今まさに国会において組織犯罪処罰法の改正が決議されようとしているわけですが。本改正案はいわゆる共謀罪の、殆ど新設と言うべき大幅な拡大がその中核を為しており、従来の刑法の体系を崩すものである事、またその濫用の恐れが極めて高い事等から、国会内は無論、広く社会上で批判、反対の声が上がって来ていたものです。
しかし、このまま行けばそれらの批判、反対の声を無視する形で強行採決によって成立となるだろう事はほぼ確実なように思われるわけです。それ自体は、如何にその法案に問題があろうと、選挙によって与党にそれだけの議決権が与えられているのだから、致し方ない事なのでしょう。そして、現実に成立する運びにある以上は、その内容を正確に把握しておく必要があるわけです。将来的には濫用の被害が及ぶ事が確実視されるのであれば尚更。
まず、本罪の要件について。これは、実行準備行為を伴う組織的犯罪集団による重大犯罪遂行の計画、と題して新設される第六条の二に規定されています。客体は、組織的犯罪集団の活動として、もしくは組織的犯罪集団を利する行為を二人以上で計画した者が対象とされています。組織的犯罪集団の構成員ではない、協力者や賛同者等の外部の者も含む事から、実質的に一般人も対象となるものと解されています。また、人数の要件も二人以上と単独以外の全てを含みます。既遂要件は、その計画に基づく資金・物品の手配、場所の下見等の実行のための準備行為の実行となっています。未遂は罰せられませんが、これはそもそも共謀行為自体が基本的に着手即既遂になり、未遂を観念する事が困難であるためでしょう。この点、行為者をして共謀の時点で既遂になってしまうため、共謀行為自体には一定の予防効果が期待される反面、計画をしてしまった場合については、その時点でもう犯罪者になってしまったのだから後には退けない、と実行を決意させやすい効果を生む懸念もあるのですが、それはともかくとして。
この要件に照らして典型的な例を考えると、例えばネット上で情報を確認する等の下調べ等をしつつ複数人で計画を練った時点で既遂となって本罪の対象となる、という事になります。爆薬や薬物の製造法を確認する、等も該当するでしょう。単に話をするだけの場合は対象外ですが、通常は書籍なりネットなり、何らかの情報の収集と平行して計画が行われるものでしょうから、むしろ話だけの場合の方が例外的であり、その範囲は極めて広いものと解すべきでしょう。組織的犯罪集団の活動or利する行為という点も、実行者側からの一方的な、共感する程度のケースも含まれるだろうところ、殆ど制限にはなっていないように思われます。
かようにその適用範囲は非常に広く、他者との交渉を絶っているような人物以外は全て潜在的な対象と捉えうる要件になっているわけです。つまり一般市民は殆どが容疑者足り得るものと想定されており、摘発ないし防止の対象となる、という事です。ここで問題になるのは、司法によるその摘発又は防止のための活動がどのようなものになるか、です。上記のような共謀活動を察知し、その証拠を捉えようとするならば、自然と市民の日常生活全般に対する監視が必要になります。そうである以上、必然の結果として、公と私を問わず、各種の通信、会話、日々のあらゆる言動、活動に対して公権力による監視が行われるものと予想されます。
そして、そこで捉えられた言動、活動をして、上記の共謀罪の要件に適合すれば、およそ既遂となっているだろう以上、その真意を問わず逮捕等の摘発は避けられず、あるいは刑罰の適用も避けられない事になるでしょう。一度容疑がかかった後で、それを覆す事は一般市民にとっては極めて困難であり、それが多くの冤罪をも生むだろう事も想像に難くありません。そのような事例が1件でも生じれば、多くの人をして無用に強く脅えさせる事になるでしょう。
換言すれば、今回の共謀罪の拡大は、まさに官憲がビッグブラザーと化し、市民生活におけるプライバシーの消滅をもたらす可能性が極めて強いものと言えるだろうわけです。おそらく一般市民の中にそれを歓迎する者は、一部の破滅主義者を除けば殆どいないでしょう。しかし、本件法案の成立は既に殆ど確実となってしまいました。この上は、冤罪を防ぐべく、自衛を図るより他にどうしようもありません。
具体的にすべき事は、と言っても範囲が広すぎて一々挙げるのも大変なのですが、、、一般的な点に限って言えば、テロや戦争絡みの話題、また会社等の組織に関する発言は極力避け、また通信は監視の目にかからないよう、WhatsApp等のP2Pでかつ秘匿されるものを使用し、オープンな場での発言や活動は可能な限り控えるべき、という事になります。面倒な事ですが仕方ありません。
そういった言動に直接関係する事項の他にも、個別の法令に関して注意すべき、あるいは控えるべき事項は多数に上ります。著作権法違反も対象であり、既存類似の表現の使用を計画しただけで逮捕される可能性があります。気をつけましょう。もとより組織であるところの会社関連の犯罪はその多くが対象とされています。経営陣は株主等に配慮をしようとしたり、決算に化粧をしようとしただけで摘発されかねません。大変ですね?脱税は無論対象ですから、誤解されないよう会計処理は慎重にしましょう。なにせ、"チャレンジ"を計画ないし指示しただけで、その結果を問わず逮捕されかねないのですから。不正競争関連も対象になりますので、引き抜きや受け入れを画策した時点で逮捕されかねません。極力同業からの転職者の受け入れは避けた方がいいでしょう。特定目的外派遣ももちろん対象です。派遣先で迂闊にそのような業務が振られる可能性は全て廃除しておかなければなりません。児童ポルノ?当然対象です。そのような性癖を持っている人は、実際にそのような行為や画像の取得等をせずとも摘発対象となり得ます。児童ポルノの関係者なんてみな組織的犯罪集団なのですから言い逃れは出来ません。摘発されたくなければ、誰にも悟られないよう、自身の心の中に留めておかなければならないのです。
そんなわけで。あまりに対象が広すぎて、もう面倒だから人と話したりメッセージをやりとりする事自体を控えるべきかとすら考えてしまうようなものなわけです。うんざりしますね本当に。