7/29/2016

[biz] ポケモンGo、狂騒の陰で積み重なる弊害と軋轢、規制は不可避か

突如としてブームになった任天堂のARゲーム、Pokemon Goもリリースからしばらく経ち、そろそろ落ち着いて来た感がするこの頃。それでも、街のそこかしこでスマホをいじっている人は若年層を中心に今以って結構な割合を維持しているようで、特に未成年から中年位までの男性のプレイ率は凄いですね。誰も彼もといった感じです。

なのですが、落ち着いて見ると、やはり色々と問題も多いわけで、果たしてこれが一過性のブーム以上の、継続発展する新しい経済の循環として定着するか否かは、正直なところ現時点ではよく分からないように思います。

現時点で認識されている本アプリの特質としては、ポジティブな面から言えば、

・世界的に認知された初のARサービス
・ゲーム産業界の最重要プレイヤー任天堂のスマホアプリでの初の世界的ヒット作

であり、それを支えるところの、

・キャラクター等コンテンツの知名度等の高さによる極めて高い集客力
・屋外(GPSの届く範囲)全域を網羅するフィールドの広さ、体験の多様性

あたりがポイントになっている、と言えるでしょうか。無論プラットフォームとしてのスマホの普及率の高さによる新規・ライトユーザの獲得の容易性も主要因ではあるのでしょうけれども、本アプリに特徴的なものとは言えないでしょう。

対して、ネガティブな面から言えば、

・"ながら"プレイが前提につき、不可避的に不注意を誘発するため、事故等の危険が生じる
・ゲーム内チェックポイントに現実の名所等を先方の同意を取らず、かつ施設等の状況等に一切配慮せず設定するため、結果として業務妨害等の不法行為にあたるケースが頻発する

あたりが主要なポイントというか、問題点になっているように見えます。

ポジ・ネガ双方とも中々に興味深い論点であって、是非を一概に判ずる事は難しい事は明らかなわけです。ポジティブ要素のうち、フィールドの広さは確かに大きな魅力と言えるだろう一方、一々移動しなければプレイ出来ないというのは制約でもあるわけですし。また、少なくとも、ネガティブな面は現実の危険や不法行為の要因になる以上、被害を受ける側や公の立場からすれば看過し難いものには違いないでしょう。すなわち、このままだと、遠からず何らかの規制・制限は免れないものと予想されるわけです。仮に深刻な事故や損害が生じ、それが明るみになれば、具体的な立法もしくは自主規制が行われる事になるだろう点に異論は挟み難いものと言わざるを得ないでしょう。

ただ、オプトアウトについては結局のところ除外申請の窓口を設ければ済む話ですが、不注意による事故の誘発については、スマホベースのARの仕組み自体に内在する危険につき、事故が起こりそうな状況でのプレイを禁止する以外におそらく防止する方法はないだろう点は如何ともし難いように思われるところです。

例えば、プレイ可能なエリアをオプトイン形式で許可を得た施設等の周辺かつ公道上を除外した範囲に限定等すれば、両方の問題点を一気に解決し得る、と少し考えればすぐに思い浮かぶだろう話ではあるのです。けれども、その種の措置をとったが最後、主要な特性であるところのフィールドの広さ、すなわち屋外であれば何処でもプレイ出来るという、特にライト寄りのユーザの獲得・維持に欠くべからざる性質を失う事になってしまうわけです。そうなれば、フィールドは歯抜けの状態となって、ユーザにしてみれば何処がポイントかもよくわからなくなり、プレイの連続性、継続性が著しく損なわれ、当然にユーザのモチベーションも著しく減退し、その結果この種のサービスの肝であるところのコミュニティの形成・維持も困難になってしまうだろう事も容易に予想されます。その場合、フィールドが広大であるという要素が、エリアあたりのユーザ数、すなわち密度が疎になる、という形で弊害に転じもするでしょう。結果、本サービスの肝とも言える要素が決定的に失われてしまうわけです。

なお、無論その設定・管理、またそれに伴う各施設等との同意交渉にかかるコストも到底無視し得ないものになるでしょうけれども、本アプリの特徴が消えてなくなる弊害に比べればさほど決定的な問題とは言えないのではないかと。

結局のところ、これらの問題の解決はなかなかに難しい、というかスマホベースARの仕組みに内在する問題であって、その形態をとっている以上、価値が損なわれない形での解決は原理的に不可能なようにも見えるわけです。
 
思うに、たかがゲーム、と言うと語弊があるかもしれませんが、事故の危険や業務妨害の被害は防止されなければならないし、個々人のゲームをプレイする楽しみや任天堂等企業の利益と引換えに容認出来るものではない事は間違いないところであって、少なくとも、今のように何処でも大抵の名所や施設が登録されていて、近くに行けばゲーム上のポイントとしてアクセス出来るような状況は、そう長くは続けられないだろう、とそう言わざるを得ないのではないでしょうか。いくらそれによって失われるだろうARの飛躍等の可能性を惜しんだところで、実際に社会問題化しつつある以上、それはもう仕方ない話だと思うのです。

そもそも問題はそれだけではありません。他にも、季節柄、炎天下の下、屋外で長時間ゲームをプレイする事自体にも熱中症等の危険はあるわけです。通常でも多少の油断で起こりうる事故が、ゲームに夢中なプレイヤーに起こらない筈はなく、むしろ当然の帰結であり発生は時間の問題であろうところ、実際に重症者あるいは死者などが発生すれば、危険行為と認定されて一斉バッシング、という事態も起こりうるでしょう。

一市民としては、そのような事態に至る前に、致命的な事故等を回避する対策があらかじめ採られるよう願いたいところですが、ブームに目が眩んでいるだろう任天堂やら関連業界には正直期待し難い事なのでしょう。長年この種のサービスに慎重だった任天堂の事ですから、警戒はしているのかもしれませんが、それだけに経験も対処のノウハウもないわけで、仮に警戒していてもあまり意味はないでしょう。もっとも、物珍しさで始めた大多数のライト寄りのプレイヤーは、各自の生活圏内のポイントを一通り回り終えたあたりで落ち着くだろうし、あるいは飽きて離脱する向きも多いでしょうから、もうしばらく事故が起こらなければ、それほどピリピリせずともよくなるのかもしれませんけれども。いずれにせよ、任天堂にはユーザの安全を第一として極力慎重かつ迅速な事前の手当がなされるよう願いたいところです。

しかし今年はVRあるいはARの年だ、等と年初に色々なところで予想されていましたが、ある意味半分位はその通りになった、と言っていいんでしょうか。その種の予想は往々にして外れるものなところ、珍しい事もあるものです。もちろん、その予想で想定されていたのはOculusやSonyのHMDによる没入型のデバイスの普及であって、本件のような形態のものでは決してなかったわけで、その意味では実質的には予想とは別の話ではあり、予想が的中した、とはまだ言えないわけですけれども。いやはや。

[過去記事 [biz] 審判の日が迫るHMD型VRデバイス達]