停滞ないし凋落の激しい電機業界にあって、負け組に分類されて久しく、ジリ貧ながらもリストラを繰り返す事で致命的な損失は回避し、しぶとく生き残って来たNECが、来年度にまたしても3000人をリストラするんだそうです。
対象は国内で、通信機器等のハードウェア部門及び間接部門。ハードはともかく、間接部門なんて過去のリストラで削りに削って来た筈で、今更そんなに余剰があるのか、いささか疑問を感じないではないですが、計画ではそうなっているとのこと。
そして、今後注力する分野は、お決まりのSI関連です。プロダクトが不採算に陥った電機メーカーが、ITサービス関連に注力する、というのは判を押したように何処も大体同じなわけですが、それだけだとジリ貧、という事で他社との差別化のために挙げられたのが顔認証です。海外の防犯向けを拡販して主力に育てるつもりだとか。
しかし、顔認証を含むNECのセキュリティ関連事業の売上高は年400億程度、NECの売上高の2%にも届いていないのです。これを主力に育てる、というのは、数年の内に少なくとも数倍以上に成長する、と言っているに等しいわけですが、特に最近特別な新製品が生まれたわけでもないのに、これからそんな急成長する、と言われても、率直に言って現実性に乏しいものと言わざるを得ません。
そもそも、これまでの市場や社会の動向から見て、顔認証にそこまでのニーズがあるかどうかも明らかではないわけで。というか、顔認証の導入で何らかの成功を得た例というのが殆どないのですね。失敗とか無駄に終わったとかいう話なら山程あるのですが。
実際、過去様々なところで行われた監視カメラ等による指名手配犯検挙等のサーベイランスの実験も、成功したという話は皆無でもありますし、国内空港への導入に際しても、実験で散々な結果が出て一度は頓挫したのを、多分に政治的に無理やり復活させてねじ込んだという有り様です。一部アミューズメントパーク等のゲートでの認証に採用されてはいますが、そのようなゲートを、莫大なコストをかけてまで導入する事が、必然的もしくはそこまでいかずとも自然と言えるようなシチューションが果たしてそんなにあるものか、疑問を抱かずにはいられないのです。
結局のところ、訴求するために必要な類の実績が全く足りていない、というか殆ど皆無なのが問題なのであって、それを解決しない事には成長も何もあったものではない、のではないかと。
もっとも、その辺の非情な現実は当のNEC自身が一番良く承知している筈ですし、自分でもそんな夢物語は信じておらず、リストラをするにあたり、夢も希望もなくただ削減、という形になる事を回避するため、体裁を取り繕う建前を探したところ、顔認証位しか使えるものが無かった、というだけの事なのかもしれませんけれども。
だとしたら、一番大変なのは、具体的な見通しも何も無いままに、社全体の未来を背負う、そんな無茶な目標を押し付けられる羽目になるだろう顔認証部門の開発・営業の担当者たちなのかもしれませんね。どうしろっていうんだよ、というところでしょうか。といって、それらの部門は、長い間、近い将来はこう成長する、こんな可能性がある、と色々な建前を掲げ、それで少なくない運転資金や利益を得て来ている筈で、その山のように積み上がったコミットメントを果たす責任はあるわけです。そうである以上、無謀だとしても今更放棄や撤退は許されない、それは仕方ないところではあるのでしょう。
ただ、その辺は全てNECの内部の事情に過ぎません。必要性もメリットもない顧客に押し売りするような真似だけはしないで頂きたいものです。無論、必要性とメリットが十分にあり、かつデメリットが許容可能であり、コストとも釣り合う、というのを顧客がよく理解し納得して、勿論メーカー側から性能や精度その他ごまかしや隠蔽が無い、というのであれば何も問題はないのですが。
NEC、来年度にも国内3千人削減へ 海外展開に出遅れ
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