5/19/2022

[law] 誤振込金の使い込みを犯罪と認識しない輩が多すぎて

今更ながら愕然としたのです。

山口県阿武町で、住民税非課税世帯463世帯分のコロナ対策臨時特別給付金計4630万円を対象者のうち一名の口座に全額誤って振り込んでしまった件です。

詳細は至るところで報じられているので省略。額は大きいですが、よくある誤振込案件です。通常は対象口座の名義人が返還請求に応じ、誤振込を行った担当者なりが内部的に処分を受けて終わりになるような話です。

が、本件では、当該口座の名義人が町の返還要請を無視して全額引き出し、本人曰くギャンブルに費消してしまったとして返還を拒否してしまいました。法的には、自分の金ではないと知っていながら引き出したり振替を指示したりした時点で、銀行に対して詐欺を働いた事になります。本来その権利はないのに、権利があるかのように振る舞って銀行に支払い等を行わせた事が詐欺にあたるというわけです。本件では移動の際にデビッドカード決済を使用したようですから、刑法246条の2の電子計算機使用詐欺に該当します。

なお、この種のATM等の機械を経由した引き出しについては、従来は機械に対する欺網はありえないとして詐欺ではなく窃盗とされていましたが、246条の2が新設されてからは通常の詐欺と同等に扱われるようになっています。

その後の報道に流れた本人であるところの田口翔容疑者の発言の中に、何故自分が責められるのかわからない、といった主旨のものがあるあたりからして、振り込んだ方が悪い、自分は悪くない、とある程度本気で思っていたのかもしれません。少なくとも、自分が何をしたのか、法的にどれほど重い罪を犯してしまったのか、十分には理解していなかったように思われます。実際、誤振込からの使い込みというのもありふれた話ではありますし、法的には店舗のレジでのスキャン漏れ等を申告せず料金の支払いを免れるのも同様で、大抵の場合はいちいち罪に問われたりもしません。しかし、それはあくまで告発等がないために発覚していないに過ぎないのです。

そして、これほどの高額の公金の詐取に対してそんな自分勝手な話が通る筈もなく。当然ながら町からは返還請求の民事訴訟を起こされる運びとなり、加えて刑事的にも詐欺で逮捕されてしまったのでした。当然至極の帰結という他はありません。

・・・なのですが、SNS等におけるこの件に関する意見を見ると、田口容疑者は悪くない、ミスをした町の方が悪い、という主旨の書き込みが多数見られるのです。もし同様の状況になったら同じ事をするだろうという、田口容疑者と同質の、犯罪者予備軍のそれです。 

本来言うまでもない事ですが、詐欺罪というのは重罪です。自分のものではない財貨、すなわち他人の財産を、そうと知って、さも正当な権利があるかのように欺きまでして奪うのですから当然です。しかも今回の給付金で言えば、実質的な被害者である本来の受給者は住民税非課税世帯で、すなわちその大半が低所得者であり生活困窮者です。田口容疑者が詐取したその10万円が、人生を左右した可能性も低くはないでしょう。

それなのに、その手続きでミスをした町の担当者が悪い、他の受給者の人生がどうなろうと知ったことかと考慮もせずに詐取し、あまつさえギャンブルに投じても恥じない。その、反社会性の権化のような容疑者のふるまいを聞いて、それに共感し、自分も同様にするだろうという、倫理以前に最低限の人間性のかけらもないような輩が、これほどまでに多数いて、それを公然と発信する。

絶望する他ありません。もうこの社会は終わりなのではないだろうかと、救い難いのではないだろうかと、心底から思わされてしまうのです。

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