Liberation Dayです。
周知の通り、米Trump大統領が、原則全ての米国への輸入品に10%超の関税を追加で加える大統領令に署名しました。
国別変動分の税率は貿易赤字の額に応じて加重され、当然ながら輸入超過が常態化している日本に対しては比較的重く20%超、最大の輸入超過国である中国への税率は計50%を超えます。
目的は貿易赤字の削減です。貿易赤字は米国が搾取されている証拠である。これは是正されなければならない。だから輸入を減らし、国内へ生産拠点を回帰させよう、というわけですね。
貿易不均衡の是正という目的自体は理解しうるものです。そのために生産拠点を国内に移転させよう、というのも至極自然かつ妥当な発想です。それが出来れば、同時に国内経済も拡大するでしょうしいいことずくめです。
しかし、その手段として用いた関税の導入・加重は、おそらくその目的・意図の通りには機能しないか、機能しても殆ど効果は得られないでしょう。
生産を国内に移す、というのはまさしく言うは易しの典型です。それに莫大な資金が必要になる事は言うまでもない話ですが、工業製品であれ資源であれ、それぞれ生産には様々なものが必要になるわけで、資金だけあっても絵に描いた餅です。
土地にインフラ、各種設備とそれを適切に扱える訓練された労働者、そしてそれらを整備する時間と各種リソース。どれをとっても一筋縄では行きません。
特に時間の問題は致命的です。生産拠点等の立ち上げには少なくとも数年単位の時間がかかります。移転に踏み切ったとして、それが完了する頃には政策責任者たるTrumpはいません。そして、次の政権が関税政策を維持する保証はなく、むしろその可能性は極めて低いでしょう。もし政策が転換されれば、投下した資金を回収する事も出来ず、破綻するしかない。それがわかっていて、移転する事業者などいるでしょうか。
また、如何に米国が広大で豊富な資源を抱えると言っても、それ以上に莫大な国内需要を自国内で全て賄える程でもありません。特定の地域に依存する希少資源は無論、原油等の比較的偏在する資源も足りない分は輸入せざるを得ない。それらは、単にコストが上がるだけになる。
結果として、国内の供給は不足し、それを補う輸入品の価格は上昇し、インフレが進む。採算が合わなくなった企業が破綻する。生活を維持出来なくなる人も増える。需要は減り、経済の循環が縮小する。まさしく不景気になるだろうわけです。
近年はほぼ投機の場と化し、fundamentalsを反映する事は殆どなくなってしまった各種金融市場も、これには流石に素直に反応し、全面的に評価額を大きく下げました。とりわけ元凶の米国では、goodbye401k!等と皮肉る声が溢れています。
Elon Muskの一連の横暴にSignalgateとも相まって、民主党支持者は無論、共和党支持者からも反発に転じる人が増えています。Fox系とかの無条件に擁護するメディアは健在なんですけれども、それは擁護になっているのか?逆効果では?という位に意味不明で見ていられません。当然、批判する側はそういう擁護も盛んにあげつらって揶揄しています。あいつらアホだ、と。
TrumpはこれをLiberationと呼びました。解放。一体何から解放されるんでしょうか。資本主義から? 理性から?それとも、自由から?
いすれにせよ、意味合いとしては犯罪者や狂人がその犯行にあたって法や倫理その他諸々の思考を放棄するのと似たようなものなのでしょう。問題はそれを摘発し裁く者がいないという事ですが、そこは諦めて自衛に努めるほかないでしょう。自衛のしようもないだろう米国向けの輸出関連の人達はご愁傷さまです。
さしあたり、金融市場での投資収益に頼った人生設計には、一時的にせよ別れを告げなければならないんじゃないでしょうか。逆に言えば、国家ぐるみのねずみ講、投機という名の博打頼りの社会経済からの脱却のいい機会にはなるのかもしれませんね。もっとも、その先に堅実な社会があるとは期待し難いのも事実なんですが。