4/24/2025

[biz pol] 歴史の岐路に立つ日本の米生産

米です。食べる方の。

長年、それこそ日本が国として成立する前からこの地域で広く栽培され、主食として人々の生活を支えてきた米ですが、どうやら歴史の岐路に立っているようです。否、既に別の道に踏み出したと言っていいのかも知れません。

昨年から続く供給不足とそれに伴う価格高騰が収まりません。現状の農業政策を変えたくなかった政府は事実上何もせず放置していただけで、今以て解消される見込みは皆無です。

新米が出回れば収まるだろう、備蓄米を放出したから収まるだろう、そう希望的楽観に縋って事実上無策を続けた結果は真逆。 既に政府は国民の信用を失っています。

原因たる当初の不足は、それで自然になんとかなるような尋常なものではありませんでした。その前年の主に水害に起因する不作によって、およそ生産・流通にあった全ての在庫が消滅していたものと考えられ、それを補うには、通常の生産量では全然足りなかったのです。そのギャップは未だ埋まっておらず、今年以降も生産が劇的に増える見込みがあるわけでもない以上、この先何年も不足が続く可能性も低くはないでしょう。

備蓄米の放出は、無意味という他ないものでした。その理由は、放出分に買い戻しの特約がついていたからです。その買い戻し用の在庫は何処からどうやって調達しろと言うのでしょうか。調達の見込みが立たなければ、売るに売れません。特約に縛られた業者は、当然に買い戻しに備えて倉庫に溜め込んだまま、流通に乗せませんでした。単に所有権が政府から業者に移っただけです。無論、市場に一切影響を与える事もない。

何故政府はそんな特約を付けたのでしょうか。政府は備蓄の維持は絶対に必要だというのでしょうが、その維持は政府の責任であって業者に転嫁出来るものではありません。政府にしてみれば、備蓄米の新規調達増など無理だというのでしょうが、政府ですら出来ない事が、どうして民間に出来るでしょう。出来る範囲でやれる事を、と考えた結果なのでしょうが、所詮小手先の小細工、馬鹿の考え休むに似たりでしかありませんでしたね。

じゃあどうすればいいかと言えば、結局のところ、市場と備蓄、それらを合わせた米の総量が足りない、それが問題の本質なわけです。従ってこれを解決する方法はただ一つ。米の総量を増やすしかないのです。

総量を増やすにはどうするか?生産を増やすか、外から持ってくるかの二択です。そして、高齢化からの従事者の減少が進む農業の現状を見れば、生産を増やす方は現実的ではありません。であるならば、外から持ってくるしかないのです。すなわち輸入です。

という流れで、遅まきながら、政府及び立法府では米の輸入の制限緩和が取り沙汰されているというわけです。丁度アメリカから貿易不均衡の是正を求められている事もあって、農産物の輸入増の対象に適してもいるし、一石二鳥でもあります。

勿論、農水族は反発するわけですが、今回の米不足は農政を仕切ってきた自分たちにこそ責任があり、かつ構造的にそれ以外に解決の術がないという事で、だいぶ旗色は悪そうです。というか、余程の事、例えば今年の収量が例年の数割増しの大豊作になって不足が解消されて価格も下がった、とかいうのでも無い限り、輸入の拡大に踏み切らざるを得ないのではないかと思われます。

もっとも、仮に輸入拡大をするとしても、一足飛びに関税撤廃まで行く可能性は高くないでしょう。4倍から5倍にもなるそのあまりに圧倒的な価格差から、国内の米産業が壊滅してしまうとの懸念は拭い難いでしょうから。しかし、広く流通させるのなら、国民の納得が得られないだろうその高額な関税は大幅に下げざるを得なくなるでしょう。

なお、今回は原因が原因なので、その量も期間も相当になるでしょうし、一度始めたらそれをやめるのも困難になるでしょう。輸入拡大に伴い、さらに国内の生産が落ちる可能性もまた高いでしょうから、なおさら後戻りは出来なくなるだろうとも予想されます。

というわけで、日本は、古来より続く国内での米の生産、それが本格的かつ不可逆的に衰退するかどうか、という歴史的な岐路に今まさに立っていると言えるだろうわけなのです。その割には随分あっさりと話が進んでいるな、とは思いますが、長年の積み重ねがあっての今なので、やはり皆わかっていたというか、諦めの境地に至っているという事なんでしょうか。それとも、政府はじめ関係者が失政に伴う目の前の責任問題にパニックを起こしているだけなのでしょうか。いずれにせよ結果は変わらないだろうので、気にしても詮無い事でしょうけれども。

そもそもの話をすれば、日本の米生産の方法は、多品種少量高品質という贅沢品向けの非効率かつ高コストの極みなものなのだから、正反対の小品種大量生産を推し進めた海外大手業者に大衆向けの主食用作物の競争で敵う筈もなく、淘汰されるのも当然の成り行きと言う他ないわけで。不作とインフレがその最後のひと押しになる、というだけの話なのでしょう。これも時代の流れということですね。もちろん一消費者としては歓迎したいと想います。

食料安全保障?既に国内生産では消費を賄えていないのだから、もはや破綻していると言うべきでしょう。それに、国内生産に固執した結果、高価になりすぎて貧困層中心に購入が困難になる国民が多数生じるというのでは本末転倒です。今後は輸入を増やしつつ、国内の米産業にも集約その他のコスト競争力を高める方向である程度の生存を図っていくよう、農業政策を転換するべきではないかと思いますね。

4/04/2025

[biz pol] Liberation. from what?

Liberation Dayです。

周知の通り、米Trump大統領が、原則全ての米国への輸入品に10%超の関税を追加で加える大統領令に署名しました。

国別変動分の税率は貿易赤字の額に応じて加重され、当然ながら輸入超過が常態化している日本に対しては比較的重く20%超、最大の輸入超過国である中国への税率は計50%を超えます。

目的は貿易赤字の削減です。貿易赤字は米国が搾取されている証拠である。これは是正されなければならない。だから輸入を減らし、国内へ生産拠点を回帰させよう、というわけですね。

貿易不均衡の是正という目的自体は理解しうるものです。そのために生産拠点を国内に移転させよう、というのも至極自然かつ妥当な発想です。それが出来れば、同時に国内経済も拡大するでしょうしいいことずくめです。

しかし、その手段として用いた関税の導入・加重は、おそらくその目的・意図の通りには機能しないか、機能しても殆ど効果は得られないでしょう。

生産を国内に移す、というのはまさしく言うは易しの典型です。それに莫大な資金が必要になる事は言うまでもない話ですが、工業製品であれ資源であれ、それぞれ生産には様々なものが必要になるわけで、資金だけあっても絵に描いた餅です。

土地にインフラ、各種設備とそれを適切に扱える訓練された労働者、そしてそれらを整備する時間と各種リソース。どれをとっても一筋縄では行きません。

特に時間の問題は致命的です。生産拠点等の立ち上げには少なくとも数年単位の時間がかかります。移転に踏み切ったとして、それが完了する頃には政策責任者たるTrumpはいません。そして、次の政権が関税政策を維持する保証はなく、むしろその可能性は極めて低いでしょう。もし政策が転換されれば、投下した資金を回収する事も出来ず、破綻するしかない。それがわかっていて、移転する事業者などいるでしょうか。

また、如何に米国が広大で豊富な資源を抱えると言っても、それ以上に莫大な国内需要を自国内で全て賄える程でもありません。特定の地域に依存する希少資源は無論、原油等の比較的偏在する資源も足りない分は輸入せざるを得ない。それらは、単にコストが上がるだけになる。

結果として、国内の供給は不足し、それを補う輸入品の価格は上昇し、インフレが進む。採算が合わなくなった企業が破綻する。生活を維持出来なくなる人も増える。需要は減り、経済の循環が縮小する。まさしく不景気になるだろうわけです。

近年はほぼ投機の場と化し、fundamentalsを反映する事は殆どなくなってしまった各種金融市場も、これには流石に素直に反応し、全面的に評価額を大きく下げました。とりわけ元凶の米国では、goodbye401k!等と皮肉る声が溢れています。

Elon Muskの一連の横暴にSignalgateとも相まって、民主党支持者は無論、共和党支持者からも反発に転じる人が増えています。Fox系とかの無条件に擁護するメディアは健在なんですけれども、それは擁護になっているのか?逆効果では?という位に意味不明で見ていられません。当然、批判する側はそういう擁護も盛んにあげつらって揶揄しています。あいつら救いようのないアホだ、と。

TrumpはこれをLiberationと呼びました。解放。一体何から解放されるんでしょうか。資本主義から? 理性から?それとも、自由から?

いずれにせよ、意味合いとしては犯罪者や狂人がその犯行にあたって法や倫理その他諸々の思考を放棄するのと似たようなものなのでしょう。問題はそれを摘発し裁く者がいないという事ですが、そこは諦めて自衛に努めるほかないでしょう。自衛のしようもないだろう米国向けの輸出関連の人達はご愁傷さまです。

さしあたり、株式等の市場での投資収益に頼った人生設計には、一時的にせよ別れを告げなければならないんじゃないでしょうか。逆に言えば、国家ぐるみのねずみ講、投機という名の博打頼りの社会経済からの脱却のいい機会にはなるのかもしれませんね。もっとも、その先に堅実な社会があるとは期待し難いのも事実なんですが。

4/01/2025

[pol] Marine Le Penが公金使い込みで有罪判決、被選挙権停止。仏極右崩壊

仏極右系指導者の筆頭であり、Macron大統領の対抗馬として近年支持を拡大し続けていたMarine Le Penが有罪判決を受け、被選挙権停止となってしまったそうです。

容疑は、2004年から2016年と12年にも渡り、EU議会の補佐官用の資金を、自党(National Rally)の職員への給与に私的流用していた、というものです。彼女だけではなく、他に同党所属でEU議会議員として務めた8人及び職員12人も同容疑で訴追され、無罪判決を得たのは1人だけとのこと。要するに党ぐるみでカネについて真っ黒でしたと。

期間、規模、流用した資金の性質等を併せて見れば、如何に彼女が仏政界において重要な地位にあると言っても、アウトになるのも致し方なしでしょう。Le Penとその支持者達の叫ぶdemocracyの危機、等というお決まりの捨て台詞が虚しく響きます。

なお、本判決はまだ1審なので確定ではありません。ほぼ確実に上訴もなされる見込みとの事でもあります。が、日本とは違い、上訴をしても被選挙権停止の効力は(上訴裁判所が取り消さない限り)消えないそうです。停止期間は5年。(なお、上訴に伴い拘禁や罰金等、その他の刑の効力は停止するそうです。被選挙権だけ別扱いな理由はなんでしょうね?)

しかるに、一般に上訴の審理には数年かかるとのこと。判決の内容からして、審理中に取消がなされる可能性は限りなく低く、その間は被選挙権は復活しないものと見られています。

つまり、Le Penは事実上次の仏大統領選には出られない、と言ってよいだろうわけです。勿論、党の顔と多数の中核メンバーをまとめて失ったNational Rallyも総崩れ必至です。お疲れ様でした。

言うまでもない話ですが、今回の判決はEU全体としては歓迎すべきものです。対Trump、対Russiaで連帯を強めるEUにとって、その中心的役割を担う仏の右傾化とそれによる不安定化は大きな懸案の一つだったところ、このタイミングでのその主要因たる彼女と同党の失権はあまりに都合が良すぎて裁判への政治的な介入の気配を感じずにはいられませんが、それ自体が正当であれば問題はないでしょう。

綺麗に懸案が片付いたわけではなく、まだドイツをはじめ各国に大小様々な不安定要因はありますが、とりあえずまとめ役の仏が安定するなら、EU全体が内部から分裂瓦解、というような破滅的な危機はさしあたり避けられそうで一安心です。

とはいえ状況の変わる速度も程度も激しい昨今ですから、束の間の平穏、あるいはそれ自体錯覚に過ぎないのかもしれませんけれども。代わりがすぐに出てくる可能性も高いでしょうしね。それ自体はしょうがない話なんですけれども、新興勢力が揃って平和とは真逆の方向にばかり向かおうとするのはどうにかならないものなのでしょうか。

French court finds far-right leader Marine Le Pen guilty in embezzlement case