11/17/2015

[pol] 泥沼と無謀、暗鬱たるテロ社会は一夜にして成らず

イスラム原理主義テロとの紛争、フランスはもう泥沼ですね。いや、フランスだけではなく、EU圏やロシアも含め、ユーラシア大陸北側の大半がそうなんでしょうけれど。

といって全体を一纏めにすると広すぎて切りがないし、以下ではフランスについての話をしようと思います。まず話の背景として、フランスに限って言えば、元より過去の寛容な移民政策からイスラム教徒が社会の一部となっていたため、Islamic States等のイスラム原理主義の影響が及びやすい環境にあったところ、安易に挑発・対立に踏み込んだ時点でこのような帰結に陥るだろう事は目に見えていました。

直接的には、イスラム教のタブーを軽んじ、挑発同然の安易な批判行為を繰り返し、その報復を受けた雑誌Charlie Hebdoの襲撃事件、その後の対応が問題だったと言えそうです。過去のイスラム原理主義テロ組織との紛争の例を見れば、この種のテロ行為を避ける方法は2通りしか存在しません。すなわち、物理的に隔離するか、実力行為によって完全に殲滅するかです。それ以外の、今回フランスが採ったような容疑者の摘発強化や散発的で不徹底な空爆等の対応では、全く不十分か、効果が得られたとしても一時的なものに留まり、むしろ事態の深刻化を招く事まで含め、およそ全ての帰結が必然だったと言えるでしょう。

この種の、思想信条に基づくテロ組織との敵対関係は、一度生じたが最後、その精神性の故に殆ど永続的に対立し続ける事になるものです。和解云々以前にそもそも交渉の余地もなく、妥協も殆ど期待出来ず、信仰に基づくが故に忘れられる事もない。そのような相手との紛争にあっては、言葉は文字通り無力であり、非難や批判は、対立を生み、あるいは深めはしても、解消は無論、緩和すらも期待出来ないのです。そのような相手に対し、盲目的に対話を求め、隔離や徹底的な殲滅を忌避するに及ぶに至っては、言論はむしろ原因や障害としての面ばかりを帯びる事になるでしょう。

Charlie Hebdoの事件は痛ましいものではありますが、事件以前から度々掲載を繰り返したところの、愚劣な侮辱としか言いようのない表現の数々がその原因になった事は疑いようのない事実であり、それによる挑発、引き起こされたイスラム教徒の敵対感情が現在の環境、今回の事件発生の主要因であった事も否定し難く思われるところです。現代的な自由主義を過信し、前時代的な信仰心を甘く見た自業自得と見る事も可能でしょう。その後の政府の場当たり的な対応にも、事態を甘く捉えていたように見受けられるあたり、言論を全てに優先し、時として現実的な対応を軽んじる国民性の表れのようにも見える気がしなくもありません。あの時に、安易に全面的な連帯を表明してイスラム教徒全体との敵対に踏み出すのではなく、侮辱行為やそれを行った者と一定の距離を置いていれば多少なりと状況は変化したのでしょうか。いずれにせよ、件の事件の時点では個別限定的だった攻撃対象が無差別に移行し、しかもそれが成功してしまった以上、もう取り返しはつかないわけですけれども。

では、フランスは、EU各国は、これからどうなるのか。どうするのか。元々あった2つの選択肢の内、隔離はもはや不可能です。そうすべきとの右翼的な主張は当然のように湧き上がってはいるようですが、既に大量の難民受入れを実行してしまっているし、ここで国境を閉鎖するという事は、難民の大半を殺す事と同義です。それは実質的にホロコーストの再来とも成り得る措置であって、少数ならまだしも、規模が規模だけに躊躇いも大きいでしょうから、そのような中途半端な姿勢で止められるものとは到底思えません。当然、それに伴うテロ組織及び思想の浸透も相当な規模で継続されるでしょう。

一方、もうひとつの選択肢であったところの、Islamic Stateの殲滅はというと、これも怪しいわけです。ISは既に社会に潜伏するテロ組織ではなく、広大な領土とそれに見合うだけの軍事力を備えた国家と呼ぶに不足の無いものになっています。その殲滅には、現在行っているような空爆や遠隔からの拠点攻撃では全く足りない事は明らかであって、数十万人規模の地上戦力の投入によって面制圧的に掃討し、かつ相当期間に渡って占拠もする必要があるでしょう。加えてAssad政権とは対立している事情を考慮すれば、事実上完全な侵略占拠と同レベルのものが求められる事になるわけです。無論、フランス単体にその能力はなく、最低限英米との連合が必要になりますが、既に英米にもその余力はありません。また、Assad政権に協力するロシアの姿勢転換も必須でしょうけれども、その実現も容易ではありません。無謀と評価する他ないでしょう。

泥沼と知りつつ、無理にでも隔離を進め、国内近隣の容疑者摘発を強めるに留まるのか。それとも無謀と知りつつ、中東での殺し合いに突き進むのか。泥沼と無謀、現時点ではどちらも無理筋のようにしか見えず、従ってフランス、ひいてはEU各国には最早テロに怯えつつ徒に人命が失われゆく暗鬱たる時代が訪れるものと強く予想されるところです。では日本はどうか。地政学的な距離からして同様の事態に至る可能性は高くないだろうとはいえ、現政権のポリシーからすれば安易かつ無謀にも巻き込まれていく可能性も無いとは言えず、不安を拭い切れないのが気がかりです。もっとも既に巻き込まれていて、表面化は時間の問題というだけなのかもしれませんけれども。