英国のEU離脱の是非を決する国民投票、その期日がやってまいりました。現地の世論調査によれば、概ね賛否拮抗で結果の予測は困難な感じで、特に金融関係者を中心とした世界中の利害関係者が、そのポジションを右往左往させながら固唾を飲んで見守っているわけです。
本件の主要争点は、実質的には概ね移民と経済の2点。いずれも現実問題として極めて深刻なものであり、英国の地理的特性から、EU離脱とそれに伴う人的・経済的な出入りの管理規制の導入がそれらの問題への決定的な効果をもたらす対策となるだろう事が予想されています。往々にして現実的な見通しの薄弱さから単なる右翼的なイデオロギーの発露に留まり、成立しない事の方が圧倒的に多いこの種の分離・独立運動にあって、実体面での整合性も兼ね備えた珍しい例とも言えるでしょう。むしろ立場は逆転して、残留を主張するリベラル派の方が通常の右翼よろしく抽象論に終始しているように見えもするわけです。旗色が悪いのもむべなるかな。
そもそもEU自体がほとんど経済的な利益のみを当て込んで作られた中途半端な組織だけに、その経済面がリスクに転じた以上、解消すべきと判断する者が多数になるのも当然と言うべきところなのでしょう。そもそも経済的な面だけならば、EUの枠組みでなくとも、個別の協定でも同等の関係は構築可能なのですし、それ以外の国家的な権能の面で言えば制約、それも国民の付託を受けておらず、民主主義の観点からは間接的で根拠の弱いものでしかないのですし。
無論、制度の解消・移行には相応のコストが必要になりますから、問題はそれが見合うかどうかというところであって、その評価で揺れている結果が賛否拮抗した原状とも言えるでしょうか。
ただ、直近の反対増加は、件の暗殺事件の反動という面が少なからず見受けられるわけですけれども、国家の根幹を定める意思決定が、そういう本来の問題とは関係ない要素に左右されるというのには、他人事ながらいささか残念に思わずにはいられないのです。結果がどうなるにせよ、個々の有権者が、自分が何を望むのか、そのために国家はどうあるべきなのか、明確に認識した上で、一時の衝動に流されず、個人としての確固たる意思の下に為されるべきものな筈なのですから。
(追記)
結果は離脱。さようならEU、と言うにはまだ早いでしょうか。
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