9/24/2016

[pol] 長短金利の二重目標と緩和規模維持の両立は無謀かつ無意味か

先日発表された日銀の金融政策の変更についてですけれども。また何とも理解のしづらい事で、困ったものだと。理解しづらい、というのは、それだけで混乱と不安定の元なのであって、本来安定を導くべき中央銀行が自ら不安定になるよう誘導するものとも言えようその振る舞いは、到底是認し得るものではないのです。いくらこれまでの失敗のツケが回ってもう他に取りうる手がないから、とはいってもね。それならもう何もせずにいる方がまだマシというものでしょう。

それでも、強制力を有する官の政策ですから、社会の側としては無理矢理にでも解釈し、消化しなければ立ち行きません。しかるに、今回の変更の要点は、金利誘導政策の複雑化、すなわち従来の短期金利目標と併存させる形での長期金利の目標設定の導入でした。具体的には、短期は現状のままマイナス金利を維持しつつ、長期金利は0%ないしプラスに誘導しようというのです。それも、量的緩和の規模は縮小しない、という条件付きで。

当然ながら、そんな事が可能なのか、と殆どの向きが眉唾で受け止めたわけですが、何せ実績も何もないし、理論的にも色々厳しいとしか言えないしで、そんな事は誰にもわかるわけがないのです。当の日銀ですらやってみなければ何とも、といったところでしょう。ただ、具体的に何をするかは概ね明らか。現状、長期金利は短期金利に連動して金利がマイナスになっているのだから、長期の国債を売って、長期金利を押し上げるのです。それだけだと、長期国債を売った分だけ量的緩和の規模が縮小されますから、その維持のために、少なくともその縮小分を補えるだけ、短期国債や投信等、他の資産の購入額を増やすのですね。そして、長期金利が上がりすぎれば逆の措置を取る事になるでしょう。結局のところ、債権・投信等の売買で市場価格を操作するという点は従来と同じです。

問題はいくつもあります。まず、只でさえ市場に出回る短期債権が枯渇している現状にあって、長期国債以外の資産の買い増しが可能なのか、という点。政府が不要な国債を追加乱発すれば当然可能となりますが、政府としては無駄に利払の負担が増える結果になる以上、それは非合理的というべきでしょう。従って、より一層日銀が買い占めに走らざるを得ないという事になりますが、マイナス金利状態でのそれは、日銀にとって損失を増やす結果になります。マイナス金利導入以降、既に巨額に上ると言われるその損失のさらなる拡大には自ずから限界がある筈であり、どこまで日銀はそれに耐えうるか、多数から大いに疑問視されているところです。

次に、長期金利の誘導は可能なのか、という点。周知の通り、長期金利は短期金利と違って、個々の債権の償還期間が長く、その評価に絡む要素が複雑なため、そもそも個別の売買価格との相関が強いとはいえず、従って中央銀行がオペレーションをしても中長期的にはあまり影響されない可能性が高いと考えられています。多少は動くでしょうけれども、むしろ、個々の取引より、市場金利の基準たる短期金利との相関の方が余程強いでしょう。だからこそ、これまで短期の金利のみが誘導目標とされて来たのですし。勿論、長期間常に長期国債を市場で売買し続ける位まですれば別でしょうけれども、それは日銀による市場の価格統制に他ならず、市場の規模からすれば如何に日銀といえどそんな事は不可能であるように思われるわけです。また、仮に長期金利の誘導に成功したとすれば、長期金利の上昇が逆に短期金利を引き上げる効果を生む可能性も高いだろうわけで。そうなれば、短期国債をさらに買い増す必要が生じます。只でさえ枯渇しているものを買い増した後で、さらに買う余地などあるのか、懐疑的な見方が強まるのも当然と言うべきでしょう。

他にも投信関係等も含め、問題点を挙げればキリがありませんが、政策の成否はさておき、いずれにせよ、今回の政策には非合理的、非整合的な面が多いと認識し、懐疑的に捉える見解が広まっているようです。そして、市場は期待・思惑に左右される事が多いものであって、その種の不信感の拡大自体が動向に影響する可能性も否定し得ないところです。さて実際のところ、成功する確率はどれほどあるのか、とりわけ日銀はどれほどと見込んでいるのでしょうか。まさか100%と言い張るつもりなのでしょうか。

かように今回の政策はその実行可能性に疑義がつく怪しいものなわけです。が、問題はそれにとどまりません。そもそもの話として、本来の目的は当然ながら経済成長の達成であり、具体的な数値目標で言えばGDPの年率2%増なのですけれども、今回の政策すなわち長短両方の金利の誘導及び量的緩和の規模の維持を全て達成したとして、その結果としてGDPの成長が得られるかどうかは不明なのであって。

というより、長期金利が上昇する事で、低利を主要因として規模を拡大した不動産周辺はじめ、長期寄りの投資が急激な縮小を始める可能性もあります。そうなれば不動産価格の下落は避けられず、住宅ローン等についても変動金利のものは不良債権化が進むだろう一方、固定金利のものは金融機関に逆ざやが発生するでしょう。実体的にはマイナス要因となる面も強いわけです。

インフレ目標を導入し、その手段として量的緩和が実施されて早数年、その間、元々の目標は全く達成される事はありませんでした。当初2年とされた達成期限は既に撤回され、見通しすら立たない状況にあります。今回の政策は複雑化してはいるものの、基本的な構造としては従来の方針の維持継続でしかありません。数年もに渡り規模を拡大しつつ継続されてなお一度足りとも目標を達し得なかった手段が今更功を奏するなどと、一体誰がどうして期待し得るというのか、全く以って理解に苦しむと言う他ないわけです。むしろ、これまで同様、全くの徒労に終わる可能性の方が高いと見るべきものでしょう。そして、その徒労に終わるものと見込まれる政策は、その実施自体に巨大なリスクと実施における困難を抱えているというのですから、最早正気の沙汰とは思えません。

元々、今回の政策が導入された理由は、マイナス金利の副作用の軽減という言い方をしていますが、要するにそれで損失を被っている銀行や生保等金融機関の不満を抑制するためでした。それは最早経済の実体の成長云々とはおよそ関係ないものなわけです。その意味で、本来の目的自体を見失っているとすら言えてしまうかもしれません。手段の実現性は極めて怪しく、手段と目的の相関も見出だせず、目的自体も支離滅裂、とあっては、全てが無意味であるようにも思えてなりません。

およそ失敗を失敗と認められず、体面を取り繕い続けて自縄自縛に陥った結果が今、という事なんでしょうけれども、持続可能性のない無謀の行き着く先はおよそ破綻あるのみなわけで。さて一体どう責任を取り、始末を付けてくれるというのでしょう。もっとも、いざ破綻すれば、少なくとも国内の経済自体が半壊程度はするだろうし、責任追及どころではなくなってしまうのかもしれませんが。。。

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