3/17/2016

[biz] 審判の日が迫るHMD型VRデバイス達

今年はVRあるいはARの年なんだそうです。年初あたりにそこかしこの技術系ニュースサイトで掲載された「今年ブレークする製品・技術」的な特集記事では、殆どそれ絡み、といってもどれもヘッドマウント型の端末ばかりだったのですけれども、ともかくそれがヒットするだろうと書かれていて、正直個人的にはその手のデバイスにはあまり興味が無い事もあって、眉唾に思いつつもふーん、程度に聞き流していたわけです。Oculus関連は価格含め期待外れな話ばかりでしたしね。

なのですが、まあそういう諸々の見込みの根拠であったところの、本命の一角たるソニーからのPSVRの価格等が周知の通りこの程発表され、それが思ったよりは戦略的である事が判明し、各所で議論を呼んでいるようです。だから何だというわけではありませんけれども、何はともあれ今年は予定通り、話題先行が続いた各種デバイスが一般向けに広く販売され、実際に市場並びに消費者の審判を受ける年になる事が確定したようで、その直前である今というのは、そろそろまともに先行きを考えてみてもいいタイミングなのかな、と思い、改めて各デバイスの仕様や発展具合等を確認してみたのです。といって、特に期待していたわけではないのですけれども。

その結果はやっぱりというか、絶対とは言わないけれども多分にこれは普及はしないだろうな、と言わざるを得ない、非常に微妙なものだったわけです。いろんな要素があからさまに過去の失敗の焼き直しな感じで、どうしてこう懲りないのかな、とも。このまま行けば、一般向けとしては揃って玉砕しちゃうんじゃないでしょうか。

まず製品の形態としては、各社グレードの違いはあるものの、基本的には3D表示対応のHMDに位置・加速度等のセンサを加えた、頭部装着型のモニタデバイスです。諸々の計算等の内部処理をデバイス内のプロセッサで行う場合と、そこは外部端末に任せてインタフェースに徹する形態等の違いもありますが、見た目は殆ど同じですね。中々に仰々しい外見には賛否があるでしょう。

頭部だけだと、入力に使える情報が頭の位置や顔向きしかなく、何をするにも足りませんから、別途インタフェースも組み合わせる形での運用が想定されています。それには手で操作するコントローラを使ったり、外部のカメラやルームランナー的な装置でモーションキャプチャをしたりする仕組みが採用されていますね。まともに組み合わせて使うと、特にPSVRとかラグが酷いことになりそうですが、それはともかく。

で、その機能というか、出来る事は、当然ながら3D空間への没入。 デモ等を見る限りARはあまり想定されていないようで、完全に別の空間を投影するものが大半のようです。主たる機能を一言で言えば、要するにFirst Person型すなわち一人称視点型のゲーム等の3D表示という事ですね。

機体の価格はまちまちですが、そもそもPSVRではその処理のためにPS4本体が必要になる等、基本的に単体では意味を成さないものですから、システム全体で見るのが適切でしょう。そうすると、およそ10万前後から、という事になります。子供やファミリー層は最初から対象外です。なお、HMD型につき、複数人が利用する場合には一人につき一台が必要になる個人用デバイスであるという点も留意が必要でしょうか。

以上の特色を持つVRデバイス達なんですけれども。その製品・事業的成否を予想するにあたっては、自然と競合するだろう各種製品や、過去の類似した位置づけの製品群と比較してしまうわけです。機能と価格の両面から。

まず機能の面では、既存のゲーム機類。特に3D表示が可能な個人向けデバイスという事で、任天堂の3DSが第一のベンチマーク対象になるでしょう。3D機能を除けば、従来通りのFPS系ゲームを通常の2Dモニターで表示する場合も含めるべきでしょうか。あと、単純な表示デバイスとしての面からは、3Dテレビですね。

その辺と比較すると、まず第1に表示方法すなわち主観的な画面・空間の範囲の違いがあり、第2に操作方法すなわち指操作と身体動作の違いがあり、第3に画素数の違いや内部処理能力等による投影空間の情報量差がその違いとして存在するように見えます。これらのもたらす効果をざっくり一言でまとめれば、VRデバイスの特徴はその没入感の高さにある、と言って良いのではないでしょうか。逆に言えば、それ以外にはあまり違いはないように見える、とも言えますね。

価格については言うまでもありません。ベンチマーク対象の既存製品群より明らかに割高です。個人デバイスとして比較すべきだろう3DSとであればおよそ6倍程度にも及びますし、従来通りのゲーム環境等と比較しても、同程度の処理能力で見れば少なくとも2倍程度の差はあります。

である以上、その特色でありウリであるところの没入感の高さというのは、そのだけの価格差があってなお、各製品が一般に広く売れ、普及し、定着するに足りるだけの特徴と評価し得るのか否か。それが問題だろうと思うのです。

で、これが訴求の評価とかいう以前に、その特徴自体が今ひとつはっきりしません。

確かに新しいカテゴリのデバイスですから、物珍しさはあります。熱心なファンは喜んで買うでしょう。その意味で、一時のニッチとしての成功は約束されています。しかし、これらの製品は単発のコンテンツではなくプラットフォームです。そうである以上、成功と言うには、新発売時限定のブームでは足りず、少なくとも5年以上程度の長期に渡って継続的な需要を惹き付け続ける必要がある筈です。そうでなければコンテンツ等が伴いませんから。しかも、そのコンテンツの開発には既存より高いコストが必要になります。コンテンツの単価も自然と上がるでしょう。只でさえ斜陽のゲーム産業周りにあっては、それは到底無視し得ない事業上の負担となります。

3Dである事にそれだけの価値があるかと言えば、おそらくNoです。3Dテレビの完全な失敗と、3DSにおいて3D機能が無意味と評価され、市場からコスト転嫁が拒絶された結果大幅な値下げを強いられた例を経験した今、その点に議論の余地はありません。少なくとも価格増には値しないものと見做されている、と言い切ってよいでしょう。

主観的な大画面化と、その他の外部情報の遮断については、従来のHMD同様、それなりの価値があると言えそうです。しかし、そもそもHMD自体がニッチである現状を鑑みれば、広く一般に訴求するための理由としては如何にも不足のように見えます。ただ、PSVRのようにHMDの従来製品よりは安価になる機種については、潜在的なHMD需要を取り込む効果は期待出来るかもしれませんが、それでもモニター自体を既に保有している層が対象になる以上、その需要が補助的な範囲を超えるものとは考えづらいところです。

操作方法の違いはどうでしょうか。これは人によるでしょうけれども、指先の動作と比較すると、身振り手振りによる操作というのは確かに一線を画した臨場感を与えるものである事は間違いないだろうところです。しかし、部屋の中でそれを行うには逆に不都合の生じる場合も多々あるでしょうし、何よりもそのためのデバイス類のコストで只でさえ高いシステムの価格がさらに大きく上がる事になります。また、周りが見えない中で身振り手振りをするとなれば、ブース型のように範囲を限定しない場合、事故の危険も懸念されます。売りというよりは、むしろ利用場面に対するリスクや制約として働く面も強いのではないでしょうか。コンテンツの設計にも苦労しそうです。ある程度訴求力はあっても、本体のコストまでもを補えるものとは言えないでしょう。

しかも、デメリットは他にも色々見受けられます。眼鏡着用者の場合には従来から眼鏡の干渉や位置ズレ、視野の齟齬等の問題が以前から付き纏っています。デバイス・個人毎にカスタマイズしたレンズを装着出来るようになればある程度解決する話ではあるものの、これまた大きなコスト増や煩雑さを伴い、それでなお違和感が残る事も避けられないでしょう。関連して、長時間の使用に伴う健康面への悪影響の強さを懸念する声もそこかしこから上がっています。単純に重さも負担になりますし。

果たしてこれだけのデメリットや不安定な要素を抱えた、非常に高価格なインターフェースデバイスが、そんなに広く一般に訴求し得るものなのでしょうか。現実的には、その可能性は殆どないと言えるでしょう。

それどころか、ゲーム機等のプラットフォームとして売りだされる点を考えれば、マニアですら十分にコンテンツが出揃うまでは買わないと判断する人が多数を占める可能性は低くないように思われます。では、そのコンテンツは十分に供給され得るのか。PSVRについては、現時点で有力各社がローンチタイトルを投入予定との事ですが、その中でデバイスの販売を牽引するような、すなわちVR専用のタイトルは、おそらくほんの一部に過ぎないでしょう。只でさえ開発費用が余計にかかるVR向け専用では単純に採算が合わないのですから。プラットフォームとして十分普及するまでは、否、普及した後でも、大半のタイトルは従来通りの2Dとのマルチリリースになるものと予想されます。VRデバイスが無くとも、個々のコンテンツを楽しむ事が出来ないという事はおそらく殆どないでしょうし、なおさらデバイスの購入動機は小さくなるとも言えるでしょう。

結局のところ、今売りだされている、売りだされようとしているVRデバイスは、コンテンツや機能の助けもなく、"没入型VRである"その一点のみを売りにして、数倍の価格差を埋め、遥かに普及し、エコシステムを確立している従来のゲーム機市場からシェアを獲得しなければならないわけです。

こう考えると、如何にも無謀な試みに見えてしまうのです。価格が$200位だったら話は全然違ったんでしょうけれども。

そんな無謀が、予想を覆して通るのか。非常な現実の前にあえなく散るのか。成否はともかく、久しぶりの新製品群のチャレンジという事で、外野として適当に楽しませてもらおうかな、と思う次第なのでした。私?買うわけないじゃないですか。

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