9/26/2017

[pol] する理由がわからない選挙。何がどうして何のために?

いつの間にか、衆議院の総選挙をやる事になったそうで。・・・何で?とまず疑問符が浮かんでしまった人も多いのではないでしょうか。私は浮かびました。

それも当然と言うべきでしょうか。今更言うまでもない話ですが、衆議院において現政権と与党は絶対多数を確保しており、従ってその政策の実行、それに必要な法案の改廃をするには何の障害もなく、また任期も未だ一年を残しています。前回の選挙時と今の支持率等の指標を考慮すれば、良くて現状維持、少なくともさらに議席を増やすような結果は期待出来ず、従って通常は残りの期間を最大限活用する方が合理的な筈なのです。言い換えれば、今回の解散は、負う必要のないリスクを負う不合理なものと言わざるを得ません。国民に広く信を問うべき問題が出てきたわけでもありませんし。

外部的には?これについても、むしろ時期が悪いと思う人が多いのではないでしょうか。国外との関係については、北朝鮮と米国の軍事的緊張は高まり続け、いつ暴発してもおかしくないように見えるし、米Trump政権との関係についても安定しているものとは到底言えません。というかまだ関係自体を構築出来ていない、というべきで、その結果、TPPやFTA等の各種交渉についてもほとんど放置されたままです。国内についても、警察・軍事関連を除くほぼ全ての分野でここ一年実質的に新たな政策は提起されず、唯一最大の政策であった日銀による金融緩和も当の日銀からして手詰まりになった事を認めて白旗を挙げ、絶望的な撤退戦に追い込まれようとしている所です。只でさえここ数ヶ月を無為無策に空費している状況なのだから、あっちもこっちも手当てが必要な事は明らかです。それらを放置して国会を解散してしまうのだから、本来なら余程の事由がなければしてはいけない、その筈なのですが、それが全く認められないのですね。

付け加えれば、目下最大の問題であろう学校法人関連の権力濫用疑惑についても、選挙の結果によらず、当事者が政権やその周辺に留まる限り追求は続くでしょう。その点については、選挙の実施は問題の解決を先延ばしする意味しか持ちえません。

かように、政権、またそれを支える与党議員の本来の仕事に関する環境面では、選挙を控えるべき理由はあっても、敢えてする理由が見当たらないのです。消費税の用途変更だとかいうまさに取ってつけたような説明を見ても、本来の意味での理由が存在しないだろう事は疑いようがないでしょう。

それでも実際には選挙を打ち出した、という事は、それ以外の事由があったという事になります。世間では様々に推測されているところですが、そのうち有力なものはあまり多くはありません。せいぜい2、3件といったところでしょうか。

1つは、目先の支持率の動向が理由と言われます。学校法人絡みの疑惑、また先日更迭された複数の閣僚の不祥事等により大幅に低下した支持率が、喉元過ぎれば、の如く回復傾向にあり、首相にとっては相対的に選挙をするに適しているように感じられたのでは、とする説です。

もう1つは、野党の動向が指摘されます。民進党で執行部メンバーに不祥事が続発し、分裂状態に陥って支持率を落とし、新執行部のポリシーから野党共闘が揺らいでいる事に加え、小池都知事の新党がまだ構築途中で、準備が整っていない現状であれば、相対的に勝利するのは容易いと首相が判断したのでは、とする説ですね。

さらに、首相自身の基盤の劣化も指摘されます。長期に渡る、自身の失言等も含め政権メンバーが演じた数々の不祥事や傲慢な発言、金融・経済政策における敗北ないし行き詰まり等によって支持率が一時は致命的とされるレベルまで低下し、これに伴って与党内部での求心力が低下し、基盤が揺らいでいるため、選挙での勝利をもってこれらを回復させ、組織の引き締めを図りたい、とする意図があるのでは、とする説です。これに関連して、支持率の回復も狙っている、とする見方もありますが、これはさすがに因果が逆、不条理と言うべきでしょうね。

これらの説は、どれも事実を根拠としている事もあってそれなりに説得力があります。そのいずれかが真実を捉えているのか、それとも他の理由があるのか、それは当人にしかわからない事です。ただ、もしこれらの説がある程度でも真実を捉えているのであれば、それは到底是認出来ないものと言わざるを得ません。というのも、これらの説は共通して、その動機が首相はじめ政権の本来の責務とは関係しないものであり、かつその判断自体、相当に見通しの甘いものであるように思われるからです。

支持率の動向等は、自身を含む首相近辺の人物自体が問題になっていますが、それらの殆どが未だ解決されておらず、あるいは満足な説明すらされていません。諸々の追求にもとりあわず、ただ問題ない、として強弁を繰り返してきただけです。そうである以上、支持率が回復傾向にあると言っても、それが維持・継続される可能性は高くないでしょう。また選挙期間中には野党候補者はこぞって指摘を繰り返すだろうところ、それが再燃をもたらせば、再び支持が低下する可能性も相当にあるはずです。そのリスクを低く見積もりすぎてはいないでしょうか。

また、野党の動向は、本来政権運営とは直接には関係しないものです。まして、その準備が整わない短期的な時期を狙って選挙を仕掛ける、というのは、その行為自体が国民の選択肢を意図的に奪う性質を帯び、その点で非難・批判を受けて支持を落とす可能性がある上に、そもそも野党が準備不足だからと言って、必ずしも与党が支持を受けるものではありません。にも関わらず選挙上自身が有利になる、と判断したのであれば、そこにはある種の慢心や思い込みが介在しているように見えます。

もっとも、これらのリスクを全く認識していない、というわけでもないのでしょうけれども。といって、もしそうであるのならば、にも関わらずリスクを承知で打って出た、という点からして、不安定な目の前の利点に飛びついてしまう程、首相が追い詰められ、余裕を無くしているのだろう、とも考えられるし、それは同時に、政策の立案、実行といった責務を放棄し、ただ無闇な保身に走ったもの、とも言えてしまうことになるわけですが。。。本当にそういう部分があるのなら、極めて残念な事です。

先日の英国首相Theresa Mayが目先の支持率の高まりから基盤を強化しようとして失敗した件を例に取って、その二の舞になる可能性を指摘する向きもあります。仮にそうなったとして、別に国民に対して何か致命的な問題が生じるわけではありませんが、莫大な費用も時間も手間もかけて、結局は首相の一人相撲でした、というのは流石に笑えません。真面目に仕事しろよ、と。

なお、法的な側面で言えば、今回の首相の解散権行使はかなりきわどい話です。元々内閣の解散権は69条の不信任決議、7条の国事行為を除いて明確な根拠はなく、それ故にその濫用にあたる限界の在り処が争点になっているところ、習慣上、重要案件が否決された場合や前回の選挙での争点でなかった新争点が生じた時等、立法政策上の重大転換時に限るものとする説が有力なのです。で、今回の解散はその要件を満たしていない、というわけです。この指摘については、まあそうだよね、と頷かざるを得ません。実際のところ、解散権の限界は明文化されていないので、濫用が認められるからといって解散が無しになったりする可能性はほぼないのですけれども、そういう法論理的にも疑義の付くべき事例である事は踏まえて置くべきでしょう。権力の濫用はいつだって社会にとって害にしかならないのですから。

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