるように合わせて車輪のボルトを固定します。車輪を回してみたりして、フレームの向きとズレがないか確認し、ズレていれば合うように調整し、よければボルトを締め込みます。

次いでブレーキの調整。ブレーキの調整は2段階になります。1段目は、車輪を回転させながらブレーキユニットのネジ(緑色のシールがはられている部分から出ているネジ)をドライバーで回して、シューシュー摩擦音が鳴るポイントを探り、そこから少し緩めて音がしなくなるところに設定します。2段目はワイヤーの調整。一旦ワイヤーをフリーにし、ワイヤーがピンと張る位置でワイヤーを固定します。実際にブレーキレバーを引いてみて、緩すぎずきつすぎずの良い感じになっていればOK。でなければワイヤーの固定位置を少しずらしてまた固定、を繰り返して合わせます。一発で綺麗に出来る事は稀でしょうけれども、一番大事なところですので、横着せずに満足行くまで根気よく合わせます。

下図は取り外したバンドブレーキの部品です。サーボブレーキに問題が生じた時は戻せるよう、本体も含めて一応取っておくのがよいでしょう。
調整が終われば出来上がり。作業完了お疲れ。試しに乗ってみると良好な効き具合です。急な坂を降りる際に強くブレーキをかけても甲高い音が鳴ることもありません。やはり音は大事ですよね。

以下は感想です。

作業自体は適切な工具(特にドラム外し)を準備していれば特に困難なところはありません。所要時間はおよそ1時間前後でしょうか。ドラム外し用の工具が高価で、しかも他の作業等に流用する事も難しい、というのがネックになるので、誰にでもおすすめ出来るものではないのですが、自転車やバイクをいじるのが好きな人であればとても楽しい一時になる事は間違いありません。私はとても楽しかったです。愛車が鳴かなくなる実利もあり、準備等がそれなりに必要な分、作業後の達成感等は小さくはないでしょうから、余裕があればチャレンジしてみるのも一興ではないでしょうか。それでは今回はこの辺で。