12/21/2023

[biz] 日野に続いてダイハツも消えそう

ダイハツがやらかしてくれましたというか、やり続けていた事が明るみに出たというか。多分にご臨終のようです。

詳細は省きますが、近年の同社製自動車のほぼ全車種について、衝突時のエアバッグの動作試験等の安全性関連を含む認証試験で、テスト車に細工したり結果をすり替える等の重度の不正が行われていた事が確認されてしまいました。本件はリコールで対応出来るところの生産レベルの問題ではなく設計レベルの問題のため、あえなく現行全車種の生産販売の停止に追い込まれ、当然ながらその解決の目処は立っていません。というかこれから本件にどう対応するのか、その目星すらついていません。少なくとも長期間、生産販売含め事業がほぼ完全に停止する事は避けられないでしょう。トヨタグループの軽自動車部門として長年トップシェアに君臨し続けた同社ですが、突如として存亡の危機に直面してしまいました。

本来なら、リコールで対応すべき所、なのですが、そうもいきません。認証試験で不正をした、という事は、つまり設計・開発の時点でその認証試験をパス出来ないものだという事で、それを解消するには、設計レベルで修正が必要なわけです。それには少なくとも一車種あたり数年はかかる事が確実だし、規模が規模なので、修正したとしても生産もできません。安全性の部分が含まれているので、国交省としては特例等で販売分は問題なし、とか出来るわけもないでしょうし。だとすると、普通に考えれば金銭で賠償する他ないという事になるのでしょうが、それはそれで額が莫大すぎて、ダイハツを潰しても払えない、という。どうしたものでしょうか。

原因は、非現実的な短期間での開発スケジュールの強制との事。自動車は新型車の方がよく売れる事と、単純に開発期間が短ければそれだけ開発費が少なくて済むため、開発期間を削れば削る程、車種あたりの利益は跳ね上がります。当然、経営側は限界まで削ろうとするわけですが、新車種が新車種たるためには何らかの技術的進歩が求められます。燃費の改善はもとより、居住性や利便性、安定性、視界の広さ等等。加えて原価の低減も求められます。ご自慢のトヨタプロダクションシステムのカイゼンというやつです。

その中で、最重要なのは燃費改善と低原価の2点でしょう。これに最も効果的なのは軽量化です。軽量にすればするほど、つまりフレーム等の鋼材を削れば削る程、燃費も価格も下がります。しかし、当然ながら安全性も低下してしまいます。長年開発を続けていれば、出来る事はやり尽くしていて、改善の余地など殆ど残っていないでしょうから、そのトレードオフは、これ以上やったら十分な安全性を担保できない、というところまで行き着いているだろう事は容易に想像できます。技術的な頭打ちというやつです。

でも、技術的にもう無理だ、となっても、それまでのカイゼンの成功に味を占めた経営側は、それまでと同レベル以上の開発成果を求めるのです。最初の内は無理をすれば何とか出来るかもしれません。しかし、何とかする毎に越えるべきハードルは更新されていきます。ハードルが下がる事はありません。加えて開発期間は短縮され、只でさえ実現困難なそのサイクルが早まる、すなわちハードルが上がる速度も加速する。すぐに不可能に行き着きます。しかしカイゼンの要求は止まりません。技術的に不可能な要求が果てしなく繰り返されるようになるわけです。開発部門にとっては絶望的と言う他ないでしょう。

技術的に不可能なら、取れる道は2つだけです。その事実を経営側に断固として主張し、開発目標を拒絶するか、出来もしないのに出来る、出来たと嘘をつくかです。本来なら前者を選び、不可能な目標を捨て、現実的に達成可能な目標を模索すべきところですが、ダイハツの開発部門は後者を選んでしまった、というわけです。

同情すべき点がない、とは言いません。経営側からの要求を撥ね付ければ、多分に部門自体が無価値とされ、職を失う可能性があり、そうでなくとも、事業ひいては会社の存続等を盾に取ったパワハラというのも生易しい程の無責任な非難にさらされ、叱責され、追い詰められるだろう事は目に見えています。声を上げた者に代替案を出せ等と責任が押し付けられる、というような理不尽な事も企業ではよくある話です。そんな中で、出来ない、と毅然と主張し、その姿勢を貫く事は困難極まりない事でしょう。

しかしです。それでも酌量する事は出来ません。彼らは、安全性に関わる部分の試験までも粉飾の対象とし、事故の際にユーザーの命を守る事を放棄しました。何か間違いがあれば容易にユーザーの命を奪う自動車の、その命を守るための安全性の担保は、そこだけは何があろうと自動車メーカーの開発部門として絶対に放棄してはいけない部分です。それを放棄したダイハツ、その開発部門には、もはや自動車を作る資格がないものと断ぜざるを得ません。

この状況を作り出した経営陣はさらに罪が重い事は言うまでもありません。こんなに長期間、広範に不正をせざるを得ない状況にあって、開発部門が全く状況を経営層に伝えなかったなどという事はあり得ないし、ありえませんが仮に全員が揃って全く状況がわからなかったと言うなら、それは経営層の全員が自社の事業の実態を一切知らないと言うに等しく、経営者としての最低限の責務を完全に放棄した、無能という表現では到底足りない、背任者だという事なのですから。組織としても破綻しています。

結局のところ、ダイハツがやった事は自動車製造会社として致命的で、規模、態様ともに救いようがないと言う他ありません。はっきり言えば、ダイハツは潰れるしかないのでは、とも思うのですが、国内有数の巨大企業ですから、言うまでもなくその影響は甚大です。潰してはいおしまい、というわけにはいかない。日野の例に倣えば、国内の他社、つまりスズキホンダ日産のどれかに買収される事になるんでしょうか。いずれにせよ、本件は不正がユーザーの命に直接関わる点で日野より悪質なので、もうどうしようもないでしょうね。残念です。