4/27/2016

[biz law] 25年不正を隠蔽し果せた戦慄すべき三菱自の組織力と、混沌とする先行きについて

三菱自動車の燃費等不正の件、流石に戦慄が走りました。

次々と明るみに出る不正行為の数々、その規模も凄いしそれぞれの態様も驚くべきものですが、特に恐ろしいのはその不正を行っていたとされる期間の長さです。その開始は1991年、およそ25年も前から、というのを見た時には目を疑いました。え、本当に?と。

このあまりに長い期間の中には、件のリコール隠しの時期も当然に含んでいるわけですから、あの犯行が露見した後、二度と欺かないと誓いつつ謝罪し、再生を謳って販売回復に奔走する裏で実際にはユーザは無論、当局をも含めおよそ自社以外の全てを欺く詐欺が続けられていた事になるわけです。あれだけの全方位的な非難に晒され、調査や取材等が殺到し、組織の内実を明らかにすべく多くの外部の目が注がれ続け、当局の捜索も受けておきながら、本件のような大規模な不正の情報を漏らさず、最終的に日産から追求を受けるまで隠しおおせたという事実、そこに透けて見える組織の自己防衛の不自然なまでの完璧さには、空恐ろしいものを感じずにはいられません。

本件は開発目標の達成に直結する部分での不正なのだから、開発の最初から最後まで、進捗のあらゆる段階で確認が行われるべきものである以上、少なくとも開発部門と検証部門が関わらなかったわけはないし、少なくない人数が直接間接に関与しただろう点に疑いを入れる余地はないように思われるところです。そして、それらの部門で、20年以上もの間、人の入れ替わりがなかった、などという事もまたあり得ません。普通に出入りはあったでしょうし、組織の再編も頻繁に行われた筈だし、無論退社・転社した者も相当にいる筈ですから、通常ならその過程で情報が漏れそうなものです。しかし、そのおよそ全てが本件を秘匿し続けた事になるわけで。そんな事が現実に可能であるとは、それが事実として突き付けられた今でさえ信じがたく思われてなりません。そこは日本を代表する企業の筆頭たる三菱、その並外れた組織力と忠誠心のなせる業という事なのでしょうか。だとしても、こんな形でそれを実感する事になろうとは露ほども思いませんでした。最悪です。

しかしこれで三菱自動車がこれからどうなるのか、さらに見通せなくなりました。本件不正が20年以上前から続いていたという事は、事実上現存するほぼ全ての三菱自動車製の車両について賠償等の責任が発生するという事でもあるわけです。法的には半分以上が時効になっている、とは言っても、過失ではなく完全な悪意による犯行である点からすれば、法律を盾にしたところで顧客に対しては無意味、最低限補償なくして被害者たるユーザが戻る筈もなく、さもなくば今後の事業継続がより困難になるだろうわけで。結局のところ補償しなければ立ち行かない話のように思われるわけです。

本件への補償を特に困難なものにしているのは、不正が燃費に関する詐欺であり、すなわち取得時点のみならず、日々の運行につき継続的に損害が発生する性質のものであるために、当然に膨大になるその被害の範囲です。一例を挙げると、一時的に借りて使用したに過ぎない利用者も燃料費について損害を被っている以上、補償すべき対象に含まれるわけです。額の多寡は兎も角として。

取得時の不当に高価な評価額による損失についても、現在のオーナーがその補償すべき対象に含まれる事は当然として、価格の評価に燃費がどの程度影響したかは個別の事例毎に異なるでしょうから、その評価にも困難が生じます。さらに、当然譲渡がくり返されたケースは多々あるでしょうし、所有者の追跡すら困難な事も少なくないでしょう。

要するに、誰にどういう形で賠償するのか、すればいいのか、補償の相手を判別する事すら極めて困難になっているわけです。理論的には、全ての所有者と利用者について、個別にその取得・利用の態様と保有・利用の期間や頻度等に応じて個別に算定された相当の補償がなされるべきところですが、言うまでもなく現実的には困難もしくは不可能な場合も少なくないでしょう。それでも個別の訴えがあれば裁判所はそのように対処するでしょうけれども、何しろ数が多すぎるわけで、その全てを訴訟により処理する事は司法システムの容量的に不可能ですから、大半は当事者間の和解により解決を期す事になるでしょうが、それも何処まで可能かは見通せません。

しかも、仮にその膨大な補償の実行が可能だとしても、今後の三菱自の事業継続の可否はまた別の話なのであって。とりわけリコール隠し以降の主たる販売経路だった日産が、今後もOEM取引を継続する可能性は無きに等しい以上、売上の大部分が消える事に変わりはないし、同時にユーザの大半が決定的に離反してしまう事実は致命的としか言いようがありません。法的にも致命的な障害を抱え、そもそも製品の生産・販売を行う事自体が困難です。率直に言って事業が成立しません。状況を客観的に見れば、継続は困難というより不能と言い切って良いところでしょう。

おそらく今後三菱自がとり得る選択肢は2通り。一つは三菱グループの支援を受けて抜本的な再生を目指す道。三菱グループにはそれだけの力はある筈です。ただ、直近でグループの主要3社、特に商事が資源安から巨額損失を出し、重工も船舶・航空で不手際から少なくない損失を出している状態ですから、あまり楽観は出来ないだろうところです。銀行は余力十分ですが、問題の性質からして銀行主導で立て直しが可能なものか疑義がつくところでしょう。

この点、再建の前提として、三菱自が競合他社と同等の製品開発を可能な所まで開発レベルを引き上げななければ話にならないわけですが、そもそもそれが可能なら元々こんな状況にはなっていなかった筈で、その達成に必要な資本や時間を云々する以前に、その可能性というか、実現方法の見通しすら立っていないのです。三菱自の事業状況は、本件発覚によるマイナスがなくとも、製品開発の段階で競合に決定的に敗北しており、元々の生産規模の小ささも相俟って、本来的に退場を余儀なくされるだろうケースにあたります。その立て直しには、多額の人的物的なリソース・資本の追加投入が当然に必要なわけです。当面の資金さえあればどうにかなる性質のものではあり得ませんし、まして組織の隠蔽体質の改善云々は製品競争力の回復には関係ありません。そこに本件。信用がマイナスに振り切れているというのも、本来ならそれだけで致命的な話な筈ですし、常識的にはもう資産を切り売りして清算する以外の選択肢は無いように見えるところですが、それでも三菱は見捨てず、その資本力で立て直そうとするのでしょうか。一部にはそういったグループ幹部の意向も伝えられていますが、いささか正気を疑わざるを得ないところです。さて。

もう一つの選択肢は、既に触れたように、大人しく独立での事業継続を諦め、身売りもしくは資産切り売りのち会社自身は清算し、自主営業を廃する方向へ進む道です。こちらは残る大きな問題は補償だけで、再建とは比べるべくもなく現実性は遥かに上です。ただ、関連会社を含め、多数の失業者が出るのが社会的には問題になるでしょう。とはいえ、人不足の折ですから、より好みをしなければ大半はどうにでもなるでしょうか。まあ、そこで三菱のプライドが邪魔するかもしれませんが。。。三菱重工あたりに転籍するケースもありそうですが、全員が出来る筈もなし、却って不公平感が強まりそうです。あと、工場を処分するにあたっては、軽自動車が日本国内特化規格である事から、プラットフォームの共通化が普及している他社には獲得しづらい案件であろう点は問題になるでしょうか。日産等が開発部隊の一部と一緒に取得して軽専用の開発ラインを立ち上げるという案もないではないでしょうけれども、やはり軽が国内限定である事と、それによる売上規模の小ささがネックになって揉めるでしょう。だからこそこれまでOEMで調達してきたのですしね。

いやもう、無茶苦茶過ぎて整理しようにもキリも付かず、逆にどうなるのか興味も尽きない本件ですが、とりあえずはそんな感じで、引き続きウォッチさせて頂こうと思うのです。ここまで来ると、追加で何が出てきてもおかしくないですしね。ともあれ、因果応報になるのならそれでよし、というか相応に報いがないと流石に社会的にまずいんでしょうけど。

----その後追記

さほど日を置かず行き先が決まったようです。三菱グループからは見捨てられ、あえなく日産傘下に。このような腐りきった会社を取り込もうとする日産の思惑には色々と疑問を覚えずにはいられませんが、このまま三菱自は消える運びになったという事でしょうか。

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