10/04/2016

[biz law] Amazonの電子書籍読み放題における人気作品除外の違法性について

Amazonの電子書籍読み放題サービスKindle Unlimitedにおいて、人気書籍等が突然サービスの対象外とされる措置が乱発され、ユーザと出版社双方から強い批判がなされている件ですけれども。これまでは書籍単位だったのが、今度は出版社単位で除外されるようになったとかで、講談社から提供されていた作品が軒並み消えているそうです。

当然ながら、これにより、ユーザはこれまで読むことが出来ていた当該書籍を読めなくなり、また出版社は将来に渡って継続的に得られる筈だった収入を失う事になってしまっていると。対象が人気作品という点からすれば、影響を受けたユーザは相当な割合になるでしょうし、同時に出版社の失った、将来得る事が期待された収入の額も相当なものになっただろう事も間違いないでしょう。そりゃ怒るに決まってますし、それでは済まされない向きも当然多数あるでしょう。常識的にはそんな事は無理だ、と誰もが思い躊躇うだろう所業ですが、倫理その他諸々の壁を無視して平然と実行してしまえる辺りは流石ブラックの親玉Amazon、とある種の感心を少しだけ抱きつつ、呆れる他ないわけです。

Amazonが今回の措置を採ったそもそもの理由は、本サービスは定額制を採る一方、出版社への支払額はユーザの閲覧量に比例する形で定めていたところ、閲覧量が見積もりより多く、そのためにその支払額が収入を上回ったために発生してしまっていた損失を解消するため、との事だそうです。それが事実であれば、端的に言って事業設計の失敗から損失を出してしまったのに、それを出版社とユーザに押し付けようとしている格好になるわけですから、それは正当な理由とはとても言えず、自業自得による不当なものという他ないところ、それらの損失は、本来的に自分が被るべきものです。仮に今回の措置が正当な理由なしとは言えないものだったとしても、ユーザへは返金、出版社へは違約金が支払われて然るべきでしょうが、それすらもなしで。身勝手、理不尽にも程があるだろうというものです。

本件の問題点を、もう少し具体的に見てみるとしましょう。まず前提として、本件読み放題サービスは、Amazonとユーザ間の閲覧サービス供給契約と、Amazonと出版社間の電子書籍データ供給契約との、2件の契約関係から構成されています。それぞれの契約を分析してみれば、本件措置は、両契約ともについて、看過し難い違法性を帯びているように感じられてしまうのですが、その理由は大まかに言ってそれぞれ下記の通りかなと。

第一に、ユーザとの間の供給契約について。本契約は、あらかじめ契約の対象となる電子書籍がAmazonにより指定され、ユーザは月額980円を支払い、期間中は当該指定された電子書籍を自由に閲覧することが出来る、というものです。しかるに、一般にこの種の期間付きのサービス契約において、契約期間の途中でサービスの内容が一方的に変更される、すなわち突然書籍が読めなくなる、等という事は、ユーザ側ではおよそ想定されないところでしょう。対価は既に支払っているのですから、その期間中、対象の書籍は自由に閲覧し得るものと当然に期待するだろうところです。にもかかわらず、人気作品を多数まとめて一方的かつ突然対象外にし、閲覧不能にするという措置は、実質的にサービスの相当割合を中止したに等しく、まさにユーザの期待に反して不意打ち的に損害を被らせるものであって、たとえ約款にその種の措置が可能な旨記載があるとしても、一般的な通念及び信義則に照らして到底許され得ないものと言えるでしょう。

勿論、個々の作品の特別な事情の変更があった場合等には、当該作品がやむを得ず対象外となる事はあり得るでしょう。しかし、今回の措置のうち、当初から行われたところの、その閲覧数上位の作品を大量に除外した、という点からすれば、個々の作品毎についての特別の事情によるものとは全く考えられず、ただ単に不採算に転じたため、といった専ら事業者側にのみ責がある理由によるものであるだろう事が強く推測されるところであって。無論、ユーザ側に何らの帰責事由が認められるわけでもありません。そういった本件措置が採られるに至った事情からしても、今回の措置は到底正当とは評価され得ないものと考えざるを得ません。従って、原則としてAmazon側に債務不履行が成立し、損害を被った各ユーザに対する賠償責任等が生じて然るべきものでしょう。

次に、出版社との契約について。こちらは、その契約の内容、契約に至る経緯等が不明につき、少し慎重な考慮が必要かもしれません。一般論で言えば、契約で定められた期間中に同意なく打ち切ったというのであれば、ユーザの場合と同じく債務不履行という事になるだろうし、元々期間等が定められていなかったというのであれば、契約の内容から判断してそのような一方的な中止が為し得るものだったかどうかが問題になるでしょう。とはいえ、一般的に、事前の通告も何もなく、一方的に契約を打ち切る、というのは、やはり信義則に照らして相当とはまずもって言えないでしょうし、あまり詳細を追わずとも違法性が窺われるところなのですけれども。

少なくとも、講談社の件については、講談社の出版物を全て対象外にする等、完全に契約を解消するが如き重大な措置を採るに及んでいますから、そのような権利がAmazon側にあったのか否かが問題になるだろうところ、そんな事はまずないでしょうし、Amazonの本件措置が出版社との関係で違法と判断されるべきものである可能性は相当に高いものと考えざるを得ません。

勿論、これらの推測はあくまで推測、それも一般論によるものであって、具体的な事情の如何によってその実際の評価は様々に異なったものになり得るわけですけれども。とりわけ、本サービスでの閲覧数に応じて支払われるとされる出版社への対価と、通常の電子書籍の販売価格との差異とその程度は、本件措置の違法性の有無等を判定するについての決定的な要素となり得るでしょう。というのも、本件での対価には、まず間違いなく、一般の電子書籍販売の場合の額とは異なる、相当に安価な金額が設定されている(いた)筈ですが、これは出版社からすれば、Amazonに対して特別に販売価格を下げたのと実質的に同じなわけです。すなわち、今回の措置は、出版社から安価で書籍を仕入れ、大安売りをしておいて、一定数量以上売れたら勝手に販売をやめた、というに等しいのですね。そして、本サービスで閲覧したユーザがその後正規価格で単体の電子書籍を別途個別に購入する可能性は非常に低いでしょうから、結果として出版社としては単に安売りをさせられたのと同じ事になってしまっているのですね。それも人気作品をまとめて。それは出版社としてはたまったものではないだろうし、客観的にも不当という他ないように思われるわけです。

出版社側に生じた損害は、当該各作品を電子書籍単体として販売した場合に得られただろう販売収入額と、本件措置までに得られた閲覧収入との差額の相当部分程度、と大体そんな感じで見積もれば概ね正しいでしょうか。しかるに、本件措置を採る過程で甚だしく信義に反していること、またAmazonがその支配的立場を濫用した面も多分にあるだろう事も考慮すれば、おそらく講談社が本件の損害につき賠償を求める訴を起こしたならば、勝訴する可能性は非常に高いものと言わざるを得ないのです。

というわけで。今回のAmazonの措置には、ユーザ側、出版社側ともに違法性が非常に強く疑われるところなのですけれども。こういう、支配的立場を濫用した大手による理不尽な措置と、それに泣かされる取引先やユーザー、という構図自体はごくありふれた話ではありますが、Amazon位のシェアを保有する企業のそれとあっては社会的にも到底看過し難く、改善が強く求められるところなのです。しかるに、個々のユーザがクレームを入れても実際のところあまり意味はないだろうし、ここは講談社には頑張って他社も巻き込んで糾弾して頂いて、このところ傲慢の度をさらに強めつつあるAmazon、その企業体質の悪化に一定の歯止めをかけ、あわよくば改善が促されればと強く願う次第です。もっとも、実際のところとても難しい話なんでしょうけれどもね。